我が家のレモンの木

 数年前に園芸店から鉢植えのレモンの木を買って来た。五十センチばかりだったが五月になると小さな白い花が咲き、さわやかな香りを楽しめた。果実も期待したけれどそこまでうまくはいかなかった。ある日、妻と家の近くを散歩中に実の着いたミカンの木が庭にあるのを見つけ、こんな寒い地方でもミカンがなるのかと期待が湧いてきて、我々もレモンの木を鉢から地に下ろしてみることにした。庭に植えた木はすくすく育ちいつしか待望の実を一つ、二つ着けるようになり、樹高が二メートルほどになると十個前後、更に育って、ここ一,二年は百個以上を着けるようになった。果実は青いままゆっくり大きくなるが秋には色付き始め、雪が近くなると見事な黄色になった。収穫した実をスーパーのレモンと比べると自家製のほうが大きさといい、色の鮮やかさといい、断然まさっている。私と妻はレモンの木によって毎年もたらされであろう楽しみと喜びの予感に幸せを感じていた。
 ところが、今年になってレモンの木が枯れてきた。温暖な気候を好むこの木は、これまでにない強い寒波で凍ったらしい。雪が解けてみると、緑の葉が日ごとに茶色に変わり一ヶ月ほどで落ちてしまった。枝先はポキッという乾いた音で簡単に折れてしまう。木全体を調べてみると、幹は樹皮が縦に裂けていて、太い枝も細い枝も大部分が枯れかかっている。
私はこの木が花を咲かせ、実を着ける度にカプリ島のレモンを思い浮かべ、我が家のレモンは雪国にもかかわらずよく頑張っていると感心したのだが、今年は見る影もない。それでも、毎日心配して見ている私を励ますかのように、まだ青みを帯びた二、三本の細枝が数枚の葉をつけて頑張っている。一縷の望みがあるのか、風前の灯か。
がんばれ、レモンの木よ !
 レモンの木の寿命は三十年位らしい。なのに、我が家のレモンはまだ十年足らずしか生きていない。今、私はレモンの木を鉢植えのまま育てればよかったと反省している。そうすれば、この木は温暖化や異常気象に翻弄されなかったはずだ。この冬の厳しい寒波は私の想定外だった。それに、たった一度の冬で木がだめになるとも思っていなかった。結局、寒冷地での地植えは失敗だった。私にはレモンについてのしっかりした知識も無く、レモンを大切に育てようとする気持も無かったと言われても仕方ない。レモンに申し訳ない気持だ。レモンの木に向かって「がんばれ」ではなく、「すまなかった」と言うべきか。
 私は病身で冬囲いも出来ないから、今度レモンの木を育てる事があったら、妻に管理してもらおうと思っている。鉢植えにして、夏は日当たり、風通しの良い屋外に置き、氷点下の続く冬は暖かい屋内に置く。そして、僅かであっても花や実が着けば嬉しい。花の香りもレモンティも我々を幸せな気分にしてくれるだろう。   2018/5/20

我が家のレモンの木