Just Drive【2話】

Just Drive【2話】

1話はこちら https://slib.net/83650

 今日も約束をすっぽかした。
 こんな夜遅く、机上であたしのスマートフォンが度々振動してメッセージの着信を知らせている。
やっぱ怒ってるだろうなぁ、今日こそ行くって言っちゃってたし。
そんな後ろめたい気持ちがメッセージを読もうとするあたしの気持ちを引き止める。
しょうがないじゃない、仕事だったんだし、あたしがブライダルの仕事で残業多いことだって知ってんじゃん。
メッセージが着信する度にスマートフォンの画面が発光してあたしの顔を照らす。
まるで早くメッセージを見ろと急かしているように。
 セールで大量買いした安い缶チューハイをグビッと飲み干して、さてもう一本っとあたしは気をそらした。
これでもう3本目かな。
ひらき直りの境地で冷蔵庫へとよろめく足を向けた時、スマートフォンの画面に表示されている最新のメッセージがつい目に入ってしまった。

< もう別れよう、全然会えないしもういいよ >

ちっ・・・なーんだ、結局こいつも都合のいい時に会えるインスタントな女が欲しかっただけか。
合コンで出会う男なんてそんなもんよね。
冷蔵庫 にストックしていた最後の缶チューハイを取り出すと、再び椅子へと戻った。
 あたしの恋愛はいつもこんなのばっかりだ。
いつも押しに負けて付き合うことになっても、結局思うようにいかない女と分かるとすぐさよならと一方的に別れを告げられる。
深入りする前に別れを告げられて良かった、良かった・・・。
まぁ、あたしが自分の幸せなんかより仕事の方に比重を置いちゃってるのも悪いんだろうけど。
仕事的には人の幸せのためにクソがつく程真面目に頑張ってるけど、それって全然報われないんだよなー自分が。
 机を覆うようにうつ伏せになりながらそんなことを思っていたら、だんだんと目頭が熱くなってきた。
ダメだーお酒が足りない。
 再びスマートフォンが振動してメッセージの着信を知らせた。
うつ伏せの体制から横目に薄淡く光るスマートフォンを眺めながら少し考えた。
もしかして考え直した?それとも前の男みたく別れ際にあたしへの不満や文句のマシンガン乱射か?
そんな変な期待と憂鬱感でサンドイッチにされたような気分でスマートフォンを手に取り最新のメッセージを見た。

< 明後日の式の件で、明日急遽打ち合わせしたいから、休みのところ悪いけど前田さん出て来れるかな? >

 予想を裏切って、受信したメッセージは職場の先輩からであった。
このタイミングで空気読めてねーなこの人、まぁ読めるわけもないか。
でも、今のあたしにはありがたい話しだった。
先輩もそうだが、仕事柄、職場は独り身の女が割と多いのだ。
こんな気持ちで明日休日を一人で潰すよりは仕事に出て先輩たちとワイワイしてた方が気は楽だ。

< 了解っす、昼前には行けますよ! >

 あたしは淡々と返信を返すと最後の一缶だったチューハイの蓋を開け、グッと口に流し込んだ。

「ぷはぁーーー!」

 随分とさらりとした飲み心地、こんなんじゃ全然酔えそうにない。
妙に力んで缶を握りしめたせいでパキパキとアルミ缶の側面が潰れる音がして、静まり返った部屋に響いた。

「切り替えろーあたし・・・まずは仕事で一人前になるのが先!」

そう言って自分を奮い立たせながら、握りしめた缶をよくよく見て気 がついた。

 『まるで本格ノンアルコールカクテル!!』

そりゃ酔えねーわなぁ。
心の中で一人ツッコミを入れて静かにあたしは笑った。
側から見たらこれはマジでヤバイやつかなーあたし。
もうどこでもいいから行きたい気分だわ。

「よし・・・コンビニ行こ」

とまぁ、手っ取り早く思いつくのはそんなところだった。
お酒のストックも切れたし、部屋に一人でいたい気分ではなかった。
壁に掛かったお気に入りのコートを一枚羽織ると、少々ふらついた足取りであたしはマンションを出た。

 冷たい秋風があたしを通り抜けて立ち並ぶ街路樹をざわめかせた。
そんな冷たい風があたしの酔いを一気に冷まし、かじかむ手を吐息で温めながらあたしはコンビニの方へ向かってゆっくりと歩き出した。
歩きながら見上げた空は気温と湿度が低いせいか、いつもより澄んでいて星がくっきりと綺麗に見える。
そんな寒空を見上げたせいなのか再び目頭が熱くなってきて、震える唇をギュッと噛みしめた。
泣いたりするもんかと精一杯自分に言い聞かせて。


つづく

Just Drive【2話】

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Just Drive【2話】

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-05-12

Copyrighted
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