アルコール

 仕事が終わって夕食、私は「今日は疲れた、もう一本飲みたいな」と催促する。すると妻は「切りがないからもうおしまい、これ以上は体に悪いわ」と頑として受け付けない。妻が「ハイハイ」と機嫌よく酒を追加してくれたら、私もそれに感謝して機嫌よく飲み終わるつもりなのだが、自分に都合いい様にはいかない。これが我が家のパターンだった。
 アルコールは昔から「百薬の長」と言われ、程よく飲めば健康によいとされて来た。ということは程よくなければ体に悪いという事だ。諸刃の剣であるアルコールは「飲み方」、「飲ませ方」が大切となる所以である。
成る程、春になると大学、会社の新人歓迎会や合コンで「一気飲み」が流行る。飲み方を知らない者と飲ませ方の知らない者との乱痴気パーティだ。病人は出るし、思わぬ性犯罪も起る。
また、腹に「酒の虫」が住み着くとアルコール依存症という病気になる。休肝日を取らず、多量の酒を毎日飲まずにいられない。遅かれ早かれ肝硬変その他の病気になり、元気で長生きの人生は望めず、家庭も壊れる。昔、私が知っていた人は仕事もせずに朝からけじめなく飲み続け、ビールの大瓶やウィスキーボトルを何本も空にして、暴力は振るうわ、借金は増えるわ、大変だった。幼い子をかかえた奥さんは気の毒に、離婚したいと涙を流していた。まもなく夫は若くして逝ってしまったそうだ。酒に飲み込まれた家庭の悲劇である。
他にも、酒さえ飲まなければ、飲ませなければ、という不幸な話は後を絶たない。酒気帯び運転による交通事故もそうだし、つい最近は酒宴で暴力事件を起こした横綱が引退してしまった。人命も横綱も酒と交換するには、あまりに勿体無い。
 私が社会人になった頃、酒を飲みながら先輩が話してくれた。「僕は仲の良い友人と談笑しながら飲むのが好きだ。程よい量を、ゆっくりと、ほろ酔い気分で、静かに楽しく飲むのがいい。うまい料理を出すこじんまりとした店なら酒も一層美味しくなる。僕は職場のパーティでよくやる杯のやりとりや強制的な余興は好きでない。酒癖悪く、下品な言葉を口に出してドンチャン騒ぎを始める赤鬼、青鬼どもは迷惑だ。隅の方で説教、議論、喧嘩をしている者を見るのも不愉快だ。気持が高揚し開放されて何でもベラベラ喋りだす者もどうかと思う。酔いが冷めた次の日は虚ろな気持ちになり必ず後悔するものだ。こういう連中を見ると僕は最後まで居る気になれず、サッサと家に帰ったよ。二次会、三次会は殆ど行かないね。悪酔いして醜態を晒しかねないし、二日酔いになったら辛いからね」と。
 アルコールは「たかがアルコール」と言って馬鹿にしてはならない飲み物だ。私の場合は妻とのやりとりをみても「飲酒の心得」が出来ていないようだ。まだまだしゅぎょう(修行、酒行?)が足りなかったか。 2018/1/20

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