器の記憶

存在が始まってすぐ、
私と片割れは愛し合っていた
来る日も来る日も
何世紀も何千年も

片割れは私であった
2人で1つの力を生んでいた

その上に私と片割れの

母体が、星が、空間が、次元が、
嫌という程広がっていた

広がって広がって
先が見えなくて、
しばしば私は片割れのシャツを掴んだ

片割れは優しかった
ずっとこのままでいたいと
何世紀も何千年も
銀河が終わって
宇宙が終わって

何かが発生して
何かが戦って
何かが敗れて

そんなこと繰り返して
創って壊して
そんなこと見ていて

私はただただ片割れと愛し合っていた

だけどある日片割れと私は
あまりに1つになってしまい

私は急に怖くなった

私の中に片割れがいるのか
片割れの中に私がいるのか

私は慌てて器を作った

私が私と認識できるだけ
器に注いだ

器に入った私は私になった
片割れは私の私以外の部分となった

器に入ると窮屈であった
暫く片割れは器の私をあやしてくれた

愛おしみ、慈しみ、庇護し、保護し、

でも、続かなかった

片割れはどこかに行ってしまった
器に入ったままの私は追いかけることが出来なかった

だってもはや片割れは片割れではなく
「個」であった

私は私でしかなく、私は私という「個」であって、

もう何も強要できない、
求めることも伝わらない、
言わないとわからない
言ってもわからない

それどころか私のことを
愛してくれない時代がある
愛してくれない世界がある
一方で
愛してくれる次元がある
愛してくれる空間がある

そもそも「愛」なんて言葉
器に入ってから作った

この文章だって
器に入ってから書き出した

感じるままに生きることが
酷く命取りになるだなんて
器に入ってから知った

強いも弱いも器に入ってから
優しいも意地悪も器に入ってから
嘘も本当も器に入ってから

寂しいや痛いや嬉しい悲しい辛い憎い好き嫌い死ぬ生きる苦しい幸せ美味しいまずい眠い楽しい面白いつまらない

全部、全部、全部

器に入ってから
見付けた、作った、名付けた

器から出たところで
片割れはどこにいるかわからない

器のまま愛し合ってみたい
そう切望するのが
今日この時間

この時代、この世界、この次元

器の記憶

器の記憶

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-09-19

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