魚を見た
商店街の狭い路地を
すいすいと泳いでいた

私は解けたスニーカーの紐も忘れて
魚を追いかけた

魚屋さんが首を傾げて品物を眺めてる

まさか
品物が路地を自由に泳ぐなんて
夢にも思っていないだろう

無垢

そんな言葉が浮かんだ

魚の周りに勿論水はない
空中をすいすい泳ぐ魚

追いつけそうで追いつけない

「そっちは海じゃないよ」

わたしは焦れてそう叫んでみた

魚は振り返った

「お節介は嫌いだよ」

ツンとして魚は再び泳いだ

それでも追いかけようとしたら
がぼがぼのスニーカーが脱げた

わたしはその場で転んでしまった

「バチだよ」

魚は空へ向かって飛んでいく
転んだわたしをバカにしながら
すいすいすいすい
空へ泳いでいく

悲しくなったわたしは
ゆっくり起き上がり
スニーカーを履き直して
靴紐をしっかり結んだ

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-08-18

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