リビングウィル

 全国には50ヶ所以上の「ぽっくり寺」があると言われる。私もまだ元気なころ楽に逝く事を願ってというより、どんな観音様かに興味があって「会津のころり観音」をお参りしたことがある。高齢化社会のいま、長生きして、長患いせず、苦しまずにポックリ逝くことを望んで、年配の参拝客が後を絶たないそうだ。
折角だからお参りはしておいたものの、難病にかかってしまった私はコロリと逝きそうにない。それならお国に「安楽死」を頼みたいがこれも法律的に駄目のようだ。では次善の策は無いかと思案していたら「リビングウィル」に行き着いた。遺産相続遺言書のような法的効力はないが、提示すれば医療関係者や身内から尊重されるはずだ。正常な判断力をもって作成しておくことが条件らしい。
それでは今のうちにと、私も書いてみようと思った。
今の病気をなるべく苦しまずに終末期まで生き、最後も苦しまずに旅立てれば本望だ。それに己の命の扱いを他者に任せるより自分の意思で決めた方が納得いく。
 <私のリビングウィル素案>
1. 脳死状態となり回復見込みがない時には入院していても、在宅であっても、生命維持装置は全てはずして下さい。(これ以上の生き恥を晒したくないし、家族の負担もなくしたい、という考えからです)
2. 療養中に激しい苦痛と不安を伴った時には入院したうえで積極的な緩和治療(麻薬も含め)を受けたい。その処置により死期が早くなっても構いません。(在宅で出来るなら一番いいが、しっかりした緩和治療を受けるには入院したほうがいい、という考えからです)
3. 苦痛を伴わなければ最後まで在宅医療を続けたい。終末期に到り死期が近くなった時に苦痛が出たら十分量の麻薬(又はそれに順ずるもの)を使って欲しい。その処置により死が早まっても構いません。水分、酸素は必要最低限度のものにして下さい。(在宅で家族と過ごし、最後は家族に見守られながら逝きたい、と望むからです)
4. 終末期に急変して危篤状態に陥った時は何もしないで静かに見守って下さい。救急車要請も蘇生術も要りません。只、訪問看護師には連絡をとって、苦しそうだったら麻薬(又はそれに順ずるもの)を使ってもらって下さい。それによって死が早くなっても構いません。見取りは家族に、死亡確認は訪問看護師にしていただきたい。それを基にして、医師から後刻あるいは後日に診断書を書いていただけばそれでよろしいです。(在宅医療において必要な時に365日、24時間いつでも切れ目無く頼りになるのは訪問看護師さん達であり、医師は臨機応変に、いつでも、すばやく患者に対応するのは困難である、と思うからです。)
 これでいいかどうか私の書いたものを読み返してみた。心配なのは、3,4の場合に看護師が麻薬注射や死亡確認をしてよいかどうかだが、規制緩和で医師の指示により可能となれば、それは良い事だ。これで患者の苦しむ時間が短縮され、死亡時刻の記載も正確となる。これ以外の事でも、忙しい医師に代わって、看護師でも出来る事はどんどんやってもらえば在宅医療の環境が随分改善される。それに規制緩和によりパラメディカルが活躍し易くなれば医師も助かるのではないか。もはや高齢多死社会で在宅医療、在宅看取りをスムーズに推し進めるためには、介護する人の便宜や介護を受ける人の安心を考慮することがまず重要であるだろう。それらの人達の立場に立った在宅介護医療が提供されるなら、リビングウィルを示すことは安楽死を望む私にとっても少しは有効な手段になると思う。
  2017年7月10日

リビングウィル