憂い

スピーカーの壊れたテレビの
そののっぺりとした画面に
腹話術のようにぱくぱくと口を動かす人々が
せっせと国を憂いている

どうしても心には届かないその憂いの中に
僕は何か背徳感を覚えながら
もちろんそこに背理の悦びなんてものはないけれど
そんなことを説明しなければならないくらいに人と人の心は離れてしまって
何故かしらクレムリンとシベリアとを想起してしまうのです

彼の人は愛を叫び
此の人は憎悪を垂れ流し
表裏一体のそれとは知らずに諍いを起こし
いがいがとした情報の細菌が僕の食道に傷をつけていく

こんなときにあなたがいて良かったとそう思えるのは
人の心が人の心として動いていることを再確認させてくれるからで
舗道を見ながら歩く人々とはもう離れていってしまうけれど
それがさだめられたことであるのならばもう受け入れるしかないし
絶対ということがもうあり得ないことは分かっているから
今夜はもう一人きりのベッドの中でただただテレビを見つめ続けるのです

憂い

憂い

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-07-06

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