*星空文庫

【第一句集】 海に学ぶ

万田 竜人(まんだ りゅうじん) 作

序 (プロローグ)

 東京本社の大手町に勤務していた時の上司から、あなたは感動屋さんだから
「俳句作り」に向いているかもしれないと云われて、「月は東に」森本哲郎著
が自宅に贈呈本として郵送されてきた。

 早速、読んだ勢いで、早稲田大学の日曜俳句講座に入学した。
この勢いは衰えず、テニスと並行させて、本格的な趣味として、小五以来となる
俳句作りを始めた。

 そのような時にインターネットで「趣味?俳句でしょ!」のサイトを運営開始
されていた藤田昌也さんに出会って、俳句の投稿を開始。1998年以来なので、
早や十九年が経過することになる。

 そこで、投稿歴20年を視野に入れて、「第一句集」作りに着手してみた。



【師  系】

◇◆◇ 高橋悦男先生 (当時、早稲田大学英文科教授)に、早稲田大学エクス
 テンションセンターにて学ぶ。
 
 在学中に、俳句同人誌「海」(高橋主宰)の句会にも入会した。

◇◆◇ 入門コース終了後は、児玉仁良先生(俳句同人誌「保」の同人代表)に
 地元入間市公民館にて、句会での指導を受ける機会に恵まれた。

◇◆◇ 俳句入門講座の受講内容については別冊で紹介することとする。



平成十年(1998年)の作品 :前述の「趣味?俳句でしょ!」から抜粋


【海に学ぶ】

小さくも胡瓜の形花付けて

武蔵野路小鳥紫陽花畑野菜

万緑や木漏れ日の下通勤路


満天星や蜘蛛の巣張りし露の玉

父親とバージンロード百合の花

主の言葉頷くうなじ夏化粧


母親に物腰の似て含羞草

デザートのメロンで気付く夏の宵

炎昼やハンバーガー店に若い列



隣家よりメロン戴き香り立つ

打水や音に飼犬逃げ回る

金木犀つがいの鳩の雨宿り



森の中鵯の声澄み渡る

飼犬の腹を刈り上げ衣替え

刈り込みの終わりし庭に蝉の来る



婚礼の行列に風夏木立

飼犬や生き活きとして薔薇を嗅ぐ

菖蒲園行き交う人や目を細め



嫁ぐ娘の笑顔眩しく風薫る

テーブルに紫陽花飾り披露宴

シャンパンを注ぐ花婿五月晴れ



【細 窓】(オーバル・ウインドウ)

 我が家では、子供たち四人が、それぞれの伴侶との好みで、それぞれの形の
結婚式を挙げた。今時にしては、めずらしく末娘が神前での結婚式を挙げた。

 彼女が花嫁衣装を着て、私のところに挨拶に来たときに、その笑顔はとても
眩しくみえた。



奥入瀬散策の道風涼し

中尊寺能楽堂に蝉の声

食卓や枇杷を飾りし山の家



紫陽花や一輪残し誰を待つ

夏の朝色さまざまにポーチュラカ

稲妻や水道止まる闇の中



馬車で行く湖畔の木陰涼新た

露天風呂秋めく森に山の風

昔日や林間学校ボート漕ぐ



【細 窓】(オーバル・ウインドウ)

 私と家内は、二人連れで旅行に出かけることが多い。

 榛名湖の湖畔で二人して馬車に乗った時に、昔日の思い出として、中学生の時
に大型競泳ボートの訓練があったことや、父親との旅で乗馬体験をしたことなど
が、懐かしく思い出されて話題に華が咲いた。


夏の朝インターネット地図の道

炎昼や駅前の地図さらに見る

大通り都会の風や秋近し



大学の門閉ざされて夏休み

目印の本屋のクーラーよく効いて

辿り着きアイスコーヒー一気飲み



カレーライス中辛にして夏仕立

夏の日やコーヒー味に抹茶感

夏の午後裏道を行く手書き地図


英国の二階建てバス炎天下

緑陰や道行く人の休み処



日除けした喫茶店からコーヒー香

銀行や汗ふいて待つ百五番

茶碗蒸冷やして食す夏座敷



愛用のカバン抱えて夏の夜

扇持ち外で待つ客入れ替わり

俳人や五百人もの夕涼み



福耳を赤く染め上げ夏の宵

外国人汗かいて書く三行詩

白ワイン飲み干してなおメロン食む



大句会主宰の汗もデジカメに

新人賞眩しさのなか夏終わる

俳句やる白寿を越えた夏目指す



飼犬や夏太りして五分刈りに


【細 窓】(オーバル・ウインドウ)

 俳句誌「海」の句会で、初めて特選に入った俳句が・・・

「飼犬や夏太りして五分刈りに」 であった。

 気を良くして、高橋先生が主宰される大句会にも参加・・・
新入会員として「万田竜人」の俳号が大会場において披露され
望外の場面に恐縮した。


竹の春隣家に伸びて根こそぎに

葛の花通勤の度咲き登る

二階から見下ろす芙蓉朝は白



栗飯や赤飯にして我が女房

曼珠沙華百万本花白一輪

秋茄子や頬に広がる旬の味



待宵は月の明かりと夕焼けと

十五夜は雲間の月となりにけり

酔芙蓉台風の朝紅と白



運動会スピーカーの声天高く

時の鐘に明かりが灯り秋惜しむ

行く秋の小江戸の町に人の波



薩摩芋大きさ揃え店先に

にごり酒ろれつ回らぬ二三人

新米や魚沼産を買ふて炊く



新米や二合半炊きまだ余る

秋霖や行ったり来たりアンブレラ

銀杏や枝にたわわに黄金帯び



あけびの実スプーンでしゃくる白果肉

酔芙蓉紅を帯びしが恋模様

紅鮭や宙に躍りて竿しなる



カヌー削る木の香りする秋の山

十月のはじめの月はおとこ顔

栃の木やわれ一番に初黄葉



十並び体育の日に登山会

松茸を丸かじり新米を食む

木枯らしや飼犬部屋にうずくまり



山間に月出でて山眠る

仕事場に宇宙の色紙秋深かく

カンナ枯れ諸鳥騒ぐ朝時雨



宙に舞うテニスボールや冬うらら
  
今朝の冬髭剃りあとに風沁みる

行く秋や信号待ちに月仰ぐ



みかん剥く手に飼犬の眼釘付け

ぶどう畑棚一面紅葉の海

吊り橋の向こうの山に紅葉茶屋



山越えて紅葉の色さらに濃く

紅葉路星狩りのひと大渋滞

庭前の満天星紅葉赤く燃え



酔芙蓉朝方少し紅を付け

秋の陽にベコニアの葉の照り返り

文化の日葉牡丹三つ植えにけり



連山の紅葉燃ゆる奥秩父

黄葉の山ふところに滝の糸

堰の音近づくほどに肌寒し



初時雨飼犬の待つ帰路急ぐ

暖房にスイッチ入れし今朝の冬

雨上がり陽光眩し冬の朝



花豆を買ふて信州の秋を煮る

冬林檎乳首歯む児の泣きやみぬ

サンタさん冬ざれのなか缶コーヒー



冬の蜂パソコンに降り逃げもせず

鮭雑炊熱さ冷ましに洋梨酒

行く秋やチェックマークが旅はじめ



車窓走る木々紅葉且つ散れり

岩肌にすぐ手のとどく冬近し

冬日和お茶飲み過ぎてバスを止め



はらみ犬日向ぼこして耳を掻く

線香の煙を浴びて冬うらら

手でさする仏すりへる神無月



境内の照紅葉シャッター頼まれ

饅頭手に冬菜をつまみ茶を飲む

冬菜漬け買ふて定刻にバスに乗る



牛に引かれの民話聞き冬走る

人の列冬の闇に向けて牛歩

我が家にはいつも南瓜のある風景



スマッシュのボール見上げる冬の空

打ち下ろすボール飛び込む冬木立

柚子の砂糖漬け食んで絶好調



年よりも若いと云われ万年青の実

風もなく勝気も捨てて冬うらら

飛び交いしボールの陰に冬の鳥



長トレも短パンも居る冬ぬくし

ロッカーで木の葉髪拭く支配人

がん陣形一息入れて冬構



参拝の頭上をかすめ冬の鳩

栗御飯料理対決妻鉄人

差し向かい山菜蕎麦にとろろ蕎麦



紅葉背にタイマーかけて走り寄り

千曲川流るるままに冬ざるる

林檎狩り見知らぬ人と笑み交わし



冬の鳥啄む林檎いと甘く

林檎の尻をひょいと持ち上げて採る

露天風呂初雪の降る旅の宿



あんず酒と缶ビール抱えて雪見

旅の宿山懐に抱かれ寝る

冬の朝露天の風呂の熱きこと



今朝の味噌汁玉ねぎの旨きこと

雪の朝定刻よりも早く出る

諸鳥や林の中を枯葉の舞



朝焼けの東の空に冬の雲

南窓の銀杏黄葉や陽の透けて

パソコンで宛名印刷賀状書く



脱サラの友を囲みて忘年会

ちゃんちゃんこパソコン操作肩凝らず

クリスマスツリーの下に音楽隊



冬の鳥もつれるように二羽で飛ぶ

生牡蠣をコンロで焙り白ワイン

冬木立飼犬と行く散歩道


船盛は新潟産の紅葉添え

正座して脛を隠して鍋煮たつ

売店で初雪と聞き土産受く



ホテル前の記念フォトで息白く

馬刺し食む天高く味かげん良か

秋の小布施に銀色のビートルズ



栗ソフトに巨峰を載せて秋寒

信州のおやきは割って熱冬采

安曇野はアルプス連峰雪越しに



姥捨ては覗けども雪の中なり

飽食の信濃の車中うそ寒く

川越のインター降りて夜寒晴れ



旅土産広げて夕餉秋暮るる

カーペンターズ冬林檎とアロマ香で

飼犬もホットカーペットで横になり



たらの木やイチョウの後に紅葉せり

冬ざれもテニス日和に変わる午後

柚子の残り香はなく風呂の栓抜く



冬の月郵便局の遅くまで

冬の星聖なる人はこの世にも

火の番の拍子木の音懐かしく



冬の夜いまどきは不夜城の増え

冬至には南瓜を食し柚子風呂に

柚子湯にも温泉の素混ぜ合わせ



ラジオでポインセチアのツリー話

クリスマスイブもイブイブも二人で

極月や皮肉をいわず過ごしけり



いま賀状書き終え友に電話する

年用意の段取りにかかる家内

住所録整理気になる十二月



霜月やプランターの土に早くも

寒波南下してポケットに手を入れる

短日やソフト部の灯りこうこうと



冬の日や日向を見つけ犬移動

冬日陰テニスの汗のひんやりと

冬の朝からすの濡れ羽パープルに



冬の暮気持ち駆け出す駅の道

凍雲や地球の自転もおぼつかぬ

寒かすみあれ湖と妻の聞く



冬霧や遠い昔の異国を想う

冬の霞ライトを点けてブレーキ踏む

冬の雷背筋に電気走る



冬夕焼デジカメに収めてみる

冬の虹逢いたくもいまだ幻

寒天の下南天の実は赤く



冬の鳥からすに追われ姿なく

冬の百舌鳥は物忘れの警笛に

梟の剥製で知る耳羽なく



水鳥や浮いたまま時の流れる

浮寝鳥こっくりするを待ち眠る

鴨の群れ岸辺に沿いて並ぶ朝



おしどりや雄の美しさ今風

鶴のダンスは楽しむように魅せるよに

白鳥も黒鳥も居る異国にて



初雪や旅の宿にて二人して

鯛一尾買ふて息子の帰省待つ

スーパーの特設コーナー凧が占め



大根の太きこと女子プロも真っ青

四十路越えヒットアルバム帰り花

五十路越え優しさ増して春支度



消防車市内巡回年の暮

気ぜわしさに調子が合わず年詰まる

仕事納めに怠け者が働く



半分の月観て感謝年の内

年内のフライト終えて格納庫

神戸牛ほおばりながら年惜しむ


明太子舌鼓うつ古暦

街中が大渋滞して年用意

大柚子に指先触れて固きこと


梅の花元旦に一輪咲かす果報者

キッチンに蒸気が走る大晦日

 

『【第一句集】 海に学ぶ』

『【第一句集】 海に学ぶ』 万田 竜人(まんだ りゅうじん) 作

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-05-12
Copyrighted

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