車椅子旅行

 この冬私は車椅子で暖かい沖縄に行ってみることにした。車椅子旅行はどんなものか経験したかったし、孫娘を伴って出かけるのが楽しみだった。
交通面での乗り降りや移動は息子達が交代で車椅子を押し、沖縄では大型のレンタカーを借りたから心配なかった。空港会社でも特殊な車椅子、ノンステップ大型バス、タラップ昇降機を用意し、座席まで空港職員が付き添ってくれた。
大人達は沖縄旅行の経験があるので、今回は孫中心に、「美ら海水族館」で大きなジンベエザメを見、「沖縄芸術村」でシーサーを作り、きれいな海辺で遊んだ。ホテルのバイキング料理では孫がウエイトレスの役よろしく、可愛い物腰で私から注文をとっては皿に食べ物、コップに飲み物、終わりにデザートを運んでくれた。私はストローでワインをちょっぴり飲み、旅の緊張をほぐした。
 旅行中私が一番気をつけたことは誤嚥である。私の病気は誤嚥も恐い。食べ物、飲み物、唾液でそれが起こると咳が続き、気道が塞がって息が吸えず、苦しくなる。ヒュー、ヒューという努力呼吸音は周囲の人達を不快にするし、家族にも心配かけてしまう。ホテルのレストランでは細心の注意を払い、肉、魚などの美味しい物よりトロミがあって噛み易く、飲み込み易い物を優先して選んだ。
3時間かかる飛行機の機内でも誤嚥とトイレが気になるから、ビール、おつまみは我慢した。旅の楽しみが一つ減ったのは残念だ。
 今回の旅行で多少困った事として挙げるなら3つあった。一つは、泊まったユニバーサルホテルの部屋は広く、きれいで、眺めも良かったが、バスタブに介護用の手摺と足の滑り止めマットがなかったこと。これがないと私は転びやすくて危険だ。仕方がない、寒かったがシャワーだけで済ませた。
二つ目は、空港待合室で障害者専用トイレを使おうとして、空くのを随分待たされたこと。やっとドアが開いたら、健常者の女性が悪びれもせずに出てきた。女性トイレが混みあうとこうなるのだろうが、私の次にも障害者が順番待ちをしていたから気がもめた。高齢化社会になって車椅子旅行者は更に増えてくるだろうし、使用時間もかかるから、障害者用トイレの数はもう少し多い方がいいと思った。
三つ目もトイレのことになるが、機内のトイレは妻の介助を受けるには狭すぎ、ドアを閉められなかったので、客室乗務員が隙間をカーテンで隠してくれた。障害者用トイレ(ジャンボ機などには有るらしい)があれば一番いいが、普通トイレでも障害者に優しい工夫が欲しいと思った。
 ともあれ、私は今回初めて車椅子旅行をした。鬱屈した日々を過ごしていたが、妻の勧めに応じて思い切って出かけてよかった。旅行中の怪我は無かったし、体は不自由ながらも旅はまあまあ快適だった。冬でも暖かくて青い空があり、ブーゲンビリアの咲いている沖縄は、雪国の私には羨ましかった。
帰りに客室乗務員が車椅子を押しながら、「車椅子の旅行者はかなりいらっしゃいます。又是非お出かけ下さい。お待ちしています」とにこやかに言ってくれた。体調が良ければまた旅行に出たい。今度は船や列車やバスの旅も経験してみたいが、支障なく乗れるか、宿泊先は安全か、酸素器具をつけた時はどうなるか心配であるし、障害者への対応が整っていなかったり、嫌がられたり、断られたりしないかの不安もある。今回の車椅子旅行のようにしっかり調べてから行こうと思う。
2017年2月10日

車椅子旅行