パンドラの器

 ほら、迷い込んだその先に
 長い黒髪の少女が、坊主頭の少年が
 何かを覗いて、かがみ込んでいます
 まだ若いあなたも、彼らの中にあっては年嵩のお兄さんで
 それでいて訳も分からぬままに、あなたは彼らの輪に入ります
 そこは沈黙が舞い踊る不思議な、不思議な空間で
 川の水を並々と汲んできた、風呂桶だけが雄弁です
 彼らが覗いているのは深淵ではなく夜空から盗み取った月で
 風呂桶の中にはぽつんと月が一人で沈んでいます
 あなたは水を求めて、ここに来たものだから
 そっと手を伸ばすけれども、少女の手に弾かれます
 彼らはじっと月を見つめているようで何も見ていなくて
 だからあなたは薄気味悪くなって、ついに風呂桶をがっしりと持ち上げます
 そして、その中の水を

 あっ、

 底が、抜けちゃった
 月も逃げちゃったね
 囚われの月は世界の中に溶けてしまって
 私たちの心の中に、忍び込んでしまったのです
 少年少女の、乱痴気騒ぎが始まって
 あなたは胸に手を置いて心に月が馴染んでいくのを感じたのです

パンドラの器

パンドラの器

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-28

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