交差点

 交差点は青になったら渡るところであるが、私にはそれだけではない。候補者が角で演説を始めれば興味がわき車の窓をあけて1分でも聴こうとする。園児たちが手をあげてカルガモの列になると微笑ましい気分になる。利便性と効率を考えたスクランブル交差点は気にいっているが、スマホを手放せない歩行者には眉をしかめたくなる。信号機がLEDになってからは強い陽の光があたっても判別しやすくなったのは助かる。
 しかし、交差点は命に係わることがあって、これが一番もんだいだ。飲酒運転や凶器振り回し事件ほど危険ではないが、私にもヒヤリ、ハットが三回あった。
一回目は学生の時、方程式を考えていて赤信号を踏み出し、即死するところだった。このときは体をかすめて行った猛スピードのオートバイに「馬鹿野郎ッ」とどなられて済んだ。
二回目は、釣りからの帰りに、「右折禁止知りませんでしたか」と警察官に止められた。右折禁止のそこは時間帯がある所だった。私は一番短い返事で「はい」とこたえた。どうせ罰金とられるのだ。と、思いきや、ゴールドカードを返しながら、「今度は気をつけて下さいね」と、許してくれた。私は素直な気持になり心から反省した。
三回目は、バス通りだった。バスは車体が長いので渋滞気味の交差点では通り抜けるのに時間がかかる。私はバスのすぐうしろにいて赤に変わったのが見えなかったのだが、2,3台うしろにいたパトカーの拡声器にとめられた。私が「赤信号はあなたから見えても私からは見えない死角だったのだ」といくら説明しても駄目だった。例のカードも効果なく、結局は違反切符を渡された。そのあとは面白くない気分になり妻に八つ当たりした。
「あのオマワリは若いのに話が分からん」
「規則だから仕方ないわよ、それにしてもあなたも頑張ったわね」
「どうしてバスは見逃したのかな」
「赤に変わる前に渡りきってしまったんじゃないかしら。それとも弱い方の一兎が捕まえ易かったんでしょ」。
私は苦笑してごまめの歯ぎしりをやめた。
 私にとって、交差点は充分に注意しなければならない場所である。いま現在、私は病のために方向指示器も満足に操作できないほど腕の力が弱くなってしまった。もう少し運転を続けたいと思っていたが、「頑固」と、妻に言われないうちに運転免許証を返上することにした。彼女は「それがいいわネ」と安心したように言って、柔軟になった私を褒めてくれた。                                                                  2016/06/08

交差点