酔っぱらいは

 酔っぱらいは嫌いだ。
 ご機嫌かと思ったら、ちょっとしたことでへそを曲げる。ああ、面倒くさい。しらふの人間と酔っぱらいとではそもそも温度差が違う。しらふの人間からしたら、酔っぱらいはうっとうしい。ので、放っておく。すると構われないからといって機嫌が悪くなる。とんだ王様である。
 酔っぱらいはすぐ寝る。寝たら起きない。てこでも起きない。まともに相手をしていたらこちらが疲れる。本当にやってられない。寝ながら吐くときもあるので油断ならない。タオルと洗面器は必須である。しばらく様子も見なければならぬ。布団を汚されては大惨事だ。
 酔っぱらいは人の気など知らぬで大いびきで眠る。うるさい。いつもより倍の音量である。うるさくてこちらはなかなか眠れない。酔っぱらいはそんなことお構いなしだ。布団を占領して寝るので困る。泥酔した人間の重いことといったら。なんとかどかして自分の寝る場所を確保するにも一苦労だ。重いのだ。
 そして翌朝には昨晩のことなど忘れている。記憶にとんとない。腹立たしい。だが、二日酔いになっていたときは心中ざまあくらいは思う。
 酔っぱらいは嫌いだ。
 あれこれ心配して疲れるからだ。そして心配して損をした気にさせられる。だから嫌になる。ああもう、酔っぱらいなんて放っておけばいいのに、ついつい気になって世話をする。こちらの気も知らないで酔っぱらいは夢見心地に高いびきで寝ている。
 ああ嫌だ嫌だ。素っ裸で寝て風邪でも引いてしまえ、こんちくしょう!
 そう思いながらも、布団をかぶせてしまうのだ。そして、翌朝にはきれいに布団が蹴っ飛ばされている。これぞ労力の無駄と知る。酔っぱらいに尽くしても報われない。たいていが徒労に終わる。それでも世話をしてしまう自分こそが一番面倒だと思う。

酔っぱらいは

酔っぱらいは

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-10

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