病気の原因

犬棒あたる 作

私が手も足も動かせない病気になってしまった原因はなんだろう。医師は分からないと言ったが、自分が考えた中で、それらしいのが思い当たる。
たぶん私は殺生した罰を受けているのだ。ブルッときた。
 私は、大きく育った庭木を整理するために何本も根元から切り倒した。意識した訳ではないが妻の大事な木も切ってしまった。嫌いな虫がつくリンゴの木の時は何事も無かったが、
金木犀の時は、「あなたは、なんてことを、」と叱られたし、ライラックの時には「わたしの好きな木を、」と泣かれてしまった。妻が出かけて留守の間に済ませて、知らん顔しても、彼女が知らないわけはなかった。「木は生きているのよ、それを、」と言われた。
私は釣りにも行く。生餌を無数にころした。魚も何十匹、何百匹と釣って、血抜きをしたり、生きたのをさばいたりした。魚は痛くて、苦しくて「キー、キー、」と声を出すこともある。さすがに自分の罪深さを感じた。
 これでは、有罪は免れまい。天の検察官の論告求刑である。「被告は、人殺しでなければ、植物殺しや動物殺しはかまわないという勝手極まりない独断的な考えで庭木の伐採や魚釣りをした。犯行は極めて残酷非道であり、死刑は当然だ」。
これに対して弁護人は「タケノコご飯食べたり、ヒィレステーキを食べるのは、人が生きるためには仕方のないこと。被告の妻もやっています。それが駄目だと言われたら人間全部が生存できないことになります。どうかこのことを考慮して頂きたい。」
後日、天の裁判長から判決がでた。「リンゴや魚の無念さ、それに妻の悲しさを思えば、到底許しがたい。霞だけ食べる仙人のように何万年も長生きすることは許されない。哀しいサガをもった人間なれば情状酌量の余地はあるが、それを考慮しても150年ぐらいが限度である。よって、被告については、反省心が少しみられるので、70才で耐え難い難病にかかり、苦しんだあげく、まもなく死ぬ、という刑に処する。良い薬が開発されない限り執行猶予はない」。
何か申し述べることはないか、と問われたら、私は「その通りです、これまで生かしていただき有難うございました」と言うしかない。
いま、判決どおり、服役中であることを報告して、もうやめよう。とうとう認知症になったと言われないうちに。
 因みに、アルコールの飲み過ぎが原因だというのが我が家の陪審員の大方の見方である。
2016年5月22日

病気の原因

病気の原因

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2016-06-13

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