落ちこぼれの微笑み
第二次世界大戦時に大きな猛威を振るった第三帝国、現ドイツ連邦共和国は今もその「罪」というものを抱えながら長き闘争の中を歩んできた。
国家のため、人民のため、家族のため、愛する人のため、戦場へと向かう兵士が背負う思いは様々。たとえ恨まれようとも戦地に赴くのは自らの故郷のため。
そして、戦いが始まるとそこには、伝説として広まる人物が必ずと言っていいほど生まれるものです。
オットー カリウス彼もその一人でした。
休暇
手元のチケットはやはり写真展への招待券だった。
姉の結婚式から一週間後の土曜日、フェースターは休暇をとらせてもらい、招待券に誘われるがままに出かけていた。
結局、編集長にチケットの件について後日電話をすると、忘れていた、と返ってきた。
というのも、元からこのチケットはフェースターにあげるためにファイルに入れていたというのだ。彼はフェースターに説明するのを忘れていたのだ。
「困ったもんだけど、なんせ最近はこんなことが多いな」
つい二日前、出版社の撮影依頼である、パーダーボルンでの集会に撮影人として参加したフェースターは、その集まりが単なる同窓会ではないことを、思い知らされた。
旧国防軍兵士の集まりであることに間違いはなかったが、現場に参加していた老人たちは、皆、戦車兵だった。
フェースターは一見明るそうな老人たちだがこの人たちは全欧州を震撼させたあの大戦争の生き残りなのだ、と空気から感じ取った。
その集会は元戦車兵たちの集まりであった。開始早々、司会者である若者が追悼をはじめ、大きな写真を前にして手紙を読んだ。
すると着席していた参加者全員が起立して、最前にある兵士の大きな写真に向かって全員が祈ったのだ。
唖然としたフェースターはただただその光景をカメラに収めていったが、その葬儀のような光景の時を止めていくことに罪悪感がわいた。
追悼が終わると、フェースターのもとに一人の若い女性が歩いてきた。
彼女はフェースターに話しかけると、今撮った写真を一枚売ってほしいというのだ。
フェースターは特に考えることもなく快く返した。
プリントが終わればあなたの家にも送っておこう、というと女性は値段を聞いてきたため、フェースターは気を利かせてタダでいいよ、といった。
しかし女性は引き下がらず、お金を払わせてほしいと言ってきた。
フェースターとしては、このような場でさらにお金をとろうとは、さらに気を悪くしそうだと大変困ったが、女性はこの写真に価値を持ってくれているのだろうと意見をのんだ。
集会も一段落し、各それぞれが自由に会場内で会話を始めると、フェースターの前にさらに一人の人物が現れた。
先ほど写真を買いに来た女性に押されながら、車いすに乗ってやってきた年配の男性は、優しそうな笑みを浮かべてフェースターに話しかけてきた。
彼もまた国防軍の元戦車兵であり、戦後は連邦軍の教官勤務もしていた人物だった。
「孫がいい青年と話していたもんだから、気になってな」、と男性は笑いを起こしていた。後ろの女性も見つからないように笑っている。
フェースターは男性と握手すると、名刺を差し出して自己紹介をした。
「ほうほう、写真家か、旅する若者はいい、夢がある」
フェースターは昼食をとりながらその男性と女性と談笑した。
話の中身は、これまでの人生の失敗を笑い飛ばしたりなどのとっつきづらいことだったが、男性はそれを堂々と恥じることなく語った。
それに男性は自らそれをふざけた話のネタにもしていたのだった。
フェースターは苦笑した。笑っていいものなのかどうか分からないこともあったのだから仕方がない。女性は申し訳なさそうにフェースターと時々顔を合わせ、苦笑していた。
晴天の真下で野外ランチを食べながらしばらくの間、話が進んでいた。
食事も終盤にさしかかり、デザートが持ち運ばれてきたとき、ふとフェースターが男性に尋ねた。
「つかぬ事をお聞きしますが、この会の開会式の時追悼されていたのはいったい誰なんですか?」
「ん?しっかり名前も司会のエッボ君が言っておったぞ?」
男性は笑顔のまま水を一口飲んで返答する。
フェースターは本職の作業に集中していたということもあり、全くそれを聞いていなかった。
「あ、非常にそれは申し訳ないですが自分、聞いていませんでした」
フェースターは申し訳なさそうにいうと男性は笑い声をあげてよしよし、と頷いた。
「あれはな、今年の一月早々に死んでしまった戦友なんじゃよ。聞いたことがないかね、オットーカリウス中尉」
フェースターはしばらく考えたが首を横に振った。
女性は黙ったままその二人の会話を静かに聞いていた。
「そうかそうか、フランツのやつ、多少は昔話をしてやればよいものを・・・まあいいそれでだ、カリウスのことだが、我が国防軍の戦車部隊の中でも実に優秀な兵士の一人でな、比較的若く血も赤かったのだが、冷静で、慎重で、それでいて勢いがあった、まさにドイツ戦車乗りの中のエースよ」
フェースターは兄のこともあり、軍属の話が得意ではないことは分かっていたが、なぜか今はすっと頭の中に入ってきたのを不思議に思った。
早く続きが聞きたくて、多少の応対を繰り返す。
「しばらく東のソ連の地をあの、ティーゲルで荒らしまわった後に怪我を負ってな、しばらくした後で今度は西側の防衛を任されて・・・それでなんだったかな、ええと、そうだ、そのまま米軍に降伏したんじゃ」
「は、はあ」
あまりにもあっさりとした説明にフェースターは口を開けた。
この人はじっくり時間をかけて話すつもりはなかったのだ、と理解すると口角が上がってしまった。
「ん?なんだね?腰抜けだとでも思ったかい?」
「あ、いやいや全然!もっと長話のなると思っていたものですから」
男性はまた一口水を飲むと、また笑った。
「おーそれはすまんのう、しっかしだな、ソ連を相手に猛威を振るったことは確かじゃぞ、敵車両の撃破した数は150両をこえる」
「それって、どの位凄いんです?」
すると男性は両腕を高く上げるとおおきな円を描いて、このくらいじゃといった。
「ぷっ、かはは、なるほど分かりましたよ」
フェースターは思わずこらえようとした笑いを下手に吹き出してしまった。
「君もコンピューターが使える人間だろうから調べてみるといい、すぐに調べられると思うぞ」
「分かりました、お話し聞かせていただきありがとうございました」
そう言ってフェースターはその日の仕事をほぼ終えて帰路についたのだった。
二日後に男性と女性が住むフランクフルトに向けて写真を送ると、女性から電話番号登録を依頼されて、携帯でメッセージ共有するようになった。
「これも、ミウラさんが言ってた、縁ってやつなのかな」
フェースターは女性に大した興味を持つ男ではなかったが、あの女性とはいい友人になれそうな気がした。
笑みを浮かべながらフェースターは飛行機の到着時刻がまだ二時間あることを確認すると、機内でパソコンが使えないかどうかを機内表示で確認した。
機内での通信行為は許可されているみたいだ。
コーヒーを客室乗務員に注文し、そのまま足元に置いておいたPCケースからパソコンを取り出すと、早速、あの男性から聞いた人物について調べてみた。
人名検索をかけ、検索結果の一覧の中で一番目についたサイトを開く。
ネットの中じゃ有名な百科事典、それにはあの集会でも見た古い写真もあった。
「オットーカリウス・・・国防軍に所属した軍人で、当時ドイツ軍戦車兵の中でも無類の活躍を誇った人物の一人・・・」
サイトを流し見しながら、フェースターはやはりしっかりと理解できるもんじゃないな、と溜息をついた。
読んでいてもほぼわからないが、ドイツの地名や人物はよくでてくる。
それを手探り感覚で理解するしかなかった。
「んん、だめだなあ、少し休むとしよう」
我慢しきれなくなったフェースターはそのままパソコンをスリープさせると、ケースにしまった。
「お待たせしました」
ちょうどいいところに客室乗務員が紙コップに入ったコーヒーを持ってきた。
受け取ると熱いコーヒーを音を立てて少しすする。
編集長から受け取った、古い写真を敷き詰めたフォトファイルを両手に持ちながらフェースターは、白黒に彩られたアルバムを眺めた。
フランス占領後のとある古城に滞在する独国防軍の写真、彩色のない写真がいっそう味というものを引き立てていた。
「ふぁ~...」
機外から聞こえるけたたましいエンジン音とそれと対照的に静まり返る機内とのギャップの中、静かに写真を眺めるのは睡魔を誘うだけだった。
カフェイン入りの飲み物を飲んだとしても大して気分が落ち着くわけでもなく、フェースターは座席の背もたれによりかかると、そのまま寝込んでしまった。
意識がほぼ飛んでる中ぼーっとしながら自分が小さいころに考えていたことを思い出しながら、白黒に彩られたアルバムを両手で、閉じ彼は瞼を閉じた。
招待
「よし、それじゃあ撮るよ~」
4月20日、晴天の中、真っ白な花嫁と花婿を前に、三脚に固定したカメラのピントを合わせると、右手を挙げて合図を送る。
「ちゃんと撮ってくれよ!」
「分かってる!任せろ!」
兄の一言を耳に入れながらファインダーを覗くと、最後にセルフタイマーを起動させた。
「これでよし、さあ撮るよ!」
教会をバックに、階段に並んだ親戚一同の中に走りこむと、息を切らせて母の隣に並んだ。
少しばかりの一同の静まりと同時に、カメラのおおきなフラッシュがたかれた。
フラッシュは3回。最後の三枚目がとられたと同時に、周りはまた賑やかになった。
再びカメラの前に小走りで近寄ると、電子画面の記録フォルダをみて確認する。
「どうだ、撮れてるか?」
半分酒にやられた兄が笑いながら近づいてきた。
「当たり前だろ、本職だぞ」
画面を一緒に覗きながら兄は片手に持っているワイングラスを回した。
「おうおう、まあ集合写真だし、大して変わったものもないか」
「あのなあ・・・」
苦笑しながら兄の首を左腕で絞めると頭に右手拳を押し付けた。
「いてて、いてててて、ああっせっかくのワインこぼしちまうって」
悶えながらも笑う兄をフェースターはあきれて解放した。兄は酒癖が悪いうえに弟を頻繁にからかうのだ。
フォン フェースターの兄であるフォン デウハートはフェースターよりも4つ年上の兄であり、元は連邦軍の軍人だった。しかし同期の訓練中の事故が原因で退職、今はフランクフルトで、そこそこ有名な産婦人科の病院をもっている。
フェースターは人望の厚い兄を見てきたために、自分の仕事を茶化されると、すぐに本気にしてしまっていた。
「ほんと仲良しなのね、ふふふ」
白いウエディングドレスに身を包んだ花嫁姿の姉が、芝生の中を歩いてきた。
「姉さん、改めて結婚おめでとう」
「ありがとうっ!」
姉は楽しそうに、そういうと手に持っていた花束を、デウハートの顔面に向けてぶつけてきた。
「おわっ、なにしやがんだ」
「あんたはいい加減その酒癖直しなさいよ、みっともない、それに次に花婿になるのはあんたなんだからね」
デウハートは左手にもっている姉から乱暴に渡された花束を見直して、ふん、と分が悪そうに立ち去って行った。
姉は、教会の庭で集う親戚たちの賑わいの中に、兄が戻っていくのを笑顔で見送ると、一息ついて写真を今一度確認しているフェースターの横に肩を寄せた。
「みーせて」
フェースターは写真を表示させると笑顔でカメラを手渡した。
「さっすがーよく撮れてるじゃん!」
姉は隣をついてきた夫となったミウラと一緒にカメラをのぞき込んでいた。
フェースターはそんな二人をみながら三脚をたたみ、ビニール製のケースへしまい込んだ。
フェースターは三脚を肩にかけて立ち上がるとカメラを返してもらおうと二人に近づいた。
「あっ、しまう?ありがとうね、こんな時に仕事をうまく使わせてもらっちゃって」
「いや、いいよ、こんな時だからこそ使えるんだし」
姉は苦笑するとはっとして、隣にいるミウラに弟を紹介した。
姉と結婚を交わしたミウラは日本人だが、ドイツから日本に留学していた姉と親しくなり、さまざまなサポートをしてくれたという。
そんな彼も結婚生活はこちらで送りたいという希望もあり、今はこうしてドイツに住んでいる。
「そっか、君が一番下の弟さんだね、僕が三浦弥一だよ、今日は写真たくさん撮ってくれたみたいでありがとう」
ミウラが差し出した右手に自分の右手をかぶせると固い握手をかわした。
腕を軽く振りながらフェースターは彼の手の大きさに驚いた。
「日本人って意外と背も高くて、大きいんですね」
「ははは、僕が周りより少し大きいってのもあるかな、でもまあ大して大きくないよ」
身長180センチあるフェースターと同じくらいのミウラは、おそらく日本人の中でも大きいほうなんだろう、とフェースターは思った。
「そうなんですか?いやはやもっと小さいかと思ってましたよ」
大げさにイメージしていた背の高さを手で表すと、夫妻は楽しそうに笑っていた。
姉が笑ってくれているのをみているとフェースターは自分もうれしく思えた。
話し終わり、カメラをカメラケースにしまうと、自分の携帯がメールの通知を表示しているのが目に留まった。
送信相手は軍事系の雑誌多く出版している出版会社の編集長からだった。
急ぎで話をしたい様子のメールだったが、軽く目を通すと、返信を保留にしてフェースターは自分の車に機材をしまいに行った。
トランクをしめると、フェースターは再び携帯をとりだして、先ほどのメールに返事を返した。
(これから一時間後くらいにそちらに向かいます)
送信し終わると同時に車に乗り込むと、エンジンを始動させた。
姉には悪いが、せっかく入りそうかもしれない仕事を見逃すわけにはいかない。
そう思いながらフェースターは車を発進させた。
教会からすこし離れたところにある駐車場を出たフェースターの車は、親戚一同が集う庭近くを通りながら教会表側の正門を抜けようとしていた。
「フェースター!」
姉に呼ばれてフェースターは庭の目の前で停車させると運転席の窓をあけた。
花嫁姿でこちらに歩いてくる姉を見ると、少しばかり罪悪感がわいてくる。
「どこ行くの?」
「あー、ちょっと急用ができちゃってね、たぶん仕事の依頼だと思うんだけど急いでるみたいだからさ」
「仕事かー仕方ないわね、遅くならないうちには帰ってね、今日は私も料理するから」
「ほんと!?じゃああれも作ってくれるかな?」
あれとは姉の得意料理であるブルーベリーパイのことだった。
姉は笑顔でうなずくと車から離れてフェースターを見送る位置についた。
「やったね、じゃあ夕飯のパーティーまでには絶対帰るよ」
と言って手を振るとフェースターは車を発進させた。
バックミラーで後ろを見ると、姉とミウラさんが手を振りながら見送ってくれていた。
フェースターはミウラがどんな人間なのか少し不安なところがあったが、さっきの対話で馴染めそうな気がしていた。
「あの人なら姉さんともうまくやっていくだろうな」
そう呟きながらフェースターは教会の正門をくぐり抜けて、出版会社へと足早に向かっていった。
「あぁもう・・・」
日がすっかり暮れてしまった。
あの会社の編集長と話すのはこれで三度目だったが、仕事以外のプライベートで顔を合わせたことも何度かあった。
連邦軍のパレード、日本への取材、米軍への取材、確かに会社としても軍事関連の取材に関しては、仕事の依頼としてのめるのだが、あの編集長を相手にしてしまうと話が尽きない。
それほどまでに彼はオタクなのだ。
軍オタクというよりは、彼は純粋に兵器が好きな人間といえる。
フェースターが彼をオタクと罵ると、彼は愛好家と呼べ!と強く求めた。
フェースターが兵器の何がいいのか、全く理解できない人間だったために、兵器好きである彼はフェースターに時々熱く語ってしまうのだった。
「なんだかんだ言って、用事は五分で済んだはずなんだけど、なんだこの時間は」
姉の結婚式会場を抜け出してから、編集長との仕事の話を終えた時点で30分。
日が落ちるまでもなく会場に戻れるはずだったが、それはできずに終わった。
助手席には仕事用のノートパソコンと鞄、それに編集長からいただいたワインがある。
「あの人も用意がいいもんだ」
出版社に向かう前に結婚式中だと少し話しただけだったが、祝いと詫びの二本だ!と言って、ワインを用意して待っていてくれるとは思わなかった。
フェースターは実家の目の前で車をとめた。
時刻はちょうど夕食時だ。
「ふう、着いた。しばらくあのひとと話すこともなさそうだし、一息つけりゃあ」
酒瓶二つの入った紙袋を床におろし、一度エンジンを止めた静かな車内で編集長からもらった撮影依頼の内容を確認する。
内容はパーダーボルンで行われる旧ドイツ国防軍兵の集会を撮ることだった。
いたってシンプルな仕事内容だったために気軽に引き受けたが、その後の編集長の話でやる気を欠いてしまっていた。
「・・・はあ」
自然と溜息をこぼしたフェースターは首を回すと深呼吸をした。今は仕事のことよりも姉を待たせていることのほうが重要だった。
書類の入ったファイルを助手席の鞄にしまおうとすると、小さな紙がファイルから零れ落ちた。
「ん、あれなんだ今の」
暗い足元に手を伸ばすとさっき落ちたであろう小さな厚紙を拾い上げた。
カラフルで、書いてある言語が英語の不思議な紙。
裏返すと地図のようなものも描いてある。
「なんだこれ・・・写真、展?こんな紙入れてたのかあのひと」
大して興味のなかったフェースターはそれをファイルに入れなおすと、鞄とカメラケース、それに酒瓶二つの入った紙袋を持って車から降りた。
外に出たとき、実家の玄関が開けられて中から姉とミウラさんえがおで出てきた。
フェースターは車の鍵をかけると、足早に二人の元へと向かっていった。
「おかえり、お疲れさま!」
今夜は昼よりも楽しくなりそうだ。
フェースターは仕事を忘れて家の中へと帰って行った。
およそ2時間のフライトを終え、フェースターはブリテン島の陸地に降り立った。
寝ていたこともあり、電子機器の電源を切っていたために、着陸するまで携帯を見ていなかったフェースターは、あの編集長が先に待機しているとの連絡を1時間遅れで確認した。
フェースターが降り立ったサウサンプトン空港はイギリスの南に位置する空港であり、非常に少ない便数だがドイツ、デュッセンドルフとつながっている。
「よく来ましたね、だいーぶ待ちました」
「すみません、遅くなりまして」
編集長は二日前から他用でポーツマスに滞在しており、帰国する前にあの写真展を見ていこうかということらしい。
「いやいや大丈夫だよ、どうせだから一緒に行こうと思ってね、それに今は車もある」
フェースターにとってそれは朗報だった。空港についたはいいがそれから一体どうしようかと考えずに済んだからである。
「会場は結構近いんだけど、どうします?」
「恥ずかしいことながら、お腹がすきました...」
フェースターは苦笑すると、お腹をさする仕草をした。
編集長は両眉を上げて軽く何か食べていきましょう、と店先をさす通路の看板を見ていった。
何を迷うことか、フェースターは笑みを浮かべたまま歩き出した。
二人は英国らしい雰囲気のレストランで食事を済ませると、店を後にして駐車場へと向かった。
フェースターは鞄からスペアミントのタブレットを取り出すと口に放り込みながら思わず文句をこぼした。
「あの店は死んでも二度と行かない」
隣を歩く編集長は黙ってうんうんと頷いた。
「ありゃ流石に、私の雑食な舌も引っ込んじまった」
コンクリートで囲まれた駐車場に二人の愚痴が反響して返ってくる。
かなり広く、5階建ての長方形の形をした駐車場はなかなか歩く距離があった。
「あー、向こうの青いやつ、嫁さんが貸してくれたんだ」
階段で最上階である5階に上りつくと、編集長が車列の奥を指さして言った。
てきとうな返事を返しながらフェースターは指がさす方を見やった。
青いミニクーパーが一両、前から聞いてはいたが、編集長の奥さんはイギリス人らしかった。
落ちこぼれの微笑み
戦争回顧録、頭の中でイメージしながら読むとその迫力に我を忘れて読んでしまう。
ティーガー戦車隊を読んでいて思ったのはそんなことでした。
それを物語として、小説にしてみるとどうなるだろうか。そんなことを思い、そしてドイツの戦いを決して無駄だったとは言わせないために真面目に書いてみました。
とはいえ、一素人が書いているものなので、温かい目で見ていただけると嬉しいです(笑)