*星空文庫

良人との思ひ出

藤里 圭 作

  1. 或時間軸にて
  2. 病床に星屑

或時間軸にて

或時間軸、或いは天文学的回数の出会いの差中。

私の良人は優しかった。
その頃の私は身体は弱く神経衰弱が悪化し、普通の女のやうに良人と外で会ふこともままならなひ日々であった。
良人は弱る私の神経を労わりながらハアプを奏でた。その音は良人が奏でてゐるのか或いは私の夢現の狭間で聴こえた幻聴かはわかりかねますが、とにかく良人は私のことをそれはそれは大切に思ってくれておりました。

私は良人とずっと一緒に居たいと願い、丈夫な身体と心を神様とやらにお願いしましたが、相変わらず私の身体は弱く神経衰弱は悪化の一途を辿りました。

ある日良人から花の香りが致しました。私はそれに酷く傷付き、窓の外を眺めるふりをして泣いておりました。そして流れ星が見えたので私はその流れ星へ意識を傾けました。

星が流れる速さよりも女の一生とはかくも儚きものなのかと何時ぞやの何処ぞの高貴な身分の女性が頭の上で呟きました。

秋風がやけに肌を突き刺すので、私は再び目を開けました。

病床に星屑

天文学的数字の数だけヒトが暮らせる惑星を見付けたのだと今朝は野鼠がやけに興奮気味でした。

最近は病気がちになってしまい、すっかり気が滅入っております。しかし私の気質は元々所謂ポジティヴと言われるものではなく、むしろネガティヴと言われる類のものであると思えば、ある意味自分らしさを取り戻したと言へるのではないでせうか。

良人は秋晴れの日に連れ立って散歩に行けるだけでとても幸せであると私にしか聴こえない声で言うのです。さういへば、今朝は良人と手を繋いで銀杏並木を歩いた夢を見ましたよ。さう告げてみれば、良人の大きな手が私の頼りない子供のやうな手をすっぽり包み温めてくれるのでした。

良人がただ、私の頼りない子供のやうな手を包み込んでくれるだけで、私はこの世の誰よりも頑健に生きていけるやうな気がしました。

良人は、大変不器用な方でした。言葉も足りず、選び方も無骨で、人の輪に入るのが苦手なさういう方でした。だからこそ私の陰性な気質が彼に惹かれたのだと思います。ここから引力は見つかったのだと夕刊に載っておりましたが、無知な私にはそのやうな話に到底ついて行ける筈もなく。ただの恋慕がどうして科学に結びつこうかと頭を悩ませ、ついに熱を出してしまいました。

お城から奥方様が、殿方が、今夜の天体観測会へ連なり、私は煌びやかな和歌や雅な音楽に野鼠と共に耳を欹てておりました。

良人は帰って来ませんでした。
私は木の葉と共に舞い上がり、天体観測会の様子を伺いましたが、熱のせいか奥方様が泣いているやうに見えてなりませんでした。

『良人との思ひ出』

『良人との思ひ出』 藤里 圭 作

いつかどこかでの思い出話。

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更新日
登録日 2015-10-21
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