プロット「闇の気配~視点~(仮題)」

たかなみ なと 作

このプロットによって、作者は、「飲食業界は未知の反社会的勢力に支配されている」という事を、暗に主張しているわけでは無いので。誤解のありませんように。

(1)
Aの元に、音信不通の友人Bから一通の手紙が届く。以下はその要旨である。「君が知っている通り、僕はこざっぱりした飲食店を開いた。開店して一週間目から、雇ったアルバイトの態度がおかしくなり始めた。例えば、元気良く挨拶をしても、自然に挨拶を返さない。しばらく横目で不快なものを見るような視線を返し、嫌々返事するという風に。やがてアルバイトは皆、些細な事で憎しみのある苛立ちを僕に示すようになった。、、、ある日、アルバイト達から『なぜC(20代の女)に裸を見せつけるような不謹慎なまねをする。』と僕は言い詰められた。全く見に覚えの無い事だった。言い詰められた日の2日前、実はこのような事があった。食材倉庫から店に戻ると、着替え途中のアルバイトDが、Cに向かって『この筋肉美を見よ』とふざけているのである。これが奴らの手口だと僕は悟った。参考になるから、夏目漱石の『坊っちゃん』10章から11章前半を読んで欲しい。(また、このCとDの出来事の翌日から、女性アルバイトのIが2日間、インフルエンザで仕事を休んだ。しかし今思うと、インフルエンザだと言うのは本当かどうか疑わしい。CとDの僕に対する中傷をより陰湿に完成させるために、「Aの破廉恥な行いには、心から失望しました」という非難を、仮病を装って自作自演しようと企んだのではないのだろうか?)、、、やがて店は営業出来る状態ではなくなり、僕は休業することにした。開店して間も無く(営業はたった2週間である)、アルバイトに支払う給料もたいした額ではないので、すぐに全て支払った。その翌日、アルバイトDとEが、Cの事で文句を言うために、僕の所へ来た。あまりに異様だった。百歩譲って、仮に僕に非があるとしても、アルバイト達の連帯感は(アルバイト達は、2週間程前までは、互いに赤の他人同志である)明らかに異常である。憎しみに満ちて狂っている。Dが僕の胸ぐらを掴んだ。、、、店内には防犯カメラは設置していなかった。アルバイト達の嘘を崩すことは不可能だった。今の時点では警察に相談しても、小さな幼稚なトラブルとして扱われるだろう。奴らの正体を見極めようと僕は決心した。Dを突飛ばし、車に駆け込み、とりあえずは奴らから逃げた。、、、翌日、ファーストフード店で休んでいると、鮮やかな紫色のジャケットを着た若い男に幼稚な因縁を付けられた。また、そのファーストフード店とは遠い距離のある場所でも、鮮やかな紫色のジャケットを着た別の若い男に幼稚な因縁を付けられた。似た出来事が他にも3回あった。そして僕は、Cはいつも鮮やかな紫色のバッグを携帯している事を思い出した。、、、奴らは人を誘拐して殺す悪魔崇拝者だと考えている。D達の憎しみに満ちた表情は、そう考えるのに十分である。アルバイト達の集団の嘘は、そう考えるのに十分である。奴らの組織はとてつもなく大きいものだと考えている。、、、僕の今回の事は誰にも話さないで欲しい。僕の今回の事で、インターネットやメールを使わないで欲しい。詳しくは書けないが、全ての通信は奴らに盗み見られている。また、何時か必ず連絡する。」

Bからの手紙を読む前、Aはある写真週刊誌の記事を読んでいた。音声合成ソフトに音源を提供した男性アーティストFに関する記事である。その要旨は次の通りである。「契約を取り下げると、莫大な違約金を支払わなければならなくなる無謀な契約をFはレコード会社と交わしてしまった。その日から所属事務所のスタッフのFに対する凄まじい暴言が始まった。ごく一部の親しいスタッフと共にFは夜逃げ同然に事務所から逃げた。仕事に支障が生じた、契約違反が生じた、Fは莫大な借金を背負った。その後もFの新しいマネージャーやバックバンドのメンバーは、スキャンダルに見舞われた。」

A自身は、Fには借金に関して非は無いと考えた。A自身は、Fを犠牲者だと考えた。A自身は、警戒心の強いFの身代わりとして、マネージャーやバンドメンバーが陥れられたのだと考えた。

BとFの出来事を比較したとき、Bに対するCとDの中傷とFに対する事務所スタッフの暴言には、何か共通の醜い性格があるようにAには思われた。またAは、事務所スタッフの暴言が無ければ、Fは莫大な借金を負う事は無かっただろうと考えた。

「陰口や悪口、醜聞、人格や知性を辱しめる、その人間に対する嫌悪が増す、その人間を誘拐して殺す、弱い者虐めの極致、悪魔の所業、」

こういう類いの事件が現実には発生しているではないか。こういう類いの事件を生業とする邪悪な組織を予見する事も可能ではないか?

AはBを助け、奴らの正体を暴く決心をする。今はまだ、警察には頼らない。一月の間は、全く平常を装って、Aは暮らす。鮮やかな紫色のジャケットを着た人間は現れない。一月後、Aはこの街を出て、新しい街での生活を始める。

(2)
Aは、Bが手紙で述べたような犯人像について、いろいろと考えてみた。普段は普通の生活をしている人間が、気まぐれか何かで誘拐殺人を思い立ち、やはり普通の生活をしている人間を仲間に募り、恨みも何も無い他人を誘拐して殺す。このような事は、人間の良心の上からも、悪行の技術の上からも、完全に不可能であるとAには思えた。また、何らかの逮捕歴がある人間も、それ故、Bが手紙で述べたような悪行を行うことは、不可能であるように思えた。また、社会一般に知られている反社会的組織と繋がりのある人間も、その繋がり故、Bが手紙で述べたような悪行を行うことは、不可能であるように思えた。

ふと、唐突に、Aの脳裏には、次のような異様な光景が浮かんだ。「ある職場において。比較的最近、そこに加わったGは(彼は、夫婦でこの職場で仕事をしている)、ある一つの些細な事柄に関しては、極めて執拗に、非協力的な態度をとり続ける。その事を注意されると、自分の責任外の事柄だからと反論する。自分の態度や反論は正しい事だと、妄信しようと努めている様子がGにはある。良心を偽り切ろうと努めている様子がGにはある。Gの後にこの職場に入って来た者達も、Gの態度を支持する。彼等の間には異様な不自然な連帯感が見られる。Gの非協力的な態度が増長する。また、その職場に古くからいるHが、慣れた仕事において、ミスが目立つようになる。例えば、人前で包丁を捌くとか、人前で料理をサービスするとかのように、人前で行う仕事のミスではない。そのような人前での仕事に関しては全く問題は無い。発注したはずの商品が発注されていなかったとか、ガスの元栓を閉めたのに開いていたとか、このようなミスが急にHには目立ってきたのである。」

数日後。
AはBを探し出したいと思った。しかし手紙には、そのような事はしないで欲しいという意味の記載があった。だからもうしばらくは、Bを探すことは控えようと考えた。Bに迷惑を掛ける可能性もある。

Bの件で、インターネットやメールを使う事も自ら禁じた。素人同然のプログラマーが、他者のパソコンを遠隔操作して陥れ、誤認逮捕する事件まで発生している。Bを襲った(?)仲間に、目をつけられる可能性が高い。

真夏のある日。
Aは大都会の雑踏を独りで彷徨する。何か手掛かりが掴めればという、不安の混じった思いがある。様々な人間の様々な流れを見る。しかし、手掛かりどころか、ヒントすら無い。暑く苦しく、疲れる。このような事をして何になるのか、何時までこのような事をするのか、自分はいったい何をしているのか、自分はいったい何者なのか。午後3時、街の片隅の小さなカフェに入り、一番奥の、照明の薄暗い席に着く。店員に冷たいコーヒーをオーダーする。冷たい水を口に含み、少し身も心も落ち着く。恐ろしい白昼夢を見る。Aは異様な熱を帯びた悪鬼のような煙に襲われ、駆け出し、底無しの切り立った崖淵にたどり着く。そんな幻のような白昼夢である。

プロット「闇の気配~視点~(仮題)」

プロット「闇の気配~視点~(仮題)」

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2015-07-13

CC BY
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