短歌集/緑の風に

幼子の春の陽気に浮かれすぎ
服脱ぎ捨てて乗る三輪車

パパ休み 嬉しさあまりにその園児
息を弾ませ縄跳び十回

シャイなエマちゃんお出かけの
スカーと可愛や市松模様

雲晴れて 外の路地に影はなし
人皆な名残の桜見物

これ見てと 妻の差し出す箱の中
サイズ小さや いつものチキン

夜な夜なの 子猫の鳴き声ここからと
隣人指さす シャッターの中

我共に 彼が育てし花々も
退院の日を今か今かと

寒戻り 薔薇の新芽も滞り
平気な白き苺の花びら

主なき 紅の枝垂れも寂し気に
春の小雨に濡れて散りゆく

(2023/04/10)

若き妻有りて 手に赤子を抱え込み
その笑顔 愛にあふれ輝けり

賑やかに笑いあふれる裏隣り
葦簀を昇るゴオヤの向こう

よく晴れた涼しき朝の散歩みち
見知らぬ人にも声かけたくなり

世の動き大戦前夜の気配して
危うき事この上もなし

(2022/06/12)


相方を亡くして気付く隣人の
心の友のありがたきかな

家にこもりし君哀れなりと
熱き豆飯届ける夕暮れ

一人っ子 兄弟多しと羨むや
菓子独り占めに出来る身措いて

真向かいの兄弟遊びに来ぬ夕暮れ
頬杖付けば時報鳴り渡り

初夏の日差し 遮るテントに風吹きぬけて
居心地よきや きみ長話し

(2022/06/03)


行く人の上 寂しくともる街燈の
その喜びに気づきし夕暮れ

やっとこさ自分の生きる意味を見つけたり
この歳になって生まれて初めて

何事も大成できずにいるわけを
中途半端な己のありようを今知った

嘆くな友よ何気ない日常の君それ自体が
意味ある尊い存在なのだと気づくこと

物事を為すも止めるも病なり
ただあるを知れと彼の剣豪は語れり

比叡の聖もかく語りしとや
住みし周りの一隅を照らせと

眼に見えぬ我を導く存在に
気づきし今は何をか恐れん

陽光の中 我の中を吹き抜ける爽風
全ての心のわだかまりを吹き飛ばして

(2022/05/27) 
 

眼の前で無邪気に遊ぶこの子らも
見守る人もただ一瞬の時の煌めき

この今は刹那に帰らぬ過去となり
昨夜の夢のごとく消えゆく

その喜びもかの悲しみも
今は有りても永遠に続かず

君聴くや初夏の光と風の中
永遠を見たかと彼の人の声

(2022/05/25) 


相方の病みし隣にチジミ持て
訪のう夕暮れニラの香漂う

とにかくも名こそ似合わぬ華麗さよ
ゴデチャの花の庭の輝き

水面に鼻がつくほど覗き込む
幼き兄弟 メダカの乱舞

おとなしき一人暮らしの隣びと
寂しくなきやと語る夕暮れ

何事もなき一日がこんなにも
豊かで平和なものであるとは

(2022/05/23)



アスファルトの上に子供たちの絵は踊り
季節はずれの暑さに白き家々は沈黙する午後

一人っ子はダックスと跳ね回り
パパの背中に下着の跡をつける日差し

轟くは五月の夜空に稲光
せまり来る真夏の暑さ恐ろし

気分良き午前と変わりて疎ましさ
増すは老いたる妻の我がまま

やっと終わった今日の一日
明日を考えず眠りにつこうか

(2022/05/22)

ふと命絶ちたる心に寄り添わん
空しき思いを振り切れぬ夜

たわいなき兄弟げんかの中にさえ
人の業をば感じる毎日

爽風に吹かれながらもわが心
胸の霧をば晴らすすべなく

美しき薔薇は輝き香に満ちたれど
庭師の労苦を知る人少なし

(2022/05/21)


重なりぬ 地面に絵を描く幼子に
北に消えゆく幻の影

両親に見守られ遊ぶ兄弟の
行く末如何に 激動の世界

同じ世に 生まれながらも不条理な
親と場所とで地獄極楽

人の世を恨めど消えぬ現実に
何処に希望の光見つけん

迫りくる世の激動の大波に
乗り切るすべを誰が知ろうか

人の世の移ろい尻目に季節の絵師は
緑の筆を山々に振るい

咲き乱る薔薇の色香に酔いしれて
心も華やぐ初夏の陽の午後

疫病の過ぎゆく日をば夢見つも
手放すことなきマスクはがゆし

(2022/05/20)



山裾に 消えて久しき雉の声
雲雀寂しや 囃し方なく

上げ雲雀 舞う空高く 瓜の苗
負けじとばかりにすくと伸びゆく

小さな手 掬う水をば苗床に
危うき柄杓にバアバが手を添え

懐かしき我が遊びをば伝えんと
幼き子らに孤軍奮闘

あげし苗 嫁に出したる心地して
そっと見守る 隣人の庭

(2022/05/19)


【メダカの周りで】

争いて餌をほおばるメダカたち
上では餌やる順番争い

これ食べたと言い張る末っ子に
あれはメダカじゃなくて シ・ラ・ス

身体入れ替え メダカに見入る三兄弟
バアバも劣らず興味深々

でもエマちゃん一人っ子のためか
ママの影からそっと見るだけ

花が好きなのかもねと バラの花
見せたげたけど 香りも嗅がず

ほらあの子たちと遊びたいなら
言ったげようか 友達だから

(2022/05/15)


駆け抜ける 孫を追いたる老夫婦
楽しくもあり苦しくもあり

アリガトウ 菓子を片手に三輪車
元気はつらつ バアバはヒタヒヤ

黄金週 孫の訪れ嬉しくも
老いの坂の急なるを知る

我が孫の 昔を見るよ この子たち
友が語るは蝉取りの夏

子を授からず孫も抱けぬ夫婦あり
犬猫愛すも歳に諦め

有る人はない人を羨み
ない人は有る人を羨む
天は二物を与えじ か

我れ妻を 持たず子もなく孫もなく
初夏の陽を浴び ただ草花を慈しむ

(2022/05/15)


元気やった そっと頷き豆腐屋の妻は
白き指にて水を払いぬ

小さな路地の豆腐屋さん
昔ながらの店客女将 いいねえ

何よりも心の絆が嬉しい また来たくなる
おいしい豆腐を売る人買う人

よく見せて 冷たい冬を乗り越えた
豆腐を掬うその白い優しい指先を

あんたが居なけりゃさ 色白女将
亭主が相手じゃ買う気が失せる

(2022/05/13)


見てください 髪黒々とスヤスヤと
眠るみどり児に笑顔ひろがる

久々に新しき命の泣き声が
5月の空に響く毎日

よくもまあ華奢なその身で4人もの
母となりしや 微笑むきみよ

4人もの可愛い子供の声ともに
越し来た向かいの家族嬉しや

我が孫と思えば楽しこの子たち
明るき笑顔に触れる喜び

(2022/05/02) 


育てし苗の貰い手探しに翻弄す
日がな一日チャイムを押しつつ

手塩にかけて育てた娘をやる思い
胡瓜とトマトの苗とはいえど

ありがとうの笑顔嬉しや来年も
またよろしくねとお互いに

お礼にと破竹のもぎたてくれる人
ありがたきかな 今年もお元気で

新しき住居の続く玄関にも
鉢の我が苗ともに並びて

残り苗 集めてほっと溜息つけば
箒の影の長き夕暮れ

(2022/05/07)



無事生み落としました 女の子
名を訊き忘れた 初夏の晴れの日

瓜苗をあげんと玄関ベル押せば
帰郷したよと隣人の声

空高く鳴きて昇るは上げ雲雀
まさか我が家の上を飛ぶとは

野原なく畑もなきに上げ雲雀
何処の巣より発ちて囀る

(2022/05/06)



影もなく  薔薇の若葉をハキリバチ
切り抜く技に手も足も出ず

陽を浴びて伸びゆく苗の傍らで
耳に響くはママを呼ぶ声

子供の日 緑風の中を颯爽と
家族を乗せたバンは旅立つ

ニュースでは子供の悲劇に涙して
家では子らの笑顔に喜び

近所より譲り受けたる水鉢の
メダカに見入れば正午のチャイム

愚痴もなく 夜勤明けの介護の天使
朝から甥の世話に翻弄す


(2022/05/05)
 


宇和島の郷の土産に話し込む
春の嵐の近づきし宵

色づきし苺を子らに摘ませんと
すれど雨の止まぬ夕暮れ

手作りの野菜の苗の生育を
貰い手に告ぐ季節になりて

(2022/04/27)

二人して 花の苗をば貰わんと
ふらりと歩めば心も和みて

春霞 花の香ともに吹きすぎぬ
晴れて眩きツツジの咲く朝

鳴きかわす 磯ヒヨドリの囀りに
あのホオジロの歌懐かしみ 

(2022/04/22)



柔らかき ブドウの葉揺れる風の中
老いたる隣人 亡き妻を語る

同時代 生きし昔の思い出を
乗せて緑風二人を過ぎ行く

愛猫の呼ぶ朝 間もなく介護終え
天使帰りてピタと戸を閉む

幼き手 紅き苺を握らせば
そっと齧りて目を輝かせ

(2022/04/19)


貰い手の ひと世を去りて ずっしりと
重き竹の子 ゆく当てもなく

竹の子は硬めが好きと満面の
故人の笑顔今も心に

前後ろ 幼子乗せてペダルこぐ 
母の瞳は前を見据えて

ランドセル背負いし幼子いつの間に
長き背丈のこの乙女へと

春の風 ほほに桜の新人も
薫る緑の風に伸びゆく

案ずるな 涙にくれる乙女子よ
別れは新たな出会いの始まり

桜鯛 土産のつもりがボウズにて
鰺開きをと 義理堅し友 

旅立ちし 後のさみしさ束の間に
教えの庭には 可愛い喚声

花桃の 散りゆく八重の花びらに
逝きし翁の笑みが浮かびぬ

顔見せぬ 老いたる友を気遣えば
海塩片手に 笑顔の白髭

物忘れ 案ずる人の傍らで
優しき林檎の花も聴き入り 

今撒きし 種はこれよと行く人に
春も半ばの 既に暑き日


あの声は ほら磯ヒヨドリよと行く人に
教えたいよな 見事な囀り

高さなら 負けじとばかりに上げヒバリ
見えぬ雲間で囀りにけり

我はただ 未来永劫ホーホケキョー(法華経)
仏の教えを 歌で伝えん
  

(2022/04/13)



何代わる 日々の暮らしにと思いつも
花に水やる バケツは重く

人の世の 曇りガラスを打ち破り
緑風よ吹け 心の隅まで

(2020/05/06)


生業の憂いに疲れ世に疲れ
ただ茫然と緑風の中

我が肩を優しく包む白き腕
甘き言の葉 緑風の髪

緑深き 谷間に揺れるは精霊の
化身か白き一枝の百合

(2020/05/05)


暴風に 倒れし木々も今はもう
茨の茂りて何事もなく

新緑の林に続く廃屋に
翁媼の消えぬ幻

葛の葉の芽吹く小道の藪陰に
鳴くは鶯 谷渡りの唄

振り向きし 少女はいつしか大人びて
緑の風にツツジ咲く頃

人込みを 離れて緑の陽の光
マスク外せば 鶯の声

早乙女の リンゴの花か薄赤き
唇はそよと風に吹かれて

たおやかな 緑の髪を颯爽と
風に梳かせて乙女過ぎ行き

穏やかな 笑みを浮かべて車椅子
止めて媼はアイリス指差し

疫病の 流行りて緑の息吹をば
吸い込む場所もままならぬとは

(2019/04/26)


風そよぐ緑の葉陰に鳴きかわす
鶯の声冴ゆる山道

空青く 風透き通る山並みに
陽に輝きて萌える緑よ

花霞 吹き飛ばしたる緑風の
肌さわやかに峠を過ぎ行く

初夏の陽に 萌える緑葉 山肌に
その美しさに ついに叫びぬ

眼の前を過ぎ行く緑の輝きの
中にあの子の笑顔が重なり

君の住む 町を目指して緑風の
中ひた走る バイクの響きよ

風そよぐ 山の緑に萌える葉を
透かす陽の色 風を染めゆき

静寂を裂きて一声鳴く雉の
消えゆく山の端 緑の競演

(2019/05/07)



風通る白きシーツの間より
我を見し目に心乱れて

君が髪自由に梳かせて吹き抜ける
風を羨む晴れた日の朝

我が思い何処吹く風と受け流し
きみ白き手を翳して陽を避け

惜しげなく厚き衣を脱ぎ捨てた
薄着の君をば初夏の陽が射し

玄関に可愛い姉妹居並て
手に薄緑の蕗差出しぬ

(2019/05/04)



心地よき 風に吹かれて立ち話
昼の時報の音も忘れて

緑風に よちよち歩きの名を呼べば
慌てて じいじの影に隠れて

車窓には 上花見月 下ツツジ
席には眩しき花の乙女が

(2019/04/26)

翼あれば君をい抱きて舞い上がり
この緑野の果ての果てまで

手を捕りて黙って過ぎ行く二人ずれ
勿忘草の咲く初夏の道

はや夏日 病と闘う友人を
日陰に誘う4月の黄昏

咲き乱る花の羽音によく見れば
飛ぶミツバチもまだ慣れぬよし

慣れずとも案ずるなかれ我が孫よ
夏ともなれば我が学園に

(2014/04/23)


暗き世に道行く人を和ませんと
錆びしはさみで薔薇を整え

美しき 花愛でる心あらば人の世も
やがて和まん 薔薇よ そうとも

緑風に赤き薔薇の芽染まりゆき
やがて蕾を輝く空に

何の花 訊く君いじめるつもりなし
薔薇の美しさに嫉妬せぬかと

青き空に揺れる花をば夢に見て
棘の痛さに気づかぬ四月

がっかりよ 不作の故か盗掘に 
これだけだよとくれし竹の子

君逝きて めぐる季節の竹の子を
誰に持たせん 君の他の誰に

(2019/04/22)


庭の木の若葉刈り取る隣人の
鋏の音の止みし昼時

風渡るこの空見ずや介護の天使
夜勤疲れに硬く戸を閉じ

花乙女 希望の春に燃えつつも
勿忘草を胸に抱きつつ

知らぬ間に白き心に薄紅さして
開くリンゴの花の乙女よ

幼子の微笑み返す乳母車 
あな眩しやなとシェード開きぬ

友曰く 散りし桜に間髪入れず
何ぞこの照り 早真夏日か

(2019/04/20)

そよ風に薄紫の袖揺らし
立ちし姿は水に揺らめき

紅き苺の実に走り寄る
幼子の髪に風そよと吹き

幼き日夢中で食べた木苺の
苗を見つけて心躍りぬ

若苗のバラを抱きて帰りきぬ
誰もが和む初夏の晴れの日

白き柔らかき手に豆腐を乗せて
振り返る僕に休業日を告げた人

忘れな草っていうの ほら見てごらん
ミツバチの羽音に揺れるその青い花

名は緑 けど桃色が好きなのと
いう君の頬に眩しき初夏の陽

喚声の緑風ともに流れ来て
長き髪揺る車窓は過ぎぬ

湧き起こる七色にも見ゆる新緑の
風爽やかに我が身を過ぎ行く

花の後若芽は出でぬ矢継ぎ早に
季節の移りは人目を追い越し

若妻の香水薫りて初夏の朝
言葉交わせば風に包まれ

道を行く 君足停めて我が苗を
貰わんと寄りて 手を陽に翳し

子育てに翻弄されし君なれど
過ぎれば気付く今の幸せに 

五月雨の はしりや雲の空被い
胡瓜の若葉に陽は弱まりて

緑風を全身に受けペダル踏む
我は空泳ぐあの鯉のぼり

陽に揺れる若葉はやがて色深め
酷暑の季節に備えんとす

我が心の中を吹き抜ける緑の風よ
過ぎにし青春の息吹を今一度我に

風渡る 夢野に掛けゆく後ろ髪
その面影に我が心揺れ

風渡る緑野に咲きし花を摘み
少女はそっと我が手の平に


自転車を並べ過ぎ行く乙女たち輝く笑顔に生命(いのち)溢れて

緑風のなか子供らは夢中に蝶を追いて駆け抜け

まだ翼危うき小雀畑の中 狙うカラスを追いて見守る

椋鳥(むくどり)の緑の風に舞い降りて返せし土の虫を(ついば)

渇きしこの心癒し給え 緑の女神よその柔らかき光で包みて

故郷の 田植えの頃の里山に ()りしヤマモモ今も実るや

真緑(まみどり)の舞台の上の花つつじ色鮮やかに輪舞して見せ

桜など なんのものかとあちこちの巷に花の色香競いて

縁葉(みどりば)に 残した殻を後にして 五月の空を上の上まで

美しき 新芽の先の緑をば 茶にして味わう心のゆかしさ

黒髪の 緑の乙女は()(うる)ませて 深い森へと我を誘いぬ

深々とした空を眺め 輝く緑風を受けて立ちし我に 何ぞこの涙は

慈雨を降らし 伸びし若芽に陽の光 (そそ)いで育て あやすは緑風

新緑の 上に(こぼ)れる陽の光 隙間(すきま)を落ちて我が足元に

緑風の 色をもて染まりし黒髪を なびかせ乙女は前横切りぬ

緑風の 中をバイクはひた走り 病癒えぬ女人(ひと)の面影消えず

彼のひとは 他人の妻よと言い聞かせ 緑の風に憂さを晴らしぬ

たおやかに 束ねられたる早乙女の 緑の髪に 陽やわらかに照り

子を口に 緑風よぎる母猫の 庭を走る影の素早さ

晴れ渡る 五月の峰の七緑(ななみどり) (すそ)に色 ()山桜花(やまざくらばな)

陽光に 輝く尾根の七色の 緑 (なが)めん 道に降り立ち

新緑の 木々の精気 を吸い込みて 朝の歩みのこの清々(すがすが)しさよ

( 以下、また出来次第 筆者 )

短歌集/緑の風に

短歌集/緑の風に

  • 韻文詩
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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