渚ロード

夕暮れに、渚を歩いていた。
時刻は既に夜を指しているにも関わらず、見上げても星空は遥か彼方でその姿を見せない。

沢山の人々がいた。
沢山の事を知り、沢山の想いを背負った。
わずか3年の時間は、多くの物語で埋め尽くされた。
かつての3年がそうであったように、かつての6年がそうであったように。
制服に着替えることはもうない。
朝の僅かなひとときを大切な存在と過ごすことも、ない。
明日も面倒だとかボヤきながら帰り道を一緒に帰りたい。
数少ない親友の声がもう一度聞きたい。
馬鹿やって笑いあえた日々は続くと思っていた。
何もかもが明日も終わらない日常の一頁だと思っていた。
明日は何処にある。
もうこれまでの、レールには立っていない。
あの日々の延長線上に俺たちはもういない。
だから、もう否定はしないと決めた。
明日も知らぬ道を歩いて行くんだ。
何度だって打ちひしがれることがあるだろう。
ひとたび他者との距離を思い知らされることもあるだろう。
幾度となく自分を失いかけるだろう。
それでも、諦めないと決めた。
かつてあった何物にも比べることができない最高の時間と、これからも忘れることのできない最高の親友と、この世で最も愛する唯一の存在がいる限り、俺は自分を信じて歩みだせる。
なぜなら、
その全てが、俺たちの生きる証だから。

汐が満ちてきた。
青き春の序章は過ぎ去り、今、物語はそのハイライトを目指して進んでいる。
2人の老夫婦がベンチに腰掛けていた。
毎晩見かけるその姿は、今日も星空を眺めるために、いるのだろうか。
何を、あの2人は眺めていたのだろう。
何が見えていたのだろう。
俺たちにはまだ見えないのかもしれない。
けれど、いつか見つけてやろう。
そんな事を願いながら、
何もない空に輝くマジックアワーを見上げていた。
太陽は沈み切っていながら、まだ辺りが残光に照らされている。
1日で最も美しい瞬間だ。
その瞬間を見落とさないように、ただ黙っては眺め続けていた。
明日を、あの存在を、自分を、信じて。

渚ロード

渚ロード

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-04-15

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