弥勒の日

弥勒の日

SF小説マニアが喜びそうなSFショートストーリーです。
どの程度、この内容を理解して「ニヤリ」と出来るでしょう?
古典的なSFのストーリーをご存じの方には、面白いお話に仕上がっていると思っています。

「えーと。ここいら辺に有ったはずなんだけどな。」
「来た来た。みっちゃん、待ってたんだよ。」
「なんだ、しっちゃん。居たんだ。」
「今頃こんな所に来て、探し物?」
「この辺に太陽系が無かった?五十六億七千万年前に来るって約束したんだけどな。」
「なに言ってんだよ。あの太陽は七億年くらい前に燃え尽きちゃったよ。」
「ええっ!そうか、主系列星だもんね。寿命は百億年くらいか。あの頃がちょうど真ん中くらいだったもんね。」
「何でそんなに長い先の約束しちゃったの?」
「ちょっと見栄を張ってね。567って数字の並びが良かったから、五億六千七百万年って言ったつもりだったのが、一桁間違えちゃったんだよ。」
「やっぱりね。そんな事だと思ったんだ。」
「それより、何でこんなところに居るの?」
「みっちゃんが来ないからだよ。終末の頃になっても、まだ君を待ってた人類も居たんだからね。僕も助けを求められて、来ないわけにはいかなかったんだよ。」
「そうか。それで無事に引導は渡せたの?」
「それが出来なかったから、こうしてまだここで迷ってるんだ。」

 釈迦如来と弥勒菩薩が、燃え尽きて縮んでしまった太陽の脇の宇宙空間で話をしてる。
「君が全員まとめて、巧く導いてくれれば楽だったのに。けっこういろんな分化をして、まだここら辺りに生息してるんだよ。」
「ごめん、ごめん。まさかそんな事になってるとは思ってなかったからさ。」
「まあ、あせりだしたのは最後の三億年くらいだから、あんまり複雑な分化はしてないんだけどね。」
「そうか。なんだか空間が薄く濁ってるようだけど、これもそのせいかな。」
「そうだよ。あれも出ちゃったからね。」
「なんだ。やっぱり出ちゃったのか。クラーク種でしょう。」
「そうそう。けっこう正統派のやつだよ。」
 釈迦が肩をすくめる身振りをして話す。

「最初は恒星間を渡って移住する、ごくノーマルなやつだったんだ。リングワールドとか造ったり、ダイソンスフィアに挑戦したりしてたんだ。お決まりの長命化もやったりね。」
「ああ、ニーヴン種だね。」
「その後はシモンズ種の第二パターンだね。」
「って言うと、真空対応種かな。イグドラジルとかの植物と共生するんだっけ。」
「そうそう。それは結構広がったよ。環境対応力は強いからね。銀河のほぼ全域に出たんじゃないかな。」
「で、最後がクラーク種なんだね。」
「アジモフ亜種かと思ったけどね。一種だけの意識統合だから正統派クラーク種だろう。オーバーマインドだよ。」
「良かったよ。星全体の統合意識なんかだと始末に負えないからね。」
「三種だけなの?シモンズ種第一パターンは出なかったんだ。」
「時空間共鳴意識に進化するのは珍しい例だからね。」
「そうか。でも三種の割にはかなり空間が淀んでるよ。」
「そうなんだよ。それぞれが自分の出自を忘れて、お互いのテリトリーを侵略したり、こっそり憑依したりして、ごちゃごちゃしてるんだ。」
「根っこの割に、はびこっちゃったんだね。」
「どうしようかな。こんなに広がったオーバーマインドって厄介だよ。」
「そうだね。あいつらレベルは低いくせに勢力だけは有るから、駆除するには大変だよね。だいたい生意気なんだよ。自分の出自も忘れて、僕らと対等なつもりで大きな顔をしたがるんだから。」

「出自の話は止めようよ。僕の事を『しっちゃん』って呼ぶんだって、悉達多から取ったんでしょう。」
そう言うとちょっと拗ねた振りをする。
「いや、君の場合はこちらの仲間から、向こうに派遣されただけじゃないか。きりちゃんと同じでしょう。」
「まあね。そういえばきりちゃんは、最近さぼってばっかりだよね。」
「あいつは、自分で育成してるやつに夢中らしいよ。」
「何か面白い種でもゲットしたのかな。」
「水中種と飛翔種の共生らしいよ。空を飛んで見せても驚かないんだって言ってた。」
「マキャフリーパターンかな。まあ、そのうち飽きるんだろうけどな。」
「きりちゃんの話はいいんだ。それよりこのオーバーマインド、巧く剥がせるかな。」
「やだな。こんなの相手の空間掃除は。」
「面倒だからリセットしちゃう?」
「良いけどね。後でリセットさんが出てきてお説教を聴かされるからな。」
「釈迦に説教が出来る、唯一の人だもんね。」
「じゃあ。あの手を使うかな。」
「あの手って?別のフィールドを作るの?」
「うん。手伝ってくれるよね?」
「でも、あれやるとな。きりちゃんに『まねっこした!』って言われるよ。」
「いいんだよ。別にきりちゃんの専売特許じゃないんだし。だいたい最初のだって、きりちゃんがやったわけじゃ無いじゃん。」
「そうか。そうだよね。じゃ、やっちゃおうか。」
そんな会話の後で、釈迦如来と弥勒菩薩いたずらっぽく笑って見つめあった。そして意識を統一し、声を合わせて叫んだのだった。
「光あれ!」
            了

弥勒の日

解説するにはSFの名作を何作も語らなければならないでしょうね。

ラリーニーヴンの「リングワールド」とか
アジモフの「ファウンデーション」(しかも初期三部作じゃなくて後期のやつ)とか
クラークの「幼年期の終わり」とか
ダン・シモンズやらアン・マキャフリーやらいろんな作家のいろんな事について
語り始めると、この作品の何倍もの長さになってしまいそうです。

基本的には光瀬龍の「百億の昼と千億の夜」のようなイメージかな
漫画にした萩尾望都さんの作も大好きでした

そんなSFフリークの想いの詰まった作です

まあ、アイデア一発の小品ですから、どこかに同じようなアイデアの
ストーリーが有るかも知れませんが・・・

弥勒の日

太陽系の燃え尽きた後に残されたものは・・・? SF小説マニアが喜びそうなショートストーリーです。 どの程度、この内容を理解して「ニヤリ」と出来るでしょう? 古典的なSFのストーリーをご存じの方には、面白いお話に仕上がっていると思っています。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-01-22

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