艦隊詩~テオゴニア~《艦隊これくしょん》
主な人物紹介
<日本海軍>
八雲羽立(やくもうりゅう)(20)・・・本作の主人公。戦争で命を落としたはずが世界を転移してしまい、その後呉軍港において常盤世羅に気に入られ、八雲の要望もあって呉海軍の副官として働くこととなる。
常盤世羅(ときわせら)(中将)(20)・・・呉海軍港の最高責任者および提督。羽立曰く友人の女性に姿も声もそっくりな女性。
敷島海翔(しきしまかいと)(大将)(35)・・・横須賀軍港の最高責任者および提督。羽立がこの世界の人間ではないことをいち早く察知した人物であり、彼を保護する手助けをしてくれる。
Pt,1ー幽冥ー
── Ἄνδρα μοι ἔννεπε, Μοῦσα, πολύτροπον, ὃς μάλα πολλὰ ──
「生きてる…?」
日照りに熱せられている、それを不快に思った。
あくまでも感覚は死んでいない、記憶や知識にも、自覚できるような重い没落感はなかった。
驚くことに体は完全な状態だった。詳しく覚えてはいたわけではないが、もはや立つことも、歩くことも出来ない状態のはずだった。
彼に今わかることは、日光の眩しさと日照りの熱の暖かさ、風の涼しさと柔らかさ、そしてそれがとても懐かしいということだけだった。
薄い眠りの中で、幽かに何者かの声が聞こえた。
まだ幼い少女の不安げな声と体を揺さぶる感覚、羽立は言われるがままにその動きに身を預けることにした。
「とてもびっくりしたのです。電が工廠から歩いていると、男の人が倒れているんですから」
小さな体に支えこまれながらも、痛む体を長い時間をかけて起き上がらせる。
体を立たせると、徐々に鼻が海の匂いで満ちてくる。
水線上から突き抜ける積乱雲は猛々しく、青空は穢れのない色彩を広げていた。
彼自身、晴れた空に出会うのは久しいことだった。
向かい風に包まれて、彼はよろける。
「…?」
傍らの小さな少女は、羽立の体に手を当て、顔を覗き込んでいた。
羽立は海に目を奪われながら、足を引きずるようにしてゆっくりと歩き始めた。
感覚に少しずつ余裕が生まれると、視線を陸へと移していく。
海に対するように並ぶ建物の群れ。そこから不規則に突き出た煙突からは黒煙を吐き出している。
その奥には多くの立体的な道路が続き、その後ろには高い丘と山が連なっていた。
車が走り、工場から出る黒煙は少なくとも死国に流れ着いた訳ではないことを、彼に教えていた。
「知らない風景…」
羽立はゆっくりと歩みを進めていく。
彼にとって、もはやこの状況を整理することは不可能に等しかった。
頭の中が混乱し、歩みが遅くなると、次第に目線は地面に移った。
ふとそこで、身近な疑問に目を移す。いなづまと名乗る彼女は何者だろうかということだった。
この最中も彼は、長いこと倒れていたせいか心身共に重苦しく、頭痛に殴打されていた。
「ところで失礼なのですが、お名前はなんなのです?」
「八雲…羽立」
「八雲さんなのですね。私は第二艦隊第六駆逐隊所属、暁型駆逐艦四番艦の電なのです」
自己紹介を受けた羽立だが、尚更頭が痛くなるばかりだった。
考えるも埒が明かなかったが、少なくとも彼女は快く丁寧に羽立に対して答えた。
羽立はそれを見て大いに困り果てたが、情報の収穫はあった。
呉というにはここは広島県ということとなる。そして先ほど工廠と聞いたことから、ここは造船所か何かだと考えられた。
彼女はついてきてくださいと言い、先導して歩いていく。すると、立ち並ぶ煉瓦造りの倉庫の合間から海がみえた。そして、目の前には巨大な桟橋が海岸に並び、軍艦と思しき船が見えた。
「ここは港なのか?」
「はい、呉海軍港なのです」
彼が知る日本に海軍は存在しない、正確には海上自衛隊という国家公務員で形成された国防組織は存在したが、それを海軍と言うことはなかった。
「今海軍と言ったな?ここは日本なのか?」
「え…?は、はいなのです。正真正銘ニッポンなのです」
「海上自衛隊ではないのか?」
「違うのです、自衛隊さんもいますけど、この場所は...」
──どういうことだ?
自衛隊も存在すれば海軍も存在する。海上自衛隊を海軍と言う人もごく一部見たことはあったが、今回は解釈の仕方など関係なかった。
羽立は立ち止まって考えた。再び周りを見る。
前方の戦艦桟橋に停まっている巨大な姿。それは紛れもなく、戦艦と呼ばれるものだった。
羽立はその新鮮かつ古風な船舶の正体が戦艦長門だと気づくのに数十秒かかった後、電に焦りながら確認する。
「君は電と言ったな?」
「な、なのです?」
「本当に駆逐艦なのか?」
「は、はいなのです」
「特Ⅲ型と呼ばれたことは今までにあるか?」
「私たち四人はそう呼ばれていたのです」
「…」
「……!今の西暦、日付は?」
電の肩を揺らしながら必死になって聞き求めた。
「に、2020年の、6月13日なのです……」
羽立のなかである予想が確信となった。
焦りの中で必死に考えるも、頭痛と何とも言えない疲労に阻害されてしまう。
「だ、大丈夫なのです?顔色もよくないのです!」
放心状態の羽立を電がひっぱり、戦艦桟橋を通りすぎる。
長門で出来た日陰を通った時、それを思わず見上げた。
それは堂々たる威風を放つ戦艦らしいオーラをみせており、羽立自身を歓迎するかのような穏やかさ、そして厳しさを放っていた。
その艦橋が太陽を貫いているように見えた時、ふと誰かが艦橋にいた気がした。
どれほどつれて行かれたのか、羽立は灰色の建物へと案内されていた。
電は羽立を心配する声を何回もかけ、言葉を探していたが、羽立が反応しないので慌てていた。
そして、一つの面会室のような机を挟み、ソファがおかれている部屋へ案内された。
ここにお座りくださいなのです。と、電がソファへ羽立を座らせ、大きく息を吐いた。
「横になりますなのです?お怪我はないみたいですが、顔色が良くないのです」
「いや、大丈夫だよ、わざわざありがとう」
「なのです、それでは、司令官さんを呼んできますね。ここで休んでいてくださいなのです」
そう言うと電は、一礼して、扉を閉めた。
彼は途方に暮れていた。
まるで映画のような展開が起きている。
打開策、というよりも現状を再確認し、理由を考える。
とはいえ理由など分からない。調べようと思っても、今はどうにもならなかった。
長い深呼吸をし、目を開ける。
重い体を動かし、立つ。部屋を見回し、窓に近づいた。
応接室のような取調室のような、そんな部屋の窓からは海が見える。
窓を開け、風を入れると波の音がする。
静かに岸へ水を運んでは奪っていく、その音はどの世界で聞いても心地よかった。
「失礼しますなのです」
扉が数回叩かれ、ドアが開けられると電が入ってきた。
「司令官さん、今はお出かけ中みたいなので、どうぞゆっくりしていてください。」
どうやら呉の司令官とやらが、今は不在らしい。
「お体のほうは大丈夫ですか?」
「ああ...少し軽くなったみたいだ、ありがとう」
「そうなのですか、よかったです」
電はにこっと笑うと今お茶を淹れてきますね、と言って再び部屋から出て行った。
窓辺から離れ、さっき座っていたソファの後ろに扉があった。
その扉はドアノブを捻っても開くことはなかった。
うろうろしても仕方がなかったが、どうも落ち着かない。理由は分かっているが、軍の施設に保護されている身分では派手には動けなかった。
あの、電という兵士かどうかも分からない少女は快く接してくれてはいるが、先の見えないことゆえに、大人しくすることにした。
再びソファに座り、考える。
夢とも現実とも言えない感覚...そう考えると自分自身が遠くなる。
単なる現実的な夢ならばまだいいが、これは悪趣味だ。
この国に海軍が存在している...この時点で自分の知っている世界ではない。
挙句の果てには軍施設の中に、自分を駆逐艦と名乗る少女までいる。
考えは推測としてまとまることはなかった。
しばらくすると、電がお盆に湯呑を乗せ戻ってきた。
「どうぞ、ほうじ茶なのです」
テーブルにおかれた湯呑から湯気が立ち昇っていた。
手に取ると、程よく熱い。
少し啜り、飲み込むと、喉を流れていく感触が分かる。
どうやら、体が冷えていたようだ。
「やはり、間違いないか」
「どうしたのです?」
「...いや、なんでもないさ」
気掛かりが消えないままでいる電も、そのまま向かいのソファへ座る。
自分の隣にお盆を置き、スカートを両手で整えると溜息をついた。
「電と言ったな?君はなぜこのようなところにいるんだ?」
羽立には至極真っ当な問いかけだったはずが、電にとってはとても返答に困るものだった。
「...電は、駆逐艦なのです。ここを守るのが今の任務なのです」
「その自分を駆逐艦だと君が言うのもよくわからないのだが...本当なのか?」
「そうなのです、先ほども言いましたが―――」
「頼む、少し質問に答えてくれ」
電はこっちを見てはいたが、その瞳はこれから自分がいう質問を分かっているかのようなもの写しだった。
「生まれは1932年のいつだ?」
我ながら気狂いな質問をしたものだと思いながらも、羽立は質問を曲げなかった。そしてその返答は迷いなく返ってきた。
「11月15日なのです」
「君は駆逐艦だというが、一体どういうことなんだ?」
「電たちは...呼ばれたのです、深海棲艦から海を守るために」
「深海棲艦...それはなんだ?」
「人類の敵、なのです」
羽立は若干の後悔を覚えた、少しでも前進できる話をつかめるかと思っていたものの、ただ話を深く掘ってしまっただけだったのだ。
しかしあくまでも、彼の中ではこの話を飲み込まなくてはならなかった。
「呼ばれたというのはどういうことなんだ?」
「電も、よく覚えていないのです。でも、確かに電たちは誰かに呼ばれて目が覚めたのです」
「いったい誰に…?」
羽立の踏み込みは大きかった。
「それは…」
「答えにくかったか…、悪かった」
「ありがとう、なのです」
部屋の扉が勢いよく開き、一人のこれまた少女が腕組みをして入ってきた。
「どこの誰だか知らないけど、うちの妹に何を聞くつもりなのかしら!」
「お、お姉ちゃん、電は大丈夫なのです、この人は悪くないのです」
「ん?お姉ちゃん?」
海軍帽をかぶった少女はこちらをじっと睨んでいるが、それには迫力も何もなかった。
その海軍帽にキラリと光るバッジを見つけ、なるほどな、と羽立は思った。
それはローマ数字の「Ⅲ」、つまり特Ⅲ型駆逐艦のことを示しているのだろう、と羽立は推測した。
と、扉の方から新たに2人おなじような格好をした少女が入ってきた。
「ほーんとデリカシーないわね」
「…」
「もう、電は大丈夫なのです!」
「電...特Ⅲ型が集合したと捉えていいのか...?」
「あ、はいなのです」
「右から順番に、暁お姉ちゃん、響お姉ちゃん、それに雷お姉ちゃんなのです!」
羽立は深く考えることをやめたために世界に馴染みやすくなったのを実感した。
Pt,2ー思考停止ー
彼は途方に暮れていた。
まるで映画のような展開が起きている。
打開策、というよりも現状を再確認し、理由を考える。
とはいえ理由など分からない。調べようと思っても、今はどうにもできなかった。
長い深呼吸をし、目を開ける。
重い体を動かし、立つ。部屋を見回し、窓に近づいた。
応接室のような取調室のような、そんな部屋の窓からは海が見える。
窓を開け、風を入れると波の音がする。
静かに岸へ水を運んでは奪っていく、その音はどの世界で聞いても心地よかった。
「失礼しますなのです」
扉が数回叩かれ、ドアが開けられると電が入ってきた。
「司令官さん、今はお出かけ中みたいなので、どうぞゆっくりしていてください。」
どうやら呉の司令が今はいないらしい。
「お体のほうは大丈夫ですか?」
「ああ...少し頭も軽くなったみたいだ...ありがとう」
「そうなのですか、よかったです」
電はにこっと笑うと今お茶を淹れてきますね、と言って再び部屋から出て行った。
窓辺から離れ、さっき座っていたソファの後ろに扉があった。
その扉はドアノブを捻って開くことはなかった。
うろうろしても仕方がなかったが、どうも落ち着かない。理由は分かっているが、軍の施設に保護されている身分では派手には動けなかった。
あの、電という兵士かどうかも分からない少女は快く接してくれてはいるが、先の見えないことゆえに、大人しくすることにした。
再びソファに座り、考える。
夢とも現実とも言えない感覚...そう考えると自分自身が遠くなる。
単なる現実的な夢ならばまだいいが、これは悪趣味だ。
この国に軍が存在している...この時点で自分の知っている世界ではない。
挙句の果てには軍施設の中に、自分を駆逐艦と名乗る少女までいる。
考えは推測としてまとまることはなかった。
しばらくすると、電がお盆に湯呑を乗せ戻ってきた。
「どうぞ、ほうじ茶なのです」
テーブルにおかれた湯呑から湯気が立ち昇っていた。
手に取ると、程よく熱い。
少し啜り、飲み込むと、喉を流れていく感触が分かる。
どうやら、体が冷えていたようだ。
「やはり、間違いないか」
「どうしたのです?」
「いや、なんでもないさ」
?マークが消えないままでいる電も、そのまま向かいのソファへ座る。
自分の隣にお盆を置き、スカートを両手で整えると溜息をついた。
「電と言ったな?君はなぜこのようなところにいるんだ?」
羽立には至極真っ当な問いかけだったはずが、電にとってはとても返答に困るものだった。
「...電は、駆逐艦なのです。ここを守るのが今の任務なのです」
「その自分を駆逐艦だと君が言うのもよくわからないのだが...本当なのか?」
「そうなのです、先ほども言いましたが―――」
「なら・・・少し質問に答えてくれ」
電はこっちを見てはいたがその瞳は、これから自分がいう質問を分かっているかのようなもの写しだった。
「生まれは1932年のいつだ?」
「11月15日なのです」
「お前のいる第六駆逐隊の編入されたのはどこだ?」
「第一艦隊第一水雷戦隊です」
「第六駆逐隊は全部で何隻いる?」
「4隻なのです」
「特Ⅲ型を建造された順に言ってみろ」
「暁、響、雷、電なのです」
「...エクスターから救出した英兵の数は?」
「376人...なのです」
電の声が小さくなっていき、顔を伏せる。
羽立は焦って電の隣へと座った。
「疑いすぎたか、悪かった」
「ありがとう、なのです」
と、部屋の扉が勢いよく開き、一人のこれまた少女が腕組みをして入ってきた。
???「どこの誰だか知らないけど、男が女の子を泣かせるなんて最低ね!」
「お、お姉ちゃん、電は大丈夫なのです、この人は悪くないのです」
「ん?お姉ちゃん?」
海軍帽をかぶった少女はこちらをじっと睨んでいるが、それには迫力も何もなかった。
その海軍帽にキラリと光るバッジを見つけ、なるほどな、と羽立は思った。
それはローマ数字の「Ⅲ」、つまり特Ⅲ型駆逐艦のことを示しているのだろう、と羽立は推測した。
と、扉の方から新たに2人おなじような格好をした少女が入ってきた。
???「ほーんとデリカシーないわね」
???「・・・」
「もう、電は大丈夫なのです!」
「電...特Ⅲ型が集合したと捉えていいのか...?」
「あ、はいなのです」
「右から順番に、暁お姉ちゃん、響お姉ちゃん、それに雷お姉ちゃんなのです!」
羽立は深く考えることをやめたために世界に馴染みやすくなったのを実感した。
第三射 ー瞳から見えるものー
目の前に立ち並ぶ3隻の少女は、羽立をじっと睨んだ。
「あんた、いったい何のつもりでうちの妹にあんな質問したのよ」
暁は強い口調で羽立に問いかけた。
「君たちが何者なのか確かめたかっただけさ」
大げさに両手をあげて見せながら言う。すると更に暁は問いかけてきた。
「あんた、まさか私たちが何者なのか知らないっていうの?ここにいながらよくそんな嘘つけるわね!」
「待って姉さん、この人、ここじゃ見かけない顔だよ。部外者かもしれない」
響がそういうと暁は右腕の銃、というよりは砲塔のようなものをこちらの顔面に向けてきた。
なおさらこちらが怪しまれてしまったことは言うまでもなく、敵意が増している気がした。
「あんた、いったい何者?」
「そうだな、俺はおそらくここの人間ではない。それはここだけの問題ではなく、自分がなぜここにいるのかも分からない」
全員わけがわからないというような顔をしていた。ただただ、羽立は対立している暁の目を見続けた。
と、そこに電が間に入る。
「お姉ちゃん、落ち着いてください。この人は悪い人じゃないのです」
「じゃあ一体なんなのよこいつは。訳の分からない質問に訳の分からない自己紹介したり!」
「この人は、工廠側の端で倒れていたのです。よく電も分からないですが、この人は嘘ついてないのです。」
電の必死の制止で暁も武器をおろし、困った顔をした。
後ろの2人も顔を見合わせ、話し合っている。
まあ、自分も状況の掴めない今、これ以上の身分紹介は出来ない。誰もがどうしようもない状況に戸惑った。
「...なんなのよ一体。で、なんでうちの港の、しかも港内で倒れてたの?」
―そう言われてもな。どうしよう。
そこについては自分も分からない羽立は何とも言えず、頭を痛めた。
羽立にとっての問題は、港の港内になぜ倒れていたかよりなぜ自分は生きているのか、なぜ傷一つなく体もちぎれていないのか、の時点の問題だった。
そのだいぶ後に来るのが港に倒れていたということだった。
「...すまんが、俺もそれは分からない。ただ、俺は確実に死んだはずの人間だというのは確かだ」
「ますます分からないわ。頭のどこかでも打ったんじゃないの?」
「もしそうなら、まだましだ。」
そう言った時、響が前へ出てきて口を開いた。
「あなたは、私たちを知らないそうだな。本当なのか?」
「ああ、電に会った時に初めて知った」
しばらく響は黙り、再び問いだした。
「艦娘を知らないなら、深海棲艦も知らないのかな?」
「ん?なんだ、それは」
それをきいた響は少し驚いた顔をしたが、すぐにクールな顔に戻り暁の方を向いて言った。
「姉さん、少し彼と話をさせてくれ。多分、私たちを知らないのは本当だだと思うよ」
「なんでそう言い切れるのよ」
「言い切ってはいないよ、あくまでまだ分からないから冷静に話した方がいいと思うんだ」
「...分かったわよ」
まだなにか言いたげな暁はその場から引き下がった。
響は一息ついて羽立に向き直ると、ソファに深く座りこみ言った。
羽立も溜息をつくと、窓から見える海を再び眺めた。
「君には何かありそうだね、私と話してくれないか」
不意な響のその問いを羽立は拒否した。
「...なにが君の興味を引いたのか知らないが。何も話すことなんてない、これまでに言ったとおりだ」
「いや、私はここに来る前のことをはなしてほしいんだ。」
「...なんだと?」
羽立は響の方を振り返り、鋭い視線向けた。
「ここに来る前のことだよ」
「...話してなんになる。」
[...話してくれないと、君を捕えるかまた別の方法で処分することになるかもね」
響は残してあったお茶を啜りながらさらっと言った。
羽立は響をこれまでになく鋭い視線で睨みつけた。
羽立は脅しをかけられていることより、自分に何があったのか聞いてくる事に戸惑っていた。
この状況下でさらに自分の最悪な過去をきいてくることに腹を立てた。
「...ふっ、興味がないな。殺すなりしろ。むしろそうしてくれ、夢が覚めるかもしれない。」
「私は本気だよ?」
そういうと自分の砲塔をお茶をすすりながら向けてきた。
羽立はふっと笑い響に近づくとその砲塔を自分の胸に当てさせた。
「本気か...軍人ならその言葉、成し遂げろ」
羽立の言葉が鋭くなり、その場が凍りつく。
電が止めようとしてきたが、羽立の向けた視線に立ち止まってしまった。
響も砲塔を下ろそうとせず、再び向き直った羽立をじっと見つめた。
「お前の目に、俺はどう映っているんだ?」
羽立は響に問いかけた。撃たれるかもしれないこんな時に恥ずかしいことを、と言った後に羽立は若干後悔した。
撃たれることに対して恐怖を感じなかった。もし本当にこれが悪い何かの幻かなにかなら、覚ましてほしかった。
「私の目には...」
響は湯呑を置き、立ち上がった。
羽立と合わせていた目をはずし、瞬きする。
「君が悲しみに満ちているように見えるよ」
「...そうか」
羽立は驚いた顔をし、うつむいた。
そのように言われてはなおさら自分に素直になってしまう。それが羽立にとっては邪魔だった。
「まあいい、早く撃て」
と、そういった時には響はすでに砲塔をおろし、ソファに座っていた。
悠然とお茶を飲みながら、響は言った。
「勘違いしないでほしい。私は軍人じゃないから、あきらめることもできるよ」
「...なるほど、自分を兵器だとでもいうのか。人の体をもちながらいうとは、滑稽だな」
その言葉に約三名から不快な目線を受けたが、響は動じなかった。
「さすがヴェールヌイとだけ言われることはあるな。お前は」
「どうして...私の二つ名を知っているんだい?」
「俺は兵器が好きでな。趣味や仕事のうちでも調べたりしていたものだよ」
「...ふーん」
羽立は響の向かいのソファに座ると、溜息をついた。
周りは今までの緊張感がまだ残っているようで、これまでのはなんだったのかという顔を皆、していた。
「話したくないことは山のようにあるんだ。もし俺の事を知りたいなら、質問に制限をさせてもらう。」
「ちょ、それじゃ何も聞けないかもし―――」
「はあ...分かったよ。じゃあ、聞いてもいいかな?」
響が暁を黙らせ仕方がない、というふうに言った。
「良いだろう」
こうして、響による尋問もとい質問が始まった。
第四射 -居ない筈の人間ー
第六駆逐隊四隻に事情を説明しないとならない羽目になってしまった羽立は、なんとかごまかそうと考えていた。
自分でも信じられないようなことを話したところで、どうにもならない。実感として残っているのは戦争の記憶、そして自分が死んだということ。
そして、元いた自分の世界と似て異なる世界がこの世界だということ。
死ぬ前については触れたくなかったため、自分が死んだはずだということをよく訴えた。
それでもある程度覚悟はしていた。
「それで、気が付いたらここの海岸に打ち上げられていた...そういうことか?」
「ああ、そのまま電に案内してもらったんだ」
「ふーん...」
しばらくの言葉の受け答えが終わり、一息ついた。
響は電が新しく淹れたお茶を啜りながら淡々と羽立の話を聞いていた。
暁は頭で考えるのを放棄したらしく、訳が分からないの連続である。
「お兄さんはどうして死んだの?」
「...俺のいた日本は戦争中でな、防衛戦の真っただ中だった」
「戦争か...」
響はつぶやくようにそういうと再び湯呑に口を付けた。
だが肝心の死ぬ前については聞いては来なかった。
―聞かれたときに拒んだからだろうか...。
電、雷はそれ以前のことについてを聞こうとするのをやめたらしく、暗い空気の中で話をしていた。
暁は考えるのをやめたらしく、只々窓から見える海を眺めていた。
言おうとしない自分がそうさせているところもあるが、ほぼ自分でも分からないことの方が多かった。
「それで?...まあ、少しは私も慎重に聞こう。どうして生きているのかも分からないきみは、今後どうしたい」
「どう...だと?当てのない質問だな。もはや答えられないそんなことは」
「このまま警察に引き渡したり、施設に入れることもできるんだけど...?」
この発言に響と雷以外が首をかしげた。響は少し自信ありげに微笑むと手足を組んだ。
その横で雷は呆れたように納得し、隣の電の耳元で話し始めた。
「だけど...?とっととそうしたらどうだ。お前らにも邪魔なお荷物になるんじゃないか?」
「ふふっ...まあいいや。...とりあえず、私たちの提督に会っていかないかい?もしかすると...うん」
「お前、俺に何を期待している」
「うん、楽しくなりそうだね」
響は大げさに笑顔を作った。
その時、電がはっとして部屋を出て行った。
目線だけを動かし流し見ると、羽立は響と対峙したまま同じように手足をくんだ。
「響、あなた私と同じこと考えてる?」
「多分、雷が考えていることと同じことを私は考えているだろうね」
「ん?ふふふ、そうね。やっぱりそうよね!」
「まったく...困った妹たちなんだからもう...」
電を除く姉妹三人は、皆共感しているように羽立の目には映った。
全くなんのことを考えているのかは分からず、再び痛み始めた側頭部を指で押した。
今の会話から共感が得られたのはどこだろうか。
彼女たちの提督、地方部長官はどのような人物なのかが気になり始めた。
と、その時電が部屋のドアを唐突に開けた。
「司令官が戻られました。えっと...さっそくですが、三階の長官室に案内いたします」
羽立は電に誘導され、部屋を出た。
そして東側の階段を案内されるがままに上り、三階に出ると、均等に大きな窓の並んだ赤い床の廊下に出る。
羽立の前を電が歩き、後ろからは残りの三姉妹がついて歩いてきた。
そして西側端の両側とも扉の付いた大きな部屋の前に到着した。
「ここなのです」
そういうと電が扉をノックして言った。
「電なのです、羽立さんをお連れしました」
「ありがとー、うん、はいってはいって」
中から聞こえたのは女の声。
女性の海軍士官なんて見当もつかない、羽立は深い呼吸を続けた。
電が扉を開けて羽立を室内へと誘導すると、羽立は躊躇いながらも室内へと足を踏み入れた。
ここで引き下がっても仕方がない、羽立はこれから会う軍人に対して立ち向かう気でいた。
室内は落ち着いた色で満ちていた。暖炉や棚があり、長机をはさんで長椅子二つが並んでいる。
その奥にはおそらくこの部屋の主であろう人物の机があった。
しかし椅子だけ後ろ向きになっている。その奥には大きな分厚い窓があり、そちらの向くような形で椅子がまわっていた。
羽立はさっきの声の主だろうと考え、その椅子を凝視した。
「司令官、連れてきたよ」
「そう、分かった、お疲れさま。さがっていて、私が話すわ」
背を向けたままの椅子からの声に四姉妹は退室していった。
がちゃんと扉が閉まり、羽立は部屋を見渡しながら無言を保った。
「いきなり呼び出してごめんなさい、でかけていたものだから」
「・・・あんたがその、司令官とやらか」
羽立が一息入れて応答すると椅子がこちらに向かって回転した。
向かい合う形となった状況で、羽立は椅子に座る相手の顔を見た途端に顔色を変えた。
驚愕のあまり足が震え、靴底を擦るように後ずさりする。
「どうして・・・お前が!」
羽立は椅子に腰かけているその人物をよく知っていた。
「こんな・・・こんなことがあるのか・・・」
羽立は若干の怒りも覚えた、しかしそれ以上に嬉しさと悲しみが込み上げてくる、そんな気がしていた。
「?どうかしたの?」
羽立は自身の感情を抑えるので精一杯だったため、その勢いのままで首を横に振った。
不思議そうに見つめるその人物は、椅子から立ち上がると、羽立の前に歩み出て手袋を外した。
「常盤世羅よ、初めまして、迷える軍人さん」
羽立は目の前に差し出された彼女の手を握り返せなかった。ゆっくりと額の汗が頬をおりていく。
どこからが現実で、どこからが幻想なのだろうか、やはり頭で理解しきれてはいなかったことを改めて羽立は思い知った。
「そう怖がらなくてもいいのに...」
——その優しさ、笑顔、全てが今の俺を苦しめる、どうしてお前はここにいるんだ、あの時死んだはずなのに!
羽立は恐る恐る自分の右手を伸ばしたが、その手は世羅の左頬へと伸びていた。
「え、ちょ、なんなの?」
「り...さ........」
羽立の手は世羅の頬をゆっくりと撫でたが、それはまるで瀕死の人間のような力のない撫で方だった。
世羅は一歩後ずさったが、目の前の男の手はひどく震えていた。
今にも泣きだしそうな顔の男を世羅は放っておけなかったが、自分自身収集のつかないこの状況は世羅を困惑させた。
羽立は自分自身何かにとりつかれたかのように感じた。しかしこのままだと、頭の血管が切れてしまいそうだった。
「んもう、ねえ、君ちゃんと聞いてるかな?」
世羅は両手で優しく羽立の手を下すと、そのまま右手同士を無理やり握らせた。
「よろしくねって挨拶してるのに、いきなり顔を触ってくる人がいるかな?」
羽立はハッとしてすぐに右手をひっこめた。
「す、すまん、気が動転していたようだ」
はあ、と世羅は短い溜息をつくと再び手袋をはめ、身だしなみを整えた。
「まあ、なにやらいろいろあったみたいだし、すぐに話をするのも大変だと思うけど、どうやらほんとに重傷みたいだね」
世羅は椅子に深く座ると腕を組んで、目を閉じた。
羽立は無言のままだったが、何とかして話しかけたい、しかしそう思えばそう思うほどに言葉が詰まる。
そして、喉の奥まで出かかる言葉を何とかして外に出そうとした時だった。
アウウゥーーーーーーーーーーーン アウウゥーーーーーーーーーーーン
突然、港にサイレンが鳴り響いた。
第5射 ー拘束ー
サイレンが港内を騒がせた。
けたたましい騒音の中、執務室の大窓から見える港湾の奥には先ほどまで見てきた海軍の戦艦桟橋に停泊しているものよりシンプルで小型の船舶が覗いて見えた。
「あれは...おおすみ!」
羽立は奥に見える船舶が海上自衛隊の船だと思った。
電は海上自衛隊も存在すれば、海軍も存在するといっていたのを羽立は思い出した。相当距離があるとみられる、自衛隊輸送艦の群は、やはりそうに違いなかった。
「よくわかったね、そうあっちは海自の基地よ」
世羅は窓から離れ、机の引き出しを乱暴に引っ張りると中から白い紙を取り出し、ペンで乱暴に書き殴った。
一枚書き終わるとさらに一枚取り出し、また書き殴る。びっしりと文字が書かれた紙二枚を確認すると、世羅は海軍帽を手に向かい側の扉に走った。
羽立はそれを無言で見守っていたが、世羅が扉に走り出すと同時に制止した。
「おいおい待て!これはどういうことだ、何が起きている」
「あーそっか、説明がいるのよね..........ちょっと、ほんっとごめん、あとにして!」
世羅は困ったように頭を掻きながらうろうろすると、羽立の前で両手を合わせて頭を下げた。
羽立は喉の奥まで驚愕の声が出そうになったが、もはや言う必要がなかった。
「大丈夫よ、ここにいて、すぐに迎えをよこすわ」
そういうと、世羅は羽立を横目に笑顔で執務室を出て行った。
静まったはずの執務室は、外から聞こえてくるサイレン音をさらに引き立てた。
羽立は無言で再び部屋を見渡すと、くまなく探索した。執務室内にとくに目立った仕掛けなどはなく、単なる部屋だと理解した。
「今更毎度確認するのもバカらしくなってきたな」
暖炉に寄りかかって腕を組むと、羽立はしばらく目を瞑った。
「また、戦争か...」
サイレンはなり続け、何隻かの船舶が移動を開始したのが窓から確認できた。
埋め立てられた陸地を作業着を着た数人の隊員が走り回り、さらにその後ろを民間人がどんどんとついていく。
自衛隊が民間人を非難させていた。
行先はどこか、羽立はその民間人の列の先を追ったが、その先をこの部屋から見ることは出来なかった。
「シェルターでもあるのだろうか、だとしたら空襲でもあるというのか?」
羽立はこのサイレンが空襲警報なのかと考えた。
忌々しい記憶が思い出されていく。
羽立の経験上、あのサイレンを聞いてから非難した人間は必ず何人か死んでしまう。
偏見と分かってはいたが、羽立はそういう解釈をあえてしていた。
「戦争は死人が出て当たり前...か」
窓際から広く晴れている空を見上げたが、特に違和感はない。
もしもこの世界がそういう世界なら、B-29でもいないのか、そう思った。
または大陸からやってくる、さらに巨大なジェットエンジンを積んだあの爆撃機だろうか、もしくは戦闘爆撃機の類か。
見上げたまま溜息をつくと、肩の力を抜いた。
「期待した俺の間違いだな」
窓際を離れると、そう呟いた。
自分にとっての日常とは何なのか、羽立は答えを出せなかった。
しばらく経っただろうかと、羽立は室内にある掛け時計を見た。針が指す時刻は9時40分、微妙な時間だった。
そのすぐ右横の暖炉には温度計がおいてあり、最近見るには珍しいタイプのものだったが、しっかりと動いていた。
「6月で26度か、さすがだな」
北海道生まれの羽立にとってなれない気候だった。どうやら気分が悪いのはこの暑さも一因だった。
海鳥が騒ぎながら海の向こうへと飛んでいき、その海鳥の行く手を横切るように、民間船舶が入港してくる。
これからどうするのだろうか、この港で戦闘行為を行うのか、それとも外洋の出て戦うのか。
「航空戦力...」
もし相手が軍艦だとすればそれを考えねばどうにもならないと思っていたその時。
(ガチャン)
羽立は執務室の扉に目を向けた。扉が開くと、執務室に一人の女が入ってきた。
背が高く、長い黒髪を靡かせる女の服装は明らかにそこらの人間がするような服装ではなかった。
美人といえる容姿に間違いはなかったが、露出の多い服装にさらには特徴的なデザインのものが目立つ。
羽立は唖然としてその女の顔を見たが、女の表情は険しく、そして鋭く羽立を見ていた。
つかつかと羽立の前に歩いてきた女は、右手に持つ書類を見直し始めた。
「今度はなんだ...」
溜息をつくと、女の前で腕を組んだ。女は書類を見ながら無言で羽立に時々目をやる。書類は羽立に関する簡易的な報告書だった。
「貴様が八雲羽立で間違いないな?」
女は空気を崩さぬまま羽立に尋ねてきた。
「ああ、そうだ」
「これよりお前は呉軍港に侵入した罪人として、日本海軍中央戦術戦闘部隊副司令及び呉海軍管理局長である常盤世羅少将の監視下に置くことになった、いいな?」
羽立は罪人のワードの理不尽さに引っかかったが、致し方ないことだとただただ頷いた。
「本当なら尋問して検査拘置所へ閉じ込めるところだが、あいにく現在我々は急を迫られている。お前は私と同行しろ」
女は羽立を見張りながら行動するということを言いたいらしく、羽立もそれを察した。
「理解した。それで?出撃でもするのか、艦娘さんよ」
「艦娘と呼ぶな、一体何百人を指してそういうつもりだ」
「え、そんなに存在するのか?」
「あたりまえだろう、全世界に存在する」
「そうだったのか...」
どうやらこの不思議な存在について、話す規模を間違えていたらしい。羽立は内心非常に驚いた。
それでは行くぞ、と女が羽立を連れて執務室を出ようとした時だった。廊下の先からあわただしくこちらに向かって走ってくる足音が聞こえて二人は動きを止めた。
「あー、ほんとごめん長門、悪いんだけど私たちも随伴するわ。旅客船が一隻雷撃を受けたみたいなの、船体の破損が激しくて奴らも、乗員に手を出さないまま退却したみたいなんだけど、だいぶおっきい飛行編隊がこっちに向かってるらしいの」
「なるほど、さっきの警報はそれか...了解した、今現在動ける艦艇は5隻しかいないが、それで大丈夫なのか?」
「おそらく敵艦船は大丈夫だと思うけど、問題は航空機ねえ...飛行編隊を回避して敵空母を直接攻撃出来ないかな」
「それはまた大層な難題を...」
長門と世羅はそれぞれ無理という表情をしていた。
「艦隊そのものの損害を気にしていたら時間が過ぎるだけだ、問題は艦隊を動かす速さじゃあないのか?」
羽立の一言に二人は腕を組みながらうなずいた。悩んでいる暇はない、事実避難誘導は始まっており、航空部隊のみならば一刻もはやく出港してしまうほかない。
長門は比較的単純なことだと思ったが、それを見ず知らずの謎の男に指摘されたことが気に食わなかった。
「うん!ドッグに行ってレストア急がせてくるから多分1それで大丈夫だと思うよ、護衛艦艇がいるなら対空装備も安心だしね、私たちは対艦攻撃に集中しよ」
「了解した、中央指令室より招集をかけた後で甲板上で会おう」
「うん、じゃああとよろしくね、すぐに向かうから」
長門がうなずくと、世羅はあらぬ方向を見て腕を組んでいる羽立を横目でちらりと見やると、長門に苦笑しながら両手を合わせた。
長門も羽立を見やると、溜息をついて前髪を触った。
世羅がこげ茶の扉の向こうに消えると、長門はもう一度艦隊の状況を確認して深呼吸を済ませた。
「ん、話は終わったのか」
タイミングよく考え事をしていた羽立も顔を上げた。どうやら自分が、今後どういう状況におかれるのかを考えていたようだったが、長門の口から告げられたことは羽立の考えていたことの斜め上をいった。
「八雲羽立、貴様は未だここに拘束されている身だが、この状況下だ、放し飼いにして出撃するわけにもいかない」
羽立は簡易的な拘置施設とやらに入れられるのだろうと思い、言いたいことは分かっているというような涼しい顔で次の言葉を待った。
「お前はこれから私と同行しろ、貴様を我が艦に拘束し目に見える位置で監視を続ける。よってこれよりお前は私に乗艦するのだ、分かったな?」
「...はい?」
「二度も言わん、ついてこい」
長門は羽立の左手首をつかむと、強引に引っ張りながら部屋を出ようとした。
「いやいやいやちょ、うわっ!」
あまりの急さに困惑した羽立は手を振りほどこうにもほどけず、青年にしては非常に滑稽な姿で廊下を歩かされた。
「安心しろ、海に出てしまえば自由はきかなくなる、おまえの想像と何か違ったようだが、この世界にいる以上、この場所にいる以上、こちらのルールに従ってもらうぞ」
長門は若干の不安と自信をもって羽立に向かって微笑を浮かべていた。
第六射 -招集-
―司令執務室での面会より二分後ー
羽立の右手首と自らの左手首を繋いでいる手錠を気にかけながら、長門が世羅より手渡されたメモを見る。
「緊急招集!緊急出港招集!以下のものは直ちに乗艦せよ。繰り返す、以下のものは直ちに海上招集に応え、速やかに乗艦せよ———」
長門の声がスピーカーから飛び、招集命令が下される。中央指令室というのは名ばかりで、そこは大型の放送室のように見えた。
壁時計は10時30分を指していた。
羽立は眉間をおさえた。あまりにも気がかりになることが多すぎるのだった。
手近な記憶をたどれば、さきほど長門は現在出港できる艦艇は、5隻といっていたはずだった。
しかし、今の招集命令では長門を含め、全10隻の艦艇名、もとい名前が挙げられていた。聞き間違いではない、と羽立は繰り返した。
艦隊編成にも疑問がおよぶ。旧海軍の編成とは異なり、艦種を問わずに部隊を編成している。
羽立はこれらの情報の再確認に徹底した。そうすることで私情と生死の迷惑から少なからず目を逸らすことができた。
艦娘と呼ばれる彼女たちのような不思議な存在は世界中にいる。
ここで目覚めてから羽立は、まだ5人の艦娘と顔を合わせたのみだったが、世界中となるともはや話の規模は全世界に通用するようだった。
羽立は響たちが艦娘の存在を自分が知らないことに驚いていたことに、納得ができた。
独自の解釈をするにはまだ時間と情報が必要だ、羽立は時間がほしかった。
「…理不尽だ…うおっ!」
「何をぼーっとしている、来い」
手首を手錠に引っ張られ、つんのめるようにして羽立は歩き始めた。
「なぁ…もう少しゆっくり歩けないのか、手首が千切れそうなんだが」
「つべこべ言わずに従え、お前はあくまで部外者なのだ」
長門は美麗な腕を何も感じていないようにぐいっと引っ張る。
しかし羽立は手錠がさらに手首を痛め続けていた。手首がちぎれそうだ、というのもあながち冗談ではすまなさそうだ。
「っ、くそ」
中央指令室を出ると、長門は羽立を引っ張りながら屋外へと向かった。
階段を下り建物を出ると、そのまま車道としてあけられた通りを抜ける。
空からはジェット音が響いてくる。単機ではなく、複数の音。羽立はその音に聞き覚えがあった。
「戦闘機…?」
二人は先ほど電と歩いてきた方向へ向かうと真っすぐにあの、桟橋へと歩いていく。
日光が眩しく、歩くのもやっとのでも羽立は何とか空を見た。
15000フィートほどの空を確かに戦闘機が飛んでいる、機影は分かるが機種の判別はつかなかった。
「ジェット戦闘機が飛んでいるということは、やはり…」
あれが航空自衛隊の機体ならば、防空警戒で飛んでいるのには納得がいく。だがしかし、防空警戒で飛んだのならば、なぜもっと早く飛ばなかったのだろう。
羽立はあの戦闘機たちは、艦隊の動きを待っているのではないかと推測した。
「うわっ」
突然長門が腕を引っ張り、急いで視線を地上に落とした。再びつんのめった羽立は転びそうになった。
「仕方のない奴だ」
すると長門が手錠を外し、外した手錠を羽立の両手に付けなおした。
「仕方がない先導するのはここまでだ、お前が前を歩け」
気付けばすでに海岸に到着していた。先を見やると桟橋がコンクリートの岸から続き、その先には日光を浴びる巨大な艦体が見えた。
艦隊詩~テオゴニア~《艦隊これくしょん》
艦隊これくしょんというゲームを私もやり始め、元々好きだった軍事的なことにもう一度大きく興味を沸かせることができました。
この小説内には、ゲームにはまだ登場していない軍艦たちもでています。
ゲームしか知らない人も、リアルが好きな人も、どちらも好きという人も楽しんで頂けると幸いです。
分かりずらい、読みずらいなどの意見等またはアドバイスは常時受け付けています。コメントしていただけると幸いです。
設定上階級などは年齢とは比が合わないのですが、すいません。
また、他国のことを悪く言う気はありません。設定上でそのような文はありますが、どうか誤解なさらないでください。
まだ下手ながらも、どうか温かい目で見ていただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。