Total Death xor EXIST ON STATION itself
welcome my factory rest space
THE WILD BOYS' CHRISTMAS
ロンドン地下・聖夜の解体工事
第一巻 クリスマスは死体を包装する
ロンドンには雪が降らなかった。
降っていたのは、細かく砕かれた新聞紙と、証券取引所から漏れ出した白い粉塵と、王室御用達の玩具工場で焼却されたプラスチックの灰だった。オックスフォード・ストリートの電飾は巨大な歯列を形成し、観光客たちの頭蓋骨をクリスマス・カードのように照らしていた。
十二月二十四日。午後五時十三分。
地下鉄の改札口で、赤いサンタクロースが乗車券を食べていた。
「運賃は魂でお支払いください」
サンタクロースの口のなかには歯がなかった。代わりに小型のレジスターが埋め込まれていた。値段を入力するたびに、どこか遠い郊外で一人の老人が自分の名前を忘れた。
新青梅街道のスズメバチ棺桶くぐり。池袋のサンマルクカフェ。関内の黒いベンツ。河口湖に投げ込まれたキムチ。そうした記憶がロンドンの地下鉄構内に次々と出現し、路線図を内側から食い破っていく。
俺はヴィヴと待ち合わせていた。
ヴィヴは赤い軍服を着ていた。胸には小さな銀色の十字架。その裏面にはアラムート渓谷の地図が彫り込まれていた。彼はユダヤ教の古い祈祷書をポケットに突っ込み、イスラム教の暗殺団について書かれたパンフレットを靴底に貼り、プロテスタントの聖歌を鼻歌で歌っていた。
「クリスマスには何が必要だと思う?」
ヴィヴが訊いた。
「金だ」
「違う」
「食い物だ」
「違う」
「ポリグリップか」
ヴィヴは笑った。
「接着剤だよ。世界をもう一度、間違った順番で接着するための」
そのとき、地下鉄のトンネルからオルガンの音が響いてきた。
ロンドンのすべての時計が十三時を指した。
第二巻 玩具工場の反乱
玩具工場はテムズ川の地下にあった。
地上から見えるのは、クリスマス・プレゼントを運ぶトラックの列だけだった。だが地下では、何千人もの労働者が小型の戦闘機を組み立てていた。戦闘機は子供向けのプラモデルとして販売される予定だったが、コックピットには実際に操縦できる人間の脳が収まっていた。
工場長は茶色いリンカーンに乗っていた父親の顔をしていた。
「生産ラインを止めるな。クリスマスは年間最大の売上を記録する。サンタクロースは企業秘密だ。トナカイは外注。天使は派遣社員。聖母マリアは期間限定の広告モデル。神は株主総会の議長だ」
ライン作業が水の流れに変わる。
ベルトコンベヤーの上を、グラジオラスの花、壊れたゲーム機、ウルトラマンタロウ、三国志の古本、野村證券の冷たいコーヒー、誰かの古い入れ歯が流れていった。
作業員の一人が手を止めた。
「普通のことをすればいいんだろ?」
「そうだ」
「じゃあ、普通って誰が決めたんだ?」
工場長は回答できなかった。
回答できない者には赤い帽子が与えられた。赤い帽子をかぶった瞬間、その人間はクリスマスの広告塔となり、永遠に笑顔を維持する契約に署名したことになる。
その夜、玩具工場の壁に巨大な穴が開いた。
穴から現れたのは、野良犬の頭を持った機関車だった。
犬はフラメンコのリズムで吠え、機関車は新青梅街道の速度で走った。
ヴィヴは拳を上げた。
「少年たちよ。包装紙を剥がせ」
第三巻 野生少年団と死んだクリスマス
彼らはワイルド・ボーイズと呼ばれていた。
だが、彼らの年齢を尋ねることは無意味だった。ある者は十七歳で、ある者は八十二歳だった。ある者は母親の記憶だけでできており、ある者はパチスロの払い戻し音だけでできていた。全員が同じ黒いコートを着ていた。コートの裏地には、東京の鉄道路線図とブルガリア鉄道の時刻表が縫い込まれていた。
彼らは銃の代わりにタイプライターを持っていた。
彼らは爆弾の代わりに辞書を持っていた。
彼らは政府の建物に侵入し、会議室のテーブルに一円玉を並べた。北マケドニアの国境を模した線が床に引かれ、その線を越えた政治家は全員、透明なクリスマス・ツリーに変えられた。
「自由とは何だ?」
少年の一人が叫んだ。
「買い物袋を持たずに歩けることか?」
「違う!」
「借金を返せることか?」
「違う!」
「母親の作った朝食を、もう一度食べられることか?」
誰も答えなかった。
窓の外では雪が降り始めていた。
雪片は一枚ずつ小さな文字でできていた。文字は空中で結合し、やがて巨大な文章になった。
母は厳格なムスリムだった。
父は茶色いリンカーンに乗っていた。
朝には鮭を食べさせてくれた。
河口湖の水を飲め。
船がどこへ向かうか、奴らにはわかりゃしない。
文字の雪が降り積もるにつれ、少年たちは自分たちが何のために反乱を起こしたのか忘れていった。
ヴィヴは雪を一握りつかんだ。
「記憶を所有する者が、歴史を販売する」
彼は雪を口に入れた。
雪は血の味がした。
第四巻 聖夜の映画館
午前零時。
ピカデリー・サーカスの地下に、存在しない映画館が開館した。
入口には「本日限り、死後の人生を無料上映」と書かれていた。
スクリーンの前には古いオルガンが置かれていた。演奏者は顔のない老人だった。観客席には、ロンドンの浮浪者、失業者、金融街の億万長者、名前を忘れた移民、死んだ作家たちが並んでいた。
最前列には母が座っていた。
俺は母を見た。
母は三鷹のアパートで使っていた湯呑みを持っていた。湯呑みのなかには河口湖の水が入っていた。
「映画が始まるよ」
母は言った。
スクリーンに映し出されたのは、東京の道路だった。
新青梅街道。小金井街道。東八道路。どこまでも続く舗装路。道路の中央に死体が横たわり、その周囲をスズメバチが旋回していた。カメラは地下鉄の窓へ移動し、薬剤師の叔母が鮭を焼いている台所へ移動し、さらに玩具工場へ戻った。
そこではワイルド・ボーイズがクリスマス・プレゼントを解体していた。
箱を開ける。
中には箱が入っている。
箱を開ける。
中には小さな黒いテレビが入っている。
テレビをつける。
画面には自分自身が映っている。
自分はスクリーンを見つめている。
スクリーンの自分は、さらに別のスクリーンを見つめている。
映像は無限に続いていた。
「これがセキュリティーホールだ」
ヴィヴが囁いた。
「世界が自分自身を監視するために開けた穴だ。穴の向こうには神も政府もいない。ただ、次の映像を再生するためのボタンがある」
彼はボタンを押した。
映画館が消えた。
ロンドンの街路が消えた。
クリスマス・ツリーの電飾が、一本ずつ暗くなっていった。
最終巻 クリスマスキャロル、あるいは接着剤の王国
夜明け。
テムズ川の水面に、無数の小さなプラモデルが浮かんでいた。
袋になり、
自由は冷めたポテトの塩に変わった。
平等は誰かの皿から盗まれ、
友愛は鶏ガラスープレンズ越しに牛乳を眺めていた。
白い海の底で、クリスマスの星が腐っていた。
おお、十二月!
おまえの銀色の角を食いちぎる鶏たちよ、
ケンタッキーの油に濡れた指で
パリの革命をもう一度、ひっくり返せ。
バスティーユは紙の湯気となって
泣いている男の眼鏡を曇らせた。
わざと泣いたのだ、と彼は言った。
母親のいない食卓に
玉ねぎなど入っていなかったのに。
クアラルンプールまで一人旅。
頭蓋骨のなかでは、飛行機が逆さに飛び、
機内食の小さなパンが
世界革命の最後の月となる。
私は一人称だ。
私は私を発射する。
私は私の内部で爆発する。
――一人称のガンマ線!
クリスマスツリーの電飾を透過し、
眠る子供の夢を透過し、
国境で没収された思想の鞄を透過して、
神の白い髭に黒い斑点を残す。
高尾駅では、サングラスのトロツキストが
雪の降らない冬を要求していた。
レーガンは暖房のスイッチを握り、
サッチャーは煙突に鍵をかけた。
誰もが寒冷気候を選んだ。
誰もが自分の凍死を
自由市場に委託した。
おお、クリスマス!
おまえの靴下には何が入っている?
鰊とスターリン体制と昔のバイクマガジン抱えて/原稿用紙と引き換えにダイエーで万引き/羊飼いが湯河原町を「知恵おくれ」風の時を待つサラダ/フルシチョフの集団催眠夜更けのゴマチョップ/空気銃による清掃作業にがめつく汐留シティセンター/彼はまだ蔵屋敷に存在の半分を透明化している/きっと検査キットにうさぎの糞を下り坂/亜麻布一つ取っても土方に勝てないだろ?/速足のセバスティアヌスがさまざまな都市、村まで/改宗者の神が妊娠耐腐食性神経症収用/Moon God Universe exit.../
切り取られた国旗。
値札のついた天使。
片目を失くした赤い星。
それから、誰にも読まれなかった
革命家の手紙が一通。
私はその手紙を燃やさない。
私はその手紙を食べる。
紙の繊維が舌に刺さり、
インクが血液のなかで黒い雪になる。
捌かれる者が、また捌く。
捌く者が、また捌かれる。
クリスマスの肉屋で
神と悪魔が同じエプロンを着ている。
そうね、あなたはシャイな鯨の合戦ね。
鯨たちは海の底で鐘を鳴らす。
鐘の音は雪となって降り、
海水は聖水となり、
聖水はガンマ線となり、
ガンマ線は誰かの
まだ生まれていない一人称となる。
夜空を裂いて、星が落ちた。
それは救世主ではなかった。
それは革命でもなかった。
ただの牛乳だった。
レンズ越しに眺めた、
ひどく冷たい牛乳だった。
私はそれを飲み干した。
そして、白い口ひげをつけたまま
世界に向かって言った。
メリー・クリスマス。
私はまだ、私を明け渡していない。
少年たちは川岸に集まり、何も語らずにそれらを見つめていた。誰かが持っていたラジオから、古いロックンロールが流れていた。誰かがフライドポテトを食べていた。誰かが母親の名前を呼んでいた。
ヴィヴは入れ歯を取り出した。
ポリグリップの白い筋が、朝の光を反射していた。
「これで世界を修理できると思うか?」
俺は首を振った。
「世界は壊れていない。最初からこういう形だったんだ」
ヴィヴは少し考え、それから入れ歯を川へ投げた。
その瞬間、テムズ川の水が巨大なオルガンに変わった。
水面が鍵盤となり、橋脚がパイプとなり、地下鉄の轟音が低音を奏でた。ロンドン中の教会が同時に鳴り始めた。クリスマスキャロル。葬送曲。工場の警報。レジスターの電子音。母親の怒号。パチスロの払い戻し音。タイプライターの連打。
あらゆる音が一つの曲に接着されていった。
ワイルド・ボーイズは街へ歩き出した。
彼らは王室を倒すためでも、神を殺すためでも、金持ちになるためでもなかった。
彼らはただ、包装紙のなかに閉じ込められた世界を外へ出そうとしていた。
ヴィヴが振り返った。
「出会いの予感?」
俺は笑った。
「いや。編集の失敗だ」
찾는 것은 뜻밖의 발견이다. 함정에 빠졌던 전날 밤, 그토록 쉽게 설명할 수 없는 와이퍼의 일격으로 의사의 아내를 가리키며 말했다. “어쩌면 교회 쪽 사람일지도 모릅니다. 경량이라고 표시되어 있습니다.” 아니! 내가 없는 동안 내 방이 이렇게 되어 있었다니! “어떻게?” “미쳤어.” 피고인을 마주쳤다.
공휴일. 1엔을 한턱냈더니 “돈을 좀 더 소중히 써!”라고 고함쳤다. 나는 허둥지둥 도망쳤다. 대륙의 등장인물들이 요구한 대략적인 사형을 모면했는가? “고통도 독주 악기로서는 잘 팔린다!” 포장도로가 따뜻해진다. 죽음이란 그런 것이 아니라고 말하면서, 그 자리에 대한 경멸을 품은 채 컵라면으로 끼니를 때운다. 오늘 밤의 법률.
ロンドンに雪が降った。
雪片は文字だった。
文字は道路になった。
道路は鉄道になった。
鉄道は母の台所になった。
そして台所のテーブルには、まだ開けられていないクリスマス・プレゼントが一つ残っていた。
箱には宛名がなかった。
包装紙の下から、オルガンの音が聞こえた。
クリスマスキャロルが流れる頃には、世界はすでに次の映画のなかにいた。
クリスマスに大量のゲロを新小岩で吐いた。アラムート渓谷の険阻な岩山上にも吐き散らした。ユダヤ教、イスラム教暗殺団、キリスト教プロテスタントを行き来したヴィヴ。
ポリグリップを買おう。クリスマスだから、ヴィヴとの食事で固い品物も出るだろう。金が無いから万引き。日暮れ。ポリグリップを上下の入れ歯に付けまくった。オルガンの音が鳴った。クリスマスキャロルが流れる頃には♪出版固有名資本豚餌院長育成戦争記憶針金破産中央階段頭痛神殿携帯漏洩慈悲豚肉自炊自殺柔術手数料狩場高速道路到着不能破産申請階級闘争商品券乳房排泄進行形便器未来形鰊二元論数弗上向無思想空白駐車場海岸線路境界警察暴力慈悲領収書名刺住所登録抹消出版返品名付親不在父親椅子固定院長権力横綱土俵全員点呼異端審問新聞配達原付排気音戦勝記念灰色歩道空襲小人排気煙戦争遺物都市崩壊生活苦貨幣返還労働無意味倉庫番受付代理人半導体製造装置支援企業支援企業支援企業草花無労働鹿住居建設報酬諸悪神不在神人間人工衛星建築物原形質化学式計算不能高度数学敗北記憶曖昧母親再生音声訂正不能水子空地駐車線停車命令無人空間母語残響エンジン不始動海岸到着不能旅券無効旅行拒否郊外海洋偽装三鷹駅南口牛丼屋旧青梅街道茶色自動車親父記憶母親記憶兄弟記憶家族崩落少年野球投手緩急三振歓声暴力監督脳天打撃勝利記憶欠落新聞紙白長方形地図配達経路迷走音楽雑誌電子音響切断変調反復騒音工場惑星土星転居届無効賃金欠落面接不採用残高僅少自動販売機夜間照明蛍光孤独空地駐車場海洋同一物質別名異名固有名詞汚染検索結果記憶装置故障暗号解読不能暗号成立不能意味発生以前意味消失以後言語監獄文字監視権力分類番号被収容者番号名刺製造機械人間製造機械社会復帰装置故障再起動不能反省文提出命令反省内容空欄署名拒否捺印拒否封筒開封不能郵便配達不能宛先不明差出人不明住所消失国家装置戦争装置資本装置宗教装置精神装置肉体装置排泄装置睡眠装置夢装置記憶装置破損破損破損空地駐車場海へ行く海ではない空白である空白ではない母親の声が停車している線路二本並走到着不能終点不在始発不在乗客不在駅員不在発車合図無音無限反復
オルガン?ヴィヴが呟いた。出会いの予感?
サルマン・ラシュディはまだ生きているもう電池が無くて対するバングラデシュのコンビニ店員のムスリムは険しい顔で悪魔の詩にはタブーがあると。
صرصور وردي
إذا كنت ذكيًّا
فدلّك الخرطوم الهيدروليكي
والناردس تدلّله بيديها
يا خنفساء وحيد القرن
إلى جوليانا طوكيو
لِنذهب مجددًا إلى ذلك البحر
شكرًا
هذا كل ما في الأمر
ما هو السواد المطلق؟
كانت المحاضرة خنزيرًا
في محطة غوتاندا
كان القضيب الإسفيني يمارس العنف
التقى الحرفان A وD
ارمِ مسحوق القمح بدلًا من الألماس
يقولون إن التنظيف يأتي قبل البلاتين
توقّف خط كيهين توهوكو عند محطة كامادا
أحمل مبيد الحشرات تحت إبطي
وألتهم برغر ساسيبو
رجل وامرأة من باكستان يأكلان المحار
قانون التجارة القذر من أجل الفضاء الخارجي
وداعكم سيكون عند مضيق تسوغارو
كنت أستطيع بذل ذلك القدر من الجهد أيضًا
لكنني الآن في الرابعة والأربعين
チツ。ポコチン。公園のベンチで 無職が 金縛り
THE CHRISTMAS SOFT MACHINE
クリスマス、あるいは三十番目のセラピスト
万事快調の四百年間。文句のつけようがない危険。いつものタクシー同様メイド孕むしな。普通に。普通の暮らしをしていた和英辞書こと三ツ橋君が、午前零時のロンドンで羊の頭をしたレジスターに給料を入力される。気持ちは内心穏やか。気分安定薬のせい。いや、クリスマスのせい。いや、英国王室が輸入した火星のせい。なんでも他人のせいにしろ。俺はしない。俺の責任は英語の発音記号にある。舌を右へ三ミリ。胃袋を左へ二十ポンド。祈りの方向を変更してください。変更料金は一万三千円です。
MERRY CHRISTMAS, YA HABIBI.
サンタクロースはメッカへ向かうタクシーの後部座席で、アヒルの知能について講義していた。アヒルは賢い。サイバースペースにも存在する。幼い土田でさえハッタリだと気づいた。だが土田は現在、ロンドン地下鉄の保守点検員である。彼はトンネルのなかでアヒルを解体し、羽毛をクリスマスツリーに貼りつけ、くちばしを銀行のATMに接続する。暗証番号は不可侵条約。引き出し金額は不可解さ。残高はゼロ。ゼロは神聖な数字だと銀行員が言った。神聖な数字には手数料がかかります。
祈れ。祈るな。祈りの音声ファイルが破損しました。
モスクの時計は十三時を指していた。教会のオルガンが礼拝堂の床下からせり上がり、クリスマスキャロルを演奏する。礼拝者たちは静かに靴を脱いだ。靴のなかから小型の戦闘機が飛び立つ。機体番号はV-2100。国連的にゴクリと飲み込む便器様。戦争は機械の消化器官である。機械は食べたものを報告書に変換する。報告書は議会へ送られ、議会はサンタクロースへ請求書を送る。
三ツ橋君は和英辞書を開いた。
SOUL — 霊魂。魂。人間の精神的中核。
SOUL — 商品在庫なし。
SOUL — 次回入荷予定、二〇二七年十二月。
「んで、青木康善さん、言いたいことは?」
それだけ?
それだけ。これっきりだ。また来るけどこれっきりだ。世界最大のぼくについてまとう写真。大手町まで行くのは面倒だ。ここはシベリアだよ。わかる? クリスマスのロンドンだよ。わかる? どちらも同じ寒さで、どちらも違う名前の官僚がいる。役所の窓口で番号札を取る。番号札は生きている。番号札は妊娠している。番号札はメイドを呼ぶ。メイドはタクシーを呼ぶ。タクシーはアヒルを轢く。アヒルは賢い。サイバースペースにも存在している。
反復。反復。反芻。
出版という名の父親が院長の椅子に釘付けになっているあらゆる名前には名刺があり名刺には住所があり住所には境界線があり境界線には警察がいて警察は慈悲の領収書を発行しない資本家の豚はリウマチ科の待合室で株価を測定しミュンスターの空襲から逃げ延びた小人たちはミニバイクの排気音を嘲笑しながら灰色の歩道に戦勝記念日を埋め戻す僕は忘れない京王稲田堤の線路脇で川崎という別の世界が始まった瞬間を忘れない忘れるための記憶術を忘れないマッカーシズムの横綱は土俵の中央で全員の名前を読み上げ慈悲団体の耳から漏洩する神の宇宙はカソリック商品券ではない吐いた風呂はモロッコの地図になり進行形はいつもウンコとして排泄され未来形は便器の向こうで水を待つチェコ人と見間違えられた二元論の鰊は何も証言せず数フランを握った手が上を向く上には何もない何もないという事実にさえ固有名詞がつけられ出版され販売され返品されそしてまた名付け親がやってくる来ない来ない来ないそれでも線路は二本あるの封筒に収まらない自炊した豚肉が自殺の観念を宥め柔術のない非暴力が支払手数料として請求され針金は来ない狩場インターチェンジには来ない高速道路の神は到着予定時刻を発表しない破産を望む者には破産申請書が与えられ破産申請書には中央という名のバファリンが仕込まれ階段を降りるたびに頭痛だけが制度を理解するノートルダムの石壁は携帯電話のアルファベットを知らずABCDの彼は誰の名前でもないプレミアム商品券は乳房ではない乳房はメリークリスマス
祈りの前に身体を清める。クリスマスの前に財布を清める。財布の前に銀行口座を清める。銀行口座には四百年間の万事快調が記録されていた。四百年間、誰も文句を言わなかった。文句を言った者は英語学習アプリへ転送され、発音の誤りを訂正され続けた。
「英語を学ぶな、俺なら」
俺なら。俺なら。俺なら。
その声はスピーカーからではなく、膝の裏から聞こえた。
ロンドンの地下には巨大な膝が埋まっている。王室の膝。植民地の膝。失業者の膝。祈る者の膝。立ち上がれない者の膝。その関節部分には小さな工場があり、工場では二十九人のセラピストが同じ書類を複写していた。
二十九人セラピスト送りだよ。
送りだよ。送りだよ。送りだよ。
何を送るのか誰も知らない。送信先はフェルナンデス。件名は「黄色いなお前。土曜日か?今日は」。添付ファイルは母の台所。朝の鮭。三鷹のアパート。プロパンガス。湯気。古い湯呑み。母が厳格なムスリムだったという文章。透視図がそれを示したという文章。誰かが書いた文章を別の誰かが書き直し、そのたびに母の背中が一ミリずつ遠ざかる。
世界は記録するために存在しているのか。
それとも、記録されることを拒否するために存在しているのか。
メリークリスマス。アッサラーム・アライクム。
同じ夜に二つの挨拶が交わされる。商店街の照明が消え、礼拝堂の窓が光る。誰かが静かに祈り、誰かが静かに眠り、誰かが静かに帳簿を改竄する。信仰と商品は別々の棚に並んでいる。しかし閉店後、棚の仕切りが溶ける。神の名前が値札になる。値札が祈祷文になる。祈祷文が広告コピーになる。広告コピーが小太郎の口から飛び出す。
「僕に言われたって困るよ」
小太郎。お前は何も悪くない。お前は歯医者の予約を忘れただけだ。予約を忘れた者は時間を所有していない。時間を所有していない者は遅刻しない。遅刻しない者は給与をもらえない。給与をもらえない者はクリスマスケーキを買えない。ケーキを買えない者はケーキサーバーに愛されない。愛されない者はラテンアメリカの歴史を傑作と呼ぶ。
ラテンアメリカ。
革命のページをめくると、ページの裏側にロンドンの玩具工場がある。玩具工場の奥にはプラスチック製の小さなモスク。モスクの奥にはプラスチック製の教会。教会の奥にはプラスチック製の国会議事堂。議事堂の奥には透明な箱。その箱には何も入っていない。何も入っていないことを証明するために、二十九人のセラピストが派遣される。
三十人目は誰だ?
三十と呟き繰り返す。予定。予定をたてた筈。必ずやいつしか。三十に。今は一。あと二十九。
ニット帽が消えた。
ニット帽はどこへ行った。霜が降りた山か。大手町か。拝島駅か。ロンドンの地下鉄か。サンタクロースの頭か。ニット帽のなかには一万三千円が入っていた。四円パチンコの誘惑が入っていた。酒を飲まないという小さな生存証明が入っていた。海外に行きたいという夢が入っていた。友達を作れなかった六十年間が入っていた。まだ六十年も生きていないのに、記憶だけが先に老いていた。
時計は壊れたまま。
十時間が経過。
時間はセラピストを送り続ける。
三ツ橋君は礼拝堂の扉を開けた。外は雪だった。雪片は小さな活字でできていた。アヒルの知能。不可侵条約。万事快調。普通の暮らし。和英辞書。母の台所。四百年間の危険。ラテンアメリカ。ロンドン。三鷹。新青梅街道。メッカへ向かうタクシー。クリスマスの商業主義。宜保愛子轢死の聖夜に資本が咳き込むピケティの眼球を週刊大衆で包み蜘蛛の弟容器がマンハッタンの雪を横切りルテニウム錯体の駅舎で小銭を拾う盲目主体の入れ歯が神のジャズを噛み砕きネオン供給の災厄を舐める厚意よアメリカよ狂った天使よ路上の預言者よ経済格差の谷間にサンタクロースの骨が降り積もりカップヌードルの湯気が資本主義の終焉を告げるゴキブリの羽音が聖歌隊を蹴散らしプラチナムの窓辺で無一文の魂が踊る轢死した言葉の死体を拾い集めてタイプライターに流し込み世界の終わりを祝うジングルベルジングルベル狂気の鐘よ鳴れ鳴れ鳴れ
静かな祈り。無音の機械。
雪はすべてを覆い隠した。
それでも、雪の下から声がした。
「今はやってくる」
「くる」今はやってこない
「今はやって.......」
「今はやってこない」
誰も返事をしなかった。
サンタクロースはアヒルのくちばしをATMから取り外し、子供たちに配るプレゼントの箱へ入れた。箱には宛名がなかった。箱のなかからオルガンが鳴り始めた。
クリスマスキャロル。
祈りの呼吸。
機械の咳。
二十九人のセラピストの足音。
そして三十人目の、まだ到着していない者の足音。
ロンドンの夜は明けなかった。
それは夜が終わらなかったからではない。
夜明けという言葉が、和英辞書から削除されていたからだ。
「突っ走ることもありますが、どこに向かっているのか?このペースでだいじょうぶか?ということを誤ってしまうと思わぬ落とし穴になるやも」とヴィヴの母は書置きした。
鰊は問う ゴルフコンペに 今の世の中 集会だけが価値を為すとかなんとか丁稚上げ
私は庭 コマ目みたいに 駅に拘り死ぬ
Total Death xor EXIST ON STATION itself