秋の短歌
秋立ちぬ網戸にとまる蝉の腹寂しくもあるか鳴かずして去る
公園のフェンスから出た笹一枝白紙の短冊下げて立ち去る
旅の夜の長きを満たす波の音暗闇で僕絶対的一人
こうもりが超音波で見る世界では星が光を競い生きてる
蝉が鳴く墓誌を眺める汗拭う歳を取らぬのは死んだ人だけ
家族より会ってる毎朝七時半公園通りですれ違う人
指先に乗せる小蛙われもまた息が止まれば三分で死ぬ
いにしへの人の残せし歌碑はいま萩に埋もれて花となりけり
藤袴淡い香りを探り当ててんとう虫の登りをる見る
秋ばらはいづくにやある袖を引くあざみの棘に振り向けば花
花の奥宝ものをや隠したる花粉まみれの熊蜂の尻
ひとりだけ模様の違うチンアナゴみなに合わせて口をパクパク
売店でシーフードバーガー注文し水族館の水槽に投ぐ
鮫と泳ぐ水族館の魚らは日に一匹は減りてゆくらし
何回も繰り返したから知っている明日の朝また目が覚めること
花の名をひとつ覚える庭先に世界が広がる僕は蝶になる
秋の野のセイタカアワダチソウの群れあと一センチで鎌の切先
君死にてなお生きるわれ秋の野に嘘をつくよう息をするかな
ふるさとの母は寂しく歳をとる私の人生すでに晩年
秋の短歌