百合ヶ丘

君は数字を覚えるのが得意だったから
夢で拾った紙切れに書いてあった番号に電話をかけた
それで僕らは付き合い始めたわけなんだけど
僕の家の最寄り駅が百合ヶ丘でほんとによかったと思う
駅名に数字が入ってるからね
ちょっと気付きにくいけどね
それ以外に君が僕を好きになる理由なんてひとつもなかった
僕にしたって、君の誕生日が十一月十一日じゃなかったら
たぶん無理だったろうと思うけどね
君は僕としたキスの回数を正確に数えていたけれど
飲まなきゃいけない錠剤の数はいつも間違えた
「自分の指の数が素数じゃないのが気に食わない」
と君が言ったとき
僕は「変な気を起こさないでくれよ」と言いかけたんだけど
いや別に「変な気」って程でもないかって思ってしまって
何も言わなかった
ちゃんと君のことを止めてくれる人を見つけるべきだよな
そんなことは君自身がいちばんよくわかっていたから
僕らは別れた
最後に会ったとき
「あなたの髪はあの紙切れと同じ匂いがする」
って君は教えてくれたけれど
「だろうね」としか僕は思わなかった

百合ヶ丘

百合ヶ丘

詩誌『月刊ココア共和国 2022年12月号』に「投稿詩傑作集Ⅲ」の内の一篇として掲載された詩作品です。

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-28

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