夏の短歌
日は長くなりぬ家路に香るのは夕日に溶けるエゴノキの花
たんぽぽの綿毛たい肥にとまりたり葉が出ればまた食卓の上
ゆく春を惜しむ押し花さくら花わが本に挿す君の思い出
手の中のあざみ細かに震えをり花摘む母子に川風の吹く
星を待つわれは横田の管制塔、飛行機瞬く曇り空にも
明けぬれば雨上がりたり紫陽花の色鮮やかに鐘は鳴りけり
明日はなき君が乳房を撫でるようにあじさいの花をそっと支える
むらさきも色とりどりなり花菖蒲あめんぼに貸す影もとりどり
一刀に深く祈りを掘り下げて石を穿ちぬ南無釈迦牟尼仏
手のひらにあまる林の端っこのイチヤクソウの花の静けさ
人生が空くじでないと思うため買う宝くじの空くじの数
信じてるものを失くした大人たちまだ信じてるふりをしている
麦わらも田んぼの蛙も初めから知らない僕らの世代夏来る
日曜日?ごめんね塾があるのってごめんね嘘をつかせてしまって
願はくば遠きシリアやアフリカにわれらと同じ医療あれかし
わが手から逃がれ逃がれて石の縁、二寸の壁にひっくり蛙
石の縁何度飛んでも越えられぬ絶望高い壁を見ている
六所宮わきの住吉かばおという名前をつけた狛犬が好き
ひもじいかい潰した恋の二つ三つ甘いとこだけジャムにしてみて
弓矢取り或ひはヤマトと戦ひし王にやあらむ石々の影
背のほくろ掻いて届かぬ夢のやうに君は届かぬ夢にさへ見ず
雲は下青空のみを上に見て手を伸ばしたら届く気がする
ハイマツの短き夏を謳歌して伸ばす若葉の淡さ手に取る
あの頃の親父と同じ歳になり親父と同じ唄口ずさむ
生きるとは鉢の外まで根を伸ばし新たな大地に辿り着くこと
夏の短歌