小さな種

嫉妬の形をした鹿が駆け回っている
叱りつけてはいけない
目を合わせてはならない
果物で手なずける
よく熟した黄色い果実だ
まず私が口にすることで
安全であることを示す
中身が露わになった果肉を
鹿がそっと口にする
小さな種が地面に零れ落ちる
鹿の眼は静かな緑色に変わっている
(もう目を合わせても構わない)
少し笑っている気がする
また来るよと言いたげな表情だ
わかっている
君は何度でもここにやって来る
ここでは雨が降らないから
私が種に水を遣らなくては

小さな種

小さな種

詩誌『月刊ココア共和国 2022年3月号』(電子版)に佳作として掲載された詩作品です。

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-02-28

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