永訣

 おれがひとりで逝く朝は
日差しはうらうら照ってくれ
おれが静かに逝く朝は
風はのどかに凪いでくれ

 子猫のまどろむ木蔭には
夢の名残が遊ぶだろう
きれいな和毛の母さんが
そっと見守る眼差しに
幸の香りのひとしづく
おれももらって逝くだろう

 おれが詠って逝く昼は
澄んだ光に満ちてくれ
おれが笑って逝く昼は
やさしい影が揺れてくれ

 誰も見えない野の果てに
小さな虫の音聞くだろう
時の狭間の営みに
忘れ去れない思い出の
名残りのかけらの物語
託して置いて逝くだろう

 おれが孤独に逝く夜は
星の光が群れてくれ
おれが寂しく逝く夜は
雲よ地上を閉じてくれ

 忘れたはずの人々が
古い昔を語るだろう
誰にでもある来し方の
怒りや戸惑い泣き笑い
生きた証の数々に
淡い灯りが燈るだろう

 おれがそっと逝く朝は
誰も気づかずいればいい
おれが密かに逝く朝は
葉ずれも鳴らずにおくがいい

 見果てぬ夢のその果ての
尽きぬ願いを祈るだろう
人よすべからく善あるべし
命よすべからく幸あれかし
生まれた証の言の葉を
静かに残して逝くだろう

 おれが孤独に逝く昼は
鳥も鳴かずにいるがいい
おれがためらい逝く昼は
時も刻まずあるがいい

 輪廻の奥のその奥の
道のしるべをたどるだろう
人よすべからく理あるべし
命よすべからく喜あれかし
習い覚えたことわりの
かけらをいだいて逝くだろう

 おれがとわに逝く夜は
星も流れずいればいい
おれが勇んで逝く夜は
しぶきも白く散るがいい

 終わることなき営みの
変わらぬ恵みを知るだろう
人よすべからく慈あるべし
命よすべからく情あれかし
めぐりて巡るその中で
うつつも夢と識るだろう

 おれがひとりで逝く朝は・・・・・・
  

永訣

永訣

題名のとおりの詩です。 読んで何か感じるところがあれば、うれしく思います。

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-10

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