冬の短歌
冬立ちて秋はいよいよまさりけり
もみぢ葉の音われと二人ゆく
ロンドン塔庭一面の赤き花
大戦の日を憶ひ揺れつつ
こんなにも下らぬ仕事で一日が終わり
私は歳をとってく
あの部屋は遠くに去りて戻らねど
あの時のやうな日が射してゐる
失くしたと思ひしものは初めからこの手にはなし
ただ雨の降る
われ一人マスク外して深呼吸
枯れ葉の匂いを思い切り嗅ぐ
引きとめる人もなつかし振り向けば
ただ影のごと枯れ葉鳴る音
寒空にひとり残れる山躑躅
友なき冬をいかに過ごさむ
世界にはあんなにきれいな星空があるのに
俺はここにいるのか
特になすこととてもなしハリスン忌
曇り空から冬は降りけり
気がつけば親の老いてふ足枷が
私にもはめられてしまつた
目標はあっても
そのため何すればいいのか分からず
今日も筋トレ
もう十年経った今ではあの部屋の
枕の色も思い出せない
大掃除十時になったら始めよう
十二時やっぱり明日でもいい
クリスマスまであと少し
タムシバの莟はさらに先の春待つ
冬空は嘘くさいほど晴れ上り
銀杏並木に子らは駆けたり
正月は帰らぬことが親孝行
母の寂しさ電波ふるわす
わたくしがぼんやり歩く公園の
枯れ草を刈る人もいるらし
枯れ草を覆う枯れ葉にしじみ蝶
とまりて優しく日は降りにけり
クリスマス過ぎて寂しき年の暮れ
胃に残りたる晩のシャンパン
真夜中に目覚める夢をまだ見てる
あの頃なら手が届いたのに
境内に露店立ちける
十二月三十日も糞をしてゐる
大晦日
新たな年の戸を叩くやうな声して
尉鶲なく
街はまだ眠っているか初日の出
星の瞬き見上げつつゆく
初日の出今年はマスクの顔ばかり
去年と同じ太陽をみる
日の出づるあとも残れる去年の月
昔の人とともに見し月
そのままの君が好きとはよく言うわ
そのままの私知ってんのかよ
去年の秋ふりしもみぢば
夕焼けにとけて今年の土となるらむ
もう帰るだけとなりぬる山登り
つとふり返り鳥の声きく
どちらから筆を止めしか年賀状
年ごとに減る葉書寂しき
「ああそうか、俺は幸せなんだな」と
君見て思う俺を許して
大人にはなれないまんま歳をとり
このまま死んでゆくのか明星
心にも黒いインクのしみがつく
親父を施設に入れる書類の
久々の雨だ
空き地の枯れ草も香り豊かに色めいて見ゆ
初雨にきらめくものは
タムシバのつぼみか雫か人の心か
多摩川の山並み雨にけぶりたり
父よあなたは大きかった
冬の短歌