六本の海

サイコロを振って出た目の数だけ
医師は私に瓶詰めの海を処方した
六本の海を抱えて坂を下ってゆく
妹の子供を抱かせてもらったときと同じ感覚だ
今夜はどんな夢を見るのだろうか
瓶詰めの海を枕元に置いて眠ると
その本数によって全く違う種類の夢を見る
海一本分の夢で
私は人魚と恋仲になっていた
人魚は往年のゾンビ映画の大ファンで
いつかショッピングモールに行ってみたいと私に言った
海三本分の夢で
私は小さなステージの上でギターを弾いていた
観客は架空の兄ただ一人だった
兄は微笑をたたえつつ涙を流していた
私は兄のために心を込めて演奏した
ギターピックは人魚の鱗だった
海六本分の夢は一体どんなものなのだろう
母は私の主治医について
あんなのはやぶ医者だよ
と言って憚らない
母は別の医師から虹の欠片を処方してもらい
毎晩それを布団の中で抱きしめながら
眠りにつく

六本の海

六本の海

詩誌『月刊ココア共和国 2021年7月号』に「投稿詩傑作集Ⅱ」の内の一篇として掲載された詩作品です。

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-06-28

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