春の短歌

春の短歌

鳥の啼く声さへ遠し春の日は
沈みかねても風は冷たし

「生きにくい」呟く声を聞く耳の
隣の瞳もいつも悲しい

手を伸ばす伸ばした分だけ遠ざかる
いっそこの手を捥ぎとってくれ

悲劇しか悲劇を拭えぬ世の中を
悲劇とこそ言へ刺激ばかりの

春の夜のジャズコンサートは流れけり
梅の頃な(コロナ)ら香のみ残して

常夏の奄美の島でバナナつくる
九十五歳の少年の瞳

ちびっ子が道路にでっかく描いた絵に
ねころぶ明日はきっと良くなる

春の雪いただく朝の御岳山
登るわれらに雨と降りけり

静けさのしつこいような室内で
開けるカーテン 街は瞬く

晴れやかな気持ちにもなる胸の花
後輩のいない卒業式でも

たわむれに卒業式のママ撮れば
ポーズをとってしかも笑顔か

とうとがなし奄美の言葉で手を合わす
教えてくれた祖母の墓前に

今だけはパパがひな子の王子さま
ほらもうおめめはママを呼んでる

春の日の山路をひとり越えゆけば
夕日に香る何処の線香

朝起きていつものように窓開ける
鶯が鳴く不意に来た春

咲けばはや風に散りそむ桜ばな
慣れぬ花びらよきて歩かむ

春の日のたんぽぽなぞはうらうらと
水たまりに湧く雲を見てゐる

桜咲くよりも静かに海越えて
ウイルス来たるわが街は晴れ

マラソンのたびに拝みはするけれど
たまにはさい銭あげて二拍手

年ごとに取らぬ狸の皮さへも
小さくなりてなき袖を振る

時の中君が香りに「ありがとう」
私も残す何物もなし

自粛だし読みかけの本散らばるし
外行く予定はないな土曜日

春の短歌

主に去年の春に作ったものですが、コロナがこんなに深刻になるとは思っていませんでした。

春の短歌

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-02-11

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