箱庭SF

1

彼女とどうしても結婚したかったので見るからに胡散臭そうな占い師に相談した。彼女は婚約が決まっていた。未来を変えます―そう銘打ってある貼紙は雨風でボロボロだった。だがその占い師の効果は絶大で俺は彼女と結婚した。
「20xx年に違法時間旅行及び時代への介入容疑の者を確認しました」

2

絶滅した動物を生き返らせ飼育する人々の試みは成功したかのように思えた。厳重な保護下でかつて種を絶たれた動物達が蠢いている。だが所詮は造り物。生命の躍動感は最早皆無だ。人は模造品のミニチュアを世話しているに過ぎない――、〇※☆星人は「人類飼育記録」に本日の所見を入力した。

3

静物に生物の様な命を与えるICチップがバカ売れした。人々は思い思いの静物にそのICチップを埋め込んだ。可愛がると懐いた。一方で反発されることもあった。静物は自我を持った。人々は疲弊していった。ついには静物を壊し、自我を奪うしかなかった。壊した物は、もう元通りにならなかった。

4

シーズン毎の新作。新作が出れば当然今までの新作は過去作となる。積み重なる過去作の上に君臨する新作は、数ヶ月も経てば過去作だった。吐いて捨てるほどある過去作は既にガラクタだ。機械達は嘆いた。そこで生産ラインを完全に停止させた。増加は止まり、人類はゆるやかな人口減少を辿った。

5

遠い未来。此処は人類にとって快適な世界となった。食べ物はある、争いごとはなく、住みやすい環境。凡そ過去が抱えていた課題は解決していたのだ。貧困、飢餓、戦争、紛争、差別、汚染、エネルギー問題、エトセトラ――。
生き物は最早、培養液の味しか知らなくなったが。

6

肺が苦しい?そんな時は胸元の表皮パーツを左右に開き、肋骨を上から順に丁寧に外側へ動かせば、簡単に臓器を取り出せる。古いのは棄てて、新発売の肺を購入し、装着すればいい。お陰で病院の患者数は激減。今時病院で並ぶなんて精神科くらいなものさ。え、まだ苦しい?いい病院紹介しようか。

7

流れ星に願えば叶うというジンクスが流行し早数百年。皆が動く星に願いを捧げた。しかし、人の願いはあまりに重く、託された星々は皮肉にも美しい曲線を描いて急降下した。遠い宇宙にある惑星では星が移動手段だったが、太陽系第三惑星付近を通過した者は生きて帰れないと言い伝えられている。

8

宇宙へ攫われた男が帰還した。報道により、一躍有名人である。脳内の自律神経系に介する機械のお陰で、持病が改善したらしい。研究者が金と知識を集め、遂に同じ機械を開発した。これからは宇宙生物への実験的適用も始まる。惑星侵略の第一歩だったが、大気圏は既に無数のUFOに包囲されていた。

9

初めて人体に真白いプラスティックの機械が取り付けられたのは歯科医の助手だった。あくまで、クリーンなイメージを投入する為である。そして、それは見事に広まった。今や「清潔感」とは、人体のサイボーグ化である。高額なサイボーグ化手術は、人類へさらなる貧富の差をもたらした。

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電気信号で筋肉を動かしていた。最早自分の意思ではなかった。脳に取り付けた機器が電波を送る。だが、これだと誤作動も度々起きるのだった。興奮や緊張、強いストレスなど余計な脳波が混ざるからだ。台上では下半身のみが動いていた。人類には未だ雑念が多いらしい。実験は今後も続いていく。

11

この体は不自由だ。脂肪を蓄えやすいし、生理的な周期にすぐ影響を受ける。そんな自分を変えたくて、大々的な改造に乗り出した。臓器や骨などできる限り人工物へ代替するようにしたのだ。
「とても楽になりました。先生、大変だったでしょう」
「なに、変えたのは貴女のメンタルだけですよ」

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仕事で酷い苦情の対応をした。途方もないストレスだった。上司が背中を叩く。今日はもう帰れ、という意だ。有難く思いながらふらつく足取りで帰路に着く。人間のストレス耐性には驚かされる。自宅に戻ると、クローゼットから死んだ俺が何人も転げ出た。スペアはもう無い。一度故星へ帰るしか。

13

都会のビルには海外のブランドが入る。街を歩く人々は皆iPhoneでセルフィーを撮っていた。この国では24時間、あらゆるサービスを受けられるのだ。この地を歩く人々は皆、異国の観光客だった。かつてこの国にあった文化や人種は変質し、労働に費やされている。今やどこにも日本人は存在しない。

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壊れたラジオみたいに同じ文句を延々と謳い上げるのは確かAIだったか。土産用の菓子を売る店員は顔色一つ変えない。私はケースの中の商品を見た。店員は全く反応しない。大した人件費だ。後日、土産店に列があった。成程、客一人の損失は痛くも痒くも無い訳だ。あの店員は客に笑いかけていた。

15

僕の虫歯は宇宙と繋がっている。歯科の先生が細長い鏡を僕の口に突っ込んで唱えた。「素晴らしい、世紀の大発見だ」小さな丸い鏡の中に、惑星系の広がりが映っているのだという。先生は酸素ボンベを咥えると、僕の虫歯に飛び込んだ。ああ、またこの歯を抜いてくれる先生を探さないといけない。

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我が社の製品は繊細だが抜群の機能に皆が手を伸ばす。あえて壊れやすく製造し、頃合いを見て次の商品を売り出すのだ。機能と頑丈さを少しだけアップグレードして。そうすれば飛ぶように売れ、懐が潤う訳だ。電話が鳴る。従業員のアンドロイドが壊れたらしい。クソ。やはり他社も同様の戦略か。

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異星人に捕まり遂に身体改造を施されると思っていたのだが存外ま白い部屋でエアロバイクを15分漕がされただけだった。そいつは俺の頭に手を置いて「お前のエンドルフィンを買い取らせてくれ」と言った。ヒトの脳内物質は麻薬として高値で取り引きされるらしい。俺はこの機会を幸運に思った。

18

イルカは頭がいいらしい。だからイルカの脳を調べて作れば、私はイルカとヒトの脳を併せ持つ人類初、否、哺乳類初のヒューマノイドになれるのではないかと仮定した。

世界で有名な企業家のアイ氏は、一面分厚いガラスでできた水槽を見上げて尋ねた。「あれは、何だね」

「私どもの博士です」

19

「おい、お前!」「はい」振り向くと怪我をした男の人がいた。「俺はお前だ!いいか、よく聞け!お前は15年後大変な事件に巻き込まれる!」「はぁ」これが僕?まるで別人だ。「だから7年後に」そこで意識が遠のき始めた。ああ、きっと最後の悪足掻きだったんだ、僕。痛くないのが救いかな。

20

刀を振るった。血飛沫が鮮やかに散った。この刀はどれだけ切っても全く血を浴びなかった。それどころか錆びる様子もない。だから沢山刀で切りつけた。人を。血を浴びていたのは俺だった。いつの間にか、俺の首筋に青い痣ができた。それは次第に広がり、やがて俺の首がポキリと折れてしまった。

21

レールを敷きつめていく仕事をしていた。電車の走れない所にひたすら鉄のレールを並べる。ここはもう何光年離れた場所だろう。俺はペアで仕事をしていた。ひとりは今仮死中だ。俺は孤独な作業を続けた。あと720時間続ければ交代だ。俺達が故星に戻った時、一体誰が出迎えてくれるのだろうか。

箱庭SF

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  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-06-08

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