笑い方、わすれたの

 先日の天変地異は少なからず世界に大打撃を与えた。被害は甚大であり、粉々に崩された近代都市は、最早修復の目処が立たず、残された人類は漸く地球を棄てる結論を出した。
 先日、といっても昨日のことで、昼下がりの穏やかな時間に突如としてやってきたそれは、獲物を狙う川蝉顔負けのスピードで大地に突っ込んだのだ。木っ端微塵、世界の壊れる音がしたのを私は聞いた。
 それからだ、笑えなくなった。正確に言えば、表情筋の動かし方を忘れてしまった。この状況で愉快に笑うことが憚られるから笑えないのだはない。どう頑張っても、笑っていた時を思い出せない。鏡を見て、これが「笑顔」なんじゃないか、という顔を作ると、それはとても奇妙で、気味の悪い顔だった。

「笑い方、わすれたの」

笑い方、わすれたの

笑い方、わすれたの

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-06-08

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