六本の針金みたいな脚を器用に、互い違いに動かして、虫は進む。虫は自分の存在についてなど一欠片も考えたことはなかっただろうが、それも単に私の憶測である。朝の気圧の低さとか、ばったり外敵に出くわした時の気まずさとか、あるいはどこかの誰かに心惹かれることだって意外とあるのかもしれない。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-06-08

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