風凰学園HERO部の抑止力 4

第4章 学園の異変、部長に異変??

五時限目俺は何気ない普通の授業をしていた。
心に引っかかるのはこの間の鈴音の言葉だ。
――――私は人を嫌いにはならないよ
あれはどういう意味だったのだろう。
嫌いにならなくても苦手になったり近づかなくなったりするはずなのに鈴音はそういったこともないらしい。
それに気になるのはそれだけじゃない。
さっきから誰かに見られてる感じがする。
最初は柄谷か? とも思ったがあいつが授業を抜け出してまで俺を――――見に来るだろうがあいつの見られ方とはまた違うこれは殺気というものじゃないだろうか。
そんなことを考えていると教室のドアが思いっきり開かれた。
「おい達彦! 大変だ!」
噂をすればなんとやら、といえばいいのか柄谷が教室に押し寄せてきた。
「そうだな、目の前に変態がいるこれはケーサツを呼ばなきゃな」
俺はあいつとのやり取りが面倒なので適当に返事をした。
「そうじゃない、本当に大変なことが起こってるんだ!」
何なんだ一体、そんなに大変なら通信機で連絡すればいいのに。
ちなみに通信機は校内どこでもいつでも使ってよしただし任務の時のみ、と決められている。
「なんだよ、もししょうもないことだったら張り倒すぞ」
俺はだんだん眠くなり早めに済まそうと理由を聞いてみる。
「鈴音ちゃんが誘拐された! それと部長も!」
は? 誘拐?
「お前寝言は寝ていうのがこの国の常識だぞ?」
このご時世そんなことする奴がどこにいるんだよ。
まったく柄谷はちょっと頭が悪いと思ってはいたがまさかここまでとはな。
「……本当ですよ? 達彦さん」
いつの間にか柄谷の後ろにいた神崎さんが真顔(表情が変わったところは見たことがないが)で訴えてくる。
「神崎さんまでそんな妄想を……」
『どうやら本当みたいだよ? 僕の直感がそう訴えてくるよ』
超直感がいきなり話しかけてきた。
『マジで?』
『マジで』
誘拐なんて久々に聞いたぞ。
まだそんなしょうもないことをする奴がいたんだなぁ。
「……誘拐!? 鈴音を!?」
今更ながらに事の重大さを知った俺。
「……さっきから言っています、それと声が大きいです達彦さん」
「やっぱり信じてなかったなぁ、それと言っておくが部長もだぞ?」
そんなことはどうでもいい。
鈴音がいなくなったら俺は、俺は……。
「明日から晩飯に金が飛んじまうじゃないかぁああああ」
『そっちですか!?』
『やれやれ、気持ちを隠すのにそんな言い訳とは』
『……』
俺の人格達がツッコミを入れてくれている。
ただ一人最強を抜いては。
「どうでもいいけどよ、お前なんか気にならないか?」
気になるところ? そんなところあったか?
「やっぱいいや、多分俺の気のせいだと思うし」
「なんだよ、まったく」
それにしても部長たちはどこに誘拐されたのだろう。
「何か、手がかりは?」
「……それがあればここには来ませんよ」
神崎さんが冷たいことを言ってくる。
くっ、今のは心にきたなぁ。
「手がかりなしか、じゃあどこに誘拐されたのだろうか」
俺は少しだけ本気で考える。
「どっちに行ったかわかりますか?」
「ああ、俺の後輩が跡を追ったけど途中で見失ったらしい、確かこっち側だ」
こっちと言って指差したのは北側だった。
「北か……、北に隠れられる場所は……」
「……百を超えます」
神崎さんが調べてくれたらしい。
それにしても百超か。
全部回れば一日じゃ済まないな。
『私ならわかりますよ? 彼女たちの居場所が』
最強の人格が言ってくる。
『そんなことができるのか!?』
初耳だぞ、そんなの!?
『ただ、その人が私を呼んでくれさえすればね』
なんじゃそりゃぁぁぁぁああああ。
そんな能力があったのかよ! てか使いようのない能力だな、おい!
『そんな事はどうでもいい、早く私と替わりなさい』
『ちっ、しょうがねぇな』
俺は最強と交代し、体の使用権は最強へと移った。
「おっと、これはこれは最強さんですか」
柄谷が勘と本能で俺が最強と入れ替わったことに気づいたらしい。
「あなたと話している暇は残念ながらありません、できれば柄谷さんは永遠に黙っていてください」
なんと、俺の嫌がっているものがコイツも苦手だったらしい。
「ははは、永遠ってそりゃあ長いんじゃないか?」
「半分冗談はやめてとりあえず黙っていてくれますか? ここら辺全体」
「半分は本気ですか……。」
なんかかなり落ち込んでいる、しょうがないから今度生のピーマンをプレゼントしてやるか。
「とりあえず、今から私は集中しますから質問には答えられませんよ? あなたにはそもそも話しかけたりはしませんけどね」
「……」
やばい本当に柄谷がかわいそうになってきた。
今の俺には何もできないのでそれはいつかしてやろうと心に秘め俺の体は最強曰く集中モードに入り俺の声すら受け付けない。
『見つけました』
わずか十分で見つけたらしい。
『早くないか? それ本当に部長たちか?』
違う人だったら恨むぞ? とは言わない、俺にはできないことだから少しだけでも可能性があるのならそれに賭けるしかない。
「さ、行きますよ? 鈴音さんたちを助けなければなりませんから」
「お、おい! どこ行くんだよ! 待ってくれ!」
柄谷がどんどん我が道を進む俺の体に置いてかれないように必死に着いてくる。

柄谷を連れて行き着いた部長と鈴音がいるであろう場所、学園から二キロほどで着く廃ビルの前に来ていた。
「こ、ここか?」
廃ビルの前で息を切らしながら聞いてくる。
なぜ、柄谷が息を切らしているのかというと最強の人格は歩くスピードは恐ろしいほどに早く当然ながら柄谷はそれに追いつくだけで精一杯だった。
「ええ、ここで間違いないはずですよ?」
どうやら確信があるらしい、まあ、なかったら困るんだが。
廃ビルの前で立っていると少女に話しかけられた。
「お兄ちゃん、こんなところで何してるの?」
「ほえ? な、なんでお前がここにいるんだよ!」
少女はなんと柄谷の妹、高秋澪だった。
「お、お前、中学校はどうしたんだよ? 確かまだ終わってないはずだろ?」
確かに今は午後二時で中学は終わってないはずだ。
「お兄ちゃんと同じ理由だと思うけど?」
と、廃ビルの方を見る澪。
どうやら澪も何らかの方法でここを見つけたらしい。
「危険だから帰った方がいいですよ? 私にはあなたも守る意味がありますから」
「それならご心配なく、私かなり強いですから最強さん」
澪は女の敵みたくこっちを見てくる。
あのぉ、俺ってそんなに危険人物なの?
「それは心強いですね、さあ、行きましょうかあまり待たせても後が大変ですし」
俺は、否、俺の体を使っている最強の人格が廃ビルへと足を踏み入れようとしたとき嫌な予感が脳裏を横切った。
それは天才が稀に起こす『閃き』だった。
だが、俺はその閃きを否定した。
だってその閃きはあまりにも現実的だったから……。
俺たち三人は廃ビルに入って最初に思ったのは
「汚いねぇ」
「汚いな」
「汚いですね」
だった。
思ったというよりは口にだしているかもしれないがそこはしょうがないことだ。
だって、廃ビルがこんなに汚いとは普通思わないだろ。
「へぇー、結構早く見つかっちゃったなぁ」
最強の人格に気づかれもせず目の前に現れたのは二十代くらいの青年だった。
「ということはあなたが犯人ですか?」
「いやいや、そこまで大した事はしてないよ、僕はただ頼まれたの」
頼まれた?
「おかしいですね、頼まれて誘拐をするんですか?」
嫌な予感がまたも横切る。
「誘拐? 何それ、僕誘拐なんてしてないよ? 殺しはしたけど」
予感が現実に変わる。
殺された? 部長たちが?
『おい! さっきやったみたいに部長たちを探してくれ』
『さっきからやってますよ、でも何も聞こえないんですよ』
まさか、本当に部長たちを殺したのか?
「……何をした」
いつの間にか入れ替わっていた人格、どうやら最強は助けられなかったのがショックらしい。
俺は怒りや、罪悪感の混ざり合った中でやっとの思いでその言葉を出した。
「ん? 何って殺しだよ、僕の仕事だからね」
「今日殺したのは何人だ?」
「まだ一人だよ」
まだ一人?
こいつ人の命をなんだと思ってるんだ!
「お前、さっき仕事って言ってたな」
「言ってたな」
「じゃあ、お前に頼んだヤツがいるんだな?」
そいつもあとで潰さなくちゃならん。
「んー、いるかもしれないしいないかもいれないし、いてもお前には教えられないなぁ」
すまし顔で言ってくる青年。
俺の怒りが最高値まで上がりどうしようもなくなった。
鈴音が死んだのか? 誰のせいで?
コイツか? 俺か? 依頼したやつか?
どうでもいいそんなこと今は目の前のこいつをぶん殴る!
今ならフ○ーザに怒った悟○の気持ちがよくわかる気がする。
『力貸してくれるか、みんな?』
『ガッテンでぇ』
『もちろん』
『……言われなくても貸しますよ』
みんなの意見が一致した。
「離れててくれ、柄谷、澪」
コイツは俺がやるとは言わなくてもわかってくれるだろう。
「何言ってんだよ達彦、これはお前ひとりの問題じゃないだろ?」
「そうですよ先輩、私もちょーっとムカつきましたし」
聞き分けがないなぁこいつらも、でもなんだか心強いなこれはこれで。
「なになに? 僕とタイマンするの? 死んじゃうよ?」
こいつ目が笑ってやがる。殺しを一種の快楽みたいなものだと勘違いしてるのか?
「俺と澪は端から、達彦は正面から攻めてくれ」
柄谷の作戦に全員が賛成し言葉もなく行動に移す。
まず、柄谷と澪が作戦通り端から攻め上がる。
だが、敵の目は俺を見てるだけで柄谷たちには向かない。
「遅いなぁみんな、遅すぎて見る気にもならないよ」
と言って青年は攻撃する柄谷たちを目視せず感覚で跳ね返した。
「な……」
「え……」
二人は何が起こったかわからず声を上げながら飛んでいく。
「柄谷! 澪!」
なんだこいつ強すぎる。
今まで俺はここまでの強さを持ったやつと戦っただろうか? 否、ないだろう。
こんなのがいっぱいいるのか?
だけど……だけど俺は……
「俺は負けられないんだ! お前なんかに負けてたまるかぁああああ」
俺は無我夢中で敵に殴りかかろうと思ったがそれは止められた。
「俺のためにそこまで熱くなるなって、可愛いなもう」
柄谷が俺に抱きついてきたので攻撃は強制停止させられた。
「だ、抱きつくなぁあああ、気持ち悪いぃぃぃぃいいいい!」
こいつこんな状況でもこんなことするのか!
「お兄ちゃん、そんなことしてないで次の作戦!」
どうやらさっきのは大して効いてないらしい。
「そうだなぁ、俺は部長じゃないからなぁ、そういうのには知識が乏しいんだよなぁ」
「なんだそりゃ! 意味ねぇじゃん!」
畜生、こんな時部長がいたらいい作戦を思いつくんだけどなぁ。
「……クソッ、しょうがねぇなぁ、ここは俺がなんとかするから柄谷たちは部長たちを探してくれ!」
「でも達彦、あいつは――――」
「わかってる、だから俺だけがいいんだ、俺だけなら自由にあいつと戦える」
正直俺は集団での戦いは苦手なのだ。
どうも俺は他の人が気になって戦いに集中できなくらしい。動きが鈍いと部長に言われたことがある。
「わかった、でも無茶はするなよ?」
「その言葉は女性に言われたいものだな、女性苦手だけど」
俺がそう言うと柄谷は何も言わずに先へ向かった。
澪も不安そうな顔をこっちに向けたが柄谷が半ば力ずくで連れてった。
「君やっぱりわかるんだね? 僕が君しか見ていなかったこととかそのほかも」
「ああ、わかってるよ」
コイツはあの中で一番強いのは俺だとわかっていたんだ。
「でもなんで俺が一番強いってわかったんだ? 多分誰も知らないと思うけど」
「オーラさ」
は? なんでしょうかこの行き場のない痛さは。
「それ、言ってて恥ずかしくないの?」
「何が? 僕は率直な意見を言ってるんだけどなぁ、ま、オーラは言いすぎかな? なんとなく勘だよあの中では君が半ば中心にいたでもそれを隠そうとしていたのに気づいたのさ」
確かに俺はあいつらよりも頭もいいし、本気で戦えば俺の方が強いかもしれないが見ただけで、しかもそんな些細なことを感じ取っただけで確信が持てるものなのか?
「僕たちの世界ではねぇ集団の中で誰が一番か、誰がリーダー格なのかを見ただけで感じ取らないといけない世界なんだよ、少しでもその作業が遅れればこっちが息の根を止められるそういう世界なんだよ」
そんな無茶苦茶な世界があってたまるか! と言いたかったが、実際俺はこの世界のことを半分も知らないんだろうなという気持ちで抑制した。
「そんなことより早く始めようよ、たとえ君があの中で一番だとしてもこっちの世界では最下位だということを教えてあげるよ」
そう言って不可解な笑みを浮かべながらこっちに向かって歩いてくる。
何の構えもしてはいないがその動きにはほんの少しの無駄のない動きでそれはまるで歩いているのが構えのような感覚に陥る。
俺もかなり遅れたが構えをした。
『天賦の才、交代だ!』
『任せろ』
俺自身と天賦の才の神経の人格が入れ替わる。
「なんか感じが変わったけど、そんなに強いとは思えないなぁ」
と言って歩きから走りへと態勢を変えてこっちに走ってきた。
俺も守りの態勢を取るが相手の方がやはり上なのか守りきれていないところを的確に狙ってくる。
「グッ!」
耐え切れなくなり、俺のガードが落ちる。
「戦闘ではどんなに攻撃を受けてもガードだけは落としちゃダメだよぉ?」
そう言って敵は俺の顔面目掛けて強アタックをする。
「ああ!」
もちろん避けられない。俺はダメージを喰らいながらも敵に攻撃をと思ったがそれも叶わない、攻撃をしようと試みると目の前には誰もいない、完璧なヒットアンドウェーだった。
「まだ僕攻撃されてないんだけど」
ダメだ、攻撃が当たらないんじゃなくて当たる位置に敵がいない。
このままじゃ何もできないまま殺られてしまう。
「クソ」
『今度は僕に賭けてみる?』
『ああ、任せた』
今度は人格が超直感へと替わる。
「あれ? また変わった?」
どうやらコイツは本当に感じ取れるらしい。俺のタイプが替わることが。
「だけどこれもあまり強くないなぁ」
言うと同時に殴りを入れてくるが俺には当たらない。これが超直感の能力『先読み』だ。
これは相手の表情、動き、息遣い全てを見て相手が出そうとしている行動を先読みするのだ。
「へー、避けられるようになったんだぁ」
なんか嬉しそうに攻撃をしてくる。ダメージはさっきより増している。
「これもダメ、これもダメ、ならこれならどうかな?」
次々と攻撃パターンを変えてくるがギリギリで避ける。
だが、その読みの体制も長くは続かずだんだん攻撃が当たるようになってきた。
「やっぱり長くは続かないんだね! そろそろ集中力の限界かな?」
などと勝ち誇ったように笑みを浮かべる殺し屋。
『相手の行動はランダムではありませんよ?』
最強がそう伝えてくる。
『そんなのわかってるよ! でも先読みができなんだなぁ、これが』
超直感が反論じみたことを言い返す。
『それってかなりまずくないか?』
すかさず俺も話の和に入ろうとしたが意味はなかったらしく、人格が超直感から最強へと替わった。
『追い出すなよぉ』
超直感がまんざら嫌がってなさそうな声で言う。
「あれれ? また変わった? 違う替えられたのかな?」
相手が感づくのにも、もう慣れた。ここからが俺たちの本気だ。
「悪いですがあなたに構ってる暇はありません」
俺は先の勝負で相手が取った構えを見よう見まねで構えた。
「へぇー、君もその構えが……できるはずがないか、モノマネでできるのかな? その構えが」
笑みを浮かべながら突進してくる殺し屋に俺はモノマネの構えで対応する。
殺し屋が俺の攻撃範囲に入った直後俺の右腕からノーモーションの殴りが入る。
「な!」
驚きを隠せないのか鬼の形相でこちらを見る。
だがその表情は一瞬ですぐにいつもの笑みへと戻る。
「いいねぇ、僕の見立てに間違いはなかったというべきかな? やっぱり君は強い、君こそこっち側に来るべきだ!」
こっち側とは殺し屋たちに世界だろう。
「残念ですがそういうのには興味ないですねぇ、それにあなたの言うことを聞きたくはない!」
最強は言うやいなやノーモーションの攻撃を十六連撃食らわして相手を沈めた。
あっけなかったといえばそれまでだが最強の能力の中では誰もがああなるのが目に見えている。
最強の能力、それは適応力の高さだ、相手の攻撃を見てそれを真似たりあるいはそれを超えることが多々ある。
まあ、それができるのはそもそもの能力が高いからなんだが……。
今はそんなことはどうでもいいまずは部長たちを探しに俺も行かなくては。
俺は歩みを進めた。

風凰学園HERO部の抑止力 4

風凰学園HERO部の抑止力 4

  • 小説
  • 短編
  • アクション
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-08

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