とあるアトリエにて 緑
とあるアトリエにて
目覚めたら全く身に覚えのない所にいた。今までもそのような経験をした事はある。
けど立っている状態では初めてだ。
気付いたら何とも不思議な空間に立っていた。
全体的に木で作られた空間だ。
巨大な木の中に家を造ったような、広い場所の中央にいる。
遠くに見える壁には階段が螺旋状に巡らされており、目で辿りながら見上げた上方には天井が見えなかった。どれだけ高いのだろう。
視線を周りに戻すと、大量のキャンバスと彫刻が点在しており、雑然とした印象を受ける。
「やぁ。私のアトリエにようこそ。」
不意に正面から掛けられた言葉に身構える。何故気付かなかったのだろう。
声のした方に目を向けると、こちらに目もくれずキャンバスに何かを描いている女性がいた。
「ボーッと立っていたね。何か自分の事は覚えてるかな?」
そこまで言われてハッとする。何も思い出せなかった。目覚めた時には特に何かを忘れたという感覚はなかった筈なのだが…。
「何も思い出せない。」
正直に答えると、女性は「そうか。」と答えてそのまま絵を描き続けた。
不思議な事に記憶がない事に対する不安感がない。まだ現実味を帯びていないからだろうか。
何となく女性の邪魔をするのも気が引けたので、作品のようなものを見て回る事にした。
確かにアトリエと言われればしっくりくる。たくさんの作品があるが、何をモチーフにしているのかよく分からないものが多い。
言ってしまえばそもそも絵があまり上手くないような気もしないでもない。
「私の作品はどうだ?」
少し遠くで相変わらず絵を描いている女性から問い掛けられる。
「よく分からない。そもそも絵より写真の方が好きだと思う。」
失礼かとも思ったが、正直な感想を伝えてみる。
「お、いい感じの全否定だね。
絵で言うなら、君は写実画が好きなのかな?私の芸術は物の本質を描くんだよ。」
女性は初めてこちらに視線を向けて答える。
「君のはもうちょっと右にあるキャンバスだね。」
女性の目線の先のキャンバスを覗き込むと、そこには緑色に染まる絵があった。
「これが何で…」
自分のなのかを問う前に気付く。
この絵が確かに自身の何かを描いていると分かったからだ。吸い寄せられるかのように目を離す事が出来ない。
キャンバスの絵が動いている気がする。
葉が擦れ合うような音が聴こえると同時に、自身の意識が遠ざかっていくのを感じた。
りんご
星が綺麗に見える季節。
バイト終わりの私は、吐いた息が夜の色に溶けていくのを眺めながら家路についている。
ちょっと前まで町中でサンタやトナカイが商戦を繰り広げていたのに、今や何も無かったかのように門松に切り替わっていた。もう年の瀬か。
この時期の目まぐるしい時間の移り変わりにはいつも感心してしまう。
思い返せば今年は良い年だったか悪い年だったかもはっきりしない、何もなかった一年だった。
今年は良い一年にしよう。
初詣の時に神様の前でそう誓った筈だった。けど振り返れば何もしていない。
通りがかりの洋菓子店の窓から見えるアップルパイを見ながらため息を吐く。私は来年こそ良い年に出来るのだろうか。
「りんご」と私は呼ばれている。
可愛い響きだと思うけど、込められた意味合いは全然可愛くはない。
二年程前に伝染性紅斑に弟が罹った。
よく知られている症状としては、まず顔が紅潮し少しずつ全身に広がってから身体を抜けていくというものだ。
通称りんご病。
当時失恋直後だった私は、この症状の流れを聴いてまるで恋みたいだと思ってしまった。
思うだけならまだ良かった。詩的な表現だと思い込み、したり顔で友達に話してしまったのだ。
それから私はりんごと呼ばれている。
不本意。とても不本意だ。
アップルパイから目を逸らしてもう一度ため息を吐く。今日は来年の事を考えるのはやめよう。
きっと帰ればこたつの中で丸まった猫が迎えてくれる。みかんでも食べてのんびりしよう。
猫の事を考えながら駅のホームに着いた瞬間、歌が聴こえてきた。
ずいずいずっころばし
ごまみそずい
茶壺に追われて
とっぴんしゃん
まさかの歌に驚いて歌の主の方を見ると、小学生くらいの女の子が歌っている。時代錯誤もいいところだ。アイプチをしてる子が歌う歌じゃない。
少し考えた結果、一つの可能性に思いあたる。そういえば最近、新作のゲームのCMで流れていた気がする。確か「群青色の異邦人」というホラーゲームだ。タイトルが絶妙にダサいけど、実話を基にしたとか何とかでSNSで話題だった。
冬にホラーゲームを出すなんてと思っていたけど、冬の夜に吊り橋効果を狙った商品だったのかもしれない。
電車に乗った際にそのホラーゲームの広告を見つけ、思わず感心してしまった。冬の電車にこんな広告を載せてしまう力の入れようが凄い。
吊り革にぶら下がりながらボーッと広告を眺める。ホラーゲームの世界か。私みたいな手弱女では生き残れないだろうな。
広告の中からダイヤのように瞳が輝くイケメンがこちらを見つめ返してくる。可哀想に。あなたもきっと死んじゃうのよ。
家の最寄り駅に着いた時には何か別の銀河に来てしまったような感覚になるくらい、ゲームの広告に見入ってしまっていたようだ。
さっきのイケメンに夢の中で会えるなら、あのゲームを買っても良いかもしれない。
うつけの考える夢物語のような事を想像しながら歩いていたら、後ろから肩を叩かれる。
「いきなりごめんね。何度か声を掛けたんだけど聴こえてなかったっぽかったから。これ君の?」
とかげのシールが貼ってある定期入れだ。可愛くデフォルメされたやつじゃなく、とてもリアルなとかげ。
昔からとかげが何故か猛烈に好きで貼っているが、引かれただろうか。
「有難うございます。」
少し居心地の悪い気分になりながら受け取って相手の顔を見る。
「とかげ好きなの?俺もピアスこんな感じ。」
顔とピアスを見た瞬間、ホラーゲームの事などすっかり頭から抜けてしまった。頬が紅潮していく。
ほら、やっぱりりんご病じゃん。
この病はこれから全身に広がっていくのだろう。そしていつか身体を抜けていくのだろうか。
そんな事、今は忘れてしまおう。
竹屋敷の手紙
『突然の手紙にさぞ驚かれた事と思いますが、まずは落ち着いて読んで下さい。この手紙は遺言です。
なぜこの手紙を書かねばならない事態になったのかは、非常に説明が難しいので割愛します。
これを読み終えた後にでも、届けてくれた人にお聴きください。ただ、その人も上手く説明出来ないとは思います。
不可思議な事とは重々承知していますが、私の死がどのように扱われるのかは私自身も承知しておらず、この手紙自体が遺言としての法的な有効性を持つ確証もありません。
故にここに記すのは、僅かばかりのお金が入ったあなた名義の通帳の所在と、私が死ぬという事実のみです。
どのような結末を迎えるにせよ、私はあなたと会えただけで十分に生を全う出来たと胸を張って言うことが出来ます。
いつまでもあなたの幸せを願う。』
通帳の場所のようなものも書かれていたが、敢えてその部分は読まないように読み終えて手紙を目の前の少女に返す。
少女は正座して俯いたまま特に何も言っては来ないが、僕に手紙を読ませたのはきっと顛末を知りたいからだろう。
「心中お察し致します。あなたの御祖父君はとても勇敢な御方でした。
手紙にも書かれている通り、あの状況を上手く説明する言葉は僕にも見つかりませんが、僕達は何かしらの怪異に巻き込まれました。」
さて、どう続けようか。
一瞬の逡巡の末に言葉を紡ぐ。
「半年程前、目が覚めたら薄暗い洞窟のような所の部屋にいました。
部屋の中には僕を含めて三人居たのですが、その中の一人があなたの御祖父君です。僕達は少し話した後、協力して外に出る事に決めました。」
あの時は酷く喉が渇いていた。
出されていた麦茶を飲み、喉を潤してから話を続ける。
「部屋の外からはたまに悲鳴が聞こえ、生きて帰れる保証がないと感じていた僕達は、あなたの御祖父君の提案で手紙を交換する事にしました。
意図は分かりませんが、部屋には便箋と封筒が用意されていたのですよね。
部屋の外でも色々ありましたが…。
最後の道で二つの分岐があったので、そこであなたの御祖父君と別れました。それが僕の知る最後の御祖父君の姿です。」
話し終えた後も少女は俯いている。
泣いているのだろうか。
こちらの用事は終わっている事だし、一人にしてあげた方が良いのだろう。
「それでは。お達者で。」
立ち上がり背を向ける。
「お名前をお聞かせ頂けませんか。」
掛けられた言葉に驚き振り向くと、少女が真っ直ぐこちらを見ていた。頬に涙の跡こそあるが、毅然としている。
「いえ、きっともうお会いする事もございませんので。」
見透かされるような視線から目を逸らし、僕は再び背を向ける。
「…手紙を届けて頂き有難うございました。」
恐らく座礼をしている。
僕にはそれを受ける資格はない。
振り返ること無く外に出た僕は、あまりに眩しい日の光に少しだけ憂鬱になる。
先程の少女が幸多き未来を歩む事を心から祈りつつ、僕は次へと道を急ぐ事にした。
群青色の異邦人
しばらく夢を見ていた気がする。
こたつの中で寝転びながらゴワゴワな毛並みの猫を撫でている夢だ。
猫は気持ち良さそうに喉を鳴らしている。良い気分だ。
猫がゴロゴロと喉を鳴らす音が徐々に大きくなっていく。猫も気分が良いのだろうか。喉を鳴らす音量の上昇はとどまる事を知らない。
さすがにうるさすぎだろう、と思った瞬間にハッと目を覚ました。
ここはどこだろう。
すぐ目の前には白髪の男性が盛大なイビキをかきながら寝ており、その頭に俺の手は置かれている。
もしかしなくても夢の中にいた猫の正体はこれか。あんまりだろう。
げんなりしながら身を起こす。どうやら直接地面に寝ていたようだ。
服の汚れが少し気になったが、それよりも薄暗いこの空間に全く身に覚えがない事に少しずつ恐怖が湧いてくる。
服の中のスマホを探したが見つからない。どこに行ったのだろうか。
改めて周りを見回すと、周りの壁は天然の岩で出来ているようだ。
窓はなく、光源は部屋の中央にある机に置かれた一つのランタンと壁に掛かっている四個のランプのみ。
まさに洞窟といった感じだ。
鉄製のドアが入口のようだが、鍵は開いているのだろうか。
改めて周りを見回すと、机の横には先程の男性の他に俺と同年代と思われる女性が一人寝ている。
二人とも全く記憶にない人間だ。俺は二人を起こして状況を確認する事にした。
「えーっと…二人共起きて下さい。」
机を指でコンコンと叩くと、まずは女性の方が身を起こしながらこちらを見て固まる。
「あー…っと。初めま…」
「誰!」
こちらの挨拶が終わる前に女性が遮る。仕方ない事だが大分怯えているようだ。
どう説明しようかと迷っていると、白髪の男性がむくりと起き上がった。
まず女性を見てから振り返ってこちらを見る。その眼光は思いの外鋭い。
「君は誰だい?ここは?」
夢の中で猫だった老人の視線に射竦められる俺。
「俺も気付いたらここにいたんですよ。俺は守田です。守田 武。ここがどこかは俺も分からないです。」
両手を広げて肩を竦めて見せると、白髪の男性の視線が少しだけ緩む。
「そうか。いきなり申し訳なかった。私は蔵元 護です。長い間弓野町で剣道場を開いていたのですが、今は隠居しています。」
弓野町か。白髪の男性の自己紹介に少し安心する。同じ町内在住だ。剣道場は確かにあった。
もう一人の女性も弓野町に住んでいれば、恐らくここは近所のどこかの可能性が高い。
「私は梶谷 りんごです。私は穂切に住んでいます。」
穂切か。弓野町ではなかったが女性の方も隣町に住んでいるようなので、ここは生活圏内のどこかなのだろうか。
「俺も弓野町です。お互い結構近所に住んでいるので、ここは近隣のどこかなんですかね。何かここに来るまでの事覚えてます?あと、ケータイとか有りますか?起きたら無くなっちゃってて。」
バイト帰りに原付を運転していた所までしか記憶がない。
「携帯電話機は持っていないね。元々あまり使わなかったから。
私は夕飯後にみかんを食べながら茶を飲んでいた所までしか覚えてないな。7時のニュースを見ていたのは覚えているんだが…。」
蔵元さんが周りを見回しながら言う。
改めてここがどこかを確認してる様子だ。
「私はアルバイトの帰りに電車に乗っていた所までは覚えてます。吊り革にぶら下がってうとうとしてて…気付いたらここにいました。スマホ、私のも起きたら無くなってました。」
梶谷さんは不安そうな顔でこちらを見ている。
「スマホはもしかして取り上げられたんですかね…。
俺もバイト帰りに原付を運転していた所までは覚えてるんですよね。ここに来るまでの記憶はみんな曖昧って事か。」
集められた目的が分からないが、ドッキリとも思えないしどう楽観的に見積もっても良い状況ではなさそうだ。
「便箋と封筒が机の上にある。ご丁寧に万年筆も数本用意されているね…。うん、書ける。」
蔵元さんは机の前に座り、試し書きをした後に封筒を手にする。
「何か封筒に…。」
言いかけて固まる蔵元さんに近寄って封筒を見た俺も、衝撃のあまり固まってしまった。
『遺言』とだけ書かれているそれを裏返すと、差出し人の名前は俺の名になっている。宛先は空白だ。
「ドッキリ…ですかね?」
精一杯声を絞り出す俺の後ろから梶谷さんが顔を出し、封筒を見て息を呑んでいる。
「ドッキリだと嬉しいね。けど私達の置かれている状況からすると、楽観視はしない方が良いかもしれない。」
蔵元さんは自身の名前が書かれた封筒を机に置き、宛名を書き始める。
「自分でも縁起が悪いとは思うけど、折角なので私は念の為書いておくよ。あなた達はまだ若いし、こんな事を言うのは非常に辛いのだけど…。」
振り返って俺達を交互に見ながら蔵元さんが続ける。
「もし残す相手がいるなら遺言を書いた方が良いと思う。この状況は私達を生かすつもりが無いのだろうと感じざるを得ない。
あのドアを出る前に心の準備を済ませよう。」
出口と思われるドアを指差した後、蔵元さんは再び封筒と向き合い何かを書いている。何でそんなに冷静なんだろう。ただの八つ当たりで蔵元さんに怒鳴りそうになる衝動を必死に堪える。
どこかで俺は殺される程の恨みを買ったのだろうか。勿論思い当たる人物はいないが、聖人君子とはとても言えない生き方をしてきたので無いとは断言出来ない。
けど罰として受け入れる事は俺には不可能だ。必ず生きて帰ってやる。俺は机の上にあった俺用の封筒を手に取り、勢いに任せて破り捨てた。
梶谷さんがそんな俺を少し怯えたような目で見ている事に気付く。泣いていた様子のその顔を見て、少し申し訳ない気分になった。混乱しているのは俺だけじゃない。
「ご家族や友人に残す言葉はなかったのかな。」
蔵元さんが怒るわけでも諭すわけでもない、静かな声で聴いてくる。
「勢いに任せて破いちゃいましたよ。こんな所で死ねるか!って気分になっちゃって。
冷静に考えたら、母親には何か残した方が良かったかもしれません。
俺をほとんど一人育ててくれたようなものなので、感謝してもしきれないし、何よりずっと俺を探すかも。」
母の事を思い出す。苦労しかかけた記憶がない。父は建築関係の仕事でほとんど家に帰らない人間だ。あまり思い出という思い出がない。
「…羨ましいですね。私の親は世に言う毒親で、一切良い思い出がありません。私が死んでも本当に何とも思わないと思います。
一重が気に入らないと言われてアイプチを強制されたり、うつけが!手弱女はこれだから!って小さな頃から言われ続けて。
言葉の意味はわかって無かったですけれど。
お腹を痛めた母親は絶対に子供が大切とか聞く度に辛かったです。世界に見捨てられたような気分でした。
なので誰に書き残そうと思ったのですけど、私は友人になりそうです。
辛い時にいつも入り浸っていたのですよね。新作のゲームを借りちゃってたので返さないと。」
ここで梶谷さんが俺を見る。
そういう親も居るというのは聴いていた。掛ける言葉を探す俺に梶谷さんは続ける。
「もし良かったら、私の封筒に守田さんの便箋も入れませんか?絶対書いた方が良いと思います。
住所を教えて頂ければ、私の友人に届けるようにお願いしておきますので。」
梶谷さんがとても親切な人で驚いてしまった。こんな人でも本当に殺されるものなのだろうか。
「何かすみません。色々と考えてしまいました。厚意に甘えさせて頂きます。俺達本当に殺されるのかな。」
俺の一言に少し梶谷さんの表情が曇り、余計な事を言ったと悟ったが、後の祭りだったので黙る事にする。
万年筆を手に取り、便箋に母親へ残すメッセージを考えてみた。
今から死にますじゃ自殺みたいだな。
旅に出てもう戻らない事にするか?うん、そうしよう。
万年筆なんて触るのも初めてだが、中々書き心地が良い。
「君達の遺言は私が預かろう。私の遺言は君達が持っていて欲しい。」
良い感じに仕上がり始めた所で、蔵元さんが声を掛けてくる。
そういえばそうだった。
自分の遺言を自分で持っていても届くわけがない。けど俺達全員を殺すつもりならなぜ遺言を書かせたのだろう。
まさか犯人が届けるつもりだろうか。
「恐らく我々の名前で遺言の封筒を残した事に、脅す以外の大した意味はないのだと思う。守田君のように破くのが普通だからね。
だから、我々は誰かが生き残ってメッセージを届けよう。」
蔵元さんは俺の心の疑問を読んだかのような事を言う。黙って頷く俺と梶谷さんを見て、蔵元さんは続ける。
「私には孫が居てね。
家内が亡くなってしばらくして息子夫婦が孫を置いて亡くなってしまったものだから、孫と二人暮らしをしているんだ。面倒を見るつもりで引き受けたんだが、今となっては逆に面倒を見られてる気分でね。」
蔵元さんが笑みを浮かべる。
「二度もあの子を一人にするわけにはいかない。私は死ぬわけにはいかないんだが…何より怖いのはあの子が何も知らないまま一人になる事だ。
置いて行かれたとは思わせたくない。
もし私に何かあった場合は必ず届けて欲しい。」
蔵元さんは俺と梶谷さんに向けて封筒を差し出す。
「もしもの時は必ず届けますが、絶対皆で生き残りましょう。」
俺が封筒を受け取り、梶谷さんは俺達の封筒を蔵元さんに差し出す。
「そうだね。皆で生き残ろう。」
蔵元さんは封筒を受け取り頷く。
ドアの外が明るいかは分からない。
俺が机の上のランタンを手に取ってドアに向かうと、蔵元さんは壁にあったランプを二個もぎ取り、一つを梶谷さんに渡した。これはさすがに俺達を連れてきた奴も予想しなかったろう。
少しニヤッとしてしまった。
皆でドアの前に立つ。
目を見合わせて三人で頷き、そのままドアをゆっくりと開いた。
とあるアトリエにて 緑