シロヒメの華麗なる転職なんだしっ☆

koyasumi

「うまのだいすきなぷりゅーりねっと♪ うまのだいすきなぷりゅーりねっと♪ とってもぷりゅぷりゅしてたのに~♪」
「なんですか『プリュリネット』って。あと『とってもぷりゅぷりゅしてた』って」
 白馬の白姫(しろひめ)の意味不明な歌に、今日もアリス・クリーヴランドは脱力させられる。
「音楽家なんだし」
「えっ」
「シロヒメ……」
 その目に真剣な光を宿し、
「転職しようと思ってるんだし」
「え……ええっ!」
 あまりに唐突な宣言に驚きの声をあげてしまう。
「転職って、あの転職ですか」
「他にどの転職があるし」
「ないですけど……白姫が転職?」
「ぷりゅ」
 うなずく。
「ぷりゅーわけで、音楽家なんだし」
「いやいやいやいや」
 思わず首を横にふる。とたんに白姫の目つきが険しくなり、
「なんだし。向いてないって言うんだし」
「向いてるとか向いてないとかじゃなくて、それ以前の問題ですよ」
「それ以前?」
「そうです」
 気持ちを落ち着かせ、あらためて聞く。
「なんで転職なんですか」
「当然そうなるし」
「当然そうなる……?」
「なるし」
 またもうなずく。
「えーと」
 戸惑いつつも、
「何か……不満があるんですか」
「ぷりゅ?」
「だって白姫は葉太郎様の……騎士の馬なんですよ」
 そうだ。白姫はアリスの仕える騎士・花房葉太郎(はなぶさ・ようたろう)の愛馬なのだ。
 それが転職ということは、つまり騎士の馬をやめるということに――
「そうだし」
「ええっ!」
 考えていたことを肯定されたと思い、悲鳴をあげる。
「シロヒメは騎士の馬だし」
「は、はいっ! 白姫は騎士の馬なんですから、だから……」
「騎士の馬は〝しごと〟じゃないし」
「えっ」
 思わぬ言葉に間の抜けた声がこぼれる。
「仕事じゃ……ない」
「ぷりゅぅ?」
 またも目つきが険しくなり、
「なんだし? アリスは騎士の馬を仕事だと思ってたんだし?」
「いえ、そういうわけでは」
 あわてて言いつつ、確かに「仕事?」という気はしてくる。
「騎士の馬は生き方だし」
 ぷりゅ。胸を張って言う。
「だから転職なんだし」
「あの……『だから』でつながってこないんですけど」
 そう言いながらも、これ以上深く聞くのはやめようと思い始めていた。白姫がおかしな発言をするのはいまに始まったことではないのだ。
「ミニシロヒメだし」
「えっ」
 またも唐突な言葉に目を見張る。
「ミニ白姫がどうかしたんですか」
「ぷりゅー」
 複雑そうな思いをにじませるように眉を寄せ、
「はじめてのお使いなんだし」
「はい?」
「この間、ミニシロヒメがお使いしてたんだし」
「そうなんですか」
 知らなかったので素直に驚く。
「すごいですねー。あんなにちいさいのにお使いなんて」
「すごいんだし」
 複雑な表情のまま「ぷりゅ」とうなずく。
「まさに『愛と青春のぷりゅ立ち』なんだし」
「いや、そのたとえの意味はわかりませんけど……」
 軽く口もとをひくつかせるも、すぐはっとなり、
「あっ、それでなんですか? 白姫が転職なんて言ったりしたの」
「ぷりゅー」
 不機嫌そうにそっぽを向く。
 それだけで、それなりに付き合いの長いアリスには図星なのだとわかった。
「そんな、気にすることないじゃないですか。……まあ、確かに、白姫は遊んでばっかりですけど」
「だから転職なんだし!」
 声に力をこめる。アリスはひるみながらも、
「それで……音楽家?」
「ぷりゅ」
 うなずく。と、すぐさま自慢げに、
「ほら、シロヒメ、才能あるからー。基本どんな仕事でもできるからー」
「はあ……」
 才能があるのは確かだ。というか白姫は馬離れしてなんでもできてしまう。
「その才能をもっといいことに使ってください……」
「ぷりゅ?」
「あっ、いえ、なんでも」
 あわてて首を横にふる。
 一方、白姫は得意げに言葉を続け、
「まー、その中でも『シロヒメちゃんと言えば歌?』みたいなところあるからー。結局、消去法的なカンジでー」
「そういうのは消去法とは言わない気がしますけど」
 弱々しくツッコミを入れた後、
「それで……どうするんです」
「ぷりゅ?」
「いえ、あの、いきなり音楽家になるといっても簡単には」
「なれるし」
 なんのためらいもなく言う。そして、
「あーあ~、ぷりゅのながれのよーに~♪ ぷーりゅーやーかに~♪」
「ええっ!?」
「シロヒメ、ひばりちゃんみたいになるんだし」
「えっ、あの……」
 完全にあぜんとなりつつも、
「だ、だから、なると言ってなれるものじゃないんですよ!」
「なれるし」
 そして、さらに、
「うまもーぴあのがー、ひーけーたなら~♪」
「えええっ!?」
 どこからともなく取り出した小さなピアノを弾き始められ、さらにあぜんとなってしまう。
「弾ける! 弾けるんだし! シロヒメにもピアノが弾けるんだし!」
「いや……あの……」
 あぜんを超えてぼうぜんとなりながら、
「な……なんなんですか」
「シロヒメ、実は、しんそーの令嬢だったんだし」
「はあぁ!?」
 深窓の令嬢――どころか毎日元気いっぱいわがままいっぱいなのだが。
「しんそーの令嬢なシロヒメは、事故でピアノを弾けなくなってしまったんだし。ヒヅメから音楽が失われてしまったんだし」
「は、はあ……」
「それでも、消えることのない音楽への想いが奇跡を起こしたんだし!」
 ドラマのように大げさな身ぶりで、
「だから音楽家なんだし!」
「白姫の『だから』は唐突すぎますよ……」
 力なく言うしかない。
「ぷりゅーひー、ぷりゅのなーか~♪ うまさーんにー、であーった~♪」
「だから、唐突すぎます!」
「ぷりゅぷりゅー、ねむーる~♪ ぷりゅーしゃと~♪」
「なんですか『プリューシャトー』って!」
 白姫は満足げに、
「完璧なんだし」
「何がどう完璧なのか……」
「『ちいさなぷりゅのメロディ』なんだし」
「はあ……」
「プリュン・ウマボルタだし」
「だから、なんなんですか、それは! あと急にジャンルが違いますよ!」
 ただただ脱力するしかない。
「ぷりゅーわけで、さっそく音楽家として……」
「えっ!? あ、あの、ちょっと」
 歩き出した彼女をあわてて止める。
「どこへ行くんですか」
「新曲発表までのスケジュール打ちだし」
「誰とですか! 早すぎますよ!」
「そうだし」
 当然だとうなずき、
「シロヒメ、速いんだし。馬だから」
「そういうことを言っているわけでなくて……」
「そうだし!」
 ピン! 白姫の耳が立つ。
「速さだし!」
「な、なんですか?」
「だから、速さだし。馬といえば速さなんだし」
「はあ……」
「馬は速くないって言うんだし?」
「そっ、そんなこと言ってませんよ」
 またもにらんでこられ、あわてて首を横にふる。
「やっぱり速さを活かしたことを考えるべきなんだし。そこに馬らしさが出るんだし。仕事に良さがプラスされるんだし」
「そうですか……」
「速いことっていうと……ギターの速弾き?」
「できるんですか!?」
 白姫ならできてしまいそうだが。
「あっ、音楽だけにこだわることはないんだし。速さが必要とされる仕事はいっぱいあるんだし。歌うシロヒメも魅力だけど、さっそうと駆けるシロヒメもとっても魅力的なんだし~❤」
「白姫……」
 もはや相づちを返すこともできなかった。

「ぷりゅ用ですから」
「う……」
 電車の駅員の帽子をかぶり、きりっとした表情を見せる白姫。
 アリスはただただあぜんとなるしかない。
「な……なんなんですか、それは」
「ぷっぷ屋だし」
「ぷっぷ屋!?」
「そうだし」
 ぷりゅ。うなずき、
「消えゆく馬車を見送る駅員さんなんだし。渋いしー」
「渋いんですか、それは……」
「はーくばーははしるーよ~♪ どーこまーでーも~♪」
「それは駅員さんじゃないじゃないですか」
「ぷりゅり途中下車の旅だし」
「だから、駅員さんじゃないじゃないですよ!」
 それらのツッコミをさらり受け流し、
「馬といえば馬車なんだし。実際いま馬車は消えかけてるんだし」
「確かに……日常で見ることはなくなりましたね」
「そうなんだし」
 ぷりゅぷん、と鼻を鳴らす。
「人間は勝手なんだし。馬は人間のためにとってもがんばってきたんだし。共に歴史を歩んできたんだし」
「そうですよね……」
「なのに自分たちの都合で馬を切り捨ててるんだし。車とか、電車とか、自転車とか、そういう乗り物ばっかり乗って。ひどいんだし」
「はあ……」
 胸がかすかに痛む。
「だから、ここはシロヒメが華麗に転職して! 馬がどれだけすごいかっていうことを見せつけないといけないんだし!」
「そ、それは……」
 そうなるとさすがにそのままうなずけなくなる。
 馬の大事さを伝えるなら、別に転職する必要はないのでは……。そもそも、白姫は何の職にもついていないわけで、それなら『転職』ではないのではないかと――
「ぷりゅーっさ、ぷりゅーっさ、ぷりゅっさほーいさっさ~♪」
「えっ!?」
「はーくばーのかーごやーは、ぷーりゅさっさ~♪」
 またも突然歌い出され、
「な……なんなんですか」
「白馬のかご屋だし」
「ええっ!?」
 当たり前だろうという顔で、
「よく考えたら、昔は人間と馬とがもっと仲良しだったんだし。だから、乗り物も昔の乗り物がいいんだし」
「確かに昔の乗り物ですけど」
 それがいい? とはならないのではないかと……。
「じゃあ、逆に新しくするし」
「逆に?」
「シロヒメ、なんでもできるんだし」
 何でもできるのはわかってる――と言う間もなく、
「となりのぷーりゅりゅ、ぷーりゅーりゅ~♪ ぷーりゅりゅー、ぷーりゅーりゅ~♪」
「えええっ!?」
 またも歌い出され、
「なんなんですか、今度は!」
「うーまーのなーかにー、むかしからすんでる~♪」
「なんですか『馬の中に』って! というか馬そのものですよ、白姫は!」
「そうなんだし」
 ぷりゅ。まじめな顔で、
「あれ、あるんだし。はとバスって」
「それは……ありますけど」
「はくバスなんだし」
「はくバス!?」
「そうだし」
 ぷりゅ。うなずき、
「なんで、あれ、鳩じゃないといけないんだし? 白馬だっていいはずなんだし」
「それは……そうかもしれませんけど」
「だから、はくバスなんだし」
「はあ」
 もはや何を言えばいいのかという……。
「シロヒメ、てんじょーいんになるし」
「はああ!?」
 またもいきなりの発言に、
「なんでですか!」
「だから、はくバスなんだし」
 鼻を鳴らし、
「バスには、てんじょーいんがいるし」
「それは……いることもあれば、いないこともあるというか」
「いるし」
 自信満々にうなずき、
「シロヒメはかわいいんだし」
「はあ……」
「だから、てんじょーいんなんだし。みんながよろこぶし」
「は、はあ……」
「シロヒメ、はくバスにぷりゅばーゆするんだし」
「なんですか『ぷりゅばーゆ』って!」
「あっ、ぷりゅワーデスでもいいんだし」
「ぷりゅワーデス!?」
「快適な空の旅をお約束するんだし。空を行く白馬なシロヒメはまさにペガサスなんだし」
「いや、いまはぷりゅ……スチュワーデスとは言わないんじゃ」
 弱々しくツッコむも、やはり届かない。
「そうなると美容にも気をつかわないとだしー」
「美容……」
「はくバスのてんじょーいんやぷりゅワーデスはみんなに見られるんだし。見た目を意識するのは当たり前だし」
「そうかもしれませんけど」
「というわけで、アリス、お金出すし」
「ええっ!?」
「ほらほら、さっさと出すしー」
 ぷりゅぷりゅ。不良の恐喝のようにからんでこられる。
「なんでですか! なんでお金を出さないといけないんですか!」
「とーぜんだし」
 ぷりゅ。うなずき、
「アリスだからだし」
「どういうことですか!」
「まー、アリスはしょせんアリスだからー。シロヒメにお金を出すことですこしは世の中の役に立てるっていうかー」
「なんてひどいことを言うんですか……」
 涙目になってしまう。
「というか、なんでお金が必用なんですか」
「必要だし」
 鼻先をつんとそらし、
「いいオンナにはお金がかかるんだし」
「ええぇ~……?」
「それに加えてシロヒメは馬なんだし。馬にはお金がかかるんだし」
「それは……」
 その通りだ。現代で馬と共に暮らすにはそれなりの資力というか財力が必要ではある。
「というわけで、お金出すし」
「や、やめてください、そんなおどし取るみたいな言い方は。それに、自分、従騎士ですからそんなにお金は」
「確かにその通りなんだし」
 すぐに納得したようにうなずく。
「アリスのアホ顔を見れば、お金がないことはいちもくりょーぜんなんだし」
「アホじゃないです」
 そこははっきり否定するも白姫は平然と、
「お金がないからそんな顔なんだし。エステにも行けないんだし」
「エ、エステ?」
「そうだし。シロヒメ、もともとかわいいけど、やっぱりエステとか行って美白に磨きをかけたほうがいいんだし」
「はあ……」
 馬がエステ――来られた店のほうも何をどうしていいかわからなくなりそうだが。
「なんだし? 馬がかわいくなっちゃいけないって言うんだし」
「そんなこと言ってませんよ……」
「とにかく、お金を稼がないといけないんだし」
「あ、あの」
 またもおかしなことになりそうだと、
「稼ぐって……というか、そのために転職とかってあるんじゃ」
「ちゃんとした転職をするためにはお金が必用だし」
「そうなんですか……」
「まー、とりあえず、OLやるしー」
「OL!?」
 またも思いがけない単語が飛び出してくる。
「OLで地道に稼ぐし」
「地道って……」
 馬がOLをやること自体、地道からかけ離れているのだが。
「シロヒメ、仕事に生きるんだし。プリュジット・ジョーンズなんだし」
「なんですか『プリュジット』って!」
「ぷりゅー」
 たちまち不機嫌そうな顔になり、
「なんだし? シロヒメはOLになれないって言うし?」
「それは……」
 その通り――なのだが、そのまま言ったらヒヅメが飛んでくるのは確実だ。
 と、こちらが口を開くより先に、
「だったら、いいし」
「えっ」
「シロヒメ……」
 表情が不意にすごみを帯び、
「悪の道に入るし」
「えーーーっ!」
 あまりにもまた唐突すぎる宣言に悲鳴をあげる。
「な、なんでそういうことになっちゃうんですか!」
「そういうことになるし」
 ぷりゅ。鼻を鳴らし、
「普通に働けないなら、悪の道に入るしかないし」
「極端すぎますよ、白姫の言っていることは!」
「シロヒメ、白い悪馬になるし」
「白いアクマ!?」
 とんでもない発言に絶叫してしまう。
「なんなんですか、それは!」
「シロヒメ、白馬なんだし。白いんだし。だから悪くなったら白い悪馬なんだし」
「いや、その言い方が」
「何かおかしいし? 悪い人間のことは『悪人』って言うし。だから悪い馬だと『悪馬』になるんだし」
「それはそう……なのかはよくわかりませんけど」
 ひとまずそんな細かいことより先にと、
「悪いことって、な、何をするつもりなんですか?」
「ぷっりゅっりゅっりゅっりゅっ……」
 ワルっぽいふくみ笑いをもらす。
「落書きだし」
「えっ」
「町中の車に落書きして回るんだし。シロヒメ、悪いオンナだしー」
「は、はあ……」
「あと、電車にも落書きするし。あっ、自転車とかにもだし。『落書き禁止』って落書きで書くんだし。おもしろいしー」
「なんだか、乗り物に偏っているような」
「とーぜんだし」
「やっぱり、乗り物への恨みが……」
 せいぜいイタズラ程度の悪事のようでほっとしかけるが、やはりそれでもいけないと頭をふる。
「あ、あの、そういうことは」
「何を言っても無駄だし。シロヒメ、悪の道に入るって決めたんだし」
 眼光するどく言ってのける。
「けど、そもそも、お金のために悪いことをって話だったんじゃないんですか」
「ぷりゅ?」
「いくら落書きしても、それでは一円にもならないんじゃ」
「ぷりゅ!」
 白姫の耳がぴんとなり、そしてあたふたと、
「なに言ってんだし! それは……な、なんとかなるんだし!」
「ならないと思いますけど」
「なら、アリスがなんとかするし!」
「なんでですか!」
「シロヒメが落書きしていったら、アリスがあとでちゃんと消していくという……」
「それは普通にいいことじゃないですか! 悪いことをやってる意味がありませんよ!」
「それだし!」
「えっ」
 またも唐突に、
「いいことなんだし! 悪いことがだめならいいことするんだし!」
「はあ……」
 悪の道に入るなどと言われるより何倍もマシだが。
「ぷりゅ」
「えええっ!?」
 装着した〝それ〟に驚きの声をあげる。
「なんでですか! やっぱり悪の道じゃないですか!」
「ぷりゅ?」
「だって、そんな……サ、サングラスなんて!」
 白姫が突然取り出して顔につけたのは、いかにもなサングラスだった。
 もちろんサングラスをつけた者が悪人とは限らないが、アリスとしてはどうしてもそっちにイメージが行ってしまう。
 馬につけられるサングラスがあるということも気にはなるのだが。
「と、とにかくやめてください、そんなこと!」
「なんでだし。これがないと始まらないし」
「ええっ!?」
「シロヒメ……」
 サングラスの向こうの目がキラーンと光り、
「白馬警察を結成するんだし!」
「えーーーーーーっ!?」
 ハクバ警察!? それが何なのかと聞く間もなく、
「というわけで、アリス、行ってくるし!」
「えっ? い、行くってどこに」
「決まってるし」
 物わかりが悪いと言いたげに、
「団員だし」
「は?」
「団員を集めてくるんだし! 選ばれし白馬警察の団員たちを!」
「ちょっ……」
 あまりに唐突かつ滅茶苦茶な要求に、
「団員って……ど、どこにいるんですか!?」
「そんなの、アリスが探してくるし」
「無理ですよ! 見つかりませんよ!」
「なに言ってんだし。結成前に弱音はいてんじゃねーし」
「そもそも、その白馬警察というのがどういうものか……」
「白馬警察は、精鋭の白馬だけで結成された警察なんだし」
 ぷりゅ。誇らしげに鼻を鳴らし、
「社会の悪にかんぜんと立ち向かうんだし。まさに『ぷりゅの軍団』なんだし。カッコいいしー」
「なんですか『ぷりゅの軍団』って」
 そのあり得なさに頭をくらくらさせつつ、
「む……無理ですから」
「だから、結成もしてない前からあきらめてんじゃねーし!」
「結成がそもそも無理ですよ! どこにそんな一緒に警察やってくれるなんていう白馬がいるんですか!」
「それを探してくるのがアリスの仕事だって言ってんだし」
「無茶を言わないでください!」
「いいからとっとと行ってくるし。他にもやらなきゃいけないことはたくさんあるんだから」
「他にも?」
「そーだし」
 いら立ちをにじませ、
「素ヒヅメで警察はやれないし」
「なんですか『素ヒヅメ』って。『素手』ってことですか」
「とにかく、ぶそーがいるんだし」
「武装!?」
「当たり前だし。凶悪な犯罪者に立ち向かわなきゃいけないんだから」
「武装なんて……そ、そんな物騒なことを言わないでください」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「なに、さらっとダジャレ言ってんだし。ウケ取ろうとしてんじゃねーし」
「してませんよ!」
「やっぱりアリスはあてになんねーし。ここはシロヒメが行くしかないし」
「えっ! どこに……」
「だから武装だし。街に出てちょーたつしてくるんだし」
「ちょっ……やめてください!」
「うるせーし!」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「白馬警察、しゅつどーなんだしーーっ!」
 パカラッ、パカラッ、パカラッ!
「ま、待ってください、白姫ーっ! 武装なんて普通にだめですよーっ! 白姫―――――――っ!」

「ぷりゅー」
 不満そうに白姫の頬がふくらむ。
「なんで街にはないんだし、馬のための武装が」
「ないですよ、普通は」
 ぐったりとアリスが言う。
「というか誰も求めてませんから、馬の警察なんて」
「なんてことを言うし!」
 ぷりゅ! ますます頬をふくらませ、
「馬が警察をやるから意味があるんだし!」
「そうですか……?」
「そうだし!」
 力いっぱいうなずく。
「馬は賢いし。それに人間じゃないから、人間社会のよくぼーに負けて正義を忘れてしまったりしないんだし」
「あ……なるほど」
 しかし、それより先に気になるのは、
「また最初の目的を見失ってしまっているような気が」
「ぷりゅ?」
「だから、その、お金ですよ。お金を稼ぐことが目的だったんですよね、白姫の」
「ぷりゅ!」
 またも白姫の耳が立つ。
「お金は……だから正義を守る白馬警察に感謝したみんながくれるんだし」
「そうなりますかね……」
「なるし! だから、そのお金で武装を」
「武装はその前にしないといけないんじゃないんですか? いや、本当はしないでくれるのが一番いいんですけど」
「ぷりゅりゅりゅりゅりゅりゅ……」
 困ったような鳴き声がもれ始める。
 と、不意にそれが静まり、
「……社会が悪いし」
「えっ!?」
「そうだし、そうなんだし!」
 またもその目に火がつき、ヒヅメがダン! と踏み鳴らされる。
「いまの社会は馬に優しくないんだし! まずは社会を変えなくてはいけないんだし!」
「ちょっ……おおげさすぎますよ、言っていることが」
「おおげさじゃないんだし」
 声に力がこもり、
「革命だし」
「革命!?」
「そうだし。シロヒメがトップに立ってこの国を変えるんだし」
「えーーーーっ!?」
 あまりにまたとんでもない発言が飛び出し、今日何度目になるかわからない悲鳴をあげてしまう。
「トップにって……何をするつもりですか」
「決まってるし」
 ぷりゅり。またも不敵に笑い、
「出馬だし」
「えっ」
「だから、シロヒメ、出馬するんだし!」
 堂々と胸を張って言う。
「シロヒメ、馬の代表として国政に打って出るんだし!」
「えーーーーーーっ!」
 立て続けの叫び声がこだまする。
「国政って……つまり選挙ってことですか!?」
「だから、出馬って言ってるし。まー、シロヒメの場合、文字通り出〝馬〟なんだけど」
「そこは気にしていませんが……」
「だから、何の問題もないということなんだし」
「いや、問題はありますよいっぱい!?」
 あわてて言うも、まったく構わず、
「まー、とりあえずは馬議選から始めるしー」
「なんですか『バギセン』って!」
「馬議員を決める選挙だし」
「ないですよ、そんな選挙!」
「あるし。衆議院、参議院、馬議院と」
「だからないです、そんな議員も議院も!」
「シロヒメ、ぷりゅぷりゅ党から出馬するんだしー」
「なんですか『ぷりゅぷりゅ党』って!」
「略して『ぷ党』だし」
「ぷ党!?」
「与党、野党、ぷ党と」
「ありえませんよ、そんな並び!」
「あるし!」
 ツッコミを強引に押しのけ、
「シロヒメ、しょーらいは大統領になるんだし」
「大統領!?」
 あまりに想像を超えた野望にがく然となる。
「シロヒメが……大統領ですか」
「そうだし」
「馬が大統領って」
「世界初だし」
「世界初には違いありませんけど」
「正確には、ぷりゅ統領だし」
「なんですか『ぷりゅ統領』って!」
 どうしようもなく声を張り上げてしまう。
「シロヒメ、ぷりゅ統領として、馬に優しい政治を目指すんだし。ぷりゅシズムを推し進めるんだし」
「ぷりゅシズム!?」
「そうだし」
 ぷりゅふむっ。知的そうにうなずき、
「略して、ぷシズムだし」
「なんですか、その物騒な響きは」
「馬をかわいがらないと即刻しけーだし」
「やめてください、やっぱりそんな物騒な政治方針!」
「シロヒメをかわいがらなくても、もちろんしけーだし」
「何が『もちろん』ですか! 厳しすぎます!」
「あー、アリスに法廷で『しけー』って言ってみたいしー」
「なんで死刑にされちゃうんですか! あと、大統領と裁判長がごちゃ混ぜになってます!」
 だめだ! やっぱり白姫が政治家や大統領なんてことは絶対に考えられない。まあ、現実にも不可能だとは思うのだが。
「あの……」
 それでも気をつかいつつ、
「ちょっと難しいんじゃないんですかね……」
「難しくないし。シロヒメ、かわいいし。あと、賢いし」
「その、かわいくて賢くても、それだけで大統領になれるとは」
「ぷりゅー」
 眉根にしわが寄り、
「やっぱりアレだし? 実弾ってやつがないと勝てないし?」
「なんですか、実弾って」
「お金だし。そういう裏金をバラまいて選挙を……」
 そこではっとなる。
「またお金だし! 何をやるにもお金がかかってしまうんだし!」
「それは……ある程度はそうかもしれませんね」
「こうなったら強引な手段で行くしかないし」
「えっ」
 またも不穏な言葉に顔色を変える。
「こ、今度は何を……」
「将軍になるし」
「は!?」
「軍をしょーあくするんだし!」
 ダン! と荒々しくヒヅメを踏み鳴らし、
「軍の力をもって政権をひっくり返すんだし! ぷーデターなんだし!」
「なんですか『ぷーデター』って!」
 言葉の意味不明さに反射的にツッコんでしまうも、内容そのものがとんでもないということに気づき、
「や、やめてください、そんなことは!」
「そうでもしないと人間社会は変わらないんだし。馬が大統領になれる日は決して来ないんだし」
「それはそうかもしれませんけど、でもクーデターなんて」
「ぷーデターだし」
「違いはまったくわかりませんが、とにかくやめてください!」
 必死に声を張り上げていると、
「ぷりゅ」
 不意ににらまれる。
「知られてしまったんだし……」
「えっ」
「アリスに知られてしまったし。ぷーデターのことを」
「い、いや、知られたも何も、白姫がほぼ一方的に話してきたんじゃ」
「うるせーし!」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「こうなったらアリスの口を封じるしかないんだし」
「や、やめてください、暴力は!」
「やめないし」
 じりっ。近づいてくる。
「これも馬が馬らしく暮らせる国を作るためだし」
「やめてください! 本当にやめてください!」
「ぷっりゅっりゅっりゅっりゅっ……」
「白姫!」
 たまらず、
「む……無理ですよ!」
「ぷりゅ?」
 ヒヅメが止まる。
「何が無理だと言うんだし」
「だから、ク……ぷーデターがです!」
「ぷりゅ!」
 たちまち怒りをみなぎらせ、
「無理ってどういうことだし! シロヒメに軍をとーせーするしどー力がないって言ってるんだし!?」
「そうではなくて……というかそれ以前に」
 核心を突く。そんな一言を口にする。
「どうやって軍隊に入るんですか」
 口ごもる――かと思いきや平然と言う。
「軍馬としてだし」
「軍馬!?」
「そうだし」
「いえ、あの」
 またもおそるおそる、
「いまの時代に、その……軍馬ってなかなかいないんじゃ」
「そうなの?」
「はい……」
「だったら、いる時代に戻るし」
「は?」
「そうだし、あそこがいいし」
 またも瞳に炎を燃やし、
「戦国時代だし!」
「えーーーーーーっ!」
 もはや、どこをどう驚いていいのかもわからない。
「な、なんで、そうなっちゃうんですか!」
「なるし」
 ぷりゅ。自信満々にうなずき、
「戦国時代はいまより馬を大事にしていた時代なんだし」
「それは……たぶんそうですけど」
「だから、戦国時代なんだし。戦国時代に行って軍馬になるんだし。そして、将軍になるんだし」
「いや、あの」
 荒唐無稽すぎる――というか戦国時代では〝将軍〟の意味が違ってきてしまう。
「シロヒメ、あの時代に合ってると思うし。馬は食わねどぷりゅ楊枝だし」
「なんですか『ぷりゅ楊枝』って」
 そんなことよりもと根本的な疑問を口にする。
「大体どうやって戦国時代に行くんですか」
「メカ白姫がいるし」
「あ」
 そうだった。いまアリスたちが暮らしている屋敷には未来の世界の馬型ロボット・メカ白姫がいるのだ。
「でも、軍馬にはなれても、そこから将軍には」
「なれるし」
 またも自信たっぷりにうなずき、
「影武者だし」
「は?」
「正確には影〝馬〟者だし」
「なんですか『カゲマシャ』って!」
 意味がわからない――という当然のツッコミをヒヅメを恐れて言えないでいると、
「シロヒメ、将軍の馬になるんだし。すると、将軍が討ち死にするんだし」
「あ、あっさりしすぎてませんか、ご主人様の悲劇に」
「討ち死にしちゃった将軍に変わって!」
 こちらの指摘を押しのけるように声に力をこめ、
「愛馬のシロヒメが身代わりの影馬者になるんだし!」
「う……」
 どうすればそういう発想に行きつけるのだろう。
「あの、影武者ってそういうものじゃなかった気がしますけど」
「そういうものだし」
 ぷりゅ。自信まんまんにうなずく。
「シロヒメが将軍の代わりとなって軍をとーそつするんだし。天下とーいつするんだし」
「いやいやいや……」
 たまらず首を横にふり、
「やっぱり、どう考えてもいろいろ無理ですから」
「ぷりゅ」
 カチン。こめかみに青すじが浮かび、
「ぷりゅーっ」
 パカーーーーン!
「きゃあっ」
 またも容赦なく蹴り上げられる。
「だから、やめてください、暴力は!」
「いいんだし。将軍だから」
「将軍でももっと優しくしてください! 部下がついていけませんよ!」
「ぷりゅ!」
 はっと目を開く。
「確かに、ある程度の優しさは必要なんだし」
「そうですよ……」
「まー、アリスに対しては一切必要ないけど」
「なんでですか!」
 涙目で叫んでしまう。
「というわけで、さっそく戦国時代で影馬者に」
「や、やめてください! 歴史を変えないでください!」
「変えるし。馬の愛される未来を作るんだし」
「それは現代のいまここから目指せば……ってだから行かないでくださーーーい!」

「ぜつぼーしたし」
 暗い目で白姫が言う。
「馬的に言うと、ぷりゅぼーだし」
「なんですか『ぷりゅ望』って」
 反射的にツッコんでしまうが、メカ白姫にタイムスリップを断られて落ちこんでいる彼女を前に強くは言えないアリス。
「シロヒメは転職できないさだめなんだし」
「さだめって……」
 難しいということは事実かもしれないが。
「決めたし」
「えっ」
 またも唐突な言葉にあわてて、
「こ、今度は何を決めたんですか」
「やめるし」
「え……」
 顔がほころびかけるも、あわててそれを抑える。見とがめられて、また機嫌をそこねられては大変だ。
 しかし、心配は杞憂だったようで、こちらを見ることなく暗い目のまま、
「シロヒメ、やめるんだし」
「そ、そうですね。白姫はいまのままで」
「世をはかなむし」
「えっ!」
 とんでもない発言に一気に青ざめる。
「ちょっ……ど、どういうことですか、それ!」
「そのままの意味だし」
「そんな……」
 完全に血の気が引き、
「やめてください、そんなことぉっ!」
「ぷりゅ!?」
 いきなり抱きつかれた白姫が驚きの声をあげる。
「なんでそういうことになっちゃうんですか! 白姫は極端すぎます!」
「ぷ……ぷりゅ?」
「白姫が……白姫がそんな……」
 あふれる涙で顔をびしょびしょにしながら、
「自分、白姫にはいろいろと思うところがあります。それでも白姫は友だちです。そんな白姫がそんな……そんなぁぁぁぁ!」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 涙と鼻水をまき散らしてアリスが吹き飛ぶ。
「なっ、何をするんですか!」
「アリスが気持ち悪い顔で抱きついてくるからだし。だからパカーンしたし」
「しないでください、パカーンを!」
 あらたな涙をため、
「なんでこんなことをするんですか! 自分、白姫を心配したのに!」
「心配?」
 首をひねるも、すぐに納得したという顔で、
「まー、わからないではないし。シロヒメ、かわいいから。シロヒメに会えなくなっちゃうのは世界の損失だから」
「そういうことではなくて普通にだめですよ……世をはかなむなんて」
「とにかく決めたんだし。シロヒメ、世をはかなんでシロヒメだけで生きるし」
「だから、世をはかなんで生きるなんてこと……」
 はっとなる。
「世をはかなんで……生きる?」
「そーだし」
 ぷりゅ。うなずかれる。
「いえ、あの……生きちゃうんですか」
「どーゆーことだし」
「どういうことか聞きたいのはこっちなんですけど。普通『世をはかなむ』って言うのは生きるんじゃなくて死んじゃうことで」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「なんてこと言ってるし。シロヒメが死んじゃうわけねーし」
 と、息を飲み、
「まさか、アリス、ずっとそういうこと考えてたんだし? シロヒメのかわいさに嫉妬して」
「考えてないですし、嫉妬してないです!」
 とっさに声を張り上げるも、すぐにあたふたと、
「えっ、じゃあ、どういうことですか? 白姫の『世をはかなむ』ってどういう」
「そんなの決まってるし」
 言う。
「仙人になるんだし」
「……は?」
 目が点になる。
「せ……仙人?」
「正確に言うと、仙馬だし」
「いや、それはどっちでもいいんですけど」
「どっちでもいいわけねえし」
 ぷりゅ。不機嫌そうに鼻を鳴らし、
「こういうアリスみたいに馬に理解のない世間から離れるんだし。シロヒメ、世をはかなむんだし」
「あ……」
 そういう意味で――と納得しかけるもすぐに頭をふり、
「いや、それは普通『世をはかなむ』とは言いませんから」
「そーなの?」
「そうです。聞いた人が驚きますから」
 軽く釘を刺した後、あらためて、
「それで、なんで仙人……仙馬なんですか」
「だから、社会にぜつぼーしたからだし」
 重々しくうなずき、
「人間社会はなんでもお金なんだし。とっても馬の暮らしにくいところなんだし」
「それは……」
 言葉に詰まる。
「だから、シロヒメ、仙馬になるんだし。このあわただしい俗世を離れて、静かに暮らすんだし」
「は、はあ……」
 とっさに反論する言葉が浮かばない。
 確かに、おかしな仕事をして騒ぎを起こすよりは静かにしてもらったほうがいいのだが。
「でも……」
「ぷりゅ?」
「なれる……んですか」
「どういうことだし」
「いや、その、仙人って簡単になれるものじゃないんじゃ」
「そーなの?」
「だいたいシロヒメは知ってるんですか、実際に仙人……仙馬を」
「知ってるし」
 すぐさまうなずく。
「月にいるし」
「は?」
「有名なんだしー」
 昼ではあったが空を見上げ、
「月の上では白馬が餅をついているという……」
「それって、ウサギじゃないんですか!?」
「同じことだし」
「同じじゃないですよ……」
「ウサギはニンジンが好きだし。馬もニンジンが好きだし。同じだし」
「それは同じですけど」
「ウサギはかわいいし。馬もかわいいし。同じだし」
「はあ……」
「ウサギは白いんだし。お餅と同じなんだし。白馬も白いんだし。だから、餅をついていいんだし」
「それは……そういうことになるんですか」
「なるし」
 変わらず自信たっぷりにうなずかれる。
「というわけで、シロヒメもぷりゅぷりゅ仙人として月に行くし」
「ぷりゅぷりゅ仙人!?」
 仙馬だったのでは? とツッコむ間もなく、
「じゃあ、さっそく行くしー。仙人パワーで……」
「なんですか、仙人パワーって!」
 どうしようもなく声を張り上げ、その勢いのまま、
「待ってください! 白姫はまだ仙人になってませんよ!」
「大丈夫だし、すぐになれるから。才能あるから」
「なれたとしても……」
 いっそう声を張る。
「自分たちとお別れしちゃってもいいって言うんですか!」
「ぷ……!?」
 瞳がゆれる。
「白姫が世間から離れて月に行っちゃうってことは、つまり自分や葉太郎様たちと会えなくなっちゃうってことですよ!」
「ぷりゅ!」
 主人である花房葉太郎(はなぶさ・ようたろう)の名前を出され、跳ね上がる。
 それでも動揺を隠そうと、
「な、なに言ってんだし。ヨウタローたちが会いに来ればいいんだし」
「いや無理ですから、月までは」
「だったら、みんな仙人になればいいんだし! シロヒメみたいに!」
「そんな……無理を言わないでください」
「ぷりゅぅ……」
 たちまち力なく眉が下がる。
「……無理なんだし?」
「無理です」
 きっぱり。言う。
「白姫……」
 こちらも眉尻を下げ、
「もうすこし……普通にできませんか」
「ぷりゅ?」
「だから、その」
 言葉を選びつつ、
「もうすこし地道と言いますか」
「地道?」
 つぶやくも、すぐにぷりゅっとそっぽを向き、
「シロヒメに地道とか向かないんだし。シロヒメ、すごくかわいいから。普通じゃなくかわいいから」
「さっきは地道にOLとか言ってたじゃないですか」
 それが、なぜこうなってしまったのか……。
「地道にこつこつがんばってる人たちはたくさんいますよ」
 懸命に言葉を続ける。
「そういう人たちは大変なことがあっても簡単には投げ出しません。そんな生き方のほうがカッコイイと思いませんか?」
「ぷりゅ……!」
 瞳がゆれ始める。
「ぷりゅりゅりゅ……地道……」
「そうです」
 辛抱強く。語り聞かせ続ける。
「ぷりゅー……」
 白姫は、
「……わかったし」
「!」
 アリスの顔がほころぶ。
「じゃあ……」
「ぷりゅ」
 うなずき、
「シロヒメ、普通の白馬に戻ります」
「白姫!」
 よかった――今度こそこちらの想いが通じたのだ。
「もう転職なんてことも」
「やめるし」
 ぷりゅ。再びうなずき、そして言った。
「起業するし」
「……え?」
 目が丸くなる。
「いま、なんて」
「聞こえなかったし?」
 真剣な顔で、
「シロヒメ、会社を立ち上げるんだし」
「え……えーと……」
 言葉を失う。
「会社って……あの会社ですか?」
「他にどの会社があるし。ぷりゅーか、さっきもしたし、こんな会話」
「しましたけど……って、いや、そういうことより先に」
 気持ちを静め、
「白姫が会社を作るんですか」
「そうだし。アリス、地道って言ったし。シロヒメ、一から会社を作って地道に大きくしていくんだし」
「それは……」
 確かに地道とは言えるのかもしれない。アリスが言いたかった〝地道〟は微妙にそういうことではなかったりするが。
「というわけで、これからぷりゅぷりゅランド作るしー」
「えっ!?」
 たまらず、
「ぷ……ぷりゅぷりゅランド!?」
「そーだし」
 うれしそうに首をふり、
「夢いっぱい馬いっぱいのとっても素敵な遊園地なんだし。楽しいしー」
「えっ、いやあの、会社を作るんじゃ」
「遊園地って会社じゃないの?」
「それは……えーと」
 たぶん厳密には『会社』にはなるのだろう。しかし、アリスの思っていた地道からはさらに遠く離れてしまっている。
「ぷりゅぷりゅランドは馬だけの遊園地だし」
「そうなんですか……」
「かわいい馬たちと遊び放題なんだし。みんな、大よろこびだし」
「はあ……」
「夜になったら、ぷりゅクトリカルパレードやるんだし」
「ぷりゅクトリカルパレード!?」
「そうだし。ドレスアップした馬たちがライトアップされてパレードするんだし。すごいんだしー」
「確かにすごいですけど」
 あまりに壮大――というか荒唐無稽な発案に絶句する。
「ぷーりゅぷりゅ♪ ぷーりゅぷりゅ♪ ゆかいつーかいシーロヒメちゃんは、ぷーりゅぷりゅランドのぷりゅンセス~♪」
「なんですか『ぷりゅンセス』って……」
 早くも歌われるテーマソングのようなものにさらに脱力させられる。
「その……いきなりそういうのは難しくないですか」
「ぷりゅ?」
「遊園地って、やっぱり、作るのにものすごくお金がかかるんじゃ」
「だから、地道にこつこつやるんだし」
「いや、そもそも遊園地は地道のイメージと真逆といいますか、むしろ派手なものといいますか」
「ぷりゅ!」
 耳がぴんと立つ。そして、うんうんとうなずき、
「確かにイメージ大事だしー」
「そ、そうですよ……」
 本当に遊園地を始めるなんてことになったら大騒ぎになる。無理に笑顔を作りつつも同意する。
「じゃあ、あれだし」
「あれ?」
「地道なイメージのお仕事……」
 ザパーーン! なぜかどこからともなく大波の音が聞こえ、
「りょーしだし!」
「漁師!?」
「そーだし」
 うなずいて、
「毎朝毎朝、冷たい北の海に出かけていくのが漁師だし」
「いや、北の海とは限りませんけど」
「そうやってこつこつ毎日黙って働くんだし。男の仕事だしー」
「シロヒメ、女の子じゃないですか」
 そんなささやかなツッコミが届くこともなく、
「ぷーりゅぷりゅーきたぜ、はーこだて~♪」
「ええっ!?」
「ぷりゅ用ですから」
「またそれですか!?」
「ぷりゅーなー、さかばどおりには~♪ しろーいー、はだのはくばがにあーう~♪」
「演歌色強すぎですよ、白姫の漁師のイメージは! まあ、確かに漁師さんには演歌が似合う気がしますけど」
「ちょっとー、おうまよしがいい~♪」
「なんですか『お馬よし』って!」
 立て続けのツッコミに息も上がってくる。
「と、とにかく、漁師さんなんて大変ですよ!」
「そうなの?」
「そうです。危ないことも多そうですし、何より船がいるじゃないですか」
「ぷりゅ!」
 がっくり。肩が落ちる。
「またしてもお金なんだし……」
「それは、だから、何かを始めるためには多少はかかりますよ」
「シロヒメの身体一つでなんとかなる仕事はないんだし?」
「う……」
 まさに騎士の馬として働くことが、その〝身体一つの仕事〟ではないのかと。
「あったし!」
「えっ……あ、あったんですか?」
 突然言われて驚かされる。
「シロヒメのかわいさと賢さをそのまま活かせるお仕事なんだし」
「それって……」
「ぷりゅふっ」
 またも自信のにじむ笑みを見せ、
「ぷりゅーなずーむー、ぷりゅの~♪」
「ええっ!?」
「はい、アリスぅぅ!」
「えええっ!?」
 突然、指差し――でなくヒヅメ差し点呼され、思わず気をつけをする。
「な、なんなんですか、これは!」
「教師だし」
「えっ!」
「熱血教師シロヒメなんだし」
「熱血教師白姫!?」
「三年P組白八先生なんだし」
「P組!? シロパチ先生!?」
「なんですかぁぁっ!」
「きゃあっ」
 文句があるのかというようににらまれ、
「な、なんですかはこっちが聞きたいですよ」
「だから、教師だって言ってるし」
 ぷりゅぷん、と鼻を鳴らす。
「シロヒメは賢いんだし。だから教師に向いてるんだし」
「向いてる……んですかねえ」
「賢いだけじゃなくてかわいいんだし。生徒からの人気もバツグンなんだし」
「はあ……」
 ツッコむ気力がなえかけるも、
「白姫が教師って、その、何を教えるんですか」
「そんなの決まってるし」
「決まってるんですか?」
「決まってるし」
 深々とうなずき、
「ぷりゅ力(りょく)を鍛えるんだし」
「ぷりゅ力!?」
「あと、踊りも教えるし。シロヒメ、ぷりゅマドンナだから」
「なんですか『ぷりゅマドンナ』って! というか、それ以前に『ぷりゅ力』というのがなんなんですか!」
「もー、うるせーしー。さっきから『なんですか』『なんなんですか』ばっかりで」
「それは……」
 そう返すしかない発言をくり返しているから――とは言えないまま、
「わかりませんよ……『ぷりゅ力』って言われても」
「女子力的なものだし」
「女子力〝的〟ってなんですか」
「誰からも愛されてかわいがられる力なんだし」
「それは微妙に女子力とは言わないような……まあ、女子力が目指すのはそういうところかもしれませんけど」
「そういうところなんだし」
 ようやくわかったかというように鼻を鳴らす。
「というわけで、アリスぅぅ!」
「は、はいっ」
 思わず気をつけしてしまう。
「馬という字は何でできているし?」
「えっ……」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 悲鳴をあげて吹き飛ぶ。
「答えられない生徒にはよーしゃなく指導が入るし」
「これは指導じゃなくて、体罰です!」
「あれと同じだし。チョーク投げるのと同じでシロヒメはヒヅメを」
「いまチョークを投げる先生なんていませんよ、絶対!」
 涙目の抗議はやはり無視され、
「もう一度質問するし。馬という字は何でできているし?」
「う、馬という字は……」
 ヒヅメが飛んでくる気配におびえながらも考える。
「えーと……いろいろな線で」
「ぷりゅふー」
 これ見よがしにため息をつかれる。
「まー、こういう答えしか返ってこないのはわかってたし。アホだから」
「アホじゃないです」
 そこはかたくなに否定し、
「じゃあ、何でできてるんですか」
「馬という字は、馬と馬とが支え合って……」
「できてませんよ!」
「できてるし」
 やれやれと頭をふり、
「やっぱりアリスはアホなんだし」
「アホじゃないです」
「『うま』って、ひらがなでイメージしてみるし」
「えっ」
 ひらがなでイメージ――
「ほら、『う』も『ま』もよく見ると馬っぽいんだし」
「それは……確かにそういう形に見えないことも」
「見えるんだし」
 断言して、
「『う』と『ま』を横に並べるし。二つが支え合って見事『うま』になってるし」
「あ……なるほど」
 思わず納得してしまう。
「ぷりゅふふーん。わかったし、シロヒメの教育力?」
「いや、それだけで教育力とは」
「あと『白姫』と書いて『かわいい』と読むし」
「それは、さすがに無理が」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「なんて反抗的な生徒だし。きっちり指導する必要があるし」
「しないでください、こんな指導は!」
 このままの『授業』が続いたら身体がもたない。
「ちょっと待ってください! 白姫は馬じゃないですか!」
「なんだし? 馬じゃ先生できないって言うし」
「そうじゃなくて……」
「それにただの馬じゃないし。かわいくて賢い白馬だし。プレミア感ハンパないし」
「かわいさや賢さもいいですけど、やっぱり、その、馬らしさを活かしたものが一番いいのではないかと」
「馬らしさ?」
「はい」
「ぷりゅー」
 すこし考えるそぶりを見せ、
「じゃー、伝書馬やるし?」
「なんですか、伝書〝馬〟って」
「そのまんまだし。お手紙を届ける馬だし」
「はあ……」
 人間でいえば郵便配達みたいなもので、それなら一番無難かもしれない。
「じゃあ、アリス、さっそくお手紙書くし」
「えっ」
「お手紙ないと届けられないし。伝書馬できないし」
「そんなこと急に言われても……えーと」
「ちなみに料金は一回百万円だし」
「高すぎますよ!」
「高くないんだし。かわいいシロヒメが届けてあげるんだし。当然それだけのフカカチはあるんだし」
「それにしても高すぎます! それじゃ誰も頼まないと」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「誰も頼まないってどういうことだし。シロヒメに魅力がないって言うんだし?」
「そ、そんなことは言ってませんよ! 何度も何度もパカーンしないでください!」
「ぷりゅ!」
 またもひらめいたというように耳が立ち、
「そうだし、パカーンだし!」
「ええっ!?」
 またも蹴られるのかと身をふるわせる。
「そうなんだし。パカーンもシロヒメの魅力なんだし」
「や、やめてください、そんな魅力!」
 あわてて言うも、
「シロヒメ、パカーンを活かした仕事をするんだし」
「えええっ!?」
 パカーンを活かした仕事!? そんなものあるわけが――
「けんぽーかだし!」

「け……」
 けんぽーか――拳法家!?
「それは……仕事なんですか」
「仕事じゃないんだし?」
「それは、その」
 正直よくわからない。
 ただ、人に拳法を教えて生計を立てている人は確かにいるだろう。
「シロヒメ、拳法家になればよかったんだし。そうだし、そうだったんだし。『燃えよぷりゅゴン』なんだし」
「なんですか『ぷりゅゴン』って」
「『燃えよぷりゅゴン・怒りのぷりゅっ拳』だし」
「『ぷりゅっ拳』……」
 またもとんでもないことを言い始めた――頭を抱えたくなる。
「なるにしてもどうやってなるつもりですか、拳法家に」
「それは簡単だし。アリスを蹴りまくればいいんだし」
「なんでですか!」
「アリスをパカーンしまくることで、シロヒメの蹴り味のするどさがあちこちに知れ渡るんだし。放っておいても弟子がいっぱいやってくるんだし」
「やめてください、そんなひどいPR! 自分、死んじゃいますよ!」
「大丈夫だし。アリス、無駄にじょーぶだから。死なないから」
「死ななくても痛いです!」
 たまらず抗議の声を張り上げるも、
「あーもー、うるせーから、とりあえずアリスが弟子やるし」
「は!?」
「光栄に思うし。一番弟子だし」
「いや、そんなこと誰も頼んでな……」
「喝――――っ!」
「っ!?」
 裂帛の気合で反論が封じられる。
 それっぽさを感じさせる重々しい口調で、
「若者よ。よくぞ、わが白馬ぷりゅぷりゅ拳の門をくぐった」
「白馬ぷりゅぷりゅ拳!?」
「伝説のぷりゅぷりゅ拳を極めるためには厳しい修行に耐えねばならぬ。その覚悟はできておるか」
「覚悟も何も、そんなことしたいなんて一言も」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「隙があるわ、愚か者が」
「や、やめてください、だからいきなり蹴るのは!」
「合格だ」
「えっ」
「わしに蹴られて、よくすぐに立ち上がることができた」
「いや、これは白姫のひどさに一言いわなければと」
「いくら蹴られても構わんというおぬしの覚悟。しかと見せてもらった」
「だからないです、そんな覚悟!」
 必死の抗議にもかかわらず、
「では、さっそく修行に入る。素蹴り百回!」
「素蹴り? 素振りのキック版ということですか」
「そこに立ちなさい。わしがおぬし目がけて素蹴り百回を」
「なんで、師匠のほうがやるんですか! それに、こっちを蹴るんだったら〝素〟蹴りじゃないじゃないですか! 打ちこみ……じゃなくて蹴りこみじゃないですか!」
「合格だ」
「だから何がですか!」
 とにかくこのままでは自分が痛い目にあうことはわかりきっている。
 とっさに、
「弟子を変えましょう!」
「ぷりゅ?」
 首をひねる。
「弟子を変えるってどういうことだし? シロヒメの前にはアリスしかいないんだし」
「だから、その」
 あたふたと、
「ほら、弟子って拳法の弟子だけじゃないじゃないですか」
「ぷりゅー?」
「そうじゃないですか。他にもいろいろ習い事のお弟子さんはいるわけで」
「ぷりゅ!」
 納得できたというように耳が立つ。
「つまり、弟子の種類を変えるんだし」
「種類というか……まあ、そういうことです」
「確かに、けんぽーかだけにこだわることはないし。そもそも、けんぽーかって乱暴なイメージなんだし。シロヒメが暴力白馬だと思われたら大変なんだし」
「十分、暴力白馬じゃないですか……」
 こっそりつぶやくことしかできないアリス。すると、
「喝――――っ!」
 パカーーーーン!
「きゃあっ」
「隙があるわ」
「って、同じじゃないですか! 変わってないじゃないですか!」
「変わってるし」
 心外だというように、
「シロヒメ斎先生だし」
「白姫斎(しろひめさい)先生!?」
 確かに、昔の偉い先生が『〇〇斎』とは名乗っていたが。
「な、何を教える先生なんですか」
「馬道(うまどう)だし」
「馬道!?」
「そうだし」
「それは、いわゆる剣道とか柔道みたいな」
「そうだし。馬の道を教えるんだし」
「いや、自分、人間ですけど」
「人間だって馬のいいところを知ることは勉強になるし」
「それは……そういうこともあるかもしれませんが」
「あるんだし」
 ぷりゅ。当然だとうなずき、
「馬道を学ぶことでぷりゅ力を鍛えて……」
「って、やっぱりいままでと変わってないじゃないですか!」
 絶叫してしまう。
「もー、うるせーしー。となると、あれだし」
「あれ?」
 またも嫌な予感しかしない。
 と、どこからともなく陽気な三味線の音が聞こえ、
「えー、こんちまたまたー」
「ええっ!?」
 今度は急に腰の低くなった白姫に目を見張る。
「本日はお忙しいところ足をお運びいただき、まことにぷりゅがとうございます」
「え? え?」
 完全に目が点になってしまう。
 と、不機嫌な顔で、
「なにボーッと立ってるし、弟子」
「えっ、自分、弟子なんですか?」
「違う弟子やるって言ったし」
「確かにそうでしたけど……な、なんの弟子なんですか」
「わかんないんだしー?」
 明らかに馬鹿にした目で、
「師匠だし」
「えっ」
「シロヒメ、師匠なんだし」
「いや、それはわかってますけど……」
「ぷりゅぷりゅ町の師匠なんだし」
「ぷりゅぷりゅ町!?」
 当然だが、そんな地名は存在しない。
「シロヒメの師匠は、そういう師匠なんだし」
「そういう師匠ってどういう」
「もー、アリスはホントに何も知らないんだしー。アホなんだしー」
「アホじゃないです」
 そこはどうあっても否定する。
「『ナニナニ町の師匠』っていったら、この師匠しかないんだし」
「だから、どの……」
 またもどこからともなく三味線の音が響く。
「えー、毎度ぷりゅぷりゅしいお笑いを」
「あっ」
 はっとなる。
「師匠って……落語家さんの師匠ですか」
「違うし。噺家だし」
 思い出す。白姫がテレビやラジオの落語番組をかなりよろこんで聞いていたことを。
「噺家の師匠は名前に『馬』がつく人が多いんだし。相性ピッタリなんだし」
「確かによくいますね」
「ぷりゅーわけで、弟子。さっさとお茶持ってくるし」
「は、はい」
 これならきっと乱暴なこともない。あわててお茶を取りに行く。
「ちゃんと座布団返しもするんだし」
「いや、ないじゃないですか、座布団」
 そして――
「えー、昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました」
 白姫〝師匠〟による噺の稽古が始まったのだが、
(これって……落語じゃなくて昔話じゃ)
 そんな心の中の声は当然届かず、
「おじいさんが山に行くと、なんと光っている竹がありました」
「あの……」
 それは、もう〝あの話〟しかないと――
「おじいさんは驚いてその竹を切りました。すると中からなんと玉のようにかわいいシロヒメが……」
「いやいやいやいや」
 そこでさすがに、
「なんで、白姫が出てきちゃうんですか」
「シロヒメ……実はかぐや姫だったんだし」
 一瞬絶句するも、
「な、なんですか、そのあまりに急な展開は」
「急なんだし。かぐや姫がかぐや姫ってわかったのも、たぶん急だったんだし」
「まあ、そうでしょうけど」
「というわけで、シロヒメはかぐや姫なんだし」
「はあ……」
「そういえば思い当たることがあるんだし。シロヒメのかわいさはかぐや姫だったってことじゃないと説明できないんだし」
「いやいやいや」
「そして、シロヒメは月に帰ってお餅を……」
「って、それはさっきのお話じゃないですか!」
 たまらず大声をあげてしまう。
「というか、白姫は落語の師匠じゃないんですか?」
「そうだし。ぷりゅぷりゅ亭白姫なんだし」
「ぷりゅぷりゅ亭……」
「アリスはぷりゅぷりゅ亭アホリスだし」
「いやです、そんな芸名!」
「えー、ぴったりだと思うしー」
「やめてください、ひどいことを言ったり、ひどい芸名をつけたりするのは」
 念を押した後、あらためて、
「いまのは昔話ですよ? 落語と違うじゃないですか」
「同じだし。落語だって昔の話が多いんだし」
「それは……確かに」
「同じなんだし」
 ぷりゅ。うなずき、
「あるところに風来のシロヒメがいたし」
「なんですか、今度はいきなり!」
「風来のシロヒメは世界中を旅していたんだし。そして、世界中で困っているダメなアリスを助けるんだし」
「なんで、自分、世界中で困ってるんですか! いないですよ、世界中に!」
「ダメダメなアリスを助けるシロヒメ、カッコいいしー。まさに主役ってカンジなんだし」
 抗議をまったく気にせず自分の世界にひたる。
 こちらはがく然とするしかない。
「今度は時代劇風と言いますか……。白姫、時代劇も好きですからね」
「それも落語だし」
「そういう落語もありますけど、微妙に違うような」
「あるところに馬蹄国という国があったんだし」
「また急に始まりましたね……バテイコク?」
「そうだし」
 うなずいて、
「そこは言葉を話す馬がいるという不思議な国なんだし」
「はあ……」
 普段から白姫と〝会話〟しているアリスは何と言っていいかわからない。
「そんな国の噂を聞いたアリスが、そこの馬をつかまえて見世物にしようとしたんだし。悪いアリスだしー」
「そんなことしませんよ……」
「けど、まぬけなアリスは逆につかまってしまったんだし。そしたら、馬たちはびっくりしたんだし。『ここに言葉を話すアリスがいるぞ』って。そして、アリスは馬蹄国で見世物になってしまったんだし。ぷりゅたし、ぷりゅたし」
「何もぷりゅた……めでたくないです」
 がっくりと脱力する。
「どうして、そういうことになるんですか……」
「ぷりゅたいお話だし」
「だから、何もぷりゅたくないです」
「ぷりゅむ、ぷりゅむ、ぷりゅーのぷりゅぷりゅ……」
「って、今度は何なんですか!?」
 急にリズム良く語り出され、またも驚かされる。
「ぷりゅぷりゅすいぎょの、ぷりゅぎょーまつ、ぷんぎょーまつ……」
「それって……」
 呪文のようなその言葉に、何を言っているのかようやく気づかされる。
「『寿限無』……ですか?」
「『ぷりゅむ』だし」
「ないですよ、そんな落語」
 ますます意味がわからない。
「むっかしー、むっかしー、ヨウタローは~♪ たーすけーたうーまにー、つーれらーれて~♪」
「また昔話に……」
「助けた馬につれられて、ぷりゅうぐう城に行くんだし」
「ないですよ、そんな城」
 白姫の落語(?)はさらに続き、
「もっしもっしうーまよー、うーまさーんよ~♪」
「だから、それは昔話で……」
「せっかいーのなーかでー、シロヒメーほど~♪ とってもかわいいものはない~♪ どーしてそんなにかーわいいのか~♪」
「う……」
 白姫の〝歌〟は続き、
「ぷりゅーひー、ぷりゅのーなーか~♪ うまさーんにー、であーった~♪」
「完全に歌のコーナーに入ってしまいましたね……」
「では、ぷりゅぷりゅしいお笑いを」
「唐突に落語に戻らないでください!」
「ある日、悪いアリスが馬に柿をぶつけていじめました。怒ったシロヒメは栗や臼たちと一緒にアリスに復讐を……」
「それは、さるかに合戦じゃないですか!」
「ぷりゅかに合戦だし」
「なんですか『ぷりゅかに』って」
 すると、
「ぷりゅ!」
 いま気づいたというように、
「なんで話にアリスばっかり出てくんだし! ずるいんだし!」
「いや、話を作っているのは白姫で」
「シロヒメもお話に出るし! ぷりゅーか、出るしかないようなシロヒメになるし!」
「出るしかないような白姫?」
「シロヒメ……」
 またも目を輝かせて言う。
「馬になるし!」
「……は?」
「小説に出る馬だし!」
「し、小説?」
「そうだし」
 不意に姿勢を正し、
「吾輩は馬である」
「えええっ!?」
 そういう小説のタイトルを聞いたことがあるような……。
「名前はまだない」
「いや、あるじゃないですか『白姫』って!」
「うるせーしー。ここはそうじゃないと決まらないんだし」
 そう言いつつも、
「じゃあ、名前あるのにするし?」
「えっ」
 そして、どこからともなく彼女が取り出したのは、
「なんですか、その帽子とパイプは!」
「探偵だし」
「ええっ!?」
 名乗りを上げる。
「馬探偵シーロック・プームズだし!」
「馬探偵シーロック・プームズ!?」
 またもわけのわからない名前を聞かされ、激しくまばたきする。
「探偵って……探偵ですか?」
「探偵だし」
 ぷりゅ。うなずき、
「馬探偵プームズの事件簿なんだし」
「はあ……」
「小説といえば探偵小説なんだし」
「そうとは限らないと思いますけど……」
 弱々しい反論は聞き入れられず、
「誰かがシロヒメのおやつを食べたんだし!」
「えっ」
「放っておいたら連続殺馬事件に発展してしまうんだし」
「いやいやいや」
 突然の荒唐無稽な事件設定に、
「なんでおやつを食べられたくらいで連続殺人……サツバ事件に発展してしまうんですか」
「おやつの恨みは恐ろしいんだし」
「確かに『食べ物の恨みは恐ろしい』って言いますけど」
「プリュカビル家の馬なんだし」
「なんですか、その家は」
「馬の鳴く夜は恐ろしい……」
「それはもう違う作品じゃないですか」
「アリソン君」
「えっ!」
「プームズの助手なんだし。アリソン君」
「自分、助手なんですか……」
「あっ、間違えたし」
「え?」
「アホソン君」
「やめてください、そんなひどい名前!」
 結局、涙目にさせられてしまう。
「だったら」
 またもどこからともなく取り出した富士山型の帽子をかぶり、
「ぷりゅ田一シロヒメだし」
「ぷりゅ田一白姫!?」
「ぷりゅ田一は名探偵なんだし。プートピア連続殺人事件を解決するんだし」
「どこですか、プートピアって!」
「犯人はアリス!」
「なんでですか!」
「『ス』つながりだし」
「言っていることの意味がわかりませんよ!」
 大声で言う。
「というか問題ありますよ、探偵は!」
「ぷりゅー?」
 たちまち顔をしかめ、
「なんだし? シロヒメに探偵は無理だって言ってんだし?」
「そういうことじゃなくて」
「シロヒメ、探偵に向いてるんだし。かわいいし、賢いし、しゃこー性あるし。探偵はいろいろじじょーちょーしゅとかしないといけないから、しゃこー性は大事なんだし」
「それはそうですけど」
 あらためて、
「事件が……なかったら?」
「ぷりゅ?」
「その、小説になるような事件はなかなかないと思いますよ」
「それは……そうかもしれないし」
 しぶしぶというように認める。
「基本、町は平和だし。シロヒメが守ってるから」
「事件がないと探偵は活躍できませんよ」
「ぷりゅー」
 考えこみ始める。
 と、ぽつり、
「違うんだし」
「えっ」
「そうだし、シロヒメ、探偵になりたいんじゃないし。探偵みたいに誰かの役に立つような仕事がしたいんだし」
「そ――」
 驚くと同時に大喜びで、
「そうです、そういうことですよ! 立派ですよ、白姫!」
「当然なんだし。シロヒメ、立派だし」
 ぷりゅ。誇らしげにうなずく。
「シロヒメ、みんなの役に立つ仕事するし」
「白姫……」
 紆余曲折どころではなく脇道にそれ続けていたが、ようやく正しいところに落ち着いてくれた。思わず涙する。
「それで何をするんですか」
「決まってるし」
 決まってる? 前にも聞いたその言葉にかすかに嫌な予感を覚える。
「シロヒメ――」
 不安な思いがふくらむ中、白姫は言った。
「レストランをやるんだし!」

「そーんな、ぷりゅぷーりゅレストラン♪ いろんなうまがやーってくる~♪」
「どんなレストランですか……」
 白姫の歌にまたもアリスは脱力するしかない。
「ぷりゅっしゃいませー」
「はあ……」
 アリスはいま、白姫の『レストランごっこ』に付き合わされていた。
 もっとも〝ごっこ〟と言ってしまうとヒヅメが飛んでくるのは確実なので、彼女の〝練習〟の相手を務めるということにはなっている。
「ご注文はー?」
「えーと……何ができるんですか、このレストランは」
「とってもおいしい飼い葉を」
「いや、無理ですよ、飼い葉は」
「無理ってなんだし」
 ぷりゅ。機嫌がたちまち悪くなる。
「いえ、その、馬以外のお客さんにもよろこばれるようなものは」
「あるし」
「あるんですか?」
「あるし」
 念を押すようにうなずき、そして言う。
「シロヒメのお悩み相談室だし」
「は?」
 お悩み相談室!?
「それはどういう……」
「そのまんまだし」
 ぷりゅ。再びうなずき、
「シロヒメがお客様の悩みを聞いて解決してあげるんだし」
「そうなんですか? ちょっとすごいですよ」
「すごいんだし」
 ぷりゅ。得意げにうなずく。
「でも、どうしてレストランでそんなことを」
「ただのレストランじゃないし。ぷりゅぷりゅレストランだし」
「はあ……」
 それがどう違うのかはわからないのだが。
「レストランの魅力は料理だけじゃないんだし。そこにいるマスターの魅力もとっても大事なんだし」
「マスター?」
「そうだし」
 ぷりゅ。うなずく。
「ぷりゅぷりゅレストランのマスターはシロヒメなんだし」
「はあ……」
「とっても気さくなマスターで、だからお客さんも悩み事を話してくれるんだし」
「あ……なるほど」
 実際そういうお店はありそうな気がする。
「というわけで、アリスもなんか悩み言うし」
「えっ」
 いきなりふられて戸惑うも、
「じ、じゃあ、聞いてもらっていいですか」
「いいし」
「あの……」
 もじもじしながら、
「自分は一人前の騎士になれるでしょうか」
「ぷりゅ?」
「自分……」
 真剣な想いをこめ、
「葉太郎様の従騎士として今日までがんばってきました。もちろん、がんばりだけでなんとかなるとは思っていません。それでも自分にできるのはがんばることだけです」
 顔を上げる。
「こんな自分でも、騎士になることはできるでしょうか」
 白姫は、
「無理だし」
「ええっ!?」
「さー、次のお悩みは」
「ちょちょ……簡単すぎませんか!?」
 納得いかないと詰め寄る。
「だって、わかりきってるし。なれっこないし」
「そんな……」
 あまりな言いように涙をにじませてしまう。
「じゃあ、どうすればなれるんですか!」
「無理だし」
「なんでですか!」
「アホだからだし」
「アホじゃないです!」
「ダメダメだからだし」
「ダメダメじゃないです!」
「他に相談ないしー? そんなどうでもいいことじゃなくてー」
「どうでもいいって……」
 さらなる暴言にむせび泣きそうになる。
「特にもう言えるようなことは」
「あるはずだし、いくら能天気なアリスでも。アリスだって生きてるんだから」
「なんて言い方ですか……」
 と、はっとなり、おそるおそる、
「あるというなら……ありますけど」
「なんだし? さっさと言うし」
「ひどいイジメを受けていて……」
「そーそー、そーゆーのだし!」
 たちまち笑顔になって身を乗り出す。
「いいしー、イジメの相談! シロヒメが見事に解決するし!」
「………………」
 いじめてくる当人――でなく当〝馬〟にそう言われるのはさすがに複雑だ。
「あの……自覚はないんですか」
「ぷりゅ?」
「だから、心当たりというか……」
「アリスをいじめる子?」
 軽く首をひねると、真剣な顔で考え出し、
「心当たりがありすぎて……」
「なんでですか!」
「だって、アリスのムカつかせっぷりは、二十四時間イジメを受けてもおかしくないレベルなんだし」
「おかしいですよ、白姫の言っていることもふくめて!」
 さすがにもう我慢ができず、
「そんなひどいことを言われてたら、お客さん、帰っちゃいます!」
「ぷりゅ!」
 目を見張る。
「お客さんに帰られてしまっては困るんだし。アリスに帰られても困らないけど」
「なんでですか!」
「ほら、シロヒメって素直だからー。正直者だからー。嘘をついてごまかしたりとかできないんだしー。騎士の馬だからー」
「ううう……」
 それにしても言い方というものがあると思うのだが。
「こうなったら、悩み相談じゃなくてイベントを売りにするし」
「イベント?」
「そうだし。ほら、ステージにゲストとか読んで、それでお客さんを呼ぶレストランってあるんだし」
「確かにありますね」
「というわけで、イベントなんだし!」
 力強く言うなり、
「ぷりゅ誓!」
「ええっ!?」
「シロヒメたちはスポーツ馬シップにのっとり正々堂々ぷりゅぷりゅすることを誓います!」
「『スポーツ〝マ〟シップ』ってなんですか! あと『正々堂々ぷりゅぷりゅする』って何なんですか! 何を誓ってるんですか!」
「ドキッ! 馬だらけのぷりゅリンピックなんだし」
「ぷりゅリンピック!?」
「野球とかサッカーの試合の中継を見せるお店ってあるし。それでみんなで応援するんだし」
「ありますけど……」
「だから、ぷりゅぷりゅレストランでは、ぷりゅリンピックを見せるんだし。馬たちのがんばる姿にみんな涙することまちがいなしだし」
「涙するんですかね……」
 そこはわからないが、確かに興味は持ってもらえるかもしれない。
「あと、お客さんを呼ぶには伝説なんだし」
「伝説?」
「そうだし。そういう、なんかみんながすごいと思うような伝説があると、ほっといてもお客さんが来るんだし」
「はあ……」
 創業何十年とか元祖のお店とか、確かにそういう〝伝説〟が人を引きつけることはある。
「ぷりゅううううううううううううううううっ!」
「!」
 突然響き渡る――咆哮。
「な……!?」
 ズシン! ズシン! 重々しい足音と共に大地がふるえる。
「なんですか? なんなんですか!」
「怪獣だし」
「ええっ!?」
「湖の奥深くから現れたんだし。伝説の――」
 またも咆哮がとどろき、
「謎の怪獣……プリュッシーが!」
「謎の怪獣プリュッシー!?」
「そうだし! プリュッシーは伝説の中にしかいないと言われた怪獣なんだし。それがレストランに来たお客さんたちの前に」
「いやいやいやいや!」
 驚きあわてて、
「伝説って、そういう伝説ですか!?」
「そういう伝説だし」
「どういう伝説ですか! ぬいぐるみショーみたいなものですか? それなら、まあ、子どもはよろこびそうですけど」
「何を言ってるし。本物に決まってるし」
「いませんよ、本物は!」
「なんでいないって決めつけるし。世界中調べてみたんだし?」
「それは……」
「誰も見たことがないから伝説って言われるんだし」
「じゃあ、白姫も見たことがないんじゃないですか!」
 またも話がおかしな方向へ行きつつある。
「も、もうすこし普通にできませんか」
「普通ぅー?」
 たちまち嫌そうな顔になるのを見て、すかさず、
「ほら、峠の茶屋ってあるじゃないですか」
「ぷりゅ?」
「そういう素朴なイメージってすごくいいじゃないですか。何もないから逆に癒されるみたいな」
「ぷりゅ……」
「だからあまりよけいなことをしなくてもいいと思いますよ」
 白姫は、
「峠の茶屋……」
 何か感じたというようにその言葉をつぶやく。
 期待をこめて見つめる中、
「わかったし」
「っ……」
 よかった――と思っていいのかこれまでの流れから確信できないでいると、
「シロヒメ、峠の茶屋にするんだし」
「それって普通の」
「もちろんだし。普通にお団子とか出したりするんだし」
「!」
 ようやく! ようやくちゃんとしたところに落ち着いてくれた!
「あの」
 それでも不安がぬぐえず、
「峠の茶屋をやるためにここに峠を作る……とか言いませんよね」
「なに言ってんだし」
 ぷりゅぷんと鼻が鳴り、
「そんな非常識なこと言うわけねーし。わけわかんねーし」
「ご、ごめんなさい」
 ずっと非常識なことを言われ続けてきた身としては釈然としないながら、
「じゃあ、本当に普通の峠の茶屋なんですね」
「普通の峠の茶屋だし」
 ぷりゅ。うなずく。
「けど、お客さんが普通かどうかはわかんねーし」
「えっ」
 またも唐突に、
「ぷりゅだーら、ぷりゅだーら♪」
「えええっ!?」
 けだるげなサウンドを口ずさんだあと、
「よろしいか」
「えっ!?」
「一杯の茶をしょもーしたいのだが、よろしいか」
「あ、あの……」
 完全についていけない。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 理解できないままに蹴り倒される。
「なっ……なんでですか!」
「なんででもなんだし」
 一方的に不機嫌さをにじませ、
「なんで、茶を出さねしーし。アリスは茶屋の娘なんだし」
「いつ、そういう設定になったんですか!」
「いいから、出すし!」
「う……」
 迫力に押されてしまう。それでも、
「だ……誰にですか」
「ぷりゅ?」
「だから、その、自分は誰にお茶を」
「決まってるし」
 遠い荒野に思いをはせるような目で、
「旅人だし」
「旅人?」
「そうだし」
「いや、その、旅人といってもいろいろな人が」
「旅人といえばあの人に決まってるし」
 またもけだるげなミュージックが流れ出す。
「ぷりゅだーら、ぷりゅだーら♪」
「だから、それは一体……」
「わかんないんだしー?」
 あきれたように言ったあと、胸を張り、
「さんぞーほーしなんだし!」
「ええっ!?」
「シロヒメ、さんぞーほーしだったんだし!」
「なっ……」
 三蔵法師!? 確かに長く過酷な旅をした人というイメージはあるが。
「三蔵法師が来るんですか? 峠の茶屋に!」
「来るかもしれないし」
「いや、来ないと」
「違うし」
「えっ!?」
「三蔵法師じゃなくて……」
 静かに澄んだ目で、
「ぷりゅ蔵法師だし」
「えーーーーーーーーっ!」
 そして、また例のミュージックが始まる。
「ぷりゅだーら、ぷりゅだーら♪」
「ぷりゅ蔵法師って……白姫が」
「そうだし」
「けど、確か偉いお坊さんですよ、ぷりゅ蔵……三蔵法師って」
「問題ないし。シロヒメ、プリューストっぽいから」
「プリーストのことですか!?」
「そういう神秘的なとこあるんだし」
「いや、プリーストは司祭っていう意味で、お坊さんとは微妙に違いますよ」
「同じだし」
 そう言い切り、再び澄んだ瞳で、
「行きますよ、八戒」
「八戒! 自分がですか!?」
「そうだし」
「自分、八戒じゃないですよ! 豚じゃないです!」
「確かにアリスは犬っぽいっていうか」
「犬でもないです! いやその、豚も犬も悪いって言ってるわけではないんですが」
「行きますよ、アリ八戒」
「なんですか、アリ八戒って!」
「悟空も行きますよ」
「悟空……?」
 白姫が顔を向けた先にいたのは、
「う」
「ユイフォンじゃないですか!」
 同じ屋敷に住むユイフォン――何玉凰(ホー・ユイフォン)の姿に、アリスは驚きの声をあげる。
「いつの間に……」
「白姫に呼ばれた」
「だから、それがいつなんですか!」
 たまらず声を張り上げてしまう。
「行きますよ、悟空」
「ユイフォンが悟空なんですか!?」
「行きますよ、ユイ悟空」
「なんですか、ユイ悟空って!」
 ツッコミが止まらない一方で、
「う……ユイフォン、悟空」
「って、ちょっとうれしそうじゃないですか!」
「ほら、行くし、猪アリス」
「呼び方が変わってますよ!」
「孫ユイフォンも」
「だから、呼び方変わってます!」
 峠の茶屋から、なぜこういうことに。
「さー、行くんだし! とべ、ユイ悟空だし!」
「なぜ、また名前が戻って……」
「ぷんぷりゅぷりゅぷりゅ、ぷんぷりゅぷりゅぷりゅ、ににんがシロヒメ~♪」
「なんですか、その不思議な歌は」
「にしにーはあーるーんーだー、うーまーのーくに~♪」
「ないと思いますよ、馬の国は」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「なに、馬の国を否定してるんだし」
「否定したつもりでは……」
 そのとき、
「あっ」
 あることに気づく。
「ま、待ってください。西遊記って白馬がいませんでした?」
「ぷりゅ!」
 白姫の耳が立つ。
「そうです、いましたよ。三蔵法師を乗せている白馬が」
「ぷりゅりゅりゅ……」
 さすがに考えこみ始める。
「白馬のシロヒメが白馬に乗るとか……意味わかんねーし」
「そうですよ」
 これでやめてくれるか――とあわい期待を抱くも、
「じゃあ、マキ蔵法師なんだし」
「マキゾウ法師!?」
 マキオ――これまた共に暮らしている女の子・鬼堂院真緒(きどういん・まきお)のことを言っているのか?
「シロヒメ、マキオに乗られるなら問題ないし。むしろ、誇らしいし」
「う、問題ない」
「ユイフォンまで!」
 また盛り上がり始めた空気にあわてて、
「けど、足りないじゃないですか!」
「ぷりゅ? 足りない?」
「そうですよ。沙悟浄がいません」
「沙悟浄……」
 ほんのわずか視線を宙にさ迷わせるも、
「別に誰でもいいんだし」
「う、誰でもいい」
「なんでそこだけいいかげんなんですか!」
「えー、だって、沙悟浄って目立たないっていうかー。いてもいなくても気にならないっていうかー」
「それでも一緒に戦う仲間なんですから、ちゃんと強い人を選ばないと」
「ぷりゅー。強い人……」
「あっ」
 止めなくてはいけないのに、こっちまで本気になって仲間には強い人をなんて――
「ぷりゅりゅりゅりゅりゅりゅ……」
「えっ」
 不意にふるえ始めた鳴き声にはっとなる。
「どうしたんですか」
「そーぞーしてしまったんだし」
「想像?」
「アリスが強い人なんて言うから……だから屋敷で一番強い……」
「あっ」
 誰のことを言っているのかすぐに気づく。
「うう……」
 こちらまでふるえてきてしまう。
 屋敷で最強の人物――それは家事全般を取り仕切りながら騎士としての実力も比類ないメイド姿の女性・朱藤依子(すどう・よりこ)の他に考えられない。
「依子さんが沙悟浄……」
「なんだし、それ! 沙悟浄が一番強い西遊記って!」
 ふるえていた反動のように怒りを爆発させる。
「ぷりゅーか、西遊記の白馬ってあんまり活躍してない気がするし! それじゃシロヒメが目立てないし!」
「いや、あの」
 完全に当初の趣旨を見失っている彼女にあらためて、
「これって、そもそもレストランから始まった話ですよね」
「違うし」
「えっ」
「そもそもはシロヒメが転職するっていうことから始まった話なんだし」
「あ」
 言われてみればそうだった。
「ずいぶん遠いところまで来てしまった気が」
「ぷりゅー」
 不承不承という顔ながらも反論はない。
「こうなったら、あれしかないんだし」
「あれ……」
 完全に悪い予感しかしない。
「けど、もういろいろ仕事しちゃいましたよ? 他に何が」
「とっても大事なお仕事があるんだし」
「とっても大事な?」
「そうだし」
 ぷりゅ。うなずき、
「女の子にしかできないお仕事なんだし」
「女の子にしかできない……」
 意味深な言い方にちょっとドキッとなってしまう。
「それって一体」
「シロヒメ――」
 キラキラキラキラ――瞳をまぶしく輝かせて言った。
「シロヒメ、お嫁に行きますっ❤」

「今日まで本当にぷりゅがとうございました」
 花嫁らしい白無垢に包まれた白姫がしずしずと頭を下げた。
「白姫……」
 いつにないしおらしい姿に、早くもアリスは目頭を熱くし始める。
「アリスさん」
「は、はいっ」
 思わず気をつけの姿勢になる。
「姉妹のように仲良くしてくださり、ぷりゅがとうございました」
「そんな……自分のほうこそ」
「ぷりゅつかなシロヒメですが、お嫁に行った先でもアリスさんのことを思い出してがんばらせていただきます」
「うぅ……」
 熱いものがこみあげてきて、むせび泣きそうになる。
 と、白姫が目を伏せ、
「こういうふうに話せるのも……今日が最後ですね」
「……!」
 胸が詰まる。
「う……うう……」
 それでも懸命に涙をこらえる。
 すると、白姫が今度はユイフォンのほうを向き、
「ユイフォンさん」
「う」
「ユイフォンさんにも仲良くしていただき、本当に感謝しています」
「うー……」
 ユイフォンの目に涙がうかぶ。
「幸せになってね」
「ユイフォンさん……」
「白姫……」
 ひしっ。抱きしめあう。
 それを見た瞬間、もうこらえきれなくなり、
「白姫ぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!」
「ぷりゅ!?」
「う!?」
 号泣しながら双方に抱きつき、
「そうですよね! 自分たち、仲良しでしたよね!」
「ぷ……」
「う……」
「白姫がお嫁に行っても変わりません! 自分たちはずっと仲良しです! こうやってずっと仲良く……」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 完全に予想していなかったタイミングで後ろ蹴りをくらい、これまで以上に大きな放物線を描いて吹き飛ぶ。
「ぐふっ!」
 ぴくぴく。そのまま地面に刺さってふるえていたが、
「な……なんでですか!」
 土の中から頭を抜き、泥と涙でぐちゃぐちゃになった顔で絶叫する。
「みにくいしー。こっちに顔向けんじゃねーしー」
「なんてひどいことを言うんですか! たったいま感動の別れをしていたところなのに!」
「アリス、入れこみすぎなんだし」
「入れこみすぎ」
 ユイフォンもうなずく。
「ぷりゅーか、マジうぜーんだし」
「うざい」
「やめてください、ユイフォンまで!」
 さらなる涙があふれるも、白姫は冷めた目で、
「『やめてくれ』はアリスなんだし。なにマジになってんだし」
「だって……」
 そこではっとなる。
「……シ……」
 恥ずかしさにうつむきつつ、
「シミュレーション……でしたね」
「そうだし」
 イライラをにじませながらうなずく。
 そう――
 白姫の『結婚宣言』のあと、実際そうなったらどうなるかをみんなでシミュレーションしていたのだった。
「アリスはすぐマジになるんだし。アホなんだし」
「う、アホ」
「やめてください、だからひどいことを言うのは!」
 さっきまでの感動も吹き飛んで抗議する。
「というか、仕事の話をしていてなんで結婚になっちゃうんですか!」
「なるし。『えーきゅーしゅーしょく』って言うし」
「それは……」
 永久就職――
「い、言いますけど」
「言うし」
 ようやくわかったかという顔で言う。
「というわけで、シロヒメ、結婚にえーきゅーしゅーしょくするんだし」
「いやいや……」
 いまさらという気もしながら、
「『結婚に永久就職』なんて言葉はないですよ」
「ぷりゅぅー?」
「それに、結婚ってそんな、仕事以上に簡単に決めていいことじゃないと」
「だからシミュレーションしてるし。何があっても大丈夫なように」
「はあ……」
 筋が通っているのかいないのか。
「結婚したら結婚生活が待っているし」
「待ってますけど」
「そこもちゃんとシミュレーションするし!」
 気合たっぷりにそう宣言した直後、
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 問答無用に蹴り飛ばされる。
「な、なんでですか、いきなり!」
「いきなりじゃないし。シミュレーションって言ったし」
「シミュレーションでなんで蹴られるんですか!」
「蹴られるし」
「なんでですか!」
「蹴られるに決まってるし。だってDVのシミュレーションだから」
「D……えっ!?」
「結婚にDVは付き物だし」
「つ、付き物じゃないですよ!」
「だって、結婚したり恋人ができないとDVは起こらないし」
「それはそうですけど、だからって必ず起こるとは」
「起こったらどうするんだし!」
 声を荒げられ、あたふたと、
「それはその……適切な対処をするというか」
「だから、シミュレーションなんだし」
「う……」
「それともあれだし? アリスはシロヒメがDVにあってもいいって言うんだし」
「そんなことは」
 そう言われる反論できなくなってしまう。
「というわけでやるしー」
「ちょ、待っ……」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「ぷりゅー。ムカつくアリスなんだしー」
「ええっ!?」
 これが芝居(?)だということを再びあっさり忘れ、
「なんでですか! なんで暴力をふるうんですか!」
「ムカつくからだし」
「そんなひどいことを言うなんてひどいですよ!」
「あーもー、うるせーしー。DVしたくなるのも当然だし」
「なんてことを言うんですか!」
 DVしたくなるなんて! そもそもこれは結婚した白姫がDVにあったときどうすればいいかというシミュレーションで――
「……って」
 ようやくおかしいことに気づく。
「なんで自分が蹴られてるんですか!」
「蹴られるし」
「だから、なんでですか!」
 あたふたと、
「だって、これは白姫のためのシミュレーションじゃないですか。結婚してDVにあったらどうするかっていう」
「それをアリスでシミュレーションしてるんだし」
「なんでですか! 白姫自身がやらないと意味がないじゃないですか!」
「えー?」
 とたんに信じられないという顔で、
「シロヒメにDVされろって言うの? かわいいシロヒメに」
「いや、だって、そもそもそのためのもので」
「白馬虐待なんだし! 白馬愛護団体に抗議させるし!」
「ないですよ、そんな限定的な団体」
「じゃあ、代わりにユイフォン蹴るし?」
「う! や、やだ……」
 ユイフォンがあわてて首を横にふる。
「だったら誰を蹴ればいいんだし」
「だから、それは白姫自身が……はあ」
 反論する気力もなえてしまう。
「ぷりゅー」
 白姫はまたも考えこみ、
「結婚も難しいみたいだしー」
「そうですよ。そんな簡単にシミュレーションとかできることじゃありませんよ」
 そして、言う。
「もういいんじゃないですか」
「ぷりゅ?」
「やっぱり、その、いきなり転職なんて言っても無理がありますよ」
「なんてこと言ってんだし!」
 いきり立ち、
「なにあきらめるようなこと言ってんだし! 騎士を目指してるくせに!」
「それは……」
「まー、どーせアリスは騎士になれそうもないから、あきらめちゃって正解だけどー」
「なんてことを言うんですか!」
「けど、シロヒメは違うんだし!」
 言い返す声に力がこもる。
「シロヒメは騎士の馬なんだし! ママもおばあちゃんもそのまたおばあちゃんもずーっと騎士の馬だったエリート白馬なんだし! 簡単にあきらめたりとかできないんだし!」
「白姫ぇ……」
 その想いをもっといい方向にむけてほしい――と言うより先に、
「決めたし」
「えっ」
 今度は一体何を――
「全部だし」
「は?」
 何を言われたかわからないでいると、じれったそうに、
「だから全部だし! 全部足すんだし!」
「全部……足す?」
 やはり、どういうことなのかまったくわからない。
「な、何を足すんでしょうか」
「アホだしー」
「アホじゃないです」
 そこは何があっても否定する。
「だから、これまでしてきたことをだし」
「これまでしてきたこと……って」
「アホだしー」
「アホじゃないです!」
 これまでしてきたことと言えば、白姫にふり回されていろいろな仕事を――
「あっ」
 ようやく何を言われているのかわかってくる。
「いままでしてきた仕事を全部足すってことですか」
「そうだし」
「いや、ちょっ……意味がわかりませんよ」
「ア――」
「アホじゃないですっ!」
 言われる前にすかさず否定し、
「だって、わかりませんよ! 全部足すって、そんなことできるわけが」
「できるし。ぷりゅーか、しないといままでやってきたことが全部無駄になってしまうし」
「それは……」
 もう最初からすべて壮大な無駄だったのではないかと。
「なんか文句あるし?」
「な、ないですけど」
 文句というかそれ以前の問題だ。
「ぷりゅーわけで、いままでの仕事をぜーんぶ合わせた仕事にするし」
「はあ……」
 もう何がどうなるのかわからないが、彼女のするがままに任せるしかなかった。

「だいせーこーだしー❤」
「せ、成功してしまいましたね……」
 あぜんとつぶやくアリス。
 あれから――
 白姫の『いままでの仕事を全部合わせた仕事』はアリスが思っていた以上の成功を収めた。
「う。アリスの番」
「は、はい」
 あわててサイコロをふる。
「一、二、三……うっ」
「やーい、またふりだしなんだしー。アリス、アホなんだしー」
「アホじゃないですよ! これは運がないだけで」
 それはそれで悲しくなってしまう。
「じゃー、シロヒメ、ふるしー」
 コロコロコロ。
「一、二、三、四! 刑事に転職なんだし! 白馬警察結成だしーっ!」
 パカーーーーン!
「きゃあっ。な、なんで蹴るんですか!」
「白馬警察を結成したからだし」
「だからって蹴らないでください!」
「蹴らなきゃだめだし」
「えっ」
「ここに書いてあるし。『白馬警察になったら悪者を蹴ってください』って」
「そんなひどいマスを作らないでください! それに悪者じゃないですよ!」
 サイコロにマス――
 アリスたちがやっていたのはすごろくだった。
 その名は《白姫の馬生(ばせい)すごろく》。彼女の言う『いままでの仕事を全部合わせた仕事』とはこのことだったのだ。
「まあ、仕事というか、ゲームなんですけど」
「何を言うし。これを作るのは立派な仕事だし」
「でも、白姫の友だちみんなに無料であげちゃったじゃないですか」
「当たり前だし。友だちからお金を取れるわけないし」
「それはそうですけど」
 だったら、これは〝仕事〟ではなく〝趣味〟のほうに入るのでは――
「みんな、大よろこびだったんだし。だいせーこーなんだし」
「そういう意味では、確かに成功ですよね……」
「成功なんだし」
 反応の悪さが気に入らないというようにこちらをにらむ。
「なんか文句あんだし?」
「な、ないですよ。文句なんてないです」
 事実、文句はない。これまで延々ふり回されてきた転職騒ぎが終わるのかと思えば、むしろ胸をなでおろしたかった。
「さー、次はユイフォンだしー」
「う」
 すごろくが再開し、サイコロがふられる。
「一、二、三、四、五、六」
「あっ『スペースレンジャー白姫』のコマに止まったし。ユイフォンはこれからスペースレンジャーになって宇宙に行くし」
「う」
「ちょっ……」
 聞き覚えのない単語に、
「な、なんですか、スペースレンジャーって!」
「スペースレンジャーはスペースレンジャーだし。スペースなレンジャーだし」
「いえ、その言葉の意味はなんとなくわかりますけど、わからないのはなんでそんなコマがあるのかということで」
「ぷりゅ?」
「だって、そんなのやらなかったじゃないですか、白姫は」
「これからやるし」
「これから!?」
「ほら、そんなことより、次アリスふるし」
「は、はあ」
 コロコロコロ。
「一、二、三」
「アリス、お尋ね者になったし。『白馬小僧ぷりゅ吉』だし」
「白馬小僧ぷりゅ吉!?」
「大丈夫だし。泥棒は泥棒でも正義の泥棒だから」
「そんなことは心配してませんよ! というかなかったですよ、そんな……仕事? も!」
「ないに決まってるし」
「決まってるって」
「だから、これからやるんだし!」
 察しが悪いと鼻を鳴らし、
「第二弾だし」
「第二弾!?」
「そうだし。こーひょーだったから『白姫の馬生すごろく』の第二弾を出すんだし。これは新バージョンなんだし」
「あ……」
 確かに、よく見れば新しいコマがいくつも追加されている。
「気づかなかったんだし? アホなんだしー」
「う、アホ」
「アホじゃないです。ユイフォンもやめてください、そういうことを言うのは」
「だって、アホなんだし。新バージョンのテストするからアリスとユイフォン呼んだんだし」
「あ……なるほど」
 いきなりまたすごろくをやるというから何かとは思っていたのだが。
「ぷりゅーわけで、やるしー」
「あ、はい。次は白姫の番で」
「そうじゃねーし」
 やはり察しが悪いと、
「またやるんだし」
「えっ……それって」
「だから新しい仕事のシミュレーションだし!」
 言うなり、銀色のヘルメット(?)を頭にかぶり、
「ワレワレハ、ウチュウバだ」
「宇宙馬!? 宇宙人じゃなくてですか!?」
「というのは仮の姿で、スペースレンジャー白姫なんだし!」
「いや、どちらかというと宇宙人……じゃなくて宇宙馬のほうが正体っぽいような」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「悪い宇宙アリスをやっつけたし」
「なんですか『宇宙アリス』って!」
「宇宙の悪魔的なものだし」
「悪魔じゃないですよ!」
「あ、まちがえたし。アホ魔だったし」
「なんてひどいことを言うんですか!」
 また始まってしまった……。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「白馬小僧ぷりゅ吉がみんなを苦しめる悪いアリスを……」
「だから、悪くないです! もう白姫の転職に付き合わせるのはやめてくださーーーーーーーーい!!!」

シロヒメの華麗なる転職なんだしっ☆

シロヒメの華麗なる転職なんだしっ☆

  • 小説
  • 中編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-06-07

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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