獣に花と歌
獣の群れに、花と歌があたえられて、夜の、酸素が薄い頃に思い出すのは、骨ばったおとうさんの指と、眠ることを忘れた街の一角に置き去りにされた誰かの愛と、やさしさだけで紡がれた詩の、どこか胡散臭い感じ。蝶が、唇に触れて、許されざる恋を永久凍土に埋めたら、ぼくたちは、何者にもなれる気がした。例え、朝が失われたとしても。
おとうさんが、ぼくの手首をつかんだときにみせた、捕食者のような目を思い出しては、くらくらしている。あのとき、すべてが壊れてもいいと思ったし、ぼくらの行く末が破滅と呼ばれるものだったとしても、瞬間的に感じた幸福が刷り込まれて、きっと、なにも怖くはないと思った。
おかあさんという存在が、ただの人形となる日。
獣に花と歌