午前4時

らっきょ太郎

一晩の約束

 有給休暇を取り、家の中でキャンプに行く準備をしていた。押入れから道具やテントをゴソゴソと取り出す。すると今年、幼稚園に入学したばかりの子どもが僕の服を引っ張って押し入れの奥を指をさした。そこには古ぼけた望遠鏡があった。僕の父が若い頃にハマっていた代物で僕は1度も触った事はなかった。子どもの様子からこの望遠鏡で遊びたいのか覗いて見たいのか、そもそも、これが何をするものなのか理解していないだろう。でも、多分、この望遠鏡の姿は心の何かをくすぐる形である事はわかる。それで僕は望遠鏡を引っ張りだして畳の床の上に置いた。埃が少しだけ被っていた。横に立っている子どもはワクワクして大きなレンズの方を覗いたりしていた。その子ども笑う顔を見ると僕は或る遠い過去の記憶を思い出した。望遠鏡を覗いた先に小さなクレーターを発見したように僕の記憶も最初は小さくてそれが何なのか知らなかったが、それでもハッキリと見えた。そう。あの夜僕らは3人居た。そして大切な約束を午前4時に交わした。

「なあシマヤは大丈夫かな?」
 僕は小学校の帰りの途中に野球帽を被った少年に言った。
「大丈夫だろ! シマヤも簡単な手術だって言ってたし。コウヤは心配しすぎだぜ」
「ミツヤは簡単に言うけどさ。絶対簡単じゃない」
 僕の言葉に野球帽を深く被りなおしてミツヤと呼ばれた少年は「そうだな。それなら今日も病院に行くか」と言った。
 僕は頷いてランドセルを背負ったままミツヤと一緒に病院へと向かった。病院には何度も通っていた。ミツヤと僕とシマヤは小3の時からの友達でよく3人で遊んでいた。でも小5の後半からシマヤは病気になって学年が上がった今でもまだ入院している。もう少しで1年近くになる。シマヤの病室にはシマヤの他にもオジサンたちがいた。オジサンたちの入れ替わりは早かった。若いシマヤの方がこの病室の中では違った意味で最年長だった。その病室に慣れた足取りで僕とコウヤが扉を開いて入る。静かな空間にカーテンが閉まった囲いが6つあった。その右手前の緑色のカーテンを開いてミツヤが「おじゃましまーす!」と言った。それに続いて僕も「よう! シマヤ!」と言った。するとベッドの上で眼鏡を掛けて色白の線の細い少年が本を閉じ「今日も来たのかよ」とめんどくさそうな声で言った。
「うるせー」
 ミツヤはそう言ってドクターペッパーの缶をシマヤに渡した。
「おっ! ドクペじゃん! サンキュー。俺の親、最近無駄に心配して100%のオレンジジュースしか飲ませないんだよね」
 シマヤは嬉しそうな表情でアルミ缶の口を開けた。プシャリと炭酸が抜ける。それでとても美味そうに飲んだ。
「なあ聞いてくれよ僕の担任なんだけど、あいつ、50m走14秒だったんだぜ。そのくせに僕らには今回の運動会のリレーで1位とれって言うんだ、ホントにアホだよね」
「コウヤの担任って百貫デブの倉谷だろ? あいつ、この前業務用のスーパーでめちゃくちゃにデカいイチゴのアイスクリーム買ってたぞ」
 シマヤはハハハと笑った。その顔を見て僕とミツヤも笑った。
「つうか、シマヤ、さっきまで何の本を読んでたんだよ」
「一寸法師」
「嘘つけ。シマヤが童話とかファンタジーを読むわけがないね」
 ミツヤはシマヤが伏せてある本を取って表紙を見た。『断食芸人』と書いてある。
「また難しい本を読んでんのかよ」
「難しくないよ。短い話だ」
「カッコつけるのもいいけど。たまには漫画でも読もう。僕のお勧めは『ニョロ助の大冒険』ってあるんだけど」
「へえ。今度かしてくれ」
「シマヤ、ぜってえ読まないだろ」
 ミツヤは本をシマヤに返して言った。
「読むさ。暇だし」シマヤは返答した後にドクペを一口飲んだ。
「ねえ、今度の運動会までには退院できそうなの?」
 僕の質問にシマヤは頭をポリポリと掻いて「手術次第かな」と言った。
「大丈夫だ! 明日の手術、上手く行くに決まってんだろ。そしたら俺の居るクラスにすぐに来れるだろ」
「ミツヤのその自信は何処からくるんだ」シマヤはため息を吐いた。
「シマヤは明日の手術は怖くないの?」
 僕は無意識にシマヤにキツイ質問をしてしまった。ミツヤは僕を威嚇するように見た。僕は慌てて「ごめん」と言った。シマヤはほんの少しだけ虚ろな視線をカーテンの裾に向けて「まあ。怖いわな」と言った。
 それからしばらく沈黙が流れた。僕とミツヤは何か話をしようとしたが何も思い付かなかった。だがシマヤがそれを打破した。
「母さんが良い腕の医者だって言ってた。多分大丈夫さ」
「まあ、こんなけ大きな病院なんだ。レベルのたけー、医者もたくさんいるだろ」
「そうだね。大丈夫に決まってる。とりあえず退院したら、学校の近くにある駄菓子屋で何か奢ってやるよ」
 シマヤは笑って言った。
「何かってなんだよ。そんじゃあ、ブタメンでも奢って貰うかな」
 僕とミツヤはまだ口を動かそうとしていたがシマヤは時計を見て言った。
「そろそろ母さんがやってくる。悪いけど、このドクペの空き缶を持って今日は帰ってくれないか?」
 ミツヤはシマヤから空き缶を受け取って「わかった。また今度な」と言った。僕も「今度は学校で会おうな」と言った。

 病院の廊下を2人無言で歩いていた。何だかこのまま帰る事は永久にシマヤとお別れな感じがした。するとミツヤが口を開いた。
「なあ」
「なんだよ」
「このまま帰んのかよ」
「仕方ないだろ。シマヤのカーチャンは厳しいヒトって聞くし」
「違う。シマヤの奴、強がってたけど、ぜってえ、明日の手術、怖がってる」
「それは……。僕にも分かったさ。命に関わるなら、尚更怖いに決まってるよ」
「俺は今、思ったんだけど」
「何を?」
「このまま、病院に隠れよーぜ」
「どうして?」
「誰もいなくなる夜にコウヤと俺でシマヤを病院から連れ出すんだ!」
「はあ?」
 僕は突拍子なミツヤの発言に肝が抜けた。
「連れ出してどうするんだよ。それに何所かに行く余裕も先もないよ」
「俺もそれは思ったさ。でも、シマヤの奴は怖がってんだ。成功するかも失敗するかもわかなねえ手術に。俺たちに弱いとこ見せたくないからさっきも帰れって言ったんだろ」
「でも、それとこれは違う。逃げ出す事を手伝う事が友だちの役目なんかじゃないと僕は思う」
 僕の発言にミツヤは黙って下を向いた。それから僕の方見て「それでも俺は1人でもやる」と言った。僕は深いため息を吐いた。
「オッケー。分かったよ。でも、どうなっても知らないよ」

 23時。僕とミツヤは病院のトイレに設置されている掃除用具入れの扉を内から開いて外に出た。それから夜勤の看護師と警備員の視線を気を付けながら少し暗い廊下を歩いた。時たま廊下の奥から人の足音や影は見えたときは隠れた。隠れる場所がない時は、はや足で乗り切った。シマヤの病室に辿り着く。日中見ている扉と違って重たい石の壁に思えた。その石の扉をゆっくりと開いた。シマヤのベッドを見るとカーテンからオレンジ色の光が漏れていた。まだ起きている。僕とミツヤはそのカーテンを静かに開いた。
 シマヤと目が合った。シマヤはまたさっきの『断食芸人』と書かれた本を読んでいる。でもシマヤは本を閉じてニヤリと笑い僕たちに「面会の時間はもう過ぎてるけど」と言った。
「ここから出よう」
 ミツヤが真剣な眼差しで言った。
「出てどうするんだい」
「そ、それは……」
 ミツヤはたじろいでしまう。そのたじろぐ横で僕はコウヤの目を見てミツヤの代わりに答えた。
「手術はしないんだ。永遠に。で、僕たち3人は廃墟の工場で秘密基地を作る。その秘密基地の目的は3人でロケットを開発する事なんだ。僕がコンピューターのプログラミングをやって、ミツヤがロケットのボディの製造をやって、シマヤがロケットを設計をする。ロケットが出来上がったら月に行くんだ。月にはクマに似た宇宙人が住んでいてクマたちは非常に科学技術が進歩しているんだ。それで注射をするだけで病気が良くなる薬だってある。それをシマヤが打った後、月を3人で観光するんだ。銀色の石を集めたたら今度は赤い石を求めて火星に行く。これでどうだい? 病院から出たくなっただろ?」
 僕の話す内容にミツヤはポカンと口を開いた。シマヤに至っては右手でオデコを覆った後にケラケラと笑った。
「いいよ。行こう。病院から出よう。オレ、抜け道みたいに看護師と警備員にバレないで病院から出られる抜け道みたいに場所を知っている。つうか。何時もそれを使って勝手に外に出てドクペ飲んでるしな」
「ホントかよ」
 ミツヤは嬉しそうに笑った。
「ああホントさ。ただ。お願いがあるんだけど、そこの車椅子にオレを乗せてくれないか。全然運動してないから、クソ雑魚になってるんだ」
 僕はシマヤの言葉に驚いた。まさかそんなに弱っていると思っていなかったからだ。ミツヤはシマヤに言われた通りに車椅子を開いてフラつくシマヤを座らせた。その光景を見て1年前との姿がどれ程までにかけ離れているかを知った。そしてドクペを1人で買いに行っていたのは、もう随分と前の話だと僕は思った。

「外はこんなに暑くなってるのか。全然知らなかった」
 ミツヤに押されながら車椅子に座るシマヤは言った。
「暑いか? この時間帯は涼しいぜ」
「いや暑いねとても」
「僕も暑くはないね。でも、このじめったい夜にたまに吹く涼しい風は好きだな。この涼しい風はどっから吹くんだろうか」
「分からねえ」
 ミツヤが答えた後、シマヤは言った。
「蝉も眠っている」
「昼間はうるさいクセに、夜は鳴かないからな! 虫も夜は眠るのかよ」
「そういう気分なんだろ」
「なあ。学校に行ってみたい」
「夜の学校か?」
「久しぶりどんな感じか見たいんだ。ダメか?」
「なんか夜の学校って気持ち悪いけど。行ってみるか」
 僕も首を縦に降って歩いた。昼間に何時も歩いている道なのに深夜になると人が変わったように別人になる。息の仕方も違う。病院を出てから到着した場所は僕らが良く遊んでいた地元だった。僕とミツヤからすると当たり前の日常の風景だがシマヤからすると懐かしく感じている筈だ。時刻は1時。僕は辺りを見渡す。目印の電気屋の看板も、マンホールの蓋も、林から雑草のように生える松も、寂れた公園も、真新しい世界に見えた。道路を進んでいくと赤い自動販売機がピカピカと明かりを放っていた。光を求めて羽虫が粉雪を演じて舞っていた。
「なあ、喉が乾いた。何か飲み物買おうぜ」
「今は買わないでおこうよ。もう少し歩いた先にコンビニがあるだろ」
「確かにそうだな!」
「待ってくれ。もう少し先って学校の方だろ。そんな所にコンビニってあったか?」
「なかったけど2か月前にオープンしたんだ。そのせいで最近は駄菓子屋に行く奴らとコンビニに行く奴で分かれてるな。でも僕は小遣い少ないから普通は駄菓子屋に行ってる」
「そうか」
 シマヤは乾いた返事をした。
「それじゃ、行くか」
 ミツヤは元気な声で言う。こんな遅くの時間でよくもまあ、元気に喋るもんだと思った。僕は若干、瞼が重かった。コンビニの看板の光は数メートル歩くと見えた。僕らは店内に入った。冷気が3人の火照った身体を招待した。飲み物が置いてあるコーナーへと向かって、僕は炭酸水、ミツヤはメロンソーダ、シマヤはドクペを選んだ。レジへと行こうとするとミツヤが「なあ、俺が奢るからカップラーメンも食わねーか?」と言った。もちろん僕とシマヤは喜んで「サンキュー」と言った。
「嘘だろミツヤ。カレー味食うのか?」
 僕は言った。その僕の反応に対してミツヤは「コウヤこそシーフドとかホントかよ。糞おいしくないぞ」と言った。僕とミツヤが言い合いしている中でシマヤは笑いながらトマト味のカップヌードルを手に取っていた。
 購入した後、僕らはお湯を入れたカップ麺を持って校舎の中に入った。グラウンドが見える遊具のブランコ座ってからカップ麺の蓋をゆっくりと剥がした。それから同封されていた割りばしで麺をかき混ぜた。ミツヤは勢いよく麺をススった。それからペットボトルの蓋を開けてメロンソーダを飲んだ。シマヤも蓋を開け、丁寧に割りばしをわり、底から麺を絡めるようにして混ぜた。そうした後、箸で麺を掴み口の中に入れた。ハフハフと熱そうに息を吐いてから蓋の裏を見た。
「あたりはないのか?」
「残念ながらないぜ。駄菓子屋に置いてあるカップ麺とは違うからな!」
「そうか」
 シマヤは寂しそうに言ってから「あすこの方にあった木がなくなってる」と行った。僕はシマヤが指をさす方向を見て「そうだっけ? あったかな? 毎日学校に来てると気付かないな」と言った。僕の言葉に少しだけ反応して、また言う。
「鉄棒がなくなってる。新しいバスケットコートが出来てんな」
「なんか業者が来てたけどよ、最近完成したんだぜ。俺もよくバスケするんだ」
 ミツヤが答えた。僕もカップ麺を食べた。街灯が頭上にあって、その光が僕らを照らしていた。夜に食べるカップ麺は何時もよりも数段美味しかった。カップ麺を食べ終わった後、ミツヤが食べ終えたカップ麺と空き缶を校舎にあるゴミ捨て場に持って行ってくれた。僕とシマヤの2人だけになり。少しの沈黙が流れた後に僕が口を開いた。
「ごめん。秘密基地なんてないんだ」
 僕の言葉にシマヤは笑った。
「当たり前だろ。そんなの」そして少しだけ間を置いて「あったらいいけどさ」と言った。
「僕とミツヤが羨ましいと思う?」
「何故?」
「だって普通に学校に行って、好きなように遊んで、好きなモノ食って、好きな所に行く。僕たちが嫌いになったりしない?」
「どうしてそう思うんだい? 僕は幸せ者だよ。コウヤとミツヤは学校が終わって毎日病院に来てくれるだろ? オレと同じ病室のおっさんを見てみろよ。毎日友達が来るか? 来ないだろ? 毎回、ドクぺを持って来るか? 持って来ないだろ? オレが難しそうな本を読んでる事に反応する奴が他にいるか? いないだろ? 刑務所みたいな病院から勝手に連れ出してくれるアホな奴が他にいるか? いないだろ。お前たちみたいなアホしか。しかも明日が執刀って言うのに患者を外に連れ回しているんだ。最高にアホの極みだ」
 その言葉を聞いて僕は思わず笑いながら「間違いないね」と言う。
 息をふうと吐いてシマヤは「最後に連れて行って欲しいとこがあるんだ」と真面目な顔で言った。
「どこ?」
「オレたちが散々遊んでいた場所を見渡せるところ」
 僕は少し考えた。そうすると学校の裏にある丘で林を上がった場所を思いついた。
「ソイルの丘?」
「うん。そこに行きたい」
「オーケー。わかった。行こう」
 僕が軽い返事をした時、ミツヤが戻って来た。

 丘の頂上にはコンクリートのベンチが設置されていた。僕とミツヤはそこに座った。よく分からない虫が発する声が聞こえた。林に囲まれているせいか気温が低く風が気持ち良かった。ざわざわと葉が擦れる音もする。丘からは僕たちがさっきまでいた学校が見えた。その横にはコンビニもある。住宅街の場所は暗かった。橋がかかっている場所は等間隔で赤いライトが光っている。マンションが建っている箇所は妙に明るく、眠らない空間もちらほらとあった。
「あすこの方の公園でよく缶蹴りとか野球とかやったな」
 シマヤは僕とミツヤに言った。
「小さく見えるね」
「本当にちっこいな。遊んでる時は広く感じるのに!」
「なあみろよ。やっぱ、暗い場所に来ると星がよく見えんのな」
 ミツヤ夜の空を見上げて言った。
 僕もミツヤに言われて頭上を見た。そこには普通に生活をしていると気付かない星々がサンサンと光っている。
「夏の大三角形だ。最近、理科の授業で習った」
「よく言われる表現で、『まるで落ちて来るみたい』。とか聞くけど、確かに星が近くに感じるな。でももっと、綺麗な場所があるんだよな。オレたちが見ている星よりも」
 するとミツヤが口を開いた。
「俺は大きくなったら警察官になるぜ」
「どうした? いきなり?」
 僕はミツヤに言った。
「いやこの雰囲気は将来の目標について語るモノだと思ったんだぜ」と恥ずかしそう言った。それから「俺だけ言うと恥ずかしいだろ、コウヤも言えよ」と難癖を言う。
「ほんとかよ」
「オレも聞きたい」
 シマヤもニヤリと笑って言った。
「うーん。宇宙飛行士とかどうかな?」
「お前、今、思いついただろ」
「そうだよ。悪い?」
「悪くないけど、レベル高すぎだろ」
 ミツヤはそう言ってケタケタと笑う。
 僕は少しムカつきながらシマヤに聞いた。
「シマヤは?」
 シマヤは静かに間を置いて「生きてたらなんでもいいかな」と言った。それで僕に「でも宇宙飛行士か……いいな。オレも今日、星を見て興味が出たよ。星の名前なんて全然分からないけど」と言った。
「僕のトーちゃん、望遠鏡持ってるよ」
「本当か! スゲー!」
 ミツヤは叫んだ。
「トーちゃんは星が好きでよく1人で天体観測に行くんだ。僕も誘われるけど、全く興味がなくてさ。何時も断っているんだ。そんじゃあ、今度、3人で此処で天体観測しようよ」
「いいなそれ。望遠鏡持って来てよ。月とか土星とか見たい」
 シマヤは楽しそうな声で言った。
「覗いてたら、本物の宇宙人とか見つけられるぜ! UFOとか、発見できたりしてな!」
 ミツヤも興奮した声で言った。
「オーケー。絶対に持って来るよ望遠鏡」
 シマヤは「約束だからな。次会う時には、そうだな……」と述べ腕時計を見て「今と同じ午前4時に集合しよう。今は夏だけど、だんだん夜の時刻が伸びて来るから朝早く家を抜け出して、此処に集合しよう。その時にはオレも元気になってるからさ」と笑って言った。
「午前4時だな! 了解だぜ」ミツヤも笑って言った。
 そして僕も「午前4時。約束だよ」と笑いながら答えた。

 この後、僕たちは病院へと向かった。無事にシマヤを病室に届け挨拶を交わして家に帰った。家に帰ると母に怒られ、何処で何をしていたのかと言われた。勿論、適当な事を言って難を逃れたが今日は学校にも行くなと言われ家で幽閉された。翌日学校に登校し休み時間に隣のクラスのミツヤに会いに行った。だがミツヤの顔は暗く元気がなかった。理由を聞くと担任の教師が今朝、シマヤは遠くの学校に転校したと伝えたらしく、転校した理由が今住んでいる場所よりももっと、空気が美味く環境の良い田舎にシマヤを住ませたいと親が言っていたと、ミツヤは述べた。
 それからというもの僕とミツヤはあまり遊ばなくなった。会うとシマヤの事を思い出して悲しくなる所為もあったんだろう。廊下で会うと適当に話したりはするが前のように一緒に帰る事はもうなかった。僕は時たま午前4時にチャリでソイル丘に行った。もしかしてシマヤがいるんじゃないかと思って。だが彼の姿はなかった。小学校を卒業して僕は公立の中学校へと進学したが、ミツヤは私立の中学へと進学した。その影響で僕とミツヤの関係は完全に断絶した。
 それから8年経過して成人式に参加した際、ミツヤの事を風の噂で聞いた。大学に進学した後警察官を目指して日々を過ごしていた中、ピザの宅配のバイトをしていたミツヤは原付の運転中に対向車に突っ込まれたらしく即死したらしい。その話を聞いた僕はミツヤに対して特別の感情をそれほどまでに抱かなかった。
 僕は大学を卒業後、空調機を販売している営業の仕事に就いた。それから数年後、結婚して子どもも生まれた。小中高の記憶なんて、ただの通過した古い置物のようになっていた。降りた電車の行方を考えないのと同じだ。
 でも僕は今……。
「大切な約束を思い出した」
 僕がいきなり発した言葉に子どもはびくりと身体を反応させた。僕は目の前にある望遠鏡を持ち上げて下の階へと進んだ。きっと、嫁には文句を言われるかもしれない。でも、キャンプの帰りに寄ってみようと思う。あの丘に。午前4時にさ。

午前4時

午前4時

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-06-03

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