【声劇台本 男女】 彼女に生きる意味を託したハナシ。
声劇台本 男性1名 女性1名
彼女に生きる意味を託した話
*
藍乃 (あいの) 生きてる人
社 (やしろくん) この世にはいない人
「彼女に生きる理由を託した話」
藍乃「どうしようまた2人分作っちゃった…仕方ない…お供えしよう」
社『うん、お供えしてくれるのは嬉しいんだけど毎回なんで俺の嫌いなモン入れてんだよ嫌がらせか』
藍乃「今日はね、頑張ってエビフライ作ったの!あとポテトサラダとー麻婆豆腐!」
社『あーあーあーエビフライ殻付いたまんまだし!背わた取ってねえなこれ!衣も剥がれてるし!あとポテトサラダに林檎入れるなって前から…」
藍乃「麻婆豆腐はクックドゥだからきっと美味しいよ!」
社『え、ま、麻婆豆腐!?なにこの事故!?キミ前もカレーとマグロの刺身とかクラムチャウダーとカニクリームコロッケとカルボナーラみたいなクリーム三銃士メニューだったよね!?組み合わせ!何この子!独特すぎるメニュー作るじゃん!』
藍乃「暇だからさ〜今は料理特訓してるんだぁ」
社『料理以前の問題だと思うんだけど』
藍乃「減らないよね〜そりゃ社くんこの世にいないし」
社『生きてても若干遠慮したいメニューだわ』
藍乃「今日ね超カッコイイ人にレジうってもらったんだよ?社くんに似た二宮金次郎みたいな顔!」
社『付き合ってる時から思ってたんだけどお前ちょっと俺を馬鹿にしてるだろ』
藍乃「逢いたいなぁ…」
社『俺は今若干迷ってるよ!』
藍乃「今どこにいるんだろうね。ソーラン節踊ってるかなぁ」
社『うん、俺1度たりとも人前でソーラン節踊ったことないんだけど』
藍乃「今ね!歴史的瞬間に立ちあってるんだよ!コロナっていう悪い奴がいてね!?そいつがグワーッっていっっぱい人を苦しめるんだよ!?酷いよね!?」
社『どうしよう俺もしかして幼稚園児と話してる?』
藍乃「みんな大変で、あ、マスクとか消毒液とか投稿してね!?」
社『それを言うなら高騰な』
藍乃「ディズニーもユニバも閉廷してね!?」
社『閉園な。しかも臨時』
藍乃「カラオケにも行けないし、映画館だって…」
社『お前よく風呂場で歌ってんじゃん。下手くそなパンパンマンマーチ』
藍乃「社くんと行った公園もね…怪我した子がいて閉店しちゃったの」
社『…うん閉鎖な』
藍乃「社くんと食べたお蕎麦屋さんの店主がもう歳でね…でも後継者居ないからお店先月閉まっちゃって…」
社『…うん』
藍乃「愛人作って今月お蕎麦屋さん再開したんだ……若いよね…」
社『…何の話?』
藍乃「あ、家に猫ちゃんを新しく家族に迎えることになりました!名前はイヌ!」
社『心底同情するぞ。その猫ちゃんに』
藍乃「最近イヌは高い所が好きでね、あ、良く化粧台に乗って私のベビーパウダーコロコロ転がしながら遊ぶの!」
社「まってマジでイヌで定着させるの?」
藍乃「きっとそばに居てくれてたら、いっぱい突っ込んでくれてるんだろうなぁ…」
社『俺が生きてたら立派な病院連れて行ってたわ』
藍乃「本当はね、もう…料理、作れるの。社くんに怒って欲しいから…」
社『オゥコラ二宮金次郎の話は忘れてねぇぞ』
藍乃「いっぱいやらかしてたら、ずっと見ていてくれるんじゃないかって、いつか馬鹿だなって…前みたいに…」
社『藍乃… 』
藍乃「毎日ねっ、料理を捨てる時に思うの。これで最後にしよう、明日からは1人分だけ作ろうって。」
社『…』
藍乃「でもね、包丁を握るとダメなの…玉ねぎのせいだって思いながら涙が止まらないまま沢山料理を作るの…」
社『…』
藍乃「嫌いなものとか、馬鹿なメニュー作ってたら社くん、ずっと見ていてくれるんじゃないかって」
社『藍乃』
藍乃「私、社くんが死んだ時、仕事してたよ?薄情な女でしょ?」
社『あの日は緊急で呼び出しがあっただろ…?』
藍乃「なんで私生きてるのかな…」
社『生きてるからだよ…』
藍乃「社くん、私、バカだよ?だって、ずっと、社くんのいない棺桶撫でてたの…遺体の損傷が激しいからって…遺体って何…?社くんって名前は遺体に変わったの…?」
社『…』
藍乃「どうして雨降るって分かってたのに傘持っていかなかったんだろう
優しい社くんは傘を2本持って駅の改札で待っててくれた
私は時計を見ながら2人で相合傘しながら帰りたいって呑気に思ってたんだ」
社『帰り遅いし、藍乃は寒がりだから俺はホットティーを持って出かけた』
藍乃「寂しさって………どこから来るんだろう?認められたいだとか、死ぬ理由とか…湧き上がってくる…この感じ」
社『道から大きく脱線した大型車が駅に突っ込んで無差別に人を轢き殺したんだ』
藍乃『犯人言ってたね、「名前を呼ばれたかった」って』
社『ニュースになれば自分の存在が認められる気がしたって。見届けてから死にたかったって』
藍乃「社くんらしいよ、雨の中駅に捨てられてた猫を庇ったって聞いた。」
社『それは藍乃が猫好きだから…』
藍乃「…私はね、たまに…この猫を助けなければ社くんは助かったのかなって思うの」
社『藍乃、それは違う』
藍乃「ううん、猫だけじゃない。犯人が別の駅に突っ込んでくれてたら。私を残業で引き止めた会社とか。社くんはいないのに私はなんで追いかけないんだろうとか」
社『違うよ藍乃』
藍乃「どうして御家族から、私から社くんを奪った犯人は社くんと同じ死ぬ選択肢になるの?
どうして私たちは社くんに会いに行けず生き別れるの?」
社『ごめん藍乃。俺は…!』
藍乃「社くんが生きろって言ってくれたら、生きてくのに。社くんがこっちに来てって言ってくれたら。今すぐ飛び降りるのに…」
(遠くを見つめながら立ち上がる藍乃)
社『馬鹿な真似はやめてくれ…藍…!!!』
(焦ったように同じく立ち上がりすぐ側で声を上げるが届かない)
藍乃「逢いたい…もう一度…好きって、聞かせて欲しい…」
社『俺はここに居るんだよずっといるんだよ!!』
藍乃「社くん逢いたいよう…!やしッ、あ!なに!?何の音!?ああ…イヌまたベビーパウダーで遊んでるの…!?」
(イヌが化粧台から化粧ポーチを落とす)
社『イヌ…』
藍乃「あーあーあーコラ!ベビーパウダー転がして…!ギャー!中身が!!カーペットが真っ白に!!」
(その中でベビーパウダーを手で転がしながら社の足にぶつける)
社『何…?俺はベビーパウダー触れないよ…?ほら、え…?』
藍乃「悪さするならヂュールあげないよ?!」
(とまどいながらイヌに従うようにベビーパウダーに触れる)
社『触れる…?あ…粉…が、指に付いた…』
藍乃「あ!逃げた!たっくもう!片付けたらイヌはお風呂だから…ね…、」
社『あ、…』
藍乃「真っ白い手…え、浮いて…?も、し、か…し…社くん!!!!!!」
(焦ったように掴んだ焼香をリビング中にばら蒔いた)
社『ッブハ!!お前いきなりお焼香ぶっ掛ける馬鹿どこにいんだよ!居たわ!ここに生きてたわ!』
藍乃「ハ、ハ…だ、めじゃん…ちゃんと成仏しないと…私また料理作っちゃうよ…?」
社『…いいよ。独創的なメニューでも何でも食うよ』
藍乃「ずっといてくれたの…?」
社『いた、ずっと。帰る場所は1つだったから』
藍乃「私の声…聞こえてる…?社くんの声…聞きたい…」
社『藍乃、藍乃…、藍乃…!』
藍乃「社くん全然…!聞こえないよう…!!」
(思わず抱き締める社)
社「藍乃、俺はここにいるよ」
藍乃「…ケホ、社くん、…」
社『俺が生きていた事をずっと憶えていて…幸せになんかならないで』
藍乃「何か、言ってるの…?」
社『幸せになんかさせるもんか。成仏なんかしてやるかよずっとずっとここに居るんだよ』
藍乃「社くん、聞いて?」
社『忘れるまで俺を愛していて』
藍乃「私がなんで死なないと思う…?」
社「忘れてしまうまででいいから」
藍乃「社くん…」
社「うん…?」
藍乃「生きてた頃言ってたよね。人は何回死ぬかって話。
衝撃的だったなぁ。死なないって言ったんだよ。
1回目は肉体の死。2回目は忘れられてから初めてその人は死ぬんだよって。
世の中の殆どは忘れられないんだって。実質誰かからの記憶には残るから死なないよって
ふふ…社くんの理屈ならまだ…、同じ…生きてるよね…身体はなくても……声…聞こえなくても…」
社『藍乃…』
藍乃「だから…ちゃんと逝くところに行かないと。毎年必ず迎え火炊くよ。送り火もする。
…大丈夫。社くんは死んでなんかない。私が殺させない大丈夫。…痛かったね…」
社『…痛いよ、…でも最期まで藍乃のこと考えてた。うん…俺と生きてこう。
俺は少し違う世界にいるだけだから
先に行ってデートの場所確保しておく。待ってるよ』
藍乃「うん、うん、大丈夫。大丈夫。社くん、大好き。」
(落ちていく粉を感じながら、抱き合いながら消えていく)
社『俺もだよ。大好きだ。大丈夫。では、またいずれ』
藍乃「…先で、待ってて。さよなら」
藍乃『社くん!おまたせ!』
社『藍乃!随分早かったな…?』
藍乃『へへ…おばあちゃんになっちゃった!しわくちゃだし、可愛くないし…こんな…』
社『藍乃と俺が生きた証だろ?それに、藍乃はいつも可愛いよ』
藍乃『久々に刺激強いね…』
社(イヌ)『ナァ〜ン』(猫の鳴き真似)
藍乃『あ、イヌ!2人先に合流してたんだね!?』
社『お前マジで猫にイヌって付けるセンス疑う』
藍乃『久々に当たりも強いね…だって…社くん犬好きだから…』
社『約半世紀ぶりの衝撃の事実』
社『じゃあ、行こうか案内する。』
藍乃『いいデートスポットでもあった?あ、イヌおいで』
社『おう、地獄にいい奴がいてな。どうやら大型車に乗って駅の改札に突っ込んで無差別に人を殺した奴がいるらしい』
藍乃『まあ怖い。』
社『地獄のフルコースを見ながら乾杯しよ』
藍乃『ふふ、楽しみ。あー生きててよかった!』
『彼女に生きる理由を託した話』
【声劇台本 男女】 彼女に生きる意味を託したハナシ。