新世界

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何の変哲も無い朝、僕は空を飛べるようになっていた。それはそれは、僕は舞い上がった。気持ちも体も舞い上がった。が、その気持ちはすぐに落ち着いてしまった。なんと、僕は気がついてしまったのだ。空を飛べるから何なのだと。何が変わるのかと。
もし良ければ、一度想像してみてほしい。あなたは散歩か出勤か通学か、その他の何でも良いが外を歩いている。その時、自分の上を見た目は何の変哲も無い小太りの男性が飛んでいたら気味が悪くないだろうか。大抵のやつは、唖然としているだろう、その中でも根性のあるやつは動画を撮ってSNS各所にあげてくれるだろう。そうなるとどうだ、僕は空を飛べるすごい人間として扱われるだろうか?僕は扱われないと思う。そりゃあ、一躍ネットを騒がせ、びっくり人間としてTVぐらいには出られるだろう。しかし、すぐに容赦の無い攻撃の標的になる事が目に見えている。ネットとはそういうものだ。僕自身もSNSをやっているが、あいつらは息をするように攻撃してくる。僕の数年間積もり続けている投稿の中にも息をするように、何の悪気もなく攻撃して誰かを傷つけている投稿が埋まっていると思う。話も飛んでしまった。詰まる所、私が思うにこの世の中はイケメンのスーパーヒーロー位しか飛んではいけない。こんな僕のようなかっこよくも無いし、太ってもいる、そして清潔感がない人間は空を飛べるようになっても外を飛ぶ権利は得られていないのだ、多分。
さてさて困ってしまった。今までの日常から逸脱して超人的なパワーを手に入れたのに外を飛べないと知って不自由になったと思ってしまっている。そんな事は無いのに。空を飛べる分自由が増えたはずなのに。人間とは強欲な生き物だ。最早、人間を俯瞰で見始めている。良くない良くない、僕はただの人間だ。何の変哲も無い、ただただ空を飛べるだけの根性なしだ。いや、待てよ。そりゃそこら辺を飛び回っていたら気持ちが悪いが、スポーツ選手になったらどうだろう。空を飛べるのだから走り高跳びや幅跳びは無敵だ、正直金メダルどころか世界新記録も更新しまくりだ。よし出よう、今すぐに出よう。こんなぼろアパートから飛び出して、世界に羽ばたこう!、、、、、ちょっと待ってくれ諸君。いや、さっき待ってと言ってからまだ待っていてくれているだろうか。もし良ければ、そのままもう少しだけ待っていてくれ。そもそも、陸上大会ってどうやって出るんだ?三十手前のおじさんが、出たいといって出られるものなのか?ネットで調べる気力すら出なかった、小石に躓いてしまっただけで消えてしまうほどの覚悟なのだ。そんなこんなで結論が出てしまった。浮きながら考え出た結論は、地に足がついている凄く普通の事だった。僕にこの能力は使いこなせない。友達を驚かすぐらいに使おう。後はもう使わないでおこう。実は、浮いているのってちょっと疲れるし。何というか、例えづらいが一段ずつゆっくり階段を上がっているぐらい疲れる。わざわざ疲れたくも無いので、家でもそうそうやらないだろう。空を飛ぶ能力を活かす事は出来なさそうだが、それでも特別な人間になれた気がした。目覚める前の自分より自分を誇らしく思えた。そんな僕は、いつもよりも胸を張って朝ご飯を買いに行くことにした。今日は気分が良い、お気に入りのパン屋さんへ行こう。自信満々で出かけた外では近所の子供たちが空を飛んで遊んでいた。

新世界

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  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-06-01

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