華一輪

なにを言えばよかったのかな。なにを言わないほうがよかったのかな。なにも言わないほうがよかったのかな。なにを言ってきたんだっけ。なにを言われてきたんだっけ。もうなにも言いたくないし、なにも言われたくないな。いくら自己嫌悪を繰りかえしたって、なにかが戻ってきたり、なにかが変わったりするわけじゃないのに。本当はこんなことしたくないのに。いつも無意識に、届かなかった、届けられなかった、届けたかったことや、ものや、ひとにしがみついているじぶんがいる。近くて遠い記憶のなかで、ふれることができなかった結末をひとつ、またひとつとかぞえる。わたしの意志を、選択を、運命なんて言葉で片付けたくなかった。神様は上から見たわたしのことしか知らないから、うつむいているわたしがどんな顔をしていたかなんてきっと知らないんだ。顔と心の表情が食い違うとき、なにかを間違ったことの不安がいつも喉のあたりにまとわりつく。いろんなものが喉に絡まって、言葉をうまく飲みこめなくなるし、吐き出せなくなる。ひとというのは生まれたときからぐちゃぐちゃなんだとおもう。じぶんひとりではぐちゃぐちゃのままだから、いろんなものにふれて、すこしずつ浄化されて、清純に近づいていく。その最中でまた汚れたり、汚されたりすることがあるかもしれない。それでもわたしはずっとぐちゃぐちゃのままでいるのは嫌だ。なにかが戻ってこなくたって、なにかが変わらなくたって、つぎは運命のせいにはしたくないし、させない。

華一輪

華一輪

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-31

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