幼き日の花火
幼き日の花火
暗闇の中、鮮やかな炎が君の横顔を照らした。色とりどりの光の花に筑紫は顔をほころばせる。その視線に気づいた君がこちらを向いて照れたように笑った。
「何見てんだよ、龍星」
「君が綺麗だからだよ」
揶揄するようにキメ顔で答えるとバーカと言って筑紫は耳を赤くした。
「俺さー、小せぇとき花火嫌いだったんよね」
ベランダの手すりに体重を預けた筑紫が言う。
「なんでぇ? お前花火好きじゃんか」
「見た目は綺麗なんけど音がさ、こうドーンと心臓を押しつぶすみたいに響くじゃん? だから大きな花火が上がる度に耳塞いで見とったんよ」
「なにそれ可愛いな」
「でたよ龍星のショタコン発言」
「俺は紳士です」
至って真面目な俺にケラケラ笑う筑紫の背中を軽く叩いた。同時に俺たちは噴き出してまたバーカ、バーカと笑う
「でも今こうしてさ、龍星と花火をこうやってのーんびり見れて、幸せだなって思うよ」
「音で怖がることもなくなったしな」
煩い、と一蹴して筑紫は続けた。
「俺が小さい時と変わったことがあるってことはさ、これからも変わっていく可能性があるってことじゃんね? それでもさ、変わらずに龍星と居られたら……なんて思うよ」
筑紫のまっすぐな瞳に打ちあがった花火の光が写る。
「きっと俺らは変わっていくんよ。でも、それでも俺は筑紫と居たいと思う」
「ふふ、なんか俺らポエミーだげ」
柔らかく笑う筑紫の唇にそっと唇で触れる。
誰もいない展望台のベランダで、俺たちは幼い愛を語り合う。
大人になるのはもう少し先の話。
幼き日の花火