性徴

性徴

 私は鏡を見て憂鬱になった。

 私は十三歳で、中学校に行くために真っ黒な詰襟を着る。お葬式みたいなそれはまだぶかぶかで、袖なんて余って私の手の殆どを隠してしまう。同じく真っ黒なスラックスは裾が折り返されてアイロンテープで留められている。
「おかーさーん。ニキビできちゃった」
 洗面台からそう呼ぶと、あまり触りすぎないでね、とだけ声が返ってきた。
 鏡に映る私の右頬の横に赤い膨らみ。指で押してみると少し硬くて痛い。小さいくせに目立ってしょうがない。つんつんつついてみたけれどそれだけで消えることは無い。諦めて学校指定のカバンを背負って家を出た。

 保健の授業で、第二次性徴というものを習ったのはつい最近のこと。
 大人になる過程で、私たちの肌は脂っぽくなってニキビができやすくなるらしい。そして女の子はおっぱいが大きくなって生理が始まる。男の子は声が低くなって精通というものが起こるらしい。

 私は授業中ずっと憂鬱だった。
 セイチョウなんてしたくない。

 私は歩きながら校則違反の携帯を取り出し、大好きなお兄さんに電話を掛ける。
「もしもしショウちゃん?」
「どうしたの、こんな朝に」
「ねえショウちゃん、私が『オトコノコ』になっても好きでいてくれる?」

 この電話の声がいつか低くなっても、私のこと好きでいてね。

性徴

性徴

真っ黒な詰襟はわたしにとって喪服といっしょだ

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-31

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