ふたりぼっち
ふたりぼっち
僕は泣いて家を出た。朝七時の通学路を逆に走り、すれ違う小学生の集団が不思議そうな顔で僕を見た。
アパートの一階の呼び鈴を鳴らす。しばらくしてドアを開けたのは同じクラスのスズだった。
「よう、朝っぱらから酷い顔してんな」
「スズ……僕を抱いてよ」
悪態をつくスズだったが、何も聞かずに僕を部屋に招き入れた。
一人暮らしの男の部屋。衣服が散乱していてもなんとか生活はできそうなくらいには散らかっていて片付いている部屋。その壁際にあるベッドに僕は沈み込む。
スズの匂いが染みついたシーツに、彼の体温。僕は涙を流した。
声にならない声でスズの名を呼んだ。精液が枯れても彼を貪り続けた。
頭の中にスズ以外いらない。僕を嗤ったクラスメートも、殴った父も、気持ち悪いと蔑んだ母も。全部、全部がスズになればいいと思った。
世界で、ふたりぼっちになれたらいいのに。
黄昏の甘い光が射すこのアパートの中が世界の全てで、溶けていく僕らだけが生きていればそれでいい。
「達也、俺は達也の味方だから」
優しく微笑むスズが愛しくて、愛しさだけが心を占めてくれたらいいのに。
そう思ったのにまた涙が流れる。
ふたりぼっちは寂しいよ。
外を駆ける子供たちの無邪気な声。夕焼け小焼けのメロディー。
僕の帰る家はどこ?
「スズ、今日はサボらせちゃってごめん。帰らなきゃ」
「もう帰れそうか?」
「うん」
僕が向き合わなきゃいけないのはもっと広い世界だ。
ふたりぼっち