無冠の王様
すべては王様が頬杖をつきながら玉座でため息まじりに嘆いた一言だった。
「視線がつらい」
直前まで臣下たちと謁見していた。
そして翌日──
王国は建国千年と国王即位一周年を祝賀し、盛大な祝祭が始まろうとしていた。
国王が祝祭開幕を国民に宣言し、国民に対し感謝と決意を知らしめる演説から行われる。
国民が待つ広場を臨む王城の展望台がある。
今まさに国民の前に姿を現そうと王様が立っている。なぜか、片手に王冠を持ったまま。
「王よ。まことにそのお姿で、王冠を被らず出られるので」
宰相が王様に歩み寄る。
「言うな宰相よ。余はつらいのだ。臣下たちが余に向ける視線が」
片手に持った王冠を宰相へ強調するように振りながら王様が言う。
「つねに視線は余自身ではなく王冠へ向けられる。余は王ぞ。この国の王なのだ」
──されど王冠が王たらしめると申しますが・・・。
そう思いながら宰相は言葉が出ない。
「亡き父王のようにはいかぬのだな」
決意をかため王様が取り囲む側近に、王冠を持たないほうの片手を上げてみせた。
すかさず側近の一人が姿勢を正して、
「国王陛下、ご登場!」
澄みわたる青空に声が響く。
『わーっ!』
『国王万歳!』
歓声の波が押し寄せる。その歓声を浴びながら王様が進み出た。
展望台から眼下の国民を王様が見渡す。
『・・・』
広場に沈黙の蓋がされた。すぐに蓋から声が漏れ始める。
「えっ?」
「誰?」
「王様は?」
やがて怒号に変わる。
「誰だてめぇーは!」
「王様を出せー!」
「とっととひっこめー!」
立ち尽くす王様が宰相へ振り向き、涙目でうったえる。
「わかったか。余は、余は王冠でしか存在が認められぬのだ」
王冠を持つ手を震わせながら王様は叫んだ。
「王冠なんて無くなれっー!」
宙へ放り投げようと王冠を振り上げた王様を、あわてて止めに入る宰相たちであった。
無冠の王様