保護
全裸の男と女が、白い部屋の中に放り込まれた。白い部屋には窓も出口もなく、ただ壁に
性交 しろ 子供 つくれ
と、赤く光る文字が浮かび上がっているだけだった。
女は、男に
「セックスしましょう。でなきゃ私たち、殺されちゃうわ」
と言ったが、男は困り果てた。なぜなら、
「悪いが、俺は女に興味がないんだ。」
それでも、女は持てる魅力と技術の限りを尽くして男をその気にさせようとしたが、結局、男の身体にも心にも、その女の努力によって変化をもたらすことは出来なかった。そのうち、女は赤い光に包まれて、悲鳴を上げながら消えていった。壁の赤い文字も消えていた。
それから、一週間が経った。日に三度与えられる食事は灰色のブヨブヨとした物体で、酷く味気が無かった。男は、いつ自分が殺されるかを、半ば恐れ、半ば諦めながら待っていた。
そして、男の身体が、あの女の時と同じように、赤い光に包まれた。男は、目を閉じた。
目を閉じて一分ほどが経っても、男の意識は消えなかった。やけに周りが騒がしいと思い目を開けると、男は白い部屋ではなく、檻の中にいた。檻の外、右側には、人ではない、何だかよくわからない生物が一体いて、正面には、右にいるのと同じような生き物が大量にひしめいて、各々その生物の手だか触手だかには、何やら機械のようなものが握られていた。
男が目を開けたことを知ってか知らずか、右の生き物が何か言葉のようなものを喋り始めた。しかし、男にその意味はさっぱり分からなかった。
「えー、みなさん、大変長らくお待たせいたしました。これより記者会見を始めたいと思いますので、どうぞよろしくおねがい申し上げます。えー、まずは改めて、今回の件の経緯について、かいつまんで説明させていただきますと、先日我が星は、自らの住環境を破壊するという性質を持つが故に絶滅の危機に瀕していた、地球という惑星の人間という種を保護することに成功したわけですが、一週間ほど前、個体数を確保するために繁殖室へと送り込んだ数組のつがいの内の、ある一組の内の雄がホモセクシャルであったことが判明いたしました。「彼」はそのままでは、繁殖能力を持たない欠陥個体として処分される運命にありましたが、それをたまたま、我が会の会員が聞きつけまして、会の上層部に報告したところ、これは我々も黙ってはいられないということになりまして、我が会の会員や、我らと立場を同じくする人々、また我らの立場に理解を示してくださる方々の、募金という形での協力により、ついに一週間後の今日、我々の手によって、「彼」を保護することに成功いたしました!今後、この個体は我々『ピロリ星人性的少数者の権利を守る会』の保護のもと、のびのびとその天寿を全うすることでしょう。このことに、率先して尽力させていただいた我々としても、この前代未聞の試みが成功したことは、全くもって喜ばしい限りでございます。……えー、こほん。それでは、これより質疑応答に入りますので、何か質問がおありの方は挙手を願いします……」
保護