落下から始まる物語4
然世子さんとメグルくんが、ようやく出会う事が出来ました。
転校生挨拶から始まるベタベタの学園もの、が一番最初の構想でした。
大統領絡みは別の物語からの続きなので、カットしようかとも思いましたが、そう言う見栄の積み重ねが、然世子さんの物語のエンディングを遠ざける最大の原因のような気がして、やめました。
蛮勇を振るって、自己満足上等で、兎も角も彼女にラストシーンを与えてあげたいのです。
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第一種接近遭遇(2−B教室)
結局、警備員達は、校門までメグルの後についてきた。
彼等とて仕事なのだ。
彼等に怒っても仕方がないのだ。
メグルは、そんな言葉を、数え切れないほど胸の内に繰り返したが、それでも、彼等に愛想笑いの一つもかけることはできなかった。
「新東京市立東七高等学校」
門柱のプレートを確認し、背後の警備員を振り返った時も、せめてご苦労様と言いたかったのだが、そう言葉にすることは出来なかった。
物々しい警備員を引き連れたメグルを物珍しそうに眺めながら、二人の生徒が校門のゲートバーをくぐっていった。
「カスガノ=メグルさんですね。お待ちしておりました」門柱のモニターにアテナの姿が現れた。「付き添いの方々はお役目ご苦労さまでした。ここから後、校内のことについては、私がオシリスから任されています。安心してお戻りください。」
警備員達は、一瞬顔を見合わせて、何事か囁きあった。
「了解しました」一番年輩の警備員が半歩進み出て言った。「では、我々はこれで引き取らせていただきます。アテナさん、メグルさんをよろしくお願いします。」
そして、警備員三人は、目の覚めるような敬礼をした。
登校してきた数人の生徒が、思わず奇異の眼差しを向けるほど、それは、鮮やかな敬礼だった。
「あ・・・」踵を返そうとする三人に、メグルは慌てて声をかけた。「ありがとうございましたっ。」
三人が笑顔を見せて立ち去るのをしばらく見送ってから、メグルはアテナを振り返って、小さなため息をついた。
「人の中で生きて行くには、あなたも、私でさえも、まだまだ学ばねばならないことが沢山あるんです」アテナが優しい口調で言った。
「目に見えないことや、言葉にされていない事を理解するのは難しいですね」メグルは呟くように言った。「彼等を傷つけてしまったかな。」
アテナは少し笑ったようだった。「実際には、違う形で見えていたり、言葉にされていることが多いんですよ。さあ、ともかく中へどうぞ。校長室まで案内します。」
校門から広い前庭にさしかかる頃には、メグルはすっかり気を取り直していた。うまく行かなくて当然なのだ、なにしろ今日は何もかも初めての日なのだから。
校舎に入り、校長室までしばらく廊下を歩く間に、メグルは五六人の生徒とすれ違い、彼等の好奇の眼差しに耐えねばならなかった。案内は事実上必要なかった。オシリスから不必要なほど詳細な学校の見取り図を与えられていたからだ。その気になれば、配管から構造材の位置まで、メグルは脳裏に展開することが出来た。
(そう言えば、流・・・所長はどうしたんだろう)メグルは声に出さずにアテナに問いかけた。
(八分ほど前から、校長室でお待ちですよ)アテナの声がメグルの意識の中で答えた。
すでに、校長室のドアの前に立っていた。メグルは、一瞬考えて、再びアテナに尋ねた(もちろん、不機嫌だろうね。)
メグルの言葉は、アテナを少し笑わせたようだった(まあ、上機嫌とは言えませんね。)朗らかな調子でアテナは続けた(さあ、中の二人には、今声をかけました。ドアを開けますよ。)
メグルには、まだ心の準備が出来ていなかった。ラボと関係のない人間と言葉を交わすという、最初の、ある意味最大の試練がこれから待っているのだ。何を言うべきなのか、メグルの思考が大慌てで急回転した。
メグルが背筋を伸ばして姿勢を正すと同時に、眼前のドアが音もなく開いた。
「お早うございます。カスガノメグルと申します」幅の広い机の奥に腰掛けた校長と、その傍らに立つ流子の姿を認めた瞬間、メグルは勇気を振り絞って声を出した。緊張で、自分の身体がひどく遠い物に感じられた。
唖然とした校長らしい男性の顔と、慌てて駆け寄ってきた流子の姿が、メグルが先を続けるのを阻んだ。
「メグルさん、声、声」流子が必死で耳打ちする。
その動作も、声も、奇妙にスローモーションに感じられた。
困惑するメグルの意識に、アテナの声が聞こえた(そんなに早口でしゃべったら、人間の可聴域を越えてしまいますよ。)その声の印象からアテナが完全に面白がっていることが伝わってきた。
事態を察して、メグルは慌てて自分の思考の回転数を下げた。
「し、つれいしました」ぎこちなく、メグルがやっとそれだけ言うと、痺れを切らしたように、その後を流子が引き取った。
「失礼しました。校長先生、実は、この子はラボの関係者以外とあまり言葉を交わしたことがなくて。いえ、もちろん普通に喋れますけど、今は、その、緊張してただけなんです」最後の方は消え入りそうな弱い語調だった。
(赤面して、うつむいてみなさい)アテナの声が聞こえ、メグルは咄嗟に顔の血流を増やし、足下の床を注視した。
「ほう」山崎校長は、そのメグルの様子を見て、初めて声を出した。
「これは、何と言っていいのか・・・」山崎は、明かに適切な言葉を思い付くことが出来ずにいた。いったん口を閉じた後、諦めたようにメグルから流子へ視線を移すと、せめて事務的に聞こえるように願いながら続けた。「これほど、生々しい物だとは思っていなかったよ。」
「そうですね」流子も冷静に聞こえるように注意しながら答えた。「メンテナンス上の問題、複雑な構造、リソースの不足などの様々な理由で、生理的な反応を再現するシステムをサイボーグに搭載することはあまり進みませんでしたから。人体のような充実した自己修復機構を持つことが出来ない以上、むしろそう言った機能の搭載は避けるべきだと言われることの方が多かったくらいです。」
「なるほど。資料は勿論見させてもらっていたが、しかし、実際に見ると、うん、改めて納得したよ。」山崎は、メグルの方へ向き直って、笑顔で続けた「我が校へようこそ、カスガノメグル君。私は当校の学校長の山崎です。君も勿論知っているでしょうが、現在、君たち機械民の立場は微妙な物になっている。」
流子の顔が一瞬強ばったのを、校長は見逃さなかった。
「田中所長、建前を論じ合うつもりは、私にはないよ。そもそも、そんなものを論じる必要があるなら、彼の入学など認めていない。」
今度は流子が赤面する番だった。確かに、流子が話をした学校長の全員が、機械民と言えども教育を受ける権利に違いはないと言った。そして、山崎を除く全員が、しかしながら、と、続けたのだ。
謝罪を口にしかけた流子を遮って、山崎は再びメグルに話し始めた。
「さて、そう言うわけだから、これから君は、色々なことを言われたり、聞かれたり、するでしょう。その大部分は、きっと、愉快なものではないと思います。でも、それだからこそ、他の人には見ることの出来ない素敵な物を、君はこの学校生活の中で見ることが出来るはずです。私からあなたに言うべき事は、当面それだけです。では担任の先生を呼びますから、一緒に教室へ行ってください。」
アテナが呼んだのだろう。特に連絡を取った風もなかったが、直ぐに一人の女性教諭が校長室へやって来た。
「二年B組担任の毛利です。カスガノメグルさんね。話は聞いています。これから朝のホームルームです。行きましょう」毛利は、これ以上ないくらいテキパキした様子で言うと、そのまま、メグルを連れ出しかけた。
「ああ、毛利先生、ちょっと待ちたまえ」山崎が少し慌てて声をかけた。「彼に渡す物がある」山崎は引き出しから手のひらにちょっと余るくらいの小さな紙包みを取り出し、メグルに差し出した。
綺麗に包装された包みを受け取るメグルの怪訝そうな顔に向かって、山崎は言った。「私からのお祝いだよ。これがなくては学校生活は始まらない。」
「開けても良ろしいですか。」
「勿論。」
紙包みを開くと、ちょうどメグルの手のひらに収まるくらいの、携帯情報端末機が姿を現した。
鏡面処理された金属の薄い板と、樹脂、ガラス板を貼り合わせた薄いプレートのように見えるその機械は、一目見た瞬間、メグルを陶然とさせた。
旧世紀末は、個人の情報伝達手段、コミュニケーションのツールが爆発的に拡大した時代だった。近代的な郵便制度、電信電話、衛星通信、インターネット、通信の手段とスピードは正に驚異的な進歩を遂げたが、その急速すぎる進歩は、避けがたい混乱を生じさせる事にもなった。
信書通信用のインフラ、固定電話用の回線、娯楽映像用の回線、コンピュータ通信用の高速回線、移動体用の無線通信回線、それら全てを整備し、維持することは、社会にとって無視できない負担となり始め、一方、個人にとって、それら全ての異なる識別コードやセキュリティコード、利用料金を管理する雑務は、直ぐに快適とは言えない繁雑な作業に膨れ上がったのだ。
そのため、統一歴の時代になると、主に資源の効率的利用を動機として、拡大放散していたコミュニケーションツールは、急速に収斂し、殆どの個人向け通信手段は携帯情報端末機に集約されていった。
現在では、学校教育が始まる年齢になると、ほぼ全ての児童が携帯情報端末を与えられていた。深刻化する気配を見せる紙不足により、携帯端末は子供たちの教科書やノートの役割も担うようになり、児童生徒必携のツールとなっていたからだ。
そして、何よりそれは、メグルにとって、学校生活を象徴する憧れのデバイスだった。
「ありがとうっ、ございますっ」メグルが輝くような笑顔で言った。
その表情に、毛利の眉が少し持ち上がった。
メグルが毛利に連れられて行った後、山崎が流子に尋ねた。
「これでよかったのかね。あまり詮索するつもりもないが。」
「これで良いんです」山崎の言葉を敢えて遮るように流子は口を開いた。「彼は、父の遺した研究素材で、私はそれを引き継いだ研究者ですから。私たちの間に、それ以上の関係はあるべきではないんです。」
山崎は何か言いたげにしばらく思案顔をしていたが、結局はため息を一つ吐き出して、諦めたようだった。
「カスガノ=メグルです。本日から皆さんの仲間に入れていただく事になりました。分からない事ばかりで色々ご迷惑をおかけすると思いますが、一生懸命頑張りますので、よろしくお願い申し上げます。」
どこかおかしなその口上に、教室のあちこちで小さな笑い声がした。
その少年が、ほぼ全身をサイボーグ化していることは、その均質な肌の質感から見て取れた。もっとも、遠目で彼をサイボーグだと判断するのはかなり難しいだろう。一昔前には、ケーブルやレンズや、甚だしい場合には駆動装置の一部が露出していたり、プロポーションが人型を外れているようなサイボーグも珍しくなかった事を思えば、少年のそれは、ほぼ完全に人間の姿を模していると言って良かった。
実際、はにかみながらも人懐っこさを感じさせる表情などを見ていると、それがシリコンや有機部品で構成された人造の顔だと言うことを忘れてしまいそうだった。
「すごいものね」自分たちの製作物など、少年を形作っている先端技術と比べるべくもなかったが、それでもほんの少しの嫉妬とともに、然世子はそう呟いた。
その瞬間、然世子はメグルと目があった。
彼の聴力が人のそれを凌いでいるかも知れない事に、不意に気がついて、然世子は自分の不用意な発言に思わず赤面した。
メグルの方も、咄嗟に然世子を見てしまったことを不躾だと思ったのか、こちらもばつが悪そうに目を逸らした。
そう言うわけで、この日の二人の接触は、お互いの視線が出会ったこの一瞬だけだった。
従って、二人の出会いが、この後重大な意味を持つことに気が付く者も、居るはずがなかった。
一部始終を見守っていたアテナと、然世子の赤面に訝しげに眉をひそめた茅だけが、もしかすると、何か予兆めいたものを感じ取っていたかも知れない。
メグルは、窓際の最前列に座を占め、三列挟んで後ろになった然世子は、彼の高性能マイクが、自分の胸の鼓動まで聞き取れるものなのか、気が気ではなかった。
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エリナリスとジョエル(大統領執務室)
ニュートーキョーの最上部である第七層は、その殆どが世界共和国政府関連施設で占められている。その一角、世界共和国大統領府の一室で、一組の男女が静かに話し合っていた。
女性の名をエリナリス=ダ=コウワ=ラブルと言う。彼女は、一言で言ってしまえば、第四代世界共和国大統領である。先年の暗殺事件によって、当時副大統領だった彼女が急遽大統領職を引き継ぐことになったのである。彼女は後に機械民基本法の起草者として知られることになるが、それは当面この物語とは関係ない。
迫りつつある惑星統一選挙に向けて、日頃にも増して頭痛の絶えない彼女は、今また新たに持ち込まれた分厚い書類に目を通しながら、無意識の内にこめかみを押さえる仕草をしていた。
男性の方は、大統領直属の保安部門補佐官であるジョエル=ロングである。彼は、前大統領時代、共和国警察の警備部門で、その長を務めていた人物であり、褐色の肌と躍動感に溢れた長身の体躯を持つ男だった。
「概略は理解したと思うわ」エリナリスはペーパークリップで綴じられた分厚い書類の束を、ややぞんざいにデスクの上に投げ出しながら言った。「現時点で私が確認しておく必要があるのは、アナリスト達が、自分たちが言っている言葉にどれほど本気か、と言う事ね。」
「それは、完全に本気ですよ」ジョエルが楽しげな微笑を浮かべて言った。
「まったく、あなたがそう言う顔をしながら何か言う時は、本当にとんでもない事が起こる時よね。」エリナリスは、ますます渋い表情になりながら言った「あの時を思い出すわ。」エリナリスはジョエルをまっすぐに向いたままだったが、彼女が見ているのは、「彼」が凶弾に崩れ落ちた、あの光景だった。
「この情報の出所は、我々が送り込んだ中でも特に信頼の置ける浸透員です」ジョエルはエリナリスの感傷に、あえて気が付かない振りをして、続けた。「状況的に、これが、彼等にとって相当に重要な機密情報である可能性は高いと思います。」
「また、なのね」
「は・・・」ジョエルが虚を突かれたのは、エリナリスの反応が予想外に早かったからだ。
「もし遺族が居るのなら、充分な手当をしなさい」エリナリスは畳み掛けた。「これは命令です。しかるべきレポートの提出を求めます。アナリスト達の作業状況も逐次報告しなさい。ジョエル、今は、これ以上話を聞くのは無理。下がって頂戴。」
「分かりました、大統領」ジョエルは、こう言う時のエリナリスに逆らっては行けないことを十分承知していたから、余計な言葉は口にせず、退散することにした。それに、エリナリスが、ジョエル以外に、こんな風に感情的な面を見せることが殆どないことも、彼には良く分かっていた。
「現在、アナリスト達はこのファイルの暗号名として、T計画要綱を提案しています。ひとまずこれを仮採用して、以後の報告はT計画関連として提出します。では、失礼します。」
これも一つの信頼関係と言う奴さ。
廊下に出て、少し肩をすくめながら、ジョエルは、自分に言い聞かせる様に、胸の内に呟いた。
それは、彼と、彼の以前の上司の間で最後に交わされた言葉でもあった。
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然世子と茅(カフェテリア)
「それで、やっぱり昨日アランから付き合ってって言われたの?」
出し抜けに問いかけられて、然世子は口にしたコーヒーを危うく吹き出しそうになった。茅は、その然世子の狼狽を笑って眺めている。
時は昼休み、茅と然世子は、カフェテリアの窓際の二人掛けの席に、向かい合わせに陣取っていた。真向かいの茅の眼をまともに見返して、三秒で、然世子の顔に赤面が爆発し、慌てて顔を伏せた。少し、肩が震えているようだった。
「すごいリアクションだね。私が見た中でもベストスリーに入るわよ」ちょっと可哀想になって、茅は然世子に向けていた視線を自分の手元のコーヒーへ落とした。
「な・・・なんで?」然世子は、消え入りそうな声で呻くのが精一杯だった。
「ん?」
「なんで知ってるの」伏せた顔から絞り出されてくる然世子の声は、動揺に震えていた。
その、上ずった声と、うろたえた仕草を、茅は心底可愛いと思う。日頃の然世子の、部長然とした凛々しい姿も、茅は嫌いではなかったし、むしろそれはそれで可愛いとさえ思っていたが、今の、この然世子の有様は、彼女の予想を遙かに上回る可愛さだった。
つまるところ、茅は然世子のファンなのだ。
だから、去年、然世子が新しいクラブを立ち上げると言い出した時、彼女自身はSFなぞには殆ど興味が無かったにも関わらず、誰よりも先に参加の手を挙げたのだ。勿論、然世子は、自分への好意で茅が参加している事を承知していたし、気に病んでもいたし、実際、茅にもそう言った。
その時、茅は「運動部のマネージャーだと思ってくれればいいのよ」と事も無げに答えている。あの時、顔をグシャグシャにした然世子に抱きつかれた事で、茅の胸中には「然世子命」の旗印が、一層高く掲げられることになったのだった。
「やっぱり、さよちゃんは可愛いなあ」溜息混じりに茅は言った。
「なんで知ってるのよ」然世子はまだ顔を上げられずにいる。
「別に、見てれば分かるよ。」
「う・・・。そうなの?」
「それで、どうすることにしたの。」
然世子は、うつむいたまま小さく頭を振った。
「お似合いだと思うけど」茅は、なるべく気楽な調子に聞こえるように、細心の注意を払って呟いた。
「そうでもないよ」やっと茹で蛸状態を脱しつつある然世子は、火照りの残る頬を両手で押さえながら答えた。
「そうかな。端から見ていれば似たもの同士に見えるけどなあ。」
「だからだよ。」
今度は、茅が然世子の答えを待つ番だった。
言葉を纏める間を取るために、然世子はコーヒーを一口、口に含んだ。
苦い。
ほろ苦いそれを、飲み下し、口を開く。
「確かに、似てるのよ。それが、良くないの。」
「もう少し詳しく。」
「うーん。殆ど同じ場所を、似たような角度で描いた二枚の絵があるとするじゃない、タッチも構図も色合いも、とにかく似てるの。そんな絵が二枚並んで飾られているのを見た時、茅ならどうすると思う。」
「どうするんだろ」
「あたしなら、どこが違うか、まずそれを探してしまうと思うのよ。あ、ここがちょっと違う。こっちはこう違う。あそこも違うんじゃないか。そんな風に。」
「うんうん。」
「でね、なまじ似てるばかりに、きっとこう思ってしまうの。ここは、あたしの描き方が正解なのに。ここはこうじゃないのに。あそこも間違ってる。・・・ってね。」
「ああ・・・」茅は、喩え話には取りあえず納得したが、どこか割り切れなくもあった。
そもそも、そんなロジックが働くこと自体、然世子にとってアランがそういう対象ではないという事なのだろう。
「ちょっとアランが可哀想でもあるねえ。」
「うん」意外なほど率直に、然世子はそう答えた。茅は少し驚いたが、直ぐに理解した。
さよちゃんも凹んでるんだね。
意固地でままならない自分、その事に自己嫌悪する自分、落ち込むくらいならそうしなければいいのに、相手に誠実であろうとすればするほど、ますます意固地になってしまう自分。
さよちゃんは本当に可愛いなあ。
茅は心底そう思う。そして、心の奥でもう一言付け加える。
私は本当に可愛くないなあ・・・。
落下から始まる物語4
そんな青春の1頁(^_^;)