【鯉月】かわいい人

しずよ

二次創作(腐)につきご注意ください。
「今日のふたりを見てみよう」というお題メーカーで、5/6に出たお題に沿ったお話です。
レタラ(大型犬)を散歩に連れていく杉リパが、公園で何かあやしい動きをしている月島さんに会うお話。

 通話を終える間際、明日子が「今からレタラの散歩に行く」と言うので、杉元は護衛のつもりで「一緒に行く。迎えに行くから家で待ってて」と伝えたのが午後八時。
「杉元が一緒なら、いつもの散歩コースとは別の道を歩こう。今日は一時間コースだ」と明日子はレタラに微笑みかける。いつもの二倍らしい。JRの高架下を通り過ぎ、駅の向こう側にある大きな公園へやって来た。ここを一周すると一時間は優にかかる。
 歩き始めて約半周、公園の敷地と民家が隣接する地帯に差し掛かった。家によっては垣根もあったりなかったりするので、どこまでが公園なのかぱっと見よく分からない。それでも散歩コースの本筋と民家は離れているので、レタラがにおいを辿り民家へ近寄ろうとしても、明日子は力を振り絞り正しい道順へ引き戻した。そうして公園の三分の二を歩いた時だった。
「どうした、レタラ」
 レタラは歩くのをピタリと止めて、とつぜん道に伏せた。耳はピンと前に向けて、ある一点を凝視している。何かを見つけて警戒しているらしい様子だ。
「なんだ? 白石でもいるのか?」
 杉元がレタラの視線の先を辿る。
「家の前の植え込みのところに男がいるな。のぞきか?」
 明日子が不信感を募らせる。杉元はどう行動すべきかパターンを予測しつつ、その男を見分する。
「あっ、待って明日子さん。なんかオレあの人知ってる」
「杉元、知り合いならなおさら犯罪を止めるべきだ」
 男はスマホを掲げ持っている。家の中の様子を撮影しようとしているのか。瞬時に距離を詰めた杉元は、男からすかさずスマホを奪った。
「月島さんこんばんは。何してんの?」
「あ、杉元……!」
「さっき撮ったの見せてもらっていいかな?」
「……ああ」
 月島は観念した様子でロックを解除する。そして写真フォルダを開いてみると、暗がりに白い何かが写っている写真があった。
「……猫?」
 明日子と杉元は被写体を言い当てる。形からしておそらく猫だが、ピントがぶれまくって非常に残念な一枚だ。
「月島さんがこんなに猫好きだなんて意外だな」
「……いや、まあ、そうなんだが……」
 野良猫でしどろもどろになる月島の様子がおかしいので、杉元はピンときた。「ああ、好きなのは月島さんじゃなくて鯉登か」
 すると月島は開き直った様子になる。
「さっきの猫を近ごろよく見かけるんだが、散歩のときはたいていスマホを持ってなくてな」
「だから今撮ろうとしたわけね」
 月島はエコバッグを下げているから、買い物帰りなんだろう。
「ツキシマ、動物を撮るときは連写した方がいいと思う」
 手振れ写真を見た明日子がアドバイスする。
「そうだな、今度からはそうする」
 そしてふたりと一頭は、公園から帰る月島の背中を見送った。
「杉元」
「なあに、明日子さん」
「ツキシマはコイトにあの写真を見せるだろうか?」
「見せないんじゃない? 躍動感はあったけどさ、猫のかわいさは分からない写真だよね」
「そしたら変質者に間違われたツキシマの努力が水の泡だな」
「まあ、そうだね」
「ところでこれを見てみろ」
 明日子のスマホを見てみると、杉元が声をかける直前の、猫の写真を撮ろうと躍起になっている月島が写っていた。
「おー、これはよく撮れてるね。月島さんの真剣さが伝わる」
「だろう?」明日子はにやりとする。辺りに誰もいないのに、明日子は杉元に耳打ちした。



「おかえり、月島。風呂が沸いているぞ」
 買い物から帰った月島を、鯉登がねぎらう。
「ありがとうございます。じゃあ先に使いますね」
 冷蔵庫に食材を仕舞いながら、月島は返事をする。
「ああ、その前にちょっといいか」
「はい? 何か買い忘れがありましたか?」
「私に何か伝えることがあるんじゃないか?」
 心当たりがなくて月島が当惑していると「隠し事をされるというのは、案外寂しいものだな」と深刻な顔をする。
「そんなの何もありませんよ」
 まるで浮気を疑われているようで、心外である。すると鯉登は自分のスマホの写真を見せてきた。月島がのぞき込むと、そこには必死に猫を撮る自分の姿があった。
「チッ、杉元。余計なことを」
 月島は悔し気に舌打ちする。
「月島ぁ、あの白猫を撮ったなら、見せてくれてもよいではないか」
「……失敗なんですよ。だから消しました」
「え……、そうだったのか。残念だな」
「なので今度からは、散歩のときにもスマホを忘れないようにしましょう」
 しょんぼりとしている鯉登を慰めるつもりだった。しかし返ってきた台詞は月島の予想とは違った。
「でも月島、知っているか?」
「何をですか?」
「こんな風に私のために一生懸命な月島の方が、猫よりも遥かにかわいいんだ」
 めったに見ない決め顔で鯉登が言うから、月島は照れてしまって「あなたのかわいいの基準が私には分かりません」とぶっきら棒に言い、浴室に逃げ込むのが精いっぱいだった。
〈了〉

 

【鯉月】かわいい人

【鯉月】かわいい人

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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