楽園をさがしていたわに
わにたちが、泣いているのは、あれは、楽園では、なかったから、あの惑星、なまえのない、ちいさな星。いびつだった。
スカートをはいた、おとこのこたちが、うたっている。雪に、染められたかのような、まっしろいうでを、あしを、なげだして、天を仰ぎ、さみしいメロディーの歌を、うたっている。それが、わにたちの慰みになるのかは、わからないけれど、おとこのこたちは一様に、夜色のスカートをはいて、ときどき、風にふくらむけれど、気にしていない。
わんわんと、声をあげて泣いていたわにたちが、すこしずつ、すすり泣きに変わってゆくのを、わたしはぼんやりとみていた。それから、きのう観た映画のことを、思い出していた。だれにもゆるされない恋をしていた、おんなのこたちのこと。ふつうを夢見ていた、少女たちのはなし。ハッピーエンドかと思ったら、幸福を装った悲劇であり、ある種の滑稽さを露呈した喜劇でもあり、だれしもが平等に幸せになれるわけではないと、幸せになったひとの数だけ不幸せになるひとがいるという、登場人物のセリフには、胸くそ悪さしかこみあげなかった。楽園と呼べる場所に、わたしも行ってみたいと思った。わにたちは、でも、泣きやんでからは、もう、すべてをあきらめたかのように、楽園さがしをやめてしまった。時が来れば自ずと、楽園の方から近寄ってくる。などと、かっこつけたように言った一頭のわにが、歌をうたうおとこのこたちとならんで、ハミングしている。あたらしい森があらわれたら、ふるい森は消えてしまった。空も、いつのまにか塗りかえられてしまって、うすかった空の青が、厚塗りの濃い青になりかわり、はりついている。
楽園をさがしていたわに