clocka's 第1話『過度な嫉妬と紡ぐ色』

第七学園高等学校生徒間特別組織、『clocka's(くろっかす)』の活動記録。第一話

登場人物(3:2:2)
♂夜坂明(よざかあき)…高校二年生。無気力。美形が故に男女ともに人気。本人は呆れている。
♀御伽風音(おとぎかざね)…高校二年生。不器用で熱意が空回りしがち。明るくポジティブ。打たれ弱い。
♂野久保灯樹(のくぼとうじゅ)…高校三年生。風音の幼馴染。面倒見の良いお兄さん的存在。穏やか、冷静、優しい。clocka'sリーダー
♀小鳥遊彩希(たかなしさき)…高校一年生。所謂ツンデレ。大人ぶりたいお年頃。可愛いものと甘いものが大好き。灯樹の事を気に入っている。
♂御伽奏真(おとぎそうま)…高校二年生。風音の双子の弟。物静かな性格で、clocka'sの活動も風音に着いてくるように参加した。
♂♀暴走者…能力が暴走した生徒。

clocka’s 第一話『過度な嫉妬と紡ぐ色』
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配役表
♀彩希:
♂明:
♀風音:
♂奏真:
♂灯樹:
♂♀暴走者:
♂♀N/美術生:
(演者敬称略)

予測時間
~45分

__________↓ここから本編↓______________

暴走者「…まだ、まダ。もっと…綺麗ニ。」
N「第七学園高等学校。その学校の中庭にて、一人の生徒の瞳が赤く光った。」
暴走者「…私(俺)の作品ヲ…芸術を…マだ、綺麗ニ…美しク…ッ!」
N「差し込んだ影が不穏さを表すものなのか、ただの影なのか。」
暴走者「見て…見てホシい…私(俺)の、芸術ヲッ!!!!」
N「今はまだ、誰にも分からない。」


灯樹M「clocka’s第1話『過度な嫉妬と紡ぐ色』」


彩希が部室の扉を勢いよく開けて入ってくる。

彩希「こんにちはー!おつかれさまです!」
明「あー、うるさいのが来た。」
彩希「うっさいわね!アンタが無口過ぎて感じ悪いのよっ」
明「あぁ、そういや奏真」
彩希「人の話を聞きなさいよ!」
明「面倒くさ…」
彩希「何か言ったかしら?」
明「あー別に。ナンデモ。」

N「部室の扉が勢いよく開かれ、1人の女子生徒が入ってくる。1年生の学年カラーのリボンがよく目立つ彼女の名前は、小鳥遊彩希(たかなしさき)。部活動勧誘期間中に唯一この部活に来た新入生だ。まだ指で数える程度しかこの部室に入っていないはずなのだが、既にこの部室に慣れているようだ。部室の中にいたメンバーは、なんとも言えない顔をしている者もいる。が、それは全員ではなかった。」

風音「私は嬉しいよ、彩希ちゃん!」

N「風音が勢いよく立ち上がり、彩希の手を握る。」
彩希「へ!?あ、はい…!」
風音「女子部員、私しかいなくて。彩希ちゃんがいてくれたら、心強いよ!」
彩希「うぁ…え…そ、そんなに…!?」
風音「うん!よろしくね!」
彩希「よ、よろしく…お願いします…!」
灯樹「フフっ、良かったね?小鳥遊さん。」
彩希「のっ…野久保先輩!」
灯樹「僕としても、部員が増えてくれるのは嬉しいよ。よろしくね?」
彩希「は、はひっ…!」
風音「ん?彩希ちゃんの返事、なんだか面白いね!」
彩希「も、もう黙ってて…っ!甘噛みしたんです!」
風音「え!?ご、ごめんっ…!」

N「風音が俯きながら椅子に座る。その様子を目で追っていた奏真が、優しく風音の頭を撫でている。」

奏真「風音…大丈夫。小鳥遊さん、怒ってないよ…?」
風音「…本当?」
奏真「本当…ちょっと、恥ずかしいだけ。」
風音「…恥ずかしい?」
奏真「うーん…風音には、まだわかんない事。」
風音「ど、どういうこと!奏真には分かるの!?」
奏真「うん…なんとなく、分かる。」
風音「じゃあ、私にも教えてよおおぉ…!」
奏真「ふふ…内緒。」
風音「そんなぁ…」

N「自分だけが状況を把握していない。という事態に慌てる風音に明は小さくため息をつき、奏真と灯樹はクスリと笑みをこぼした。所謂『いつもの光景』である。」



彩希「で、今日は何をするんですか?」
明「何、と言われてもな…」
彩希「これでも部活なんだから、何か目的があって活動してるんじゃないんですか?」
風音「目的…うーん…」
灯樹「(苦笑混じりに)小鳥遊さんは、なかなか痛いところを突いてくるね」
奏真「…というか、部活じゃ、ない。」
彩希「は?」
風音「私たちは、学校側からの命令で動く…なんていうか…」
灯樹「部活。というより組織…って感じだね。」
彩希「組織…?」
灯樹「そう。具体的な活動内容は…」

N「灯樹が説明をしようとした。が、突如部室に置かれた固定電話のベルが鳴る。『第七学園高等学校生徒間特別組織』へ、依頼が来たことを告げる音だ。瞬間に緊張が走る。メンバー全員がしんと静まり返る中、表情を強張らせた風音が受話器を取った。」

明「…依頼か。」
風音「あわわ…っ!もしもし!はい…はい……分かりました。直ぐに向かいます!」

明「どんな依頼だ。」
風音「普通科棟と美術科棟の間で未確認の能力が暴走してるって…!」
灯樹「よし、とりあえず全員で向かおう。未確認の能力なら、誰が有利かもわからない。」
明「了解」
奏真「…ん。」
風音「分かりました!」

N「明、奏真、風音が部室を出ていこうとする。その背中に、彩希は声をかけた。」

彩希「あの!」
風音「ん?どうしたの、彩希ちゃん。」
彩希「能力って?暴走って?全然分かんないんだけど…!!」
風音「あ、うーん…」
明「(被せ気味に)説明してる暇はない。とりあえず俺達と来い。」
灯樹「百聞は一見にしかず、だね。小鳥遊さんの事は僕達で守るけど、何かあったら逃げてね?」
彩希「逃げ…!?」
明「なんだ、びびったのか?置いていくぞ。」
奏真「…お先に。」

N「奏真の一言を合図とするように、彩希以外のメンバーが部屋を出ていった。」

彩希「あ、アタシは…ビビってなんかなーーーーいっ!!」



ー普通科棟、美術科棟に挟まれた中庭にて。

明「…これは」
風音「校舎の壁が…!?」
奏真「…ペンキまみれ。」

N「明達が現場にたどり着くと、そこには目が眩むような光景が広がっていた。普通科棟と美術科棟の向かい合う面だけがペンキの色に染まり、大惨事だ。普段こうした異常事態と対面してきたメンバーでも驚きの表情を浮かべていたが、それ以上に驚いていたのは…遅れてやってきた彩希だった。」

彩希「はぁ…はぁ…っ!」
灯樹「小鳥遊さん、大丈夫?ごめんね、走らせて。」
彩希「だ、大丈夫…です…っ」
明「遅いぞ新入り」
彩希「うっさい!」
風音「まあまあ、明くん…!」
奏真「先に、問題を片付けた方が、良いかも。」
明「分かってるっての。」

灯樹が当たりをぐるりと見回す

灯樹「未確認の能力が暴走している。と言っていたね。恐らく、能力でこれだけ派手に落書きしたんだろうけど…」
風音「能力者の力のコントロールが出来ず、未確認のものに見えた。という可能性もありますね。」
明「…どーせ、美術科のやつだろ?」
奏真「うん。僕も、その可能性が1番高いと見てる。」
彩希「な、何の話?全然ついていけな…」
灯樹「(被せるように)それはどうかな。」
彩希「…へ?野久保、先輩?」
風音「どういうことですか?」
灯樹「美術科の生徒による犯行だと断定するのは、早いんじゃないかな。って事。」
風音「でも…」
灯樹「風音ちゃん、答えを急ぐ必要は無い。分かるね?」
風音「…はい。」
灯樹「ん。じゃあ、現場検証から始めようか。風音ちゃんと奏真君は普通科棟を。夜坂君は美術科棟を。小鳥遊さんは、僕と中庭付近で声掛けしようか。何かあったら連絡する事。」
明「了解」
風音「分かりました。行こ、奏真。」
奏真「うん。」

明、風音、奏真が中庭を去る。

灯樹「さて、小鳥遊さん。」
彩希「は、はいっ!」
灯樹「僕は、あそこにいる男子生徒に声をかけてくるから。君は待っていてくれるかい?」
彩希「分かりました!」
灯樹「ん。連絡用端末、渡しておくから連絡がきたら対応もお願いしたい。」
彩希「えっ、良いんですか…!?」
灯樹「責任重大だね?でも。君もうちのメンバーになったんだ。…任されてくれるね?」
彩希「野久保先輩…はいっ!」

N「灯樹から部員に指示が出され、各々の行動が開始される。普通科棟に向かった御伽姉弟(きょうだい)は、校舎内を並んで歩いていた。」

風音「んー…普通科棟は、相変わらず静かだねえ。」
奏真「うん…まあ、うちの学校は学科が多いせいで普通科の生徒の部活入部率もかなり低いからね。部活に入っているのは、専門学科に入学した…その道を極めようとする人ばかりだから…」
風音「うちの学校、どの部活も強いもんね!」
奏真「…美術部は、ここ数年毎年全国大会出場を決めている強豪だからね。」
風音「へぇ!…その矢先でのこの事件、かぁ。ちょっと…」
奏真「痛手、だね…」
風音「うん…」

奏真M「風音が、少ししゅんとして俯く。相変わらず、すぐに他人に感情移入する。それが良いところであり、自分の首を絞める要因にもなっているのに。僕は、そっと風音の肩を叩く。何も言わなくても伝わる『大丈夫だよ』の合図。風音はやんわりと微笑み、顔を上げた。」

風音「ありがとう、奏真。」
奏真「ううん。」
風音「……。」
奏真「……。」
風音「とりあえず、もう少し校舎内を見て回ろうか。」
奏真「…ん。」
風音「まあでも、普通科塔なんて部活にも使われてないし………っ!?」
奏真「…風音?窓の外に、何かあった?」
風音「奏真!彩希ちゃんの所に戻ろう!」
奏真「え?」
風音「彩希ちゃんが、危ないっ!!」

N「御伽姉弟が普通科棟内を歩いている頃。明は美術科棟にいた。」

明「…ここは相変わらず、油絵の絵の具の匂いが充満してんなぁ。長居すると、慣れないだけに気分が悪くなりそうだ…。芸術関係の部活動生以外、それらしき人影はないな…。」

美術生「あの…!」
明「ん?なんだ。」
美術生「今、お時間ありますか?」
明「…は?」
美術生「と、とても整った容姿をした方だと思ったので!良ければモデルになってもらいたくて…!!」
明「モデル?」
美術生「はい!あ、大丈夫です!ヌードを頼んだりはしません!あぁでも頼まれてくれるのであれば…」
明「っ!?結構だ。第一、俺は今急いでいる。」
美術生「そこをなんとか!そこまでお時間取らせません!3時間くらいで…!」
明「十分長いわ!」

(明、その場を去ろうとする)

美術生「あぁっ!待ってください!」
明「なんだよ!」
美術生「いつもモデルを頼まれてくれるうちの部員がいなくなってしまって困ってるんです!」
明「…いなくなった?」
美術生「はい…」
明「いつからだ?」
美術生「今日、1度も部室に顔を出していないんです。普通科の子だから、部活以外で会うことも無くて…」
明「…それは、心配だな」
美術生「けど、彼女(彼)はこれから忙しくなりますから。だからモデルに…!」
明「それとこれとは話が違う。俺も人を探しているんだ。その部員の事も気にかけておく。せいぜい、モデルは他の部員に頼ってくれ。美術部は、部員も多いだろ。」
美術生「あぁっ、そんなぁ…。」

美術生「(呟くように)…本当に、どこに行ったんだろうあの子。なんだか、嫌な予感がする…。」

明「美術部は芸術の為に裸体を晒しているのか…!?俺には理解できん。それにしても、さっきの話…妙に引っかかるな。」

N「その頃、中庭にて聞き込みをしている灯樹と彩希は。」

彩希「…(ため息)大丈夫かなぁ。この端末が鳴ったら、私が動いたらいいのよね。簡単よ、簡単。…それにしても。」

(彩希が、遠くにいる灯樹を見つめる)

彩希「野久保先輩、かっこ良い…!」

(回想)
彩希M「体験入部期間初日。部活なんて興味がなくて、帰ろうとしていた私に」

灯樹「君、新入生だよね。部活を決めかねているんだったら…その。
(少しの間)
良ければ、うち。見に来ない?」

彩希M「と声をかけてくれたのが、野久保先輩。何故かは分からないけど、アタシはその先輩に引き寄せられるようにこの部へやってきた。」
風音「とうくんすごいよ!新入部員さん連れてきてくれたんだね!わぁぁ、一年生可愛い…!」
奏真「僕たち、一人も捕まえられなかったからね…」
明「風音は一年と勘違いされて調理部について行くし、それを迎えに行った奏真はちゃっかり大量のお菓子を貢がれ帰って来たからな。勧誘以前の問題というか…。」
風音「いや!それは…美味しいものが食べられるよって…!」
奏真「僕は本当に、何もしてない。」
明「連れてこれなかった時点で論外だ。」
奏真「明くんだって、マネージャー希望とか言い出す女の子たちしか連れてこなかったし。」
明「俺はもともと、勧誘担当じゃない。」
奏真「屁理屈。」
明「何か言ったか。」
奏真「いいえー、なんでも。」
灯樹「夜坂くん、奏真くん。ストップストップ。」
風音「新入生、怖がっちゃうから…!!」

(回想終わり)

彩希「…まあ、そこで好きになったわけじゃあないんだけど。って、いやいや!私は先輩を尊敬しているだけで。入部だって不純な動機とかじゃないし!(呟くように、早口で)」

灯樹「…さん!危ない!」
彩希「へ?」
灯樹「ウィップ!」

N「灯樹がそう叫んだ直後、地面から太い木の根が鞭のように地面を叩いた。」
風音「彩希ちゃん!」
奏真「なんとか、間に合った…。とうくん、ないす」
彩希「な、なに…今の…!?」
奏真「答えてる暇、ないかも。」
彩希「どういうこと?なんにも分からないんだけど!」
灯樹「振り払…えっ!」

N「先ほど地面を叩いた太い木の根が、何かを振り払うように横に薙ぐ。しかし風を切る音だけが響いた。」
灯樹「…外したか」
風音「今度は私が!スラッシュ!」
暴走者「…っぐぅ!」
風音「いた!あそこ!」

N「風音が指さす方向を、灯樹・奏真・彩希が見る。そこには、瞳を赤くぎらつかせた生徒がユラリと立っていた。」
暴走者「……ロ」
彩希「え?なんて…」
奏真「風音。」
風音「やめろ…って、一体何を」
暴走者「邪魔ヲ…スルナァッ!!」
彩希「っ!?」
風音「スラッシュ!」
灯樹「ハンマー!」
暴走者「…スキャラー!!」
灯樹「っく!」
風音「きゃああっ!」
奏真「風音!」
彩希「野久保先輩!!」
N「暴走した生徒が、校舎に塗りたくられたペンキと同じような液体を放つ。風音と灯樹は正面から攻撃を受けよろめいた。」

暴走者「邪魔…邪魔ダ…ッ!私(俺)ノ芸術ハ…コンナ物ジャナイ!!」
彩希「邪魔?芸術…?あの人、何言ってるの!?」
奏真「分からない…。けど、このままじゃ。」
彩希「このままじゃ?」
奏真「やばいかも。」
彩希「え?」

N「『どういうこと?』と問いかけようと、彩希が奏真に視線を向けた直後」
暴走者「スキャラー…スキャラー…。…スキャラリング!!」
N「暴走者が叫び、カラフルな液体が竜巻のように集う。」
彩希「ど、どうするのよ。あれ…!」
奏真「風音ととう君担いで、逃げた方がいいかも…。」
彩希「え?御伽先輩は、あの二人みたいに何かできないの?」
奏真「…みんながみんな、あの二人みたいにできるわけじゃ、ないから。」
彩希「ちょっ、本当に何もできないわけ!?あの竜巻、こっちに迫ってくるんだけど…!?」
奏真「…絶体絶命の、ピンチ」
彩希「きゃあああああああ!!」
明「…ダーカー・ライツ!」
彩希「っ!…あれ?」
N「自分の身に迫った危機にキュッと目を閉じていた彩希は、その身に何も起こらない事に疑問を抱き目を開いた。そこには、しゃがみこんだ彩希の目の前に立つ明の姿があった。」

灯樹「夜坂君、助かったよ。」
明「遅くなって、すみません。」
風音「明くん!」
奏真「…遅いよ。」
明「うるせ。こっちはこっちで動いていたんだ。」
暴走者「邪魔ヲ…邪魔ヲスルナァッ!!!」

(暴走者、明にとびかかる)

明「ぐちゃぐちゃ色を混ぜて当てに来やがって…!そんな闇雲に色を混ぜても、良い色はできないぞ。」
暴走者「っ!?」
明「お前、普通科の美術部員だろ。部室から飛び出したお前を心配して、探している奴がいた。おとなしく部室に戻ったらどうだ。」
暴走者「オマエニ…何ガ分カルッ!スキャラー:ブラック!」
明「聞く耳を持つつもりはないみたいだな?ライトモストッ」
暴走者「無駄!白デ黒ヲ塗リツブセルト思ウナ!!!」
明「…ッグ!できても、黒が灰色に変わるだけ…もっと力の差がないと、力で押し切れない…っ!」
彩希「…だ、大丈夫じゃないわよねこれ。ていうか、なんで人間の手からあんなビームみたいなものが出るわけ…!?」
風音「能力の、暴走だよ…」
彩希「風音先輩!?」
風音「あの赤い目、見える…?」
彩希「なんだか、赤く光ってるような…」
風音「能力に目覚めた者は、ああやって目が赤くなるの。だけど、能力に目覚めた者によくある話で…能力が暴走すると、ああやって能力が精神を食い荒らしていくの…!」
彩希「能力が暴走すると、どうなるんですか?」
風音「後遺症が残ったという話や、最悪の場合は命に関わる場合もある…。だから、私たちがそれを阻止するために活動しているの。」
灯樹「この学校は様々な学科があるが故に、能力に目覚める者が多いんだ。理事長がそれを止める為、表向きは部活動というていで僕たちが活動しているんだよ。」
彩希「全然…知らなかった…。」
灯樹「まあ、秘密(ひみつ)裏(り)にしているからね。知らない方がむしろ普通だと思うよ。」

明「…ッ!目覚めたばかりにしては、力が強いな。俺一人で、抑えきれるかどうか…。御伽!」
風音「頑張ってみる、スラッシュ!」
暴走者「ッグウ!私(俺)ノ色ヲ汚スナ…汚スナアッ!!」
風音「スラッシュ、スラッシュ、スラッシュ!!!…ッ!現状維持が精いっぱい…!奏真!」
奏真「任せて。…プロム・メロ」
明「サンキュ」
風音「っありがと!」
明「よし、もう一発…モア!」
風音「スラッシャー!」
暴走者「皆…私(俺)ノ邪魔バカリ…イヤ、イヤ、嫌ダァッ!!!」
彩希「きゃぁっ!」
灯樹「さっきより、力が…!?」
彩希「やっぱり大丈夫じゃないですよね!?誰か大人を…!」
灯樹「…どうすれば」
暴走者「全部、全部全部全部!!!!塗リツブス!鮮ヤカニ、美シク!!!!」
N「暴走した生徒による攻撃に、明と風音で対抗する。が、二人が攻撃を繰り返しても現状維持が限界だというのは灯樹も見てとれた。不意に、明が目を閉じると大きく声をあげる。」
明「…お前、嫌なら嫌と言えば良いだろう。何故いつまでも言いなりになっているんだ?」
暴走者「!?」
明「部員がほぼ全員美術科の美術部だからな。思う事があるのは大体想像がつく。俺がさっき会った奴が言っていた『部室に来ないモデル役の美術部員』はお前だろう?何故部室から逃げ出した。」
N「明がそういうと、暴走した生徒がピタリと攻撃を止める。ゆっくりと右手を降ろすと、ユラリと体を揺らしながら明達に向かって歩きだす。そして目の前で立ち止まると、口を開いた。」
暴走者「…本当は、美術科に入りたかったんだ。小さい頃から絵を描く事が大好きで、好きな事を学べたらどんなに良いだろうって思ってた。けど、両親に相談したら猛反対されたよ。将来役に立たないからって。だから、せめて普通科で良いから入学して美術部に入部して、絵の上手い人達の刺激を受けながら絵を描きたいと思ったんだ。…だけど。」
明「いざ入部してみたら、ロクに絵を描けなかった。モデルばかり押しつけられた。…違うか?」
暴走者「…初めのうちは、これも勉強のうちだと思って耐えてた。実際に、美術科のみんなが描く絵はとても綺麗で個性が出てて…眩しかった。なのに、それが三年になっても続いた。どうして?後輩たちがのびのびと絵を描いていて、どうして私(俺)はいつまでも雑用やモデルをしている?そう思ってた。でも一週間前、部室に向かってる時に聞いたんだ。『アイツがモデルやるから、嫌な役をやらなくて済む』って。」
明「…学科差別か。」
彩希「…ひどい」
暴走者「悔しくて、家に帰って自分のキャンバスを、画材を棄てた。自棄になったんだ。そしたら次の日の夜、日課だった絵を描こうとしたときにそれを思い出した。…どうしよう、やってしまった。って思ってたら、自分の手から色が出るようになった。最初はびっくりしたけど、自分の手で描く絵は、自分の思い通りの色が出せて…とても気持ちがよかった。その絵を、部員に見てもらったら…誰も、何も言ってくれなくて。『あぁ、上手くいったと思っていたのは私(俺)だけだったのか。』って、絶望した。」
風音「そんなの気にしないで、自分の思う絵を描けば…!」
暴走者「(被せ気味に)認められなきゃ!!大会に絵を出すこともできない!!認められなくちゃ、意味がないんだ!!!」
風音「っ!」
明「ッグ…はな、せ…!」
N「暴走者が、伸ばした手で明の首を絞める。徐々にその力が強まり、明の表情が歪んでいく。」
暴走者「そこから、記憶が曖昧で…気づいたらここに立ってた。校舎はペンキまみれで…それが自分のせいだと分かって…怖くなった!」
明「…本当に、認められていないのか?」
暴走者「…え?」
明「今なら…大丈夫だ。ちゃん、と…本当のことを、伝えてやれ…」
暴走者「!?」
N「そこに現れた一人の生徒の姿を見た暴走者は、パッと明の首を離した。」
明「ゲホッ…ゴホッ!」
灯樹「夜坂君!奏真君、頼めるかい!?」
奏真「了解…ヒール・メロ」
明「…わり。助かった。」
美術生「誤解させてたんだね…ごめんね。」
暴走者「部長…」
美術生「君が持ってきてくれた絵を見たとき、言葉が出なかった。とても繊細で、独特のタッチにその場にいた全員が視線を奪われた。全員がどう感想を出したもんかって考えてた時に、君が部室を飛び出して帰ってしまった。明日みんなで謝ろうと思っていたけど、君は今日部室に現れなかった。」
暴走者「…すみません」
美術生「ううん。良いんだよ。君の事を悪く言った部員には、ちゃんと話をしなくちゃ。部室に戻ろう。その前に、職員室に行かないとね。」
暴走者「…そうですね。先生に謝らないと」
美術生「(被せて)先生に、大会に出す作品が決まりましたって報告しないと。」
暴走者「…え?」
美術生「君の絵、みんな絶賛してたよ。どこにこんな才能を隠してたんだって。」
暴走者「!…(嗚咽交じりに)無理だと思ってた。三年間、絵を描けずに終わるんだって…なのに…。本当に、私(俺)で良いんですか…?」
美術生「部員たちは満場一致だよ?それとも、辞退する?」
暴走者「…やります。やらせてください…!」
美術生「もちろん!じゃあ、戻ろう。」
暴走者「はい…!」
明「…ふぅ。何とか解決だな。」
風音「だね!」
灯樹「夜坂くんは、もう大丈夫かい?」
明「奏真のおかげで、何とか。」
彩希「どうなるかと思った…ヒヤヒヤしたぁ…!」
奏真「疲れた…」
灯樹「みんな、お疲れ様。」
美術生「本当に、ありがとうございました!」
暴走者「ご迷惑を、おかけしました。」
灯樹「大丈夫だよ。むしろ、これが僕たちの役目だからね。大会も控えているみたいだし、頑張ってね。」
暴走者「はい…!」
明「精々、迷惑かけた分は本気で描けよ。」
奏真「明君、嫌味ー」
明「うるせ。」
暴走者「ふふっ、もちろん!」
美術生「あ、あの!」
明「ん?」
美術生「モデル、いつでもお待ちしてますので!!」
明「(被せ気味に)お断りだ!」


彩希「初めて活動してるところを見たけど、何が何だか…目がチカチカしたわ。」
灯樹「いきなりだったとは言え、ごめんね?けど、これからはああいうのはよくある話になっちゃうから…。」
風音「彩希ちゃんも、いつか能力に目覚めるのかなぁ。それとも、もうすでに目覚めてたりして!」
奏真「どうなんだろう。僕たちは、中学生の頃には目覚めてたから…タイミングは人それぞれみたいだし。」
明「俺は小学生の頃だったな。…正直、そのころの事はあまり思い出したくもないが。」
灯樹「僕はいつだったかな。その時の事は、忘れてしまったよ。」
彩希「あの、先輩たちの能力ってどんなものなんですか?」
風音「私の能力は、『ウィンダ・ヒューム』って呼んでるよ。風と音に関わる能力。風に乗った音は全部聞こえるようになる。」
彩希「地獄耳…みたいな?」
風音「そうそう。あとは、歌を歌うよ!」
彩希「歌…?」
奏真「そう。風音が歌を歌うと、精神に干渉することができる。」
彩希「へぇぇ…。そういう奏真先輩は?やっぱり姉弟だから、おんなじ能力?あれ、でも奏真先輩はスラッシュ!ってやってなかったような…」
奏真「僕は風音とは違う能力だよ。僕は、『トゥルース・メロディア』って能力。楽器を演奏する事で、状態効果をもたらす能力。基本支援担当。」
彩希「でも、今日は楽器演奏してなかったですよね?」
奏真「ある程度の効力で良いなら、呪文を唱えるだけで効果を発揮できる。」
風音「奏真は、どんな楽器でも演奏できるんだよ!」
彩希「すごい!アタシリコーダーが限界…。」
奏真「楽器の演奏も楽しいよ。今度教えてあげる。」
彩希「わぁ…できるかな…。」
風音「ちなみに、明君の能力は『ダーカー・ライツ』って言うんだよ!」
彩希「そういえば、さっき言ってたような…」
明「ダーカー・ライツは、精神的・物理的な光と闇を操ることができる。」
彩希「今日撃ってたビームみたいなやつは?」
明「あれは、相手の闇…つまり黒を塗り替える為に光となる白を撃っただけだ。いつもできるわけではない。」
彩希「毎回自分の能力がどうなるか分からないなんて…めちゃめちゃ複雑じゃん…夜坂のくせに」
明「何か言ったか?」
彩希「別にー?」
奏真「ちなみに、とうくん…先輩の能力は『ウッド・ライファー』って呼ばれてる。」
灯樹「植物を操る能力だよ。木の根を見たと思うけど、あれは僕の能力で出したものなんだ。」
彩希「急に出てきてびっくりしました…!」
灯樹「驚かせてごめんね?けど、君を守る為にはああするしかなかった。」
彩希「野久保先輩…!」
灯樹「ただ、僕の能力には弱点があってね…。」
彩希「?」
灯樹「僕の能力は植物を操る能力だから、外でないと発動できないんだ。室内で何かったら、僕は何もできない。」
奏真「でも、天気のいい日は最強だと思う。地面からでてくる植物の大きさが桁違い。」
彩希「へぇぇ…!」
灯樹「そんな、大したことないよ。」
風音「ねえねえ!彩希ちゃんは、普段の生活で違和感を感じることはない?」
彩希「違和感?」
風音「そう。日常生活の中での違和感が能力覚醒に繋がったりするから!」
彩希「うーん…違和感…違和感…。」
灯樹「まぁ、焦らなくても良いと思うよ。しばらくはサポートに回ってもらうから。」
彩希「はい、頑張ります!」
明「足引っ張るなよ。」
彩希「言われなくても分かってるっての!」
奏真「明君は嫌味ばっかり」
明「うるせ。」
灯樹「これから少しずつで良いから、活動を理解してくれたら嬉しいな。」
彩希「役にたてるよう、頑張ります…!」

風音「あ、私たちはこれで!今日は失礼します!」
奏真「おつかれさまでーす」
灯樹「お疲れ様。また明日ね。」
彩希「お疲れ様です!」
明「おつかれ。」
N「御伽姉弟を皮切りに、部員たちが各々の帰路につく。彩希は、帰宅するとまっすぐに自室に向かった。」
彩希「ただいま。リティ。」
N「小さな鳥籠に向かって声をかける。鳥籠の中には、小さな一羽の鳥が彩希の声にこたえるようにピィと鳴いていた。」

本編 完

奏真「『clocka’s(くろっかす)』第一話。」
灯樹「能力の暴走を止める、第七学園高等学校生徒間特別組織の活動記録。」
奏真「僕たちの活動は、これからも続きますのでお楽しみに。」
灯樹「小鳥遊さんの今後の活躍にも、期待だね。」
奏真「僕たちも、負けられない。」
灯樹「ハハ、頼もしいね。」
奏真「小鳥遊さんの能力も、どんなものになるのか…気になる。」
灯樹「風音ちゃんだけでなく、奏真くんも気になるんだね。」
奏真「なんだか、自分の能力が目覚めたときのことを思い出すなあって。」
灯樹「そうだね。風音ちゃんと奏真くんは、少し大変だったもんね。」
奏真「懐かしい。」
灯樹「懐かしいね。」
奏真「…ところでここ、次回予告とかしないの。」
灯樹「どうなんだろう…でもほら、未来で何が起こるかなんてわからないからさ。」
奏真「それもそっか…。」
灯樹「次回予告もできないとなると…何を話そうか。」
奏真「…執筆ミニエピソード?」
灯樹「小鳥遊さんの名前は、直前まで全然違うものだったって話かな?」
奏真「え…未来のことは分からないって言ってて、なんでそんなことは知ってるの。」
灯樹「…聞かなかったことにしてくれ。」
奏真「いや、ちょっと…流石に、気になる。」
灯樹「奏真くん、知らなくても何も支障はないから。むしろ、知らない方が支障ないから。」
奏真「とうくん、どこ行くの…?」
灯樹「それでは皆さん、またお会いしましょう。清聴ありがとうございました。」

奏真「…なんだか、スッキリしない。」

clocka's 第1話『過度な嫉妬と紡ぐ色』

clocka's 第1話『過度な嫉妬と紡ぐ色』

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-26

CC BY-NC-ND
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