【短編】感情と理性

「だからね、僕は死にたいんだ」
唐突に告げられたその言葉は、彼が変な接続詞始めるから全く頭に入っこなかった。
「それは、また、どうして?」
1つ1つ、知らない言葉を探すようにして尋ねる。
「そうだね……特に理由なんてないんだけど、あえて言うなら疲れたんだよ。生きることに。分かる?」
「分からなくはないよ」
というかだいたい分かっているつもりだ。
「つまりあれでしょ。生きている意味がわからない、死んだ方が楽になれるっていう」
よくあるつまらない感情論だろう?と言いかけて止めた。
「うん、だいたいあってる」
ほらやっぱりだいたいだ。
これまで何度も彼の相談にのってきたら知っている。彼が僕に相談に来るのは自分を止めて欲しいからだ。けど厄介なのは彼自身が止めて欲しい事に無自覚だということ。良くも悪くも感情で動くやつだから。
「具体的に何かあった、という訳では無いんだよね?」
きっと今回もまた思いつきで行動しようとしてるだけだろう。
「うーん…具体的かどうかは分かんないけど、死にたくなるような事はあったかな」
どうやら今回は少し複雑らしい。でも、僕に相談に来るということは、彼も本当に実行したいわけじゃないはずだ。しかし、ここで何も考えずに応えてしまうとホントに死んでしまうだろうから注意しないといけない。
「分かった。君は死にたい。けど君に死なれると僕は悲しいな。どうにか考えを改めない?」
彼は悲しそうに笑いながら、首を横に振った。
「ならさ、生きている事で何か得があるのかな。僕はこれまでの人生にそこそこ満足しているし、ここで幕を閉じた方が幸せだと思わないかい?」
「そうだね…でも君が死ぬ事で周りの人を傷つけないかな。君はそういうのは嫌いだろう?」
彼はまた首を横に振った。
「分かったよ。でも君の犯そうとしているのは自殺じゃないよ。殺人だ。その辺はわかってるよね?」
「分かってるよ」
「よし、なら好きにするといい」
彼は何も言わず、かといってなにか喋りたそうに去っていった。

人間は誰だって苦しんでいる。葛藤して、迷って、足掻いて、時には間違いを犯すこともある。それでも生きている。でもそんなことはみんな分かってて。自殺しようとしている人にそんなことを言ってもきっとどうにもならなくて。だから無理に止めようとはしない。とりあえあず言葉は並べるけど、それもただの工程でしかなくて。
結局彼はどうするだろうか。彼は自殺ならできるだろう。でもきっと、人を殺すことは出来ない。なら大丈夫だ。


彼に僕は殺せない。

【短編】感情と理性

【短編】感情と理性

要素が良く分からない作品になってしまいましたが僕が言いたいことをかけたと思います。

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-25

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